過去くわこ)” の例文
彼女かのぢよは、片山かたやま一人ひとりためには、過去くわこの一さいてた。肉親にくしんともたなければならなかつた。もつとも、母親はゝおや實母じつぼではなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
かれながら過去くわこ二三時間じかん經過けいくわかんがへて、そのクライマツクスが突如とつじよとして如何いかにも不意ふいおこつたのを不思議ふしぎかんじた。かつかなしくかんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そんなことを、あまり熱心ねつしんに、そして感傷的かんしやうてきはなつたのちは、二人ふたりとも過去くわこやまかはにそのこゝろいとられたやうに、ぽかんとしてゐた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
過去くわこ經驗けいけんれば、金解禁きんかいきん準備じゆんびをする場合ばあひには、世界せかいいづれからも日本にほん圓貨ゑんくわたいして思惑投機おもわくとうきおこなはれるのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
いはんやしも歐米流おうべいりう姓名せいめい轉倒てんたふするときは、こゝに覿面てきめんおこ難問なんもんがある。それは過去くわこ歴史的人物れきしてきじんぶつとき如何いかにするかといふことである。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
ようするに、寫眞しやしんの本れうは、興味けうみはさういふ意味いみ記録きろくを、いひかへれば、過去くわこ再現さいげんして、おもひ出のたのしさや回想くわいそうの懷かしさをあたへるところにある。
過去くわこことおもすものは、兩眼りやうがんくじつてしまひませう。リユバフキン!』と、かれ大聲おほごゑたれかをぶ。郵便局いうびんきよく役員やくゐんも、來合きあはしてゐた人々ひと/″\も、一せい吃驚びつくりする。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
へびかへる蟲類むしるゐ假死かし状態じやうたいあひだ彼等かれら目前もくぜんせまつて未來みらいくるしみをまねために、過去くわこくるしかつた記念きねんである缺乏けつばふしたこめむぎごと消耗せうまうしてくのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
御身おんみ過去くわこ遠々とほ/″\より女の身であつたが、このをとこ(入道)が娑婆しやばでの最後で、御前おまへには善智識ぜんちしきだから、思ひだす度ごとに法華經の題目だいもくをとなへまゐらせよ。と、二首の歌も書かれてある。
しかしそののち彼女かのぢよまへにもして一そう謹嚴きんげん生活せいくわつおくつた。人々ひと/″\彼女かのぢよ同情どうじやうせて、そして二人ふたり孝行かうかう子供こどもものにした。だれいまはもう彼女かのぢよ過去くわこいてかたるのをわすれた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
私の過去くわこの罪科の跡を彼の心からり消さうと切に願つてゐたのに、そのかたい表面に、私は更に新しい、そしてもつとずつと深い捺印おしいんを押してしまつた。私はそれをきつけてしまつたのだ。
東印度会社とういんどくわいしやのしるし今のこ過去くわこのにほひを放ちてきたる
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ほまれ」はつばさ音高おとだか埋火うづみびの「過去くわこあふぎぬれば
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
さげもらひ度思は道理もつともなりさぞ其方が心には殘念ざんねんなる事にあらん是も所謂いはゆる過去くわこの約束ごとならんか然共餘り苛酷むごき仕方しかたゆゑ其方が胸中きようちうさつし入る尤も嘉川家の事に就て大分たいぶん入組たる筋あれば近々きん/\評定ひやうぢやうも是有るべしシテ又其方が願ひし時娘の死骸なんとして渡さばやと尋ねられしかば吉兵衞なみだむせびながら其儀は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さうして二人ふたりだまつてつてゐると、何時いつにか、自分達じぶんたち自分達じぶんたちこしらえた過去くわこといふくらおほきなあななかちてゐる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
過去くわこひと姓名せいめい順位じゆんゐにならべ、現在げんざいひと逆轉ぎやくてんしてならべるといふがごときは勿論もちろん不合理ふがふりであるばかりでなく、實際じつさいにおいてその取扱とりあつかかたきうすることになる。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
そこにはわたしおよわたし周圍しういをなした人たちや旅の風けいなどの過去くわこの一めん々々が、あざやかに記録きろくされてゐる。
なか金解禁きんかいきん出來できたならば、經濟界けいざいかいに一景氣けいきはしないかとひとがあるが、それはすなは過去くわこ箇月かげつかん爲替相場かはせさうばあがために、したがつ物價ぶつかさがため
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
そして、あのぞろ/\とあるいてゐるひと一人一人ひとりひとり過去くわこ現在げんざい、また未來みらいのことをかんがへたらきつとおたがひになにかのつながりをつてるにちがいないといふやうながした。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
『いやもう過去くわこわすれませう。』と、ミハイル、アウエリヤヌヰチはかたかれにぎつてふた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
追拂おひはらはれ富澤町に若松屋金七と云者いふもの幸之進と入魂じゆこん故此者の方へ引移ひきうつり世話になりけるが如何なる過去くわこの因縁にや漸々小野田が方へ縁付安堵あんどせしに間もなく又もや思ひの外の災難さいなんにて再び流浪るらうの身となり親子涙のかわひまなき所に廿日ばかりたつうち近所きんじよより出火と云程いふほどこそあれ大火となり若松屋金七も類燒るゐせうしければ是までの如くは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
宗助そうすけ佐伯さへきことをそれなりはふつて仕舞しまつた。たんなる無心むしんは、自分じぶん過去くわこたいしても、叔父をぢむかつてせるものでないと、宗助そうすけかんがへてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかしながら今日こんにち金解禁きんかいきんによつて爲替相場かはせさいばすで頂上ちやうじやうまで騰貴とうきをしたのであるから、爲替相場かはせさうばあがため經濟界けいざいかい不景氣ふけいきすで過去くわこ事實じじつになつたとてよろしいのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
おれようるのがえんのか。いや過去くわこおもしますまい。』とかれ調子てうしを一だんやさしくしてアンドレイ、エヒミチにむかつてふ。『さあきみたまへ、さあ何卒どうか。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あとにして遙々はる/″\と父の故郷は熊本くまもとと聞海山うみやまこえて此處迄は參り候へ共何程いかほど尋ても未だ父の在所ありかしれ申さず何成いかなる過去くわこ惡縁あくえんにて斯は兩親にえんうす孤子みなしごとは成候かと潸然々々さめ/″\泣沈なきしづめば餠屋もちやの亭主ももらなき偖々さて/\幼少えうせうにて氣の毒な不仕合ふしあはせ者かなとしきり不便ふびん彌増いやましさて云やう其方の父は熊本とばかりでは當所もひろ城下じやうかなれば分るまじ父の名は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)