恐怖きようふ)” の例文
大阪屋は、さういふおきみから、恐怖きようふに似た壓迫を感じたらしく、妙にへどもどしたが、それを拂ひ除けるかのやうにまた叫んだ。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
大地震だいぢしんのときは大地だいちけてはつぼみ、ひらいてはぢるものだとは、むかしからかたつたへられてもつと恐怖きようふされてゐるひとつの假想現象かそうげんしようである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
財貨ざいくわによつて物質的ぶつしつてき滿足まんぞく自分じぶんあたゝかなふところかんじたときすべてはれをうしなふまいとする恐怖きようふからえずそのこゝろさわがせつゝあるやうに
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
不幸ふかうにも、この心配しんぱいくれ二十日過はつかすぎになつて、突然とつぜん事實じじつになりかけたので、宗助そうすけ豫期よき恐怖きようふいたやうに、いたく狼狽らうばいした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今吉は若くて敏感な者の本能的な恐怖きようふに引ずられて此處へ來たのでせう。一應平次がなだめた位のことでは、容易に引取りさうもありません。
彼女かのぢよ恐怖きようふは、いままでそこにおもいたらなかつたといふことのために、餘計よけいおほきくかげのばしてくやうであつた。彼女かのぢよあらたなるくゐおぼえた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
あひだ婦人ふじん心痛しんつう恐怖きようふはそも、をしぼるあせつて、くれなゐしづく垂々たら/\ちたとふ。くるしみまたきはまつて、ほとん狂亂きやうらんして悲鳴ひめいげた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし目に見えない将来の恐怖きようふばかりにみたされた女親をんなおやせまい胸にはかゝ通人つうじん放任はうにん主義は到底たうていれられべきものでない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
這麼事こんなことおそれるのは精神病せいしんびやう相違さうゐなきこと、と、かれみづかおもふてこゝいたらぬのでもいが、さてまたかんがへればかんがふるほどまよつて、心中しんちゆう愈々いよ/\苦悶くもんと、恐怖きようふとにあつしられる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すべてのよろこび満足まんぞく自負じふ自信じゝんも、こと/″\く自分をツてしまツて、かはり恐怖きようふが來る。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
恐怖きようふの敵
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
打れ繩目なはめ嚴敷きびしく栗石くりいしの上に蹲踞かしこまり其次に女房節しうと藤八ともつゝしんで平伏へいふくす又右の方には訴訟人九郎兵衞夫婦其外引合の者村役人等居並びしが何れも遠國邊鄙へんぴの者始めて天下の決斷所へ出ければ白洲の巍々堂々きらびやかなるに恐怖きようふなし自然しぜん戰慄ふるへ居たりける又た本多家の役人松本理左衞門始め吟味掛りの者一同留守居るすゐ付添つきそひ縁側えんがはまかり出左の方には
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大地震後だいぢしんご餘震よしんあまりに恐怖きようふするため、安全あんぜん家屋かおく見捨みすてゝ、幾日いくにちも/\野宿のじゆくすることは、震災地しんさいちける一般いつぱん状態じようたいである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
あまりの事に、お松は立上がる力もなく、疊の上にヘタヘタと崩折れて、恐怖きようふに見開いた眼が紅皿に吸ひ付いて居ります。
近所きんじよには、六歳ろくさいかにをとこで、恐怖きようふあまくるつて、八疊はちでふ二間ふたまを、たてともはずよこともはず、くる/\駈𢌞かけまはつてまらないのがあるといた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
勘次かんじ羞恥しうち恐怖きようふ憤懣ふんまんとのじやうわかしたがそれでも薄弱はくじやくかれは、それをひがんだ表現へうげんしてひとごと同情どうじやうしてくれとふるがごとえるのみであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
御米およね卒然そつぜんなにともれない恐怖きようふねんおそはれたごとくにがつたが、ほとんど器械的きかいてきに、戸棚とだなから夜具蒲團やぐふとんして、をつとどほとこはじめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
とよ大吉だいきちふ文字を見て安心はしたものゝ、大吉はかへつてきように返りやすい事を思ひ出して、またもや自分からさま/″\な恐怖きようふ造出つくりだしつゝ、非常につかれてうちへ帰つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
で、かれももう思慮かんがへること無益むえきなのをさとり、全然すつかり失望しつばうと、恐怖きようふとのふちしづんでしまつたのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わしおもはず恐怖きようふこゑてゝさけんだするとなんと? 此時このときえて、うへからぼたり/\と真黒まツくろせたすぢはいつたあめからだふりかゝつてたではないか。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わがくにおいては餘震よしん恐怖きようふするねんとくつよいが、それはみぎ言葉上ことばじようあやまりによりても培養ばいようせられてゐるのである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
齒の根も合はないやうな恐怖きようふのうちに、これだけ話の筋を通すのは、勇吉にしては全く手一杯の努力でした。
かれ只管ひたすら恐怖きようふした。しか二人ふたり見棄みすてゝくことが出來できないので、どうしていゝか判斷はんだんもつかなかつた。さうするうちにおしなの七日もぎた。かれ煩悶はんもんした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
としくれに、ことこのむとしかおもはれない世間せけんひとが、故意わざみじかまへしたがつて齷齪あくせくする樣子やうすると、宗助そうすけなほことこの茫漠ばうばくたる恐怖きようふねんおそはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さなきだにかれ憔悴せうすゐしたかほ不幸ふかうなる内心ないしん煩悶はんもんと、長日月ちやうじつげつ恐怖きようふとにて、苛責さいなまれいたこゝろを、かゞみうつしたやうにあらはしてゐるのに。其廣そのひろ骨張ほねばつたかほうごきは、如何いかにもへん病的びやうてきつて。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
十八娘の美しさが、恐怖きようふと激情に薫蒸くんじようして、店中に匂ふやうな艶めかしさ。鹿の子絞り帶も、緋縮緬ひちりめん襦袢じゆばんも亂れて、中年男のセピア色の腕にムズと抱へられます。
民也たみやこゝろ恐怖きようふのあるときしとみけさしたくなかつた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
どうかすると、自分の胸一つに疊んで、つまらない苦勞してゐる、日頃のお靜の氣性を知つてゐる平次には、その日のお靜の恐怖きようふが、尋常でないものを見拔いたのです。
お峯に庭の闇にさそひ出されて、何と言ふこともない、若い女の神經を脅かす『恐怖きようふ』を聽かされて居たのですが、世の誤解をおそれて、それを言はなかつた迄のことでした。
凄まじい恐怖きようふが、花火のやうに炸裂さくれつしたのも無理はありません。部屋の中に若い娘が一人、首に強靱きやうじん麻繩あさなはを卷かれ、その繩尻を二間ばかり疊から縁側に引いて、俯向うつむきになつたまゝ死んでゐたのです。
賊の木枯傳次は始終緊張した態度で、用心深く四方あたりを見廻して居たこと、一言も口をきかなかつたこと、そして、柄の大きい、恐怖きようふ心のせゐか——雲を突くばかりの大男に見えたといふのが特色です。
妙に押し付けられたやうな、不安と恐怖きようふはらんだ聲です。