是非ぜひ)” の例文
「わたしは病気になって、今、長崎の——旅館へやっと帰ったところです、兄さんに、是非ぜひ会いたいから、どうかすぐ来てください」
長崎の電話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小平太はふたたび「はッ」と言ったまま、頸筋うなじを垂れて、じっと考えこんでしまった。そこまで知っていられては、もう是非ぜひがない。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
すると良人おっとわたくし意見いけんちがいまして、それはあま面白おもしろくない、是非ぜひ若月わかつき』にせよとって、なんもうしてもれないのです。
どうぞ是非ぜひ一ついていただきたい、とうのは、じつはそうわけであるから、むしろきみ病院びょういんはいられたほう得策とくさくであろうとかんがえたのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その得意先とくいさきの一けん橋場はしば妾宅せふたくにゐる御新造ごしんぞがおいと姿すがたを見て是非ぜひ娘分むすめぶんにして行末ゆくすゑ立派りつぱな芸者にしたてたいと云出いひだした事からである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かばうのはよいが主人の云い付けをなぜ聴かぬ隠し立てをしてはかえってこいさんのためになりませぬ是非ぜひ相手の名を云ってごらんと口を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
是非ぜひとも家でパン種からこしらえて行くなら先ずホップス即ち葎草りっそうといって麦酒の種に使う苦い醗酵性はっこうせいの草を食品屋からお買いなさい。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
土間の入口で、阿爺ちゃんの辰さんがせっせと饂飩粉うどんこねて居る。是非ぜひあがれと云うのを、後刻とふりきって、大根を土間に置いて帰る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
掛一たい志操こゝろざしよろしからぬ者に付同惡とぞんじこと仇討あだうちせつさまたげ致し候故是非ぜひなくきずを付候と申ければして又其方敵討かたきうちいたさん爲に遊女奉公ほうこう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
げにも浮世うきよ音曲おんぎよく師匠ししやうもとしかるべきくわいもよほことわりいはれぬすぢならねどつらきものは義理ぎりしがらみ是非ぜひたれて此日このひ午後ひるすぎより
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
諭吉は母の病気に付き是非ぜひ帰国とうからその意に任せてかえすが、修業勉強中の事ゆえ再遊の出来るようそのほうにて取計とりはからえと云う文句。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そのうへ個人こじん經濟状態けいざいじやうたいよつ是非ぜひなく粗惡そあくしよく我慢がまんせねばならぬひともあり、是非ぜひなく過量くわりやう美味びみはねばならぬひともある。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
「うん、毎朝梅干に白砂糖をけて来て是非ぜひ一つ食えッて云うんだがね。これを食わないと婆さんすこぶる御機嫌が悪いのさ」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたし是非ぜひ怠惰屋なまけやになるのだ、是非ぜひなるのだ』と言張いひはつてかない。さくらかはくどころか、いへすみはうへすつこんでしまつて茫然ぼんやりして居る。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
要なき時疫えやみの恨めしけれど是非ぜひなく、なおかにかくとその石のさまなど問うに、強て見るべきほどのものとも思われねばむ。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なおもう一つの重大なる問題は、かかる原子崩壊げんしほうかいによるエネルギー搬出はんしゅつのため是非ぜひに必要とするサイクロトロンのことである。
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
... 義理の間にせよ父子おやこで結婚は許されないでせう」と云ふと、モリエエルは苦悶しながら「是非ぜひ結婚する事を許してれ」と云ふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かくの如き人物によりて企てられたるかくの如き事業は是非ぜひとも成功せしめたいから、共に尽力してくれという話であった。
八重子も是非ぜひ一しょに行けと云う、これは僕が新橋の芸者なるものを見た事がないから、そのついでに見せてやろうと云う厚意なのだそうである。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かくて某は即時に伽羅きゃらの本木を買い取り、仲津なかつへ持ち帰り候。伊達家の役人は是非ぜひなく末木を買い取り、仙台へ持ち帰り候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
理屈に合せんとすれば文学に遠く、文学に適せんとすれば理屈を離るること、と両者全くその性を異にするより来る者故是非ぜひもなき事なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これは是非ぜひとも雀と同様に、そうしてなるべくは道に面した壁の上に、彼等の土の巣を載せるわずかな棚を作ることを、皆様にもお願い申したい。
「電話を下さい。僕も現場へ行けないのが残念です。しかしここの電話室位なら歩けますから是非ぜひ模様を知らせて下さい」
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると家内は言下に、それで済むことでしたら、是非ぜひそれで京都を納得させるようにしてください、と哀願するのだ。
盗難 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
寝ぼけ眼をこすりこすり戸を開けて見ると驚いた、近所にれな、盛装した、十八九の娘が立っていて、方丈の私に是非ぜひ会いたいというのであった。
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
久隅雪子はほたる見物にことよせて私を招き、文学者である私にだけは是非ぜひこの話をして、自分のこの家に落着く気持を分担してもらいのだつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
雲仙を知ろうとするものの、是非ぜひとも登攀とうはんせねばならぬ最美な渓谷の一つであることを、私自らその熔岩流の内部にって初めて発見したのである。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
ロミオ マーキューシオーどの、ゆるしてくだされ、じつ是非ぜひない所用しょようがあったからぢゃ。あんなをりには、つい、その、れいぐることがあるならひぢゃ。
是非ぜひさうでもございませうが、八百やほ半兵衛はんべゑが、狂言きやうげんしろ物を沢山たくさんもつてましたから、なんぞ買つてくださいナ。
狂言の買冠 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
私たちが初めてのものであった(前に日本人が登っていたという記録があるならば、是非ぜひ知らせていただきたい)。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
是非ぜひうなさいまし、お化が出ると云つて……しておんなが一人で居るのを見て、お泊んなさらないでは卑怯ひきょうだわ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
是非ぜひやらう。葉書はがき返事へんじならぼくはどんないそがしいときでもく。オヽ、それからまだういふ面白おもしろはなしがあるよ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
野生やせいのものはそうザラにはないから、染料せんりょうに使うためには、是非ぜひともこれを作らねばならぬ必要があったのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
全能ぜんのう全力ぜんりょく正当せいとうにつくしてみて、それでもやぶれれば、まことに是非ぜひのないわけだ。男らしく、一とうの人の前へでて、つみしゃするよりほかにみちはない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ま、ま、おちなさい、おちなさい、いまから旅亭やどやかへつたとてなにになります。ひさしぶりの面會めんくわいなるを今日けふほどかたつて今夜こんや御出發ごしゆつぱつ是非ぜひわたくしいへより。
王子はしばらくぼんやりしていましたが、やがて老人の言葉をはっきり思い出しました。そして、是非ぜひともその言葉に従わねばならないような気がしました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
とうさんが東京とうきやう時分じぶんには、鐵道てつだうのないころですから、是非ぜひとも木曽路きそぢあるかなければりませんでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
わたしはいまほんを、ちひさい兄弟姉妹けうだいしまいたちである日本にほんどもたちおくります。また。そのどもたちおやであり、先生せんせいである方々かた/″\にも是非ぜひんでいたゞきたいのです。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
北越ほくえつの山岳中でもかなり高いものとなるから、二、三年の中には是非ぜひに登攀してみようと考えた。
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
阿里山ありさんの有名な大森林は是非ぜひ見ておきたいと思ったのに、その二週間ほど前に、台湾全体に大暴風雨があって阿里山の登山鉄道が散々にこわれてしまっていたので
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
直諫とはあやまちをいいあらわし、をすぐにのべて、是非ぜひをまげず、つよくいさむるなり。かくのごとくなれば聞く人おそれて従う。孔子こうしの法語のげんとのたまうこれなり。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その子は今桑摘みに行っていないがとにかく是非ぜひ休んで行けといって、しきりに一行の者を引止めて茶をすすめながら、木曾街道の駅々の頽廃たいはいして行く姿をば慨歎がいたんして
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
第九期まで有つて十期の無いのははなは勘定かんじやうが悪いから、是非ぜひ第十期をつくりたいとかんがへも有るので
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
虫けらの死んだの草木の枯れたのまでに悲しみを起し、是非ぜひに生老病死がこの世のならいなれば、この世をでねばすまぬと志を立て、年二十五の時位を棄てて山へ入り
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その時レーリーからマクスウェルに送った手紙を見ると、ウィリアム・タムソンは決定的に辞退したから、是非ぜひともマクスウェルが就任してくれるようにと勧誘している。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
マンスフィールドには何か私録のようなもの(たしか日記だったと思うが)があって、それが発表されているように聞いているが、これはそのうち是非ぜひ読んでみたいと思う。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
且つ又聖経バイブルの教ふるところれば天国てんこくかんとすれば是非ぜひとも小児せうにこゝろたざるべからず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
そしてみんななかよく、元氣げんきに、大勢たいぜいうたふことだ。——これを是非ぜひ約束やくそくしてもらひたい。
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
是非ぜひともけてかなければならない緑門アーチがあるとふものだわ——わたし唯今たゞいま女王樣ぢよわうさま針鼠はりねずみ蹴鞠けまりをしやうとしたの、さうしたら、それがわたしるのをげてしまつてよ!
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
つけるために、あなたに、是非ぜひ一役買っていただこうと思って、それでやって、来たわけ
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)