たく)” の例文
(娘、ブラシを探す。画家たくを指ざす。)あそこにある。(娘、ブラシを持ち来て服を掃く。間。○戸を叩く音す。画家高声たかごえに。)
婦人ふじん驚駭きやうがいけださつするにあまりある。たくへだてて差向さしむかひにでもことか、椅子いすならべて、かたはせてるのであるから、股栗不能聲こりつしてこゑするあたはず
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
らんを前に、一室のたくで、宋江は独りびやかに病後の心を養った。酒はよし、包丁ほうちょうもよし、うつわなども、さすが「天下有名楼」であった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも竜騎兵中尉は折々文士のいるたくに来て、余り気も附けずに話を聞いて、微笑して、コニャックをもう一杯んで帰ることがある。
ついに、しんぱくは、岩頭がんとうのかわりに、紫檀したんたくうえかられたのでした。そして、ほしのかわりに、はなやかな電燈でんとうらしたのでした。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼等は毎朝主人の食う麺麭パンの幾分に、砂糖をつけて食うのが例であるが、この日はちょうど砂糖壺さとうつぼたくの上に置かれてさじさえ添えてあった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その結果、ひる間は一つのたくかこんで食事もし、本も読み、事務もとり、夜は卓を縁側えんがわに出して三人の寝床ねどこをのべるといったぐあいであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ほかを片付けてしまって待っていた、まかないの男が、三人の前にあった茶碗や灰吹をけて、水をだぶだぶ含ませた雑巾ぞうきんで、たくの上をで始めた。
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
が、物悲しい戦争の空気は、敷瓦しきがわらに触れる拍車の音にも、たくの上に脱いだ外套がいとうの色にも、至る所にうかがわれるのであった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それから改めてたくの上の、人形を取り上げて調べたが、奈良朝時代の風俗をした、貴女人形だというばかりで、これと云って変わったところもない。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのSHがしばらくすると、つて彼方あなたたくまえつて、和服姿わふくすがた東洋人とうようじんらしい憂鬱ゆううつはじらひの表情へうぜうで、自作じさくうたひだした。みなれにみゝかたむけた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
見廻わすと、桂のほかに四五名の労働者らしい男がいて、長い食卓に着いて、飯を食う者、酒を呑むもの、ことのほか静粛せいしゅくである。二人差向いでたくるや
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そうして、白雲は、駒井の応接室へ来て、たくを隔てて椅子に身を載せて相対すると、そこへ金椎キンツイが紅茶と麦のお菓子を持って来て、出て行ってしまいました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
捜査課長は、木のつちたくの上をコツンと叩いた。加害者と被害者とはにらみ合ったまま、へやを出ていった。
一九五〇年の殺人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その側には厚い書物が開けてある。たくの上のインクつぼの背後には、例の大きい黒猫が蹲って眠っている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
朝、岩下一家はたくを囲んで雑煮ぞうにを食べていた。とどうしたはずみか、祖母の祝箸いわいばしがぽっきりと折れた。
建具たてぐ取払って食堂がひろくなった上に、風が立ったので、晩餐のたくすずしかった。飯を食いながら、ると、夕日の残る葭簀よしずの二枚屏風に南天の黒い影がおどって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
学士は、たくの側にいるマリイに向いて云った。「あなたもも少し血色けっしょくくっても好いね。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
愉園ゆゑんはひつて蒸す様なまぶしい𤍠帯花卉の鉢植の間のたくり、二本ふたもとのライチじゆの蔭の籐椅子を占領して居る支那婦人の一団を眺めながら、珈琲カフエエを取つて案内者某君の香港ホンコン談を聞いた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
窓際まどぎは紫檀しだんたくはさんでこしおろし、おたがひつかがほでぼんやり煙草たばこをふかしてゐると、をんな型通かたどほ瓜子クワスワツアはこんでくる。一人ひとり丸顏まるがほ一人ひとり瓜實顏うりさねがほそれ口紅くちべにあかく、耳環みゝわ翡翠ひすゐあをい。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
草をしとねとし石をたくとして、谿流けいりゅう縈回えいかいせる、雲烟うんえんの変化するを見ながら食うもよし、かつ価もれんにして妙なりなぞとよろこびながら、あおいで口中に卵を受くるに、におい鼻をき味舌をす。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
長方形の印度更紗いんどさらさをかけたたくがあってそれに支那風しなふう朱塗しゅぬりの大きな椅子いすを五六脚置いたへやがあった。さきに入って往った女は華美はで金紗縮緬きんしゃちりめんの羽織の背を見せながらその椅子の一つに手をやった。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
満州よりここに来れる若者わかものは叫びて泣くもたくにすがりて
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
されど、誰一人、握りしめたるこぶしたくをたたきて
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
たくの前には腰を掛け
たくに首をよせあっていた四つの顔は、胸を上げて笑い合っていた。陸謙の手から、管営と差撥の両名へ、莫大な銀が手渡された。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これが銀行員チルナウエルの大事件に出逢であう因縁になったのである。チルナウエルはいつか文士たくの隅に据わることを許されていたのである。
たくかこんでてんでに氣焔きえん猛烈まうれつなるはふまでもないことで、政論せいろんあり、人物評じんぶつひやうあり、經濟策けいざいさくあり
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
(さっさと為事にかかり、たくの上を片付けつつ、にこやかに。)ええ、ええ。あしたはお目出たい日なのよ。
拊石は会計掛の机の側へ案内せられて、座布団の上へ胡坐あぐらをかいて、小さい紙巻の煙草を出してんでいると、幹事がたくの向うへ行って、紹介の挨拶をした。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一人のあによめが自分にはこういろいろに見えた。事務所の机の前、昼餐ひるめしたくの上、かえみちの電車の中、下宿の火鉢の周囲まわり、さまざまの所でさまざまに変って見えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一緒にたくを囲んで闘った面子メンツの一人が、自分の二千をほとんどみんなさらってゆき、その面子一人が断然一人勝ちでプラス四千点にもなったというが、麻雀大会閉会後
麻雀インチキ物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
せきくばつた、座蒲團ざぶとんひとひとつのたくうへに、古色こしよくやゝ蒼然さうぜんたらむとほつする一錢銅貨いつせんどうくわがコツンと一個いつこにひらきをいて、またコツンと一個いつこ會員くわいゐんすうだけせてある。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
店の中には客が二人、細長いたくに向っていた。客の一人は河岸の若い衆、もう一人はどこかの職工らしかった。我々は二人ずつ向い合いに、同じ卓に割りこませてもらった。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
病人の枕元まくらもとたくの上にけてある蝋燭ろうそくの火がほとんど少しも動かない。すっかり暮てしまって、向うの奥に見える青み掛かった鼠色ねずみいろの山の上に月が出たころ、風が少し吹いて来た。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「あの男だけです。」エルリングが指さしをする方を見ると、祭服を着けた司祭の肖像がたくの上に懸かっている。それより外には匾額へんがくのようなものは一つも懸けてないらしかった。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
すべて同じ形に建てられた間口二けんの二階造りで青く塗つた鉄の格子のはひつた階下に一個のたくを据ゑ、籐椅子につた独逸ドイツ露西亜ロシアの娼婦が疲労と暑さとで死んだ者の如く青ざめて沈黙して居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かたわらのたくうえには、くすりびんや、草花くさばなはちがのせてありました。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この二人は大抵まった隅のたくに据わる。そしてコニャックを飲む。往来を眺める。格別物を考えはしない。
大窓おおまどの下に銅版の為事しごとをするたくあり。その上に為事半ばの銅版と色々の道具とを置きあり。左手に画架。その上に光線を遮るために使う枠を逆さにして載せあり。
それから部屋に這入はいって、洗面たくそばへ行って、雪が取って置いた湯を使って、背広の服を引っ掛けた。洋行して帰ってからは、いつも洋服をているのである。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
たくをはさんで、窮屈そうに前にいる男は、この裏山の背村せむらに住む、関久米之丞せきくめのじょうとよぶ旧家の郷士。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのころ、三吉少年探偵は、師の事務所に一人ポツンと、たくを前にして坐っていた。しかし彼は居睡いねむりをしているのではない。卓の上には大きな東京市の地図が拡げられてあった。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
のちに聞けば、その凸面鏡は、エルリングが自分でったのである。書棚の上には、地球儀が一つ置いてある。たくの上には分析に使う硝子瓶がらすびんがある。六分儀ろくぶんぎがある。古い顕微鏡がある。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
とき神學しんがく議論ぎろんまであらはれて一しきりはシガーのけむ熢々濛々ぼう/\もう/\たるなかろくしち人面じんめん隱見いんけん出沒しゆつぼつして、甲走かんばしつた肉聲にくせい幾種いくしゆ一高一低いつかういつてい縱横じゆうわうみだれ、これにともな音樂おんがくはドスンとたくおと
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
居間ゐまにはもう電燈がいてゐた。代助は其所そこで、梅子と共に晩食ばんしよくました。子供二人ふたりたくを共にした。誠太郎にあに部室へやからマニラを一本つてさして、それかしながら、雑談をした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
四五の人たくにのこりて語らへば水の明りす黄海の船
裁判長はかろたくちて、きと白糸をたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
別離歓迎、式典葬祭、権謀術策けんぼうじゅっさく、生活兵法、ことごとく宴会のたくとによって行われる。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゴンゴラ総指揮官は、頬をトマトのようにあかくして、たくたたいた。