さと)” の例文
が、道行みちゆきにしろ、喧嘩けんくわにしろ、ところが、げるにもしのんでるにも、背後うしろに、むらさと松並木まつなみきなはていへるのではない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「人間には嬉し泣きってものがある。松王まつおうに泣き笑いがあるように、壺坂つぼさかたに沢市さわいちとおさとに嬉し泣きをさせたら何うだろうと思う」
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
三重県の北部から滋賀県の甲賀こうが地方にかけて、春のはじめに神様を山から、さとの方へ御迎え申す作法として、鉤曳かぎひきという神事がある。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
足下そこのごとく虚弱たよわき人のかくうれひに沈みしは、神仏に祈りて一四六心ををさめつべし。一四七刀田とださとにたふとき一四八陰陽師おんやうじのいます。
たび途中とちゅうで、煙草畑たばこばたけに葉をつんでいる少女にった。少女はついこのあいだ、おどしだにからさとへ帰ってきた胡蝶陣こちょうじんのなかのひとり。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にいさん、もっと、どこかへいってみようじゃありませんか。さとほうへゆかなければ、いいでしょう……。」と、おとうとがいいました。
兄弟のやまばと (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは、しろ公を、れいの「さっぱ船」にのせ、自分が船をこいで、とうとうおっかさんのおさとまで、入江いりえわたってしまったのです。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
陳者のぶれば、今年三月七日、当村百姓与作後家しのと申す者、私宅わたくしたくへ参り、同人娘さと(当年九歳)大病に付き、検脈致し呉れ候様、懇々頼入り候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
四宮河原しのみやがわらを過ぎれば、蝉丸せみまるの歌に想いをはせ、勢多せた唐橋からはし野路のじさとを過ぎれば、既に志賀、琵琶湖にも、再び春が訪れていた。
何事でも目的を達し意を遂げるのばかりを楽しいと思ううちは、まだまださとの料簡である、その道の山深く入った人の事ではない。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さとのおみやに何もろた、でんでん太鼓に、などと、でたらめに唄いだして、幸吉も低くそれに和したが、それがいけなかった。
新樹の言葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかるにその後神亀四年に新たに戸籍に編入せられ、雑戸を平民とした天平年間にさとと立てたものが、所謂余戸あまべの里だというのであります。
何でもその家では、いがみの権太ごんたこそいないけれども、いまだにむすめの名をおさとと付けて、釣瓶鮨を売っていると云う話がある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼女がさとに出ていた時、「夜も昼も」訪ねくる殿上人をうるさがって、住所を隠したことがあった。その時も則光のみは自由に訪ねて来る。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
今夜はね、根岸ねぎしさとへ行って来るって胡魔化ごまかして来たのよ。私だって、たまにはゆっくりとまって見たいもの。——大丈夫よ。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こゝには无用むよう長舌ちやうぜつなれど、おもひいだししにまかせてしるせり。さて我がさとにて狐をじゆつさま/″\あるなかに、手をふところにしてじゆつあり。
……わたしはあれから落伍者らくごしゃです。何をしてみても成り立った事はありません。妻も子供もさとに返してしまって今は一人ひとりでここに放浪しています。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
自分はこの牡丹餅から彼女が今日墓詣はかまいりのためさとへ行ってその帰りがけにここへ寄ったのだと云う事をようやく確めた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
書物讀み弟子二十人計に相成、至極の繁榮はんえいにて、鳥なきさと蝙蝠かうもりとやらにて、朝から晝迄は素讀そどく、夜は講釋ども仕而、學者之鹽梅あんばいにてひとりをかしく御座候。
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
此故このゆゑなまぐさにほひせて白粉おしろいかをりはな太平たいへい御代みよにては小説家せうせつか即ち文学者ぶんがくしやかず次第々々しだい/\増加ぞうかし、たひはなさともあれど、にしん北海ほつかい浜辺はまべ
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
夢見ゆめみさととももうすべき Nara la Morte にはかりよんのおとならぬ梵鐘ぼんしょうの声あはれにそぞいにしえを思はせ候
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まだこの道は壺坂寺から遠くもなんだ、それに壺坂寺の深い印象は私に、あのおさとというローマンチックな女は、こんなはたを織る女では無かったろうか
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
酒折さかをりみや山梨やまなしをか鹽山ゑんざん裂石さけいし、さし都人こゝびとみゝきなれぬは、小佛こぼとけさゝ難處なんじよして猿橋さるはしのながれにめくるめき、鶴瀬つるせ駒飼こまかひるほどのさともなきに
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのことをきいて憤慨したのが、尾張の國愛知郡、片輪かたわさとの一女流力者——ちよつとここではさんでおくのは、前の狐女末裔は大女、この正義の女史は小女です。
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
するとどうしたものか、がせくのと、みちくらいので、よけいあわてて、どこかでみち間違まちがえたものとみえて、いくらけてもけても、さとほうへはりられません。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
日坂は金谷と掛川とのあいだ宿しゅくで、承久しょうきゅう宗行卿むねゆききょうや、元弘げんこう俊基卿としもときょうで名高い菊川きくがわさとや、色々の人たちの紀行や和歌で名高い小夜さよ中山なかやまなどは、みなこの日坂附近にある。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
川のこっちは浅草もはずれの橋場通り、向こうは寺島、隅田すみだとつづく閑静も閑静なひなさとです。
それのみならず気違きちがいはそのさとに帰っても里にいず、こじきとなって近村をふれ歩いた。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
地元じもとさとはいうまでもなく、三近郷近在きんごうきんざいからもたいへんな人出ひとでで、あのせま海岸かいがん身動みうごきのできぬ有様ありさまじゃ。往来おうらいには掛茶屋かけちゃややら、屋台店やたいみせやらが大分だいぶできてる……。
聽いて見ると、このお菊といふ嫁は、この五月に下田から嫁に來たばかり、さとは豪家で、伊豆屋とは祖先が縁續きで、わけても先代から懇意こんいな間柄といふことがわかりました。
とり明日香あすかさときてなばきみあたりえずかもあらむ 〔巻一・七八〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
まだ妹のお民が家に逗留とうりゅうしていたので、寿平次は弓の道具を取りかたづけ、的もはずし、やがてそれをさげながら、自分の妻のおさとや妹のいる方へ行って一緒になろうとした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ほら、神田なのよ、おさとは、……。近頃、旦那さんとは、ろくに口もかないのよ。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「父上にはご老耄と見えます。先年、紀州貝塚で風摩のさとカマリに逢い、叔父御やら甥やら、生きながら焼き殺されたことをお忘れですか。敵といっても、これ以上のものはないはず」
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
周子が自分のさとなどへ帰つて、Hに自分の名を云はせて母親などを感心させたりする光景を私は想像した。そしてHが称ふおんが、滑稽に響いて皆が笑ふであらうことを想つて恥を感じたのだ。
秋・二日の話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
余の得し所これにとどまらず、余は天国と縁を結べり、余は天国ちょう親戚を得たり、余もまた何日いつかこの涙のさとを去り、余の勤務つとめを終えてのち永き眠に就かん時、余は無知の異郷に赴くにあらざれば
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「この人が北園竜子に使われていたおさとさんというのです」
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さとの知れた少しの涙でしめされるな。強くなれ。
〔蒼冷と純黒〕 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「おさとさん、御馳走ごっそだすぜ、さアおでやす。」
(新字新仮名) / 横光利一(著)
あかしのさと霜夜しもよかな
荷風翁の発句 (旧字旧仮名) / 伊庭心猿(著)
幾年いくとせを生きよ、さとの子。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
うまれのさとへ初見舞。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
あきわのさとしもやおく
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
正月元日ぐわんじつさとずまひ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ふるさとをはる/″\
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
さとこひし。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
むらからさと
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
やまべるものがなかったから、さとへいってにわとりでもってこようとおもうのだ。」と、きつねはめんどうくさそうにいいました。
ものぐさなきつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
とお母さんがたしなめた。芳夫さんはさと惣領息子そうりょうむすこだ。学生時代から家へはくやって来るので、殊に遠慮のない間柄になっている。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
……けむりとほいのはひとかとゆる、やまたましひかとゆる、みねおもひものかとゆる、らし夕霧ゆふぎりうすく、さと美女たをやめかげかともながめらるゝ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)