丁寧ていねい)” の例文
丁寧ていねい過ぎるほど丁寧な挨拶、天氣のこと、世並のこと、疝癪せんしやくで歩くのに骨が折れ、思はず手間取つた話などひとわたりあつて、さて
ところかほわりあたまうすくなりぎたふとつたをとこて、大變たいへん丁寧ていねい挨拶あいさつをしたので、宗助そうすけすこ椅子いすうへ狼狽あわてやうくびうごかした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それにもかかわらず、とうの名探偵は、いつさめるともなく、昏々こんこんと眠っている。眠った上にご丁寧ていねいにも身動きもできずしばられている。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
少年クリストフは、彼女のそばにすわって、さほど丁寧ていねいでなかった。決してお世辞を言わなかった、お世辞を言うどころではなかった。
その度を通り過ぎると今度は本当にしんから軟くなって味が出るのです。丁寧ていねいにすると何でもその軟くなるまで煮なければなりません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼は、一枚二枚脱いでいって、そいつを丁寧ていねいに草の上でたたむ。靴のひもを結び合わせ、それをまた、いつまでもかかってほどく。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
自分じぶんにいると、さもうれしそうに、それを丁寧ていねいはこなかおさめました。そして、つぎの人形にんぎょうかおきにかかったのです。
気まぐれの人形師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
教授は不似合な山高帽子を丁寧ていねいに取って、すすけきったような鈍重な眼を強度の近眼鏡の後ろから覗かせながら、含羞はにかむように
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
卯木や久子も奥向きだけでなく、釜屋かまやから厨房くりやへまで出て、はたらいていた。——やかたじゅうの清掃も今朝は日ごろとちがう丁寧ていねいさであった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ナターシャは、ゆっくり丁寧ていねいに長椅子の下からベッドのかげにまで濡雑巾をかけた。どういう仕事をするときでもナターシャはいそがない。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「おおそこもとが郡上氏か、玻璃窓の高名存じておる。碩翁殿よりの紹介状、丁寧ていねいでかえって痛み入る。くつろぐがよい、ゆっくりしやれ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたくして、これはきっととうとかみさまだとさとり、丁寧ていねい御挨拶ごあいさついたしました。それがつまりこの瀑布たき白竜はくりゅうさまなのでございました。
には卯平うへい始終しじゆくさむしつて掃除さうぢしてあるのに、蕎麥そばまへに一たん丁寧ていねいはうきわたつたのでるから清潔せいけつつてたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
T君は朝鮮飴一切れを出して遍路にやった。遍路はそれを押しいただき、それを食べるかと思うと、胸にけてある袋の中に丁寧ていねいにしまった。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかも丁寧ていねいに三八二十四と、九九の声を添えてあるのは、そういう暗記をしていた連中、すなわちやはり子供らの通弁であった。
御免なされとふすま越しのやさしき声に胸ときめき、かけた欠伸あくびを半分みて何とも知れぬ返辞をすれば、唐紙からかみする/\と開き丁寧ていねい辞義じぎして
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼方あつち此方こつちさがす中、やつとのことで大きな無花果いちじく樹蔭こかげこんでるのをつけし、親父おやぢ恭々うや/\しく近寄ちかよつて丁寧ていねいにお辭儀じぎをしてふのには
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
その間、今これを持って来た娘は、かいがいしく兵馬の後ろに廻って、兵馬が一旦、まくし上げておいた蒲団ふとんを、再び丁寧ていねいに敷き直した上に
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
金を路傍ろぼう土芥どかいのごとくみなすのはいかにもよくがなくいさぎよく聞こえるが、また丁寧ていねいに考えると金は決しておのれの物ではない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
紺三郎がエヘンエヘンとせきばらいをしながら幕の横から出て来て丁寧ていねいにお辞儀をしました。みんなはしんとなりました。
雪渡り (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そして方々ほうぼういえ毎日まいにち毎日まいにち六部ろくぶんで、丁寧ていねいにおもてなしをした上に、おれいをたんとたせてたせてやりました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
館の裏手へ廻ると坂の上に三十くらいの女と十歳くらいの女の子とが枯枝を拾うていたからこれに上根岸かみねぎしまでの道を聞いたら丁寧ていねいに教えてくれた。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
なお親戚の者が差出した盞も盃洗はいせんの水で丁寧ていねいに洗った後でなければ受け取ろうとせず、あとの手は晒手拭さらしてぬぐいで音のするくらい拭くというありさまに
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
何時間なんじかんかじっとすわって様子ようすていましたが、それからあたりを丁寧ていねいにもう一ぺん見廻みまわしたのちやっとあがって、今度こんど非常ひじょうはやさでしました。
そのためだろうか、街角の医者の家を叩くと、俥夫しゃふ寝呆ねぼけて私がいまだかつて、聞いた事がないほどな丁寧ていねいな物言いで、いんぎんに小腰を曲めた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
年よりも若い第二十三号はまず丁寧ていねいに頭を下げ、蒲団ふとんのない椅子いすを指さすであろう。それから憂鬱ゆううつな微笑を浮かべ、静かにこの話を繰り返すであろう。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と云い乍ら、お祖父さんはトシオの取り落した眼鏡を、拾い上げて丁寧ていねいにチリを払って、懐へ入れてしまいました。
トシオの見たもの (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「あら、ちやうちやんもたの。学校がお休み………あら、さう。」れからけたやうに、ほゝゝほと笑つて、さて丁寧ていねいに手をついて御辞儀おじぎをしながら
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
命にかかわるようなひどい怪我ではありませんように——彼は祈るような気持で丁寧ていねいに山田の頭を調べた。血は出ていない、骨が砕けている様子もない。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
と、丁寧ていねい挨拶あいさつする雪之丞の、たわやかな姿を、素浪人は、かっと見開いた、毒々しい目でぐっとめ下ろした。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いひおくれてはかへつてそびれてたのむにもたのまれぬ仕誼しぎにもなることゝ、つか/\とまへた。丁寧ていねいこしかゞめて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お艶は、さっきから何度もしているように、丁寧ていねいに頭をさげると、ほどよく微笑をほころばせながら、それでも充分のとげを含んで同じ言葉をくり返した。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
寝台のへりに腰をかけ、彼は背を曲げて仔細しさいに点検し始めた。点検し終るとひとつひとつ丁寧ていねいに弾丸をこめた。布片を出して銃身から銃把じゅうはを何度も拭いた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
何卒どうぞ閣下かくかこれをおください。』と、ニキタは前院長ぜんゐんちやうまへつて丁寧ていねいふた。『あれ閣下かくかのお寐臺ねだいで。』と、かれさらあたらしくおかれた寐臺ねだいはうして。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
劇場の人々が彼等に対して丁寧ていねいな態度や、運転手のそれに対するうやうやしい態度は、彼等が相当に名のある老人、名のある夫人であることを物語っている。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
「まさか、君は、あたらずさわらずの形式的な丁寧ていねいさを、あたりまえだと考えているんではないだろうね。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
父は立ち止ったが、急にかかとでくるりと回ると、とって返して行った。そして、垣根越しにジナイーダとかたならべる辺まで行くと、父は丁寧ていねいに彼女に会釈えしゃくをした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
職工や代表者たちに丁寧ていねいに挨拶した。何時もの温厚な専務だった。女工と男工の一部が、さすがに動いた。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
その堂の建て方も自分の家よりはよほど丁寧ていねいで中も綺麗になって居ります。その仏壇仏堂かたわらには特別に経蔵を設けまた仏像の中に経文を備えてあるところもある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
わたしちつともりませんでした』と丁寧ていねいつて、あいちやんは談話はなし乘勢はずんでたのを大層たいそうよろこびました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
伴「そのお嬢様が振袖ふりそでを着て髪を島田に結上ゆいあげ、ごく人柄のいゝ女中が丁寧ていねいに、おれのような者に両手をついて、やせッこけたなんだか淋しい顔で、伴藏さんあなた……」
すると奥さんはたいへん丁寧ていねいにお嬢さんに向い、「佐保子や、お前坂本さんにダンスをお願いしなさい」と言われたので、ぼくは一遍いっぺん冷汗三斗れいかんさんとの思いがしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
一枚だけ残して雨戸も閉め、散乱ちらかつた物を丁寧ていねいに片寄せて、寝具も布き、蚊帳かやも吊つた。不図静子は
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それから、そのあとで丁寧ていねいに手を洗ったのであったが、それとても平生よりイクラカ念入りに洗った位の事で、左右のてのひらには何の汚染よごれも残っていなかったように思う。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そういう時、妻はわざわざ私の所へやって来て、『おそくなりますから、お先へ休ませていただきます』と言う、丁寧ていねいに三つ指をついてお辞儀をし、それから自分の寝床ねどこへ入る。
おそります。』と、玄竹げんちくさかづき盃洗はいせんみづあらひ、懷紙くわいしして、丁寧ていねいいたうへ但馬守たじまのかみさゝげた。それをけて、波々なみ/\がせたのを、ぐつとした但馬守たじまのかみ
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
古墳こふんをやたらにつたりすることはわるいことでありますが、なにかの拍子ひようしこはれたりして、なかからものときには大切たいせつにこれを保存ほぞんし、丁寧ていねいにこれを調しらべなくてはなりません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そして幾たびも手拭てぬぐいをしぼってわたす。それをうけとって丁寧ていねいに顔や頸筋くびすじ、耳のなかなどに残った夜の粘りをとったのち最後に両手を、指を一本ずつ克明にふいて手拭をかえす。
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
何の珍しき事もなけれど朝から夜までの普通の出来事を丁寧ていねいに書き現したるためにその人の境遇の詳細に知らるるが面白きなり。殊に小学校の先生といふがなほ面白く感ぜらる。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「ちょっと伺います、西洞までは未だ何里ありましょうか。」と丁寧ていねいに訊くと、ちょっと立留ったがそのまま棒立ちになって、一行には目もくれず、何処か遠くの方を見入って
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)