小刀こがたな)” の例文
なぜならつくえかどは、小刀こがたなかなにかで、不格好ぶかっこうけずとされてまるくされ、そして、かおには、縦横じゅうおうきずがついていたのであります。
春さきの古物店 (新字新仮名) / 小川未明(著)
のおこゝろせないうちはや小刀こがたなをおりなさいまし。……そんなことをおつしやつて、奥様おくさまは、いまうしてらつしやいます。」
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
われわれ彫刻家が木彫の道具、殊に小刀こがたなを大切にし、まるで生き物のように此を愛惜する様は人の想像以上であるかも知れない。
小刀の味 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
しかし懐剣をもって歩行あるくだけはあぶないから真似まねない方がいいよ。大学の教師が懐剣ならリードルの教師はまあ小刀こがたなくらいなところだな。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「和尚め。あんなにえらさうな顔をしてゐるが、わしがこの小刀こがたなでづぶりとやつてみろ。すぐにお陀仏だ。してみると……」
心のやさしい妹は、小刀こがたなをとりだして、じぶんのかわいい指を切りおとしました。そして、それを門のなかにさしこんで、うまくあけました。
町内の自身番へ引っ立てられて行った男は、果たしての市丸太夫であった。かれはふところに小刀こがたなを呑んでいたが、その刃には血の痕がなかった。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「今いう贋金遣にせがねづかいという男が、そっとおれにくれたのだ、同じやつがまだ一挺ある、のこぎりのみ小刀こがたなと三様に使える」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
象牙ぞうげの紙切り小刀こがたなで、初めの方を少し切って、表題や人物の書いてある処をひるがえして、第一幕の対話を読んでいる。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
三尊さんぞん四天王十二童子十六羅漢らかんさては五百羅漢、までを胸中におさめてなた小刀こがたなに彫り浮かべる腕前に、運慶うんけいらぬひと讃歎さんだんすれども鳥仏師とりぶっし知る身の心はずかしく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
信如は机の引出しから京都みやげにもらひたる、小鍛冶こかぢ小刀こがたなを取出して見すれば、よく利れそうだねへとのぞき込む長吉が顔、あぶなし此物これを振廻してなる事か。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その古錢こせん小刀こがたなかたちをした刀錢とうせんくはかたちをした布泉ふぜんといふものでありまして、それがしゆうをはごろ出來できぜにであるといふので、年代ねんだいたしかにきめられるのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ふでぢくさきはうだけを小刀こがたななにかでいくつにもりまして、朝顏あさがほのかたちにげるといゝのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「これで、とうさんがいなかったら、とっくの昔、お前は、かあさんをひどい目にわしてるとこだ。この小刀こがたなを心臓へ突き刺して、わらの上へころがしといたにきまってる」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
取出しあたへければ犬は尾をふりよろこ喰居くひゐるを首筋くびすぢつかんでえいやつてなげつけ起しもたゝず用意の小刀こがたなを取出し急所きふしよをグサと刺通さしとほせば犬は敢なくたふれたり寶澤は謀計はかりごと成りと犬の血を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ヘエ、これでございますよ。藁人形の胸の辺に、こんな小刀こがたなが突きささって居りましただ」
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
金太はさすがに隠しもならず、懐中ふところから手拭に包んだままの血染の小刀こがたなを出して見せます。
しかし彼は姉へ手紙を出す時、かばんと小刀こがたなとを帰りに買って来てくれとは必ず忘れずにいつも書いたが、逢いたくてならぬとか、早く帰ってくれとかは決して書かなかった。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
『ぼくの妹の靴ひもが長過ぎますから、切つてやらうとおもひます。小刀こがたなを持つて居りませんか』かういふのであつた。私が非常に骨折つて理解した独逸語は如是によぜのものに過ぎぬ。
イーサル川 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
爲損しそんじたるときの用心には腰なる拳銃あり。丙。この小刀こがたなも馬鹿にはならぬ貨物しろものなり。(かの身材小さき男はこほりの如き短劍を拔き出だして手に持ちたり。)乙。早くさやに納めよ。
お前さんが来て小刀こがたなでもきりでも構わぬからずぶ/\つッついて一角を殺すがいどうじゃ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
れから神明前の金物屋で小刀こがたなかって短刀作りにこしらえて、ただしるけの脇差に挟すことにして、アトは残らず売払て、その代金は何でも二度に六、七十両請取うけとったことは今でも覚えて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
だから、今先刻さつきの暴言をやはらげるやうな、私のなだめすかして氣をしづめさせるやうな振りをして、こつそり私の耳を小刀こがたなで刺すんですね。さあ、それから、私にはどんな缺點があります。
からくも忍びてつと退きながら身構みがまへしが、目潰吃めつぶしくらひし一番手のいかりして奮進しきたるを見るより今はあやふしと鞄の中なる小刀こがたなかいさぐりつつ馳出はせいづるを、たやすく肉薄せる二人がしもとは雨の如く、所嫌ところきらはぬ滅多打めつたうち
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
キンちゃんは、小刀こがたなをだして巨木のみきを切り取ったり、枝や葉を切り落したりして、料理に使うだけのものを集めだした。正吉は、それを見ているのには退屈して、林の中へどんどんはいっていった。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
モコウがたずさえた小刀こがたなをとって、創口きずぐちをえぐった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
小刀こがたな
歌時計:童謡集 (旧字旧仮名) / 水谷まさる(著)
雪様ゆきさまいたくはない。ぬ、まゆひそめるほどもない。いて、つて、さあ、小刀こがたなで、のなりに、……のなりに、……」
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして、なかのひとにはいりこんで、火をかんかんおこし、小刀こがたなのついた細工台さいくだいをそばにおいて、じぶんは旋盤せんばんの上にこしをおろしました。
太郎たろうには、よくとぐことができなかったのにもよりますけれど、もとから、その小刀こがたなは、よくれなかったのでした。
脊の低いとがった男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれども、敵はまだ二人ににんあましている。加之しか一人いちにんの味方をきずつけられた彼等は、いかってたけってお葉に突進して来た。洋刃ないふ小刀こがたな彼女かれ眼前めさきに閃いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
信如しんによつくえ引出ひきだしから京都きやうとみやげにもらひたる、小鍛冶こかぢ小刀こがたな取出とりだしてすれば、よくれそうだねへとのぞ長吉ちようきちかほ、あぶなし此物これ振廻ふりまわしてなることか。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
僕の木彫もくちょうだって難関は有る。せっかくだんだんと彫上ほりあげて行って、も少しで仕上しあげになるという時、木の事だから木理もくめがある、その木理のところへ小刀こがたなの力が加わる。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その時、老人は名刺がわりにと言って、自分で打った小刀こがたなを持ってきてくれましたが、そんな小刀一本にも小さなことをおろそかにしない老人の気象があらわれていました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
君はあんな小刀こがたな細工をやったばかりに、もう動きのとれない証拠を作って了ったのだよ。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
にんじんは、釣ってきた魚のこけを、今、はがしている最中だ。河沙魚かわはぜふな、それにすずきの子までいる。彼は、小刀こがたなでこそげ、腹を裂く。そして、二重ふたえきとおった気胞うきぶくろかかとでつぶす。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
平次は一生懸命その邊を掻き廻しましたが、匕首はおろ小刀こがたな一梃出て來ません。
またみなさんが學校がつこうとき鉛筆えんぴつをけづつたりする場合ばあひにないふが必要ひつようであるように、むかしひとつね小刀こがたなつてをりました。その小刀こがたな刀子とうすまをしますが、それが墓場はかばからたくさん發見はつけんされます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
れはかつお釣道具つりどうぐにするものとやら聞て居た。あたい至極しごく安い物で、それをかって、磨澄とぎすました小刀こがたなで以てその軸をペンのように削って使えば役に立つ。夫れから墨も西洋インキのあられようけはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
太郎たろうは、いままでっていた小刀こがたなててしまいました。その小刀こがたなは、いくらといでもよくれなかったのです。
脊の低いとがった男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
小刀こがたなをお持ちの方は革鞄をお破り下さい。力ある方は口を取ってお裂き下さい。それはいかようとも御随意です。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸のまえには、ひとりの男が立っていて、小刀こがたなをあっしの足につきさしゃがる。庭にはまた黒い怪物かいぶつがねこんでいて、こんぼうであっしをぶんなぐりますのさ。
市郎は我が背後うしろかすかに物の動く気息けはいを聞いたので、何心なにごころなくみかえると、驚くべしのお杉ばばあは手にすましたる小刀こがたな振翳ふりかざして、あわや彼を突かんとしているのであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と不足らしい顔つきして女を見送りしが、何が眼につきしや急にショゲて黙然だんまりになって抽斗をけ、小刀こがたな鰹節ふしとを取り出したる男は、鰹節ふし亀節かめぶしというちさきものなるを見て
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「羽織の背を切つたのも、刀で斬り下げたのではなくて、小刀こがたなで靜かに破つたのだ。切り口が曲つて居る——と俺はあの時言つたらう。金之丞は、自分が狙はれて居るやうに見せかけたのだ」
りつなぐさめつ一方かたへこゝろかせんとつと一方かたへ見張みはりをげんにしてほそひも一筋ひとすぢ小刀こがたな一挺いつてふたかれさせるなよるべつしてをつけよと氣配きくば眼配めくば大方おほかたならねば召使めしつかひのものこゝろかぜおと
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
にんじん——そいじゃ、小刀こがたなだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
……雪様ゆきさまわたしを、わたしまゆを、わたしひたひを、わたしかほを、わたしかみを、のまゝに……小刀こがたなでおきざみなさいまし。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そんないい小刀こがたなつことのできた太郎たろうは、幸福こうふくでありました。いつも、鉛筆えんぴつさきは、がするようにきれいにけずられていて気持きもちがよかったからです。
脊の低いとがった男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
役割やくわりがすっかりきまると、豚をつぶす人は、豚になるはずの男の子へつかみかかって、ねじたおし、小刀こがたなでその子の咽喉のどを切りひらき、それから、お料理番の下ばたらきの女は