しば)” の例文
柴井町の友次郎は、この八五郎が暫らく冷飯ひやめしを食つて居た、露月町の辰五郎棟梁をしばるかも知れません——とな。解つたか、ガラツ八
彼は用意の細引を取り出すと、死人のような探偵のからだを、グルグル巻きにしばり上げ、手拭てぬぐいを丸めて厳重な猿ぐつわをほどこした。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
卯平うへい久振ひさしぶり故郷こきやうとしむかへた。彼等かれらいへ門松かどまつたゞみじかまつえだたけえだとをちひさなくひしばけて垣根かきね入口いりくちてたのみである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
云つしやるなとひぢを張ば理左衞門大いに怒りヤイおのれ役人にむか再應さいおうの口こた不屆ふとゞきな奴ソレしばれと差※さしづをなすに三五郎は理左衞門を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
是空ぜくう、是空」うめくようにいったくちはすぐ歯で噛みしばっていた。こぶしを二つの胸にくみあわせて苦しげに闇へ闇へ歩みだしている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あまり暴れるので俺が大きなつなでぐるぐるまきにしばっておいたのに、どんなに頑丈がんじょうにしといても何時の間にか抜けてしまうのだ
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
それ所ではなく、小猿がみんな歯をむいて楢夫に走って来て、みんな小さな綱を出して、すばやくきりきり身体からだ中をしばってしまいました。
さるのこしかけ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
するとあるとき、ライオンが猟人かりうどつかまつてしばられたとこへれいねづみて「おぢさん、つといで」とつてしばつたなわ噛切かみきつてやりました。
「さっきの矛盾した事実はこれで説明ができるようだね。みどりは、かねと親とにしばられていやな男と結婚しなけりゃならないのだ」
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あの口の悪いメリメと云うやつは、側にいたデュマか誰かに「おい、誰が一体日本人をあんな途方とほうもなく長い刀にしばりつけたのだろう。」
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その靈魂れいこんきてゐる人間にんげんるいことをしないために、足部そくぶをまげてしばるといふことがあつたものとかんがへられるのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
答『竜神りゅうじんにとりて、一緒いっしょむ、まぬは問題もんだいでない。竜神りゅうじん生活せいかつ自由自在じゆうじざい人間にんげんのようにすこしも場所ばしょなどにはしばられない。』
もっとも私の立ったあとにあるいはしばられたとかいうような説もあるが、何分ラサの人間は嘘をく者が多いからどうも当てにはならない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
すずめはあしをあげてをぬぐおうとしましたが、このときは、はや両方りょうほうあしえだうえしばりつけられたように、こおりついてはなれませんでした。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そしてあるばん、にわかに甚兵衛のところし入り、ねむってる甚兵衛をしばりあげ、かたなをつきつけて、人形をだせとおどかしました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この上はしばりからげても引つ立てゝかなければならぬが、それもあまりに無慈悲むじひで、当人は勿論、親たちにも気の毒だ。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「そりゃあ、あるだろう。警官が泥棒をふんしばるんだって、そうだからね。しかし、学校を浄化するためにストライキに訴えるのは無茶だよ。」
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
夏の夜はその入口にむしろって戸代りにしたが、冬はさすがに余りに寒いので他家よそから戸板を二枚もらって来て入口に押しつけてなわしばりつけた。
さうすると、了局しまひに那奴は何と言ふかと思ふと、幾許いくら七顛八倒じたばたしても金でしばつて置いた体だなんぞ、といた風な事を言ふんぢやありませんか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
勘太郎は鬼の鼻の穴に引っかかっている自在鉤をそのままにして、のこりのつなで両手をうしろに回してしばりあげ、先に歩かせながら村へ帰って来た。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
またはじまつた、此通このとほりにさるをつかまへて此処こゝしばつとくのはだれだらう/\ツて、ひとしきりさわいだのをわたしつてる。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
名画を破る、監獄かんごく断食だんじきして獄丁ごくていを困らせる、議会のベンチへ身体からだしばりつけておいて、わざわざ騒々そうぞうしく叫び立てる。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はまた家族制度に由ってしばられた生活ほど、唯今の時代においては、道徳的に不良な状態にあるものはないという事を附け加えずにいられません。
激動の中を行く (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
脇坂山城を雁字がんじがらめにしばっているので、それから、もう一つ、筆幸に油御用を言いつけるには、どうあっても係の雑用物頭をうごかさねばならぬ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
うん」と久さんは答えて、のそり/\檐下のきしたから引き出して、二握三握一つにして、トンと地につきそろえて、無雑作むぞうさに小麦からでしばって、炬火をこさえた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
でも、と皆さんは云われるでしょう、そのシムソンと云う男が、秘密書類をった事が確かなら、なぜ家宅捜査をするのと一緒に、しばってしまわないかと。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
左の手に蝋燭ろふそくを持つて兄の背後うしろまはつたが、三筋みすぢ麻縄あさなはで後手にしばつてはしらくヽり附けた手首てくびは血がにじんで居る。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
そういいながら吉は釣瓶の尻の重りにしばけられたけやき丸太まるたを取りはずして、その代わり石を縛り付けた。
笑われた子 (新字新仮名) / 横光利一(著)
むろん頭山満も貧乏の天井を打っている時分だ。俺にも相談だけはしてくれたが、三月みつきしばり三割天引という東京切ってのスゴイ高利貸連を片端かたっぱしから泣かせて
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただそれらのものが現世のきずなしばられると、たちまちに美と醜との反目の中に置かれてしまう。二元以外に出られないのが、現世における万物の命数である。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
自分の心に面白くなしとあればその契約をくことも出来る。役人も国家の命令により身をしばられるとは論ずるものの、あくまでも心の盲従もうじゅうを要求されない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それから彼女かのぢよ毎晩まいばん惡夢あくむた。片山かたやま後手うしろでしばげられてうへからるされてゐる、拷問がうもんゆめである。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
もうあといくらも綱が手許てもとに残っていなくなると、爺さんはいきなりそれで子供のからだしばりつけました。
梨の実 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
が、咄嗟とっさな場合、二人は下帯を脱して、櫂を両方のふなべりしばり付けた。が、半町と漕がないうちに、弱い木綿は、櫂と舷との強い摩擦のためにり切れてしまった。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それが官位の棒で押へられ、黄金かねくさりしばられて、恐ろしい一夜を過ごした後は、泣いてもワメいても最早もう取り返へしは付かず、女性をんな霊魂たましひを引ツ裂れた自暴女あばずれもの
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しょうの悪き牛、乳をしぼらるる時人をることあり。人これを怒つて大に鞭撻べんたつを加へたる上、足をしばり付け、無理に乳を搾らむとすれば、その牛、乳を出さぬものなり。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
みことがちょうどぐうぐうおやすみになっているのをさいわいに、その長いおぐしをいくたばにも分けて、それを四方のたる木というたる木へ一束ずつしばりつけておいたうえ
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それ/\……みるか、……あと、あまつたのをおまへげるから此薬これつておかへり。乞「はい/\。主「エーまア血が大層たいそう流れるが、手拭てぬぐひしばらなければけない。乞 ...
しばれる者の誰なりしや我はしらねど、彼くさりをもてその腕を左はまへに右はうしろにつながれ 八五—
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かすかに覚えているところでは父は柔和やさしかたで、荒々しく母や自分などをしかったことはなかった。母に叱られて柱にしばりつけられたのを父が解てくれたことを覚えている。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
恰で囚人しうじんだ!………せツこけた藝術に體をしばられて、日の光も見ずにもぐ/\してゐるんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それに反して実枝の方は、いわば肩の荷が下りた身軽さである。しばるものの何もない自由さで実枝はのびのびとなり、匂うような若さで身も心もまるまると太っていった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
郷里の両親らは福田が渡韓の事を聞きて彼を郷里に呼び返すことのいよいよかたきをうれい、その極高利貸こうりかしをして、福田が家資分産かしぶんさんの訴えを起さしめ、かくして彼の一身いっしんしば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
一人ひとりは耳に囁きつ、またの一人ひとりかひなに自由を許しつゝきれもてすぢねを卷きしばる如きめをみて
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
「あなた方は、おやっちゃんが来たときから、気持にしばられてしまっていたのですよ。」
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
カピ長 むすめうばうてかせをる死神しにがみめに、このしたしばられて、ものふことがかなはぬわい。
なろう事なら、己はいつ迄もいつ迄も、メリー嬢の魔術にしばられたまゝ、めい煌々こう/\たる舞台のまん中に、口をあんぐり開いて、観客の嘲笑を浴びて、昏々こん/\と眠って居たかった。………
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
探索隊の役人たちは、やむなく老夫婦をしばり上げ、むちうち、責めさいなんで、山から引きずりおろして来た。里に出て宿を取るときには、逃亡を怖れて老夫婦にうすを背負わせた。
私も、それを聞いていくらか身体が固くしばられたような感じがしてきた。そうして
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
何だか目に見えぬなわしばられているような気がして、ぼんやり考えこんでしまった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)