そく)” の例文
何も下品に育つたからとて良人の持てぬ事はあるまい、ことにお前のやうな別品べつぴんさむではあり、一そくとびにたま輿こしにも乗れさうなもの
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わらちひさなきまつたたばが一大抵たいていせんづゝであつた。の一わらなはにすれば二房半位ばうはんぐらゐで、草鞋わらぢにすれば五そく仕上しあがるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
のちに同胞はらからを捜しに出た、山椒大夫一家の討手が、この坂の下の沼のはたで、小さい藁履わらぐつを一そく拾った。それは安寿のくつであった。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
船中の混雑は中々容易ならぬ事で、水夫共は皆筒袖つつそでの着物は着て居るけれども穿物はきもの草鞋わらじだ。草鞋が何百何千そくも貯えてあったものと見える。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そくとびにさきをかわして、おのれも脇差わきざしをぬきはらった燕作、にかがやく大刀をふりかざして、ふたたびタタッ——と斬りこんでくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仏蘭西のアルフオンス・ドオデエがその傑作『サツフオ』で文壇に乗り出して、一そく飛びに大家になつた時のことである。
(『義楚六帖ぎそろくじょう』にいわく、「『倶舎くしゃ』に曰く、『漸死ぜんしにはそくさいしんとに、最後に意識滅す。下と人と天は不生なり。断末摩は水等なり』」と)
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
太子たいしのおとくがだんだんたかくなるにつれて、いろいろ不思議ふしぎことがありました。あるとき甲斐かいくにから四そくしろい、くろ小馬こうまを一ぴき朝廷ちょうてい献上けんじょういたしました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
でもそのとき、よく見ますと、入口のところにちっぽけな木靴が一そくそろえてあります。おや、おや、小人は木靴まで小さくするほど気をつかっているのです。
女房にょうぼうや、」と靴屋くつやった。「みせって、一ばんうえたなに、赤靴あかぐつが一そくあるから、あれをってな。」
片手に刀をダラリとさげ、斬っさきが地を撫でんばかり……そくを八の字のひらき、体をすこしく及び腰にまげて、若いひょうのように気をつめて左膳を狙うようす。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
キャラコさんは、縁側の雨戸のそばまで一そくとびに飛んで行って、戸外そとから声を掛けた。
舷側げんそくから吐き出される捨て水の音がざあざあと聞こえ出したので、遠い幻想の国から一そく飛びに取って返した葉子は、夢ではなく、まがいもなく目の前に立っている船員を見て
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
暫時しばらくして彼方かなたより、茶色毛の犬の、しかも一そくえたるが、覚束おぼつかなくも歩み来ぬ。かねて和主が物語に、かれはその毛茶色にて、右の前足痿えしとききしかば。必定ひつじょうこれなんめりと思ひ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
すると、そこには、はきふるした、ぼろぼろにやぶれたながぐつが一そくててありました。
長ぐつの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ズックのくつは、ちんぼつしかけたボートのようにへしつぶれて、先のほうから指がのぞいている。これがあとにもさきにもまずしいかれのただ一まいの着物、ただ一そくのくつだった。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
驚いて目をポッチリ明き、いたいげな声で悲鳴を揚げながら、四そくを張って藻掻もがうちに、頭から何かで包まれたようで、真暗になる。窮屈で息気いきつまりそうだから、出ようとするが、出られない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
(さあ、それでは御案内ごあんないまをしませう、どれ、丁度ちやうどわたしこめぎにまゐります。)とくだんをけ小脇こわきかゝへて、椽側えんがはから、藁草履わらぞうり穿いてたが、かゞんで板椽いたえんしたのぞいて、引出ひきだしたのは一そく古下駄ふるげた
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
稀薄きはくで、清浄せいじょうで、ほとんどるかきかの、ひかり凝塊かたまり申上もうしあげてよいようなお形態からだをおあそばされたたか神様かみさまが、一そくびににぶ物質ぶっしつ世界せかいへ、その御分霊ごぶんれいけることは到底とうていできませぬ。
耶蘇降誕祭クリスマス度毎たんびわたしあたらしい長靴ながぐつを一そくづつつてやらう
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
なに下品げひんそだつたからとて良人おつとてぬことはあるまい、ことにおまへのやうな別品べつぴんさむではあり、一そくとびにたま輿こしにもれさうなもの
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ばうなはが七せんまうで一そく草鞋わらぢが一せんりんといふ相場さうばだからどつちにしても一にち熱心ねつしんうごかせばかれは六七せんまうけるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
たちまち、真紅金繍しんくきんしゅうの燃ゆるごとき魏の王旗を中心に、龍鳳りゅうほうの旗を立て列ね、一そく、堂々とあなたから迫ってくるもの——いうまでもなく魏の大軍だった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髑髏どくろの紋が、夜目にもハッキリ浮かんで、帯のゆるんだ裾前から、女物の派手な下着をだらりと見せた丹下左膳、そくを割って、何かを踏まえているのは、これこそは
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おれは、やりかけてきた仕事しごとがたくさんあるのだから、そんなことはしていられない。今夜こんやは、わらじを五そくつくらなければならないし、あすのあさは、三ばかりこめをつかなければならん。」
「アッ……」と足を押さえながら、お綱が身を泳がせるやいな、一そくびに寄ってきた編笠の侍は
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同時に、皆はパッとそくを開き、腰の一刀の柄に手をかけて、居合の構え——これには何者かの深い魂胆があるに相違ないと思うから、ビックリ箱をあけるような緊張だ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かれは五そくづつをひとつにたばねた草鞋わらぢとそれからなは一荷物ひとにもつると大風呂敷おほぶろしき脊負しよつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
容貌きりようのわるいつまつぐらゐ我慢がまんもなるはづ水呑みづのみの小作こさくとして一そくとびのお大盡だいじんなればと、やがては實家じつかをさへあえあはれて、ひとくちさがなし伯父そぢ伯母おば一つになつてあざけるやうな口調くてう
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
司馬懿しばいは、降兵を収め、味方をととのえ、一日にして勝ちを制し、一そく、堂々と新城へ入った。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遊佐銀二郎、一歩下がって羽織のひもに手をかけた。そくのひらきがもう居合腰にはまっている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
松野まつのこたへぬ、秋雨あきさめはれてのち一日今日けふはとにはかおもたちて、糸子いとこれいかざりなきよそほひに身支度みじたくはやくをはりて、松野まつのまちどほしく雪三せつざうがもとれよりさそいぬ、とれば玄關げんくわん見馴みなれぬくつそくあり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ほとんど一そくびに、もとのところへひッ返してきた龍太郎りゅうたろうが、と見れば、小船は舫綱もやいをとかれて、湖水のあなたにただようているばかりで、伊那丸いなまるのすがたは見えない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そくもひらかず、からだも動かさずに、突如、刀で指さすように横にはらった源三郎の剣を、峰丹波、受けるには受けた。が、胴ッ腹で受けた。これじゃア受けたことにならない。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
竹童のからだを横わきに引っかかえるやいな、小山のぐちへむかって、一そくとびに逃げだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朱いかぶと、朱地金襴きんらん戦袍せんぽう朱柄あかえの槍、朱い幟旗しきを揃えて、八卦はっけ吉瑞きちずいにかたどって陣列を立て、その中央に、大将曹操をかこんで、一そく、大地を踏み鳴らして入城した。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして一そくびに疾走してきながら、編笠をそこへ叩きつけ、意気軒昂けんこうな眉をあげて
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、鼻高々、鞭をあげて、いいつけられもしないのに一そくの指揮をした。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)