えが)” の例文
「何里先きだって、向うの方の空が一面に真赤になってるじゃないか」と碌さんはむこうをゆびさして大きな輪を指の先でえがいて見せる。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うしろを限る書割かきわりにはちいさ大名屋敷だいみょうやしき練塀ねりべいえがき、その上の空一面をば無理にも夜だと思わせるように隙間すきまもなく真黒まっくろに塗りたててある。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ただ私の希望だけをいうならば、戦争末期の次郎を第六部、終戦後数年たってからの次郎を第七部としてえがいてみたいと思っている。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
と見るまに、二のせきれいのうち、一羽がとろの水に落ちて、うつくしい波紋はもんをクルクルとえがきながら早瀬はやせのほうへおぼれていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つかれているような、また、ねむいようにえる砂漠さばくは、かぎりなく、うねうねと灰色はいいろなみえがいて、はてしもなくつづいていました。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大正六年に京都行啓のみぎり、京都市公会堂で、梅の木を配して鶯の初音をきいている享保時代の娘をえがきました。初音と題しました。
その両者を綜合そうごうしたような宇宙一元論を心にえがいてみるのが科学者の最後の夢である、という風な議論であったように憶えている。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
鼻の下からあごまで一続きにノッペラボーになっているのです。そうして口の代りに赤い絵の具で唇の絵が格好よくえがいてあるのでした。
オシャベリ姫 (新字新仮名) / 夢野久作かぐつちみどり(著)
其邊そのへんには』とひながらねこは、其右そのみぎ前足まへあしつてえがき、『帽子屋ぼうしやんでる、それから其方そつちはうには』とほか前足まへあしつて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あのふさふさと巻いたかみが、あのせまくるしいはこの中に納められて、じめじめした地下のやみのなかにねむっているところを心にえがいた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
読者は上述の説明を読んでどういう風な面立おもだちをかべられたかおそらく物足りないぼんやりしたものを心にえがかれたであろうが
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この広い屋敷の中には、私達の家の外に、同じような草花や木に囲まれた平家ひらやが、円をえがいたようにまだ四軒ほどもならんでいた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
第二にその後ろ姿は伝吉の心にえがいていたよりもずっと憔悴しょうすいを極めていた。伝吉はほとんど一瞬間人違いではないかと云う疑いさえ抱いた。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
じつ先刻せんこく貴君等きくんら不思議ふしぎにも大輕氣球だいけいきゝゆうともこの印度洋インドやう波上はじやう落下らくかしたといたときから、わたくしこゝろある想像さうざうえがいてるのです。
なかでも、暗い北欧ほくおう生れのアンデルセンがあこがれてやまなかった明るい南の国イタリアは、この本においても最も多くえがかれているのである。
絵のない絵本:02 解説 (新字新仮名) / 矢崎源九郎(著)
美しくえがかれた梅や牡丹ぼたんや菊や紅葉もみじの花ガルタは、その晩から一雄の六いろの色鉛筆で惜しげもなくいろどられてしまいました。
祖母 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ぼくはその上に書く、あなたへの、愛の手紙など空想して、コオルドビイフでもんでいるのです。メニュウには、ほとん錦絵にしきええがかれています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
かわらと人の手のあとの道路や家屋を示すちとの灰色とをもてえがかれた大きな鳥瞰画ちょうかんがは、手に取る様に二人が眼下にひろげられた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なかでも、暗い北欧ほくおう生れのアンデルセンがあこがれてやまなかった明るい南の国イタリアは、この本においても最も多くえがかれているのである。
たとえば愛国の理想をえがくならば、戦争のとき、馬背ばはいにまたがって功名こうみょう手柄てがらをするをもってただちに理想とは称しがたい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
梅の花の美的情緒びてきじょうちょは、小鳥をはなして想いえがくことが出来ません。わけても雀です。そしてその時の梅の花は、本当に冴えざえしく見えるのです。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
一つのかべがまだそのままで見附みつけられ、そこには三人の天童子がえがかれ、ことにその一人はまるで生きたようだとみんなが評判ひょうばんしましたそうです。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
二人の衣服きものにも、手拭てぬぐいにも、たすきにも、前垂まえだれにも、織っていたそのはたの色にも、いささかもこの色のなかっただけ、一入ひとしお鮮麗あざやかに明瞭に、脳中にえがいだされた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは近江のおかねである。この女のことは江戸時代に芝居しばい所作事しょさごとなどにも出ているし、絵草子にもえがかれている。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
中々繁昌の様子で、其処そこに色々ながくが上げてある。あるいは男女の拝んでる処がえがいてある、何か封書が順に貼付はりつけてある、又はもとどりきっい付けてある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そんな角度から見た一けんの花屋の屋根とその花畑を、彼女は或る日から五十号のカンバスにえがき出した……。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかれども我の愛せしものが病床にありし時大理石のごとき容貌、鈴虫ののごとき声、朝露あさつゆのごとき涙、——彼もし天使にあらざれば何を以て天使をえがかんや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そういって、こっそり信子さんに渡すときの楽しみを、昨夜から胸にえがいていたクルミさんである。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
打見うちみところ年齢とし二十歳余はたちあまり、かお丸顔まるがおほうで、緻致きりょうはさしてよいともわれませぬが、何所どことなく品位ひんいそなわり、ゆきなす富士額ふしびたいにくっきりとまゆずみえがかれてります。
スクリーンの上にえがかれてある、縦横十文字たてよこじゅうもんじの細い線の交点に、敵のロケットが乗った時、発射装置のボタンを押せばいいのである。いまや、その瞬間がおとずれた。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこにあざやかにえがき出された一少年の不思議な「はつ恋」の体験のいきさつは、その底に作者自身の一生を支配した宿命的なのろいの裏づけがあることを知るにおよんで
「はつ恋」解説 (新字新仮名) / 神西清(著)
秋空は高く澄み渡り、強い風にさからうように、とびが一羽ピンと翼を張って悠々ゆうゆうえがいていた。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
(悲しげに)あゝこの空想をえがく勇気をもはや失ってしまったなら、わしはどろのようにくずれて死んでしまうであろうと。そしてそのほうがかえって幸福かもしれないと。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
が、その大金の埋蔵個所は、ただ一枚の秘密の地図にえがき示してあるだけで、誰も知らない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
事件そのものが、白昼の夢の様に、正体のつかめぬ、変に不気味な事柄ことがらであったばかりでなく、それについて私のえがいた妄想が、自分でも不快を感じる様な恐ろしいものであったからだ。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
必然ひつぜんあく」を解釋かいしやくして遊歩塲いうほぢやう一少女いつせうぢよ點出てんしゆつしかの癖漢へきかん正義せいぎ狂欲きやうよくするじやうえがき、あるひ故郷こきやうにありしときのあたゝかきゆめせしめ、生活せいくわつ苦戰塲くせんぢやうりて朋友はうゆう一身いつしんだんずるところあり。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
我れは知らねど、さもあらばなんとせん。果敢はかなき楼閣を空中にえがく時、うるさしや我が名の呼声よびごえそでなにせよかにせよの言付いひつけに消されて、思ひこゝに絶ゆれば、うらみをあたりに寄せもやしたる。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
少女をえがき、空想を生命とした作者が、あるいは砲煙ほうえんのみなぎる野に、あるいは死屍ししの横たわれる塹壕ざんごうに、あるいは機関砲のすさまじく鳴る丘の上に、そのさまざまの感情と情景をじょした筆は
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
一四 部落ぶらくには必ず一戸の旧家ありて、オクナイサマという神をまつる。その家をば大同だいどうという。この神のぞうくわの木をけずりてかおえがき、四角なるぬの真中まんなかに穴をけ、これをうえよりとおして衣裳いしょうとす。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
超現実に美しく魅惑的みわくてきな金魚は、G氏が頭の中にえがくところのゆめの魚ではなかった。交媒を重ねるにつれ、だんだん現実性を備えて来た。しかし、そのうちG氏の頭の方が早くも夢幻化むげんかして行った。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
松江しょうこうのおもてには、不安ふあんいろかげえがいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
順次に進捗しんちょくする出来事の助けをらずとも、単純に空間的なる絵画上の要件をたしさえすれば、言語をもってえがき得るものと思う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ことに、やまなかは、もうさむかったのであります。こんなときも、地主じぬしは、ダイヤモンドのひかりえがいて、苦痛くつうわすれたのであります。
大根とダイヤモンドの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
画をえがくという心境、場合にも、生涯にはいろいろ変化もあり、せぬ事をしてみることも往々ある。そういう詮索はいらないでしょう。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次郎は、朝倉先生と三人で、リュックをかついで全国を行脚してあるく姿を心にえがいて、何か楽しい気がしないでもなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私は二十年前の実験室内の光景を心にえがいて、先生の着眼のほどを思いみると同時に、或る種の因縁のようなものを感じた。
しかし海だけは見渡す限り、はるかにえがいた浪打ち際に一すじの水沫みなわを残したまま、一面に黒ぐろと暮れかかっていた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
以上いじやうで、敬愛けいあいする讀者どくしや諸君しよくん髣髴ほうふつとして、このてい構造かうざうそのおどろくべき戰鬪力せんとうりよくについて、ある想像さうざう腦裡こゝろえがかれたであらう。
文政年間葛飾北斎かつしかほくさい『富嶽三十六景』の錦絵にしきええがくや、そのうち江戸市中より富士を望み得る処の景色けいしょくおよそ十数個所を択んだ。
うさ、一つくらゐ!』と福鼠ふくねずみ焦心ぢれッたさうにつて、またはなつゞけました、『其故それゆゑ此等これらにん姉妹きやうだいは——みんなでえがくことをまなんでました——』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)