いもと)” の例文
ところが日清にっしん戦争、連戦連勝、軍隊万歳、軍人でなければ夜も日も明けぬお目出度めでたいこととなって、そして自分の母といもととが堕落した。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いもとの冬子が市郎と結婚するについて、十一月初旬には帰郷する心構えをしていた所が、更に市郎から年末休暇まで延期しろと云って来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あの宮崎さんのおいもとさんは。まことに西洋人のようでござりますヨ。私くしの学校中でも御きりょうが一番よいという評判でござります。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
私は母や伯父おじと相談して、とうとう兄といもとに電報を打った。兄からはすぐ行くという返事が来た。妹の夫からも立つという報知しらせがあった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さてこれからどの位たち升たか、半月か一月もたつたことでしたらう、私はいもとを連れて、のぶといふもりと一処に遊びに出升た。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
山「いや上げられません、いもとが参りたいと申しても母が遣りたいと申しても、此の山三郎だけは差上げることは出来ません」
わたし一人子ひとりご同胞きやうだいなしだからおとゝにもいもとにもつたこと一度いちどいとふ、左樣さうかなあ、それでは矢張やつぱりなんでもいのだらう
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
下宿屋げしゆくや下婢かひかれあざけりてそのすところなきをむるや「かんがへることす」とひて田舍娘いなかむすめおどろかし、故郷こきやうよりの音信いんしんはゝいもととの愛情あいじやうしめして
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
鈴本がねてあいにく繰込のお供もつかまつらず、御酒頂戴ちょうだいも致されず、うちへ帰っていもとじゃ間に合ずというので、近所だから大和家へ寄ることちょいちょい。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道時が何か私の非難など致します時には、かし私のいもとに山木梅子と云ふ真の女丈夫ぢよぢやうぶが在りますよと誇つて居るのです——丁度ちやうど昨年の十月頃でしたよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
生命としてあきたらず、母の一部分となし、いもとの一部分となし、あるひは父の、兄の一部分ともして宮の一身は彼に於ける愉快なる家族の団欒まどひに値せしなり
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おとといもとも平田から聞いていた年ごろで、顔つき格向かっこうもかねて想像していた通りで、二人ともいかにも可愛らしい。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
寡言ことばすくなにして何事も内気なる浪子を、意地わるきね者とのみ思い誤りし夫人は、姉に比してややきゃんなるいもとのおのが気質に似たるを喜び、一は姉へのあてつけに
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その一人を通称金兵衛さんといった松本秀造まつもとしゅうぞうという人と、秀造さんのいもとの御亭主清水異之助しみずいのすけという人だ。
昼過ぎに母親は前のはたけいもとを相手にして話をしていたから、裏庭へ出て兄をたずねると、大きな合歓ねむの木の下で、日蔭の涼しい処で黙って考え込んでいるのであります。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
時に彼町醫師かのまちいし村井長庵は既に十兵衞を殺害せつがいし奪ひ取たる五十兩又いもとお富をも賣代うりしろしてかすめ取たる金までも悉皆こと/″\つかすて今は早一文なしのもと形相すがたと成りければ又候奸智かんち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「いや、何うも気の毒なこってしてね、SとMと二人のいもとを連れて上京したんですが、Sの方は左右の肺とも、空洞うつろになっていたそうで、コロリと死でしまいましたよ……」
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
翻えしみかえる限りあれも小春これも小春にいさまと呼ぶいもとの声までがあなたやとすこし甘たれたる小春の声と疑われ今は同伴の男をこちらからおいでおいでと新田足利勧請文にったあしかがかんじょうもん
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
わたくしこのみなと貿易商會ぼうえきしやうくわい設立たて翌々年よく/\としなつ鳥渡ちよつと日本につぽんかへりました。其頃そのころきみ暹羅サイアム漫遊中まんゆうちゆううけたまはつたが、皈國中きこくちゆうあるひと媒介なかだちで、同郷どうきやう松島海軍大佐まつしまかいぐんたいさいもとつまめとつてたのです。
最後さいごねえさんは、これがまつたいもとゆめおなじだとふことをおもひ、自分じぶん大人おとなになつたとき
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
弟には忠利が三斎さんさいの三男に生まれたので、四男中務なかつかさ大輔たゆう立孝たつたか、五男刑部ぎょうぶ興孝おきたか、六男長岡式部寄之よりゆきの三人がある。いもとには稲葉一通かずみちに嫁した多羅姫たらひめ烏丸からすまる中納言ちゅうなごん光賢みつかたに嫁した万姫まんひめがある。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いもとという者もっても見たらばこうも可愛い者であろうかと迷う程いとしゅうてならぬ御前が、に見えた艱難かんなんふちに沈むを見ては居られぬ、何私が善根たがるよくじゃと笑うて気を大きくもつがよい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
法木ほうぎ島船しまぶね、小船、浦の真船まふね出鼻でばなを見れば、あねいもとも皆乗り出して、をおし押し、にまきの先に、おせなおせなとさぶかぜ通れば、凪もいし、かつまを通れば、せじた宵烏賊、せがらし宵烏賊
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
靜かなるわがいもと、君見れば、おもひすゞろぐ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
また孤獨なるそのいもとあゝ永久のわがいもと
恋人かいもとか。うるはしき秋のさかえ
わが宿の姉といもとのいさかひに
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いもとも筑紫の
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
自分は果してあの母の実子だろうかというような怪しいいたましい考が起って来る。現に自分の気性と母及びいもとの気象とは全然まるでちがっている。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
然るに其かねは野々宮さんが、いもとにヷイオリンをつてらなくてはならないとかで、わざ/\国もと親父おやぢさんからおくらせたものださうだ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
飛んだ御難病でさぞ御心配な事でございましょう、少々お父さまにお願いがございまする、わたくしのためにはたった一人の可愛いいもとでございますから
なんゆへきはめて正直せうじきなるこゝろもつて、きはめて愛情あいじようにひかさるべき性情せいじようしかしてはゝいもと愛情あいじよう冷笑れいしようするにいたりしや
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
玉虫 むむ、それゆえにいもとをくれいと云わるるか。一旦縁を切ったる妹、わらわがとこう云うべき筋はござらぬ。勝手に連れて行かれたがよかろう。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
きとほるやうに蒼白あをじろきがいたましくえて、折柄をりから世話せわやきにたりし差配さはいこゝろに、此人これ先刻さきのそゝくさをとこつまともいもとともうけとられぬとおもひぬ。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
旅客は娘に引添うて、横から胸を抱くように、うつくしい手袋で、白い前掛を払いながら、親身のいもとに語るごとく
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花をみ、木栂きいちごをとりなどして、小半日もあちこちと遊び歩き升ていもと草臥くたびれたとて泣出し升たから、日影の草原へ腰かけてやすんで居升と、間近に見える草屋根のうちから
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
今しも書生の門前をうはさして過ぎしは、此のひとの上にやあらん、むらさき単衣ひとへに赤味帯びたる髪房々ふさ/\と垂らしたる十五六とも見ゆるは、いもとならん、れど何処いづこともなく品格しないたくくだりて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
委細くはしく申せと言ければ傳吉はこゝに於て是非ぜひなく申立る叔母儀は私の母のいもとにて家の相續さうぞくいたせし所むこを三人まで追出おひだし淺治郎と申男の病死びやうし後又善九郎と申者と欠落かけおちし行衞知れざりしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
正雄まさおさんはうみめずらしいので、毎日まいにちあさからばんまで、海辺うみべては、うつくしいかいがらや、小石こいしなどをひろあつめて、それをたもとにれて、おもくなったのをかかえてうちかえると、あねいもとせて
海の少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ねえさんの周圍しうゐにはのこらずいもとゆめたやうな奇妙きめう動物どうぶつきてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
打ち連れて土曜の夕べより見舞に来し千鶴子といもと駒子こまこは、今朝けさ帰り去りつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
家君さんが気抜けのようになッたと言うのに、幼稚ちいさおととはあるし、いもとはあるし、お前さんも知ッてる通り母君おッかさん死去ないのだから、どうしても平田が帰郷かえッて、一家の仕法をつけなければならないんだ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
静かなるわがいもと、君見れば、おもひすゞろぐ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
わかれをればいもといとしも
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
姉もいもと
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
然し思ったより静で、いもとお光の浮いた笑声と、これに伴う男の太い声は二人か三人。母はじろり自分を見たばかり一言も言わず、大きな声で
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかるにその金は野々宮さんが、いもとにバイオリンを買ってやらなくてはならないとかで、わざわざ国元の親父おやじさんから送らせたものだそうだ。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
是には種々しゅ/″\深い訳のある事で、何うも此のいもとは上げる訳には参りません、直ぐこれで引取りますから左様思召おぼしめして下さい
あねいもと數多かずおほ同胞はらからをこしてかたぬひげのをさなだちより、いで若紫わかむらさきゆくすゑはとするこヽろ人々ひと/″\おほかりしが、むなしく二八のはるもすぎて今歳ことし廿はたちのいたづらぶし
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いもとの冬子も兄と共に上京して、ある女学校に通っていたが、昨年無事に卒業して今は郷里の実家に帰っている。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)