爾時そのとき)” の例文
その後また多くギリシア人を虜して一日ことごとくこれを宮せんとす。爾時そのときその捕虜の一妻大忙ぎで走り込み、侯と話さんと乞うた。
何もも忘れ果てて、狂気の如く、その音信おとずれて聞くと、お柳はちょう爾時そのとき……。あわれ、草木も、婦人おんなも、霊魂たましいに姿があるのか。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
爾時そのとき、優におぼろなる、謂はば、帰依の酔ひ心地ともいふべき歓喜よろこびひそかに心の奥にあふれ出でて、やがておもむろに全意識を領したり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
爾時そのとき我血は氷の如く冷えて、五體ふるひをのゝき、夢ともうつゝとも分かぬに、屍の指はしかと我手を握り屍の唇はしづかに開きつ。
互に得たる幸福しあはせを互に深く讚歎し合ふ、爾時そのとき長者は懐中ふところより真実のたまの蓮華を取り出し兄に与へて、弟にも真実の砂金を袖より出して大切だいじにせよと与へたといふ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
衰えのみえる目などのめっきり水々して来たおゆうは、爾時そのとき五月いつつきの腹を抱えていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
爾時そのとき毒竜のいいけるは、徃時いんじ桃太郎は
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
なにわすてて、狂氣きやうきごとく、その音信おとづれてくと、おりうちやう爾時そのとき……。あはれ、草木くさきも、婦人をんなも、靈魂たましひ姿すがたがあるのか。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
爾時そのとき牝馬狂い出し、巌高く速く谷深きを物ともせず飛び越え跳び越え駈け廻る、この時ヒッポマネス馬身より流れ出づという。
爾時そのとき一の年わかき婦人ありて、我前に來りひざまづき、我手を握り、その涙にうるほへる黒き瞳もて我面を見上げ、神の母のむくいは君が上にあれと呼びたり。
「家の地面は、全部でどのくらいあるの」お島は爾時そのときも父親に訊いてみた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
固より丸木の橋なる故弟も堪らず水に落ち、僅に長者の立つたるところへ濡れ滴りて這ひ上つた、爾時そのとき長者は歎息して、汝達には何と見ゆる、今汝等が足踏みかけしより此洲は忽然たちまち前と異なり
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
爾時そのとき毒龍どくりようのいひけるは、徃時いんじ桃太もゝた
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
爾時そのときは……、そして何んですか、せつなくって、あとでふせったと申しますのに、爾時そのときは、どんな心持こころもちでと言っていのでございましょうね。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
爾時そのときかの駒ひざまずいて瓦師の双足をねぶったので可愛くなり受け取ってき帰ると、自分の商売に敵するものを貰うて来たとてその妻小言を吐く事おびただし。
口に聖母の御名みなを唱へつゝ、走りて火に赴きて死せんとす。爾時そのとき僅に數尺をあましたる烈火の壁面と女房との間に、馬を躍らしてり入りたる一士官あり。
お島は爾時そのとき、ひろびろした水のほとりへ出て来たように覚えている。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
爾時そのときも、早や黄昏たそがれの、とある、人顔ひとがおおぼろながら月が出たように、見違えないその人と、思うと、男が五人、中に主人もいたでありましょう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
爾時そのときくび限りなく延び長じ、頭が烟突から外へ出で室内ただ喉の鳴るを聞いたので、近処の川の水を飲み居ると判った。
渾名あだな一厘土器いちもんかわらけと申すでござる。天窓あたまの真中の兀工合はげぐあいが、宛然さながらですて——川端の一厘土器いちもんかわらけ——これが爾時そのときも釣っていました。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
海を渡る間大風にわかに船をくつがえさんとし乗船の輩泣き叫ぶ、爾時そのとき小童小船一艘を漕ぎ来り冠者に乗れという、その心を得ねどいうままに乗り移ると風浪たちまちやむ
爾時そのときであつた。あの四谷見附よつやみつけやぐらは、まどをはめたやうな兩眼りやうがんみひらいて、てんちうする、素裸すはだかかたちへんじた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その中に亀多く居るを見てこれを食いくそうとした爾時そのとき亀高声にさけんでわれらをただ食うとは卑劣じゃ、まず汝と競駈かけくらべして亀が劣ったら汝に食わりょうというと
爾時そのとき幼君えうくんおほせには、「なんぢ獻立こんだてせし料理れうりなれば、さぞうまからむ、此處こゝにてこゝろむべし」とて御箸おんはしらせたまへば
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
爾時そのとき辟支仏へきしぶつあって城下に来りしを、かの五百牧牛人うしかい供養発願して、その善根を以てたとい彼女身死するとも残金五百銭を与えて、約のごとく彼と交通せんと願懸がんかけした。
樣子やうすでは、其處そこまで一面いちめん赤蜻蛉あかとんぼだ。何處どここゝろざしてくのであらう。あまりのことに、また一度いちどそとた。一時いちじぎた。爾時そのときひとつもえなかつた。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一説に爾時そのとき女神急ぎ走りてとげで足をいため元白かった薔薇花を血で汚して紅色にしたと、しかればスペンサーも「薔薇の花その古は白かりき、神の血に染み紅く咲くてふ」
爾時そのとき仮橋かりばしががた/\いつて、川面かはづら小糠雨こぬかあめすくふやうにみだすと、ながれくろくなつてさつた。トいつしよに向岸むかふぎしからはしわたつてる、洋服やうふくをとこがある。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこへ往って見ると何の事はない樹が水に落ちたのと判ったんでこんな事に愕くなかれと叱って諸獣一同安静おちついた、爾時そのときを説いて曰く、もろもろの人いたずらに他言を信ずるなかれ
むねこたへた、爾時そのとき物凄ものすご聲音こわねそろへて、わあといつた、わあといつてわらひつけたなんともたのみない、たとへやうのないこゑが、天窓あたまからわたし引抱ひつかゝへたやうにおもつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
爾時そのとき大王この宝をおわってまた省録せず、ついに財物の想なしと言えるは辻褄が合わず、どんな暮しやすい世になっても、否暮しやすければやすいほど貧乏人は絶えぬ物と見える。
(あゝん、のさきの下駄げたはうえゝか、おまへすきところへ、あゝん。)とねんれてたが、矢張やつぱりだまつて、爾時そのときは、おなじ横顏よこがほ一寸ちよつとそむけて、あらぬところた。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
爾時そのとき上帝高声で聖ジョージに、汝の馬は魔に魅された早く下りよと告げ、セントしかる上はこの馬魔の所有物たれと言いて放ちやると、三歩行くや否やたちまち虫とって飛び去った
爾時そのときは、総髪そうはつ銀杏返いちょうがえしで、珊瑚さんご五分珠ごぶだま一本差いっぽんざし、髪の所為せいか、いつもより眉が長く見えたと言います。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
尊者聞いてすなわちち、杖にすがって彼所に往きその履工を訪うと、履工かかる聖人の光臨に逢うて誠に痛み入った。爾時そのとき尊者おもてを和らげ近く寄って、われに汝の暮し様を語れという。
のちにもふが——いつもはくだん得意とくいくるまで、上街道かみかいだう越前ゑちぜん敦賀つるがたのに——爾時そのときは、旅費りよひ都合つがふで。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
爾時そのとき一野干あり、師子王を見てこの念をして言う、我この林に住み安楽し肉に飽満するを得る所以は師子王に由る、今急処に堕ちたり、いかに報ずべき、時にこの井辺に渠水流あり
もつとかれまへにもくるまつゞいた。爾時そのときはしうへをひら/\肩裾かたすそうすく、月下げつか入亂いりみだれて對岸たいがんわたつた四五にんかげえた。其等それら徒歩かちで、はやめに宴會えんくわいした連中れんぢう
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
〈仏舎衛国にあり、爾時そのとき竜子仏法を信楽す、来りて祇洹ぎおんに入る、聴法のため故なり、比丘あり、縄を以て咽に繋ぎ、無人処に棄つ、時に竜子母に向かいて啼泣す〉、母大いにいかり仏に告ぐ
いや、いきほひで、的面まともにシツペイをられたには、くまひしいだうでくだけやう。按摩あんま爾時そのとき鼻脂はなあぶら
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
爾時そのとき数百人黄なる馬と車に乗り、衣服も侍従も皆黄な一行が遣って来り、車をめて彼を穀賊と呼び、汝はどうしてここに在るかと問うと、われは人の穀を食うたからここへ置かれたと答え
こゝろ暗夜やみ取合とりあつて、爾時そのときはじめて、かげもののはなしは、さか途中とちうで、一人ひとり盲人めくらかされたことまをして、脊恰好せいかつかうとしごろをひますと、をんなは、はツと
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
爾時そのとき岩間より他の姫蟹一疋出で来り、くだんの負傷蟹を両手ではさみ運び行く。
爾時そのとき、さつと云ひ、さつと鳴り、さら/\と響いて、小窓の外を宙を通る……つめたもすその、すら/\とに触つて……高嶺たかねをかけて星の空へ軽く飛ぶやうな音を聞いた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
爾時そのとき憍薩羅きょうさら国に一比丘あり、独り林中に住す、雌獼猴あり常にしばしばこの比丘の所に来往す、比丘すなわち飲食を与えてこれを誘う、獼猴心軟し、すなわち共に婬を行う、この比丘多く知識あり
爾時そのとき何事とも知れずほのかにあかりがさし、池を隔てた、堤防どての上の、松と松との間に、すっと立ったのが婦人おんなの形、ト思うと細長い手を出し、此方こなたの岸をだるげに指招さしまねく。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
爾時そのとき二十四樹変じて、二十四億の鶏鳥、金の嘴、七宝の羽翼なるを生ずという。これもインドで古く金宝もて鶏の像を造る習俗があったらしい。『大清一統志』三〇五、雲南うんなんに、金馬、碧鶏二山あり。
爾時そのとき何事なにごとともれずほのかにあかりがさし、いけへだてた、堤防どてうへの、まつまつとのあひだに、すつとつたのが婦人をんなかたち、トおもふと細長ほそながし、此方こなたきしだるげに指招さしまねく。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
治脩公ちしうこうこれを御覽ごらんじ、おもはず莞爾につこと、打笑うちゑたまふ。とき炊烟すゐえん數千流すうせんりう爾時そのときこう左右さいうかへり
鉄槌の音 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
貴下あなたのお姿がたてにおなり下さいましたから、爾時そのときも、いやなものを見ないで済みました。」
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)