若旦那わかだんな)” の例文
若旦那わかだんなも、あきれてつこと半時はんときばかり。こゑ一言ひとこともまだないうちに、かすみいろづくごとくにして、少女せうぢよたちま美少年びせうねんかはつたのである。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
若旦那わかだんなあわせて、たってのたのみだというからこそ、れててやったんじゃねえか、そいつを、自分じぶんからあわてちまってよ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
野口真造のぐちしんざう これも小学以来の友だちなり。呉服屋大彦だいひこ若旦那わかだんな。但し余り若旦那らしからず。品行方正にして学問好きなり。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
百姓や何かにはわからないが、あなたのとこの若旦那わかだんなは大学校へはいっているくらいだから、石の善悪よしあしはきっとわかる。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ここに桑盛次郎右衛門くわもりじろうえもんとて、隣町の裕福な質屋の若旦那わかだんな醜男ぶおとこではないけれども、鼻が大きく目尻めじりの垂れ下った何のへんてつも無い律儀りちぎそうな鬚男ひげおとこ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
自慢にしたくらいで色の白きは京阪に及ばない大阪の旧家に育ったぼんちなどは男でさえ芝居しばいに出て来る若旦那わかだんなそのままにきゃしゃで骨細なのがあり
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「黙っとりなされ、若旦那わかだんなや、黙っとりなされ」と、見張りのために寝台の傍に居のこった老看視人がいった。
仕様のない若旦那わかだんなだ。こんな晩に東京から、飛び出して来て、旦那をとっちめるなんて、理窟りくつのねえ事を
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
鹽花しほばなこそふらねあとは一まづして、若旦那わかだんな退散たいさんのよろこび、かねしけれどにくければいゑらぬは上々じやう/\なり、うすればのやうに圖太づぶとくなられるか
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私にはなぜ老爺が若旦那わかだんな様は御病中御病中をふり回したのか、使いの主が私を呼び付けようとしたのか? その理由もハッキリ納得がいったのであったが、この婦人は
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
あの下宿屋の若旦那わかだんなは役者よりも美くしいと其処そこじゅうの若い女が岡惚おかぼれしたという評判であった。
やってみたいとか、何とか、来る度に話が変ってる。何卒どうかして早く手足を延ばすようにして遣りたいものだネ——あの人も、橋本の若旦那わかだんなとして置けば、立派なものだが——
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
むなしくそっと引き退け酔うでもなくねぶるでもなくただじゃらくらとけるも知らぬ夜々の長坐敷つい出そびれて帰りしが山村の若旦那わかだんなと言えば温和おとなしい方よと小春が顔に花散る容子ようす
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
丸顔のかわいい娘で、今でも恋しい。この身は田舎いなかの豪家の若旦那わかだんなで、金には不自由を感じなかったから、ずいぶんおもしろいことをした。それにあのころの友人は皆世に出ている。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ヤーコフ (トレープレフに)若旦那わかだんな、〔わっしら〕ちょいと一浴びしてきます。
おせいの家の本家の若旦那わかだんなの喜平さんが見え、さうしてゐるうちに、向うを代表して中へ這入つてくれてゐる小池さん——「うごめくもの」——の中に出て来てゐる人事相談のお方なんだ。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
馬喰町へ持行後藤先生に慈悲じひを願ひて以前の惡事を云はれぬ樣にたのまんと思ひ若旦那わかだんな五郎藏が奉行所より歸るを今や/\と待居まちゐたり此番頭久兵衞は大膽不敵だいたんふてきなる奴なれども今後藤に舊惡を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
下町の若旦那わかだんならしい柄の彼を、初め雪枝が紹介した時に、庸三はそれが彼女の若い愛人だと気づきながら、刹那せつなに双方の組合せがちょっと気になって、何かほのかな不安を感ずるのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
神主のせがれ若旦那わかだんなと言わるるだけに無遠慮なる言い草、お絹は何と聞きしか
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
蔀君は下町の若旦那わかだんなの中で、最も聡明そうめいな一人であったと云ってかろう。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
人間に嫁だのしゅうとだのというものの無かった時代から、または御隠居ごいんきょ若旦那わかだんななどという国語の発生しなかった頃から、既に二つの生活趣味は両々相対立し、互いに相手を許さなかったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「え⁉ わ、若旦那わかだんな様が……」
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
りつゝ、たましひからさきとろけて、ふら/\とつた若旦那わかだんな身體からだは、他愛たわいなく、ぐたりと椅子いすちたのであつた。于二女之間恍惚夢如にぢよのあひだにくわうこつとしてゆめのごとし
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
若旦那わかだんなつてい」と宗助そうすけ小六ころくつた。小六ころく苦笑にがわらひしてつた。夫婦ふうふ若旦那わかだんな小六ころくかむらせること大變たいへん滑稽こつけいのやうにかんじた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そん五もとく七もありゃァしません。当時とうじ名代なだい孝行娘こうこうむすめ、たとい若旦那わかだんなが、百にちかよいなすっても、こればっかりは失礼しつれいながら、およばぬこい滝登たきのぼりで。……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
あの駕籠かきの九郎助など、かねがね私があれほどたくさん酒手をやり、どこへ行くにも私のお供で、若旦那わかだんなが死ねばおらも死にますなどと言っていたくせに
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それはおまへらぬから其樣そんにくていなことへるものゝ三日みつか交際つきあひをしたら植村樣うゑむらさまのあとふて三途さんづかはまできたくならう、番町ばんちやう若旦那わかだんなわるいとふではなけれど
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
啓ちゃんのような甲斐性かいしょうなしに連れ添うのには、もしもの時に自分が夫を食べさせる用意が必要だから、と云うのだけれども、奥畑はあの通り何不足ない若旦那わかだんなの身分で
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一週間ばかり私が、伊香保いかほの温泉へいっている間に、六十くらいの下男げなん風の老爺ろうやが来て、麹町こうじまちのおやしきから来たものだが、若旦那わかだんな様が折り入ってお眼にかかりたいといっていられる。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
舞台にはただ屏風びょうぶのほかに、火のともった行燈あんどうが置いてあった。そこに頬骨の高い年増としまが一人、猪首いくびの町人と酒を飲んでいた。年増は時々金切声かなきりごえに、「若旦那わかだんな」と相手の町人を呼んだ。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「やあ! 若旦那わかだんなじゃねえか!」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
若旦那わかだんな。』
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
おし開き立出たるは別人成ず彼の番頭ばんとうの久八なれば千太郎は大いにおどろかき置手早くうしろへかく素知そしらぬふりして居る側へ久八はひざ摺寄すりよせ是申し若旦那わかだんな暫時しばらくまち下さるべし如何にも御無念は御道理然共こゝせく時ならずさきより私し失禮しつれいながら主人の御容子ようす唯事たゞごとならずと心配しんぱいなしてふすまの彼方に殘らず始終しじう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
詰寄つめよる。若旦那わかだんなを、美少年びせうねんはうからむかへるやうに、じつとにぎる、とさきからゆきつて、ふたゝ白衣びやくい美女びぢよかはつた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そうすると、ある御嬢さんは朝顔になったり、ある細君は御園になったり、またある若旦那わかだんなは信乃や権八の気でいたんでしょう。そりゃ満足でしょう。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうおっしゃいますが、これをだまってりましたら、あとで若旦那わかだんなに、どんなお小言こごと頂戴ちょうだいするかれませんや」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
御近所のおじさん、朝日タクシイの若旦那わかだんな、それから主治医の香川さん。総動員で、出発のお支度。なにせ、お母さんは寝たっきりの病人なのだから手数がかかる。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
陰に廻りて機関からくりの糸を引しは藤本の仕業にきわまりぬ、よし級は上にせよ、ものは出来るにせよ、龍華寺さまの若旦那わかだんなにせよ、大黒屋の美登利紙一枚のお世話にも預からぬ物を
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「まあ、……恐れ入ります、若旦那わかだんな様が、さぞお喜びでございましょう」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
ああは云っても、家に落ち着いて暮らしに不自由のない若旦那わかだんなになってしまえば、自然野心もおとろえるものだから、津村もいつとなく境遇きょうぐうれ、平穏へいおんな町人生活に甘んずるようになったのであろう。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
くみしは身の過失あやまりこの娘にして其病ありとは嗚呼あゝ人は見掛によらざる物かと嘆息たんそくなしてゐたりしが漸々やう/\にして此方こなたに向ひさる惡病のあると知らば假令たとへ若旦那わかだんながどの樣に戀慕こひしたひて居給ふとも決してお世話は致すまじきに全く知ずになせし事故不行屆ふゆきとゞきの其かどは平に御勘辨かんべん下さる可しさうして此上の御思案しあんは何の思案に及ぶ可きすぐ婚姻を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二人ふたり容易よういかうとはしなかつた。仕舞しまひに、では若旦那わかだんながみんなを代表だいへうしてくがからうといふことになつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
僧正そうじやうともあるべきが、をんなのために詩人しじんつたんだとね。玉茗ぎよくめいふのは日本橋室町にほんばしむろまち葉茶屋はぢやや若旦那わかだんなだとさ。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「声が高い。若旦那わかだんなに聞えると、あの、張手とかいうすごいのを、二つ三つお見舞いされるぞ。」
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かげまわりて機械からくりいとひききしは藤本ふぢもと仕業しわざきはまりぬ、よしきううへにせよ、もの出來できるにせよ、龍華寺りうげじさまの若旦那わかだんなにせよ、大黒屋だいこくや美登利みどりかみまいのお世話せわにもあづからぬもの
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
習っていたこの者親の身代しんだいを鼻にかけどこへ行っても若旦那わかだんなで通るのをよい事にして威張いばくせがあり同門の子弟を店の番頭手代並みに心得こころえ見下す風があったので春琴も心中面白くなかったけれども
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それだけならまだよかった。彼の弱点はもう一歩先へ乗り越す事を忘れなかった。彼のお延ににおわせた自分は、今より大変楽な身分にいる若旦那わかだんなであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
愁眉しうびすなはまゆつくること町内ちやうない若旦那わかだんなごとく、ほそあたりつけて、まがすくむをふ。泣粧きふしやうしたにのみうす白粉おしろい一刷ひとはけして、ぐいとぬぐく。さまなみだにうるむがごとし。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大旦那おほだんなはおかへりにつたか、若旦那わかだんなはと、これは小聲こゞゑに、まだといてひたいしはせぬ。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
周さんは、宿のどてらに着換えたら、まるで商家の若旦那わかだんなの如く小粋こいきであった。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)