筒袖つゝそで)” の例文
私は馬車の内で着て居る洋服の外套ぐわいたうを脱いで、それで腰から下を温めて見たり、復た筒袖つゝそでに手を通して肩の方を包んで見たりした。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
此處こゝ筒袖つゝそで片手かたてゆつたりとふところに、左手ゆんで山牛蒡やまごばうひつさげて、頬被ほゝかぶりしたる六十ばかりの親仁おやぢ、ぶらりと來懸きかゝるにみちふことよろしくあり。
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
主人しゆじん細君さいくんほかに、筒袖つゝそでそろひの模樣もやう被布ひふをんな二人ふたりかたつてすわつてゐた。片方かたはうは十二三で、片方かたはうとをぐらゐえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
腰までしかない洗晒あらひざらしの筒袖つゝそで、同じ服裝なりの子供等と共に裸足はだしで歩く事は慣れたもので、頭髮かみの延びた時は父が手づからつて呉れるのであつた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
と云いながらずっと出た男の姿なりを見ると、紋羽もんぱの綿頭巾をかむり、裾短すそみじか筒袖つゝそでちゃくし、白木しろき二重廻ふたえまわりの三尺さんじゃくを締め、盲縞めくらじまの股引腹掛と云う風体ふうてい
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
四季しき押通おしとほあぶらびかりするくらじま筒袖つゝそでつてたまのやうなだと町内ちやうないこわがられる亂暴らんばうなぐさむるひとなき胸苦むなぐるしさのあまり、かりにもやさしうふてれるひとのあれば
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
筒袖つゝそできはめて質朴な風采ふうさいで、華奢はでな洋行帰の容子ようすとは表裏の相違ぢやありませんか、其晩の説教の題は『基督キリストの社会観』といふのでしてネ、地上に建つべき天国につい
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
おつぎは浴衣地ゆかたぢあかおびめた。勘次かんじこん筒袖つゝそで單衣ひとへやけあしみじかすそからた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私は薄い筒袖つゝそで単衣ひとへもので、姉の死体の横はつてゐる仏間で、私のちよつと上の兄と、久しぶりで顔を合せたり、姉が懇意にしてゐた尼さんの若いお弟子さんや、光瑞師や
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
母親は筒袖つゝそでを着て、いざりばたをチヤンカラチヤンカラ織つてた。大名縞だいめうじまおさの動くたびに少しづゝ織られて行く。裏には栗のが深いかげをつくつて、涼しい風を絶えず一しつに送つて来る。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
しま羽織はおり筒袖つゝそでほそた、わきあけのくちへ、かひなげて、ちつさむいとつたていに、兩手りやうて突込つツこみ、ふりのいたところから、あか前垂まへだれひもえる。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其後そのあと入違いれちがつて這入はいつましたのが、二子ふたこ筒袖つゝそで織色おりいろ股引もゝひき穿きまして白足袋しろたび麻裏草履あさうらざうり打扮こしらへで男
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「赤※坊の着物きものなの。こしらへた儘、つい、まだ、ほどかずにあつたのを、今行李こりそこたらつたから、してたんです」と云ひながら、附紐つけひもいて筒袖つゝそでを左右にひらいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さりとはをかしくつみなり、ひんなれや阿波あわちゞみの筒袖つゝそでれはそろひがはなんだとらぬともにはふぞかし、れをかしらに六にん子供こどもを、やしおや轅棒かぢぼうにすがるなり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
按摩あんまどのは、團栗どんぐりごととがつたあたまで、黒目金くろめがねけて、しろ筒袖つゝそで上被うはつぱりで、革鞄かはかばんげて、そくにつて、「お療治れうぢ。」とあらはれた。——勝手かつてちがつて、わたし一寸ちよつと不平ふへいだつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
役所やくしよからかへつて、筒袖つゝそで仕事着しごとぎを、窮屈きゆうくつさうにへて、火鉢ひばちまへすわるやいなや、抽出ひきだしから一すんほどわざとあましてんであつた状袋じやうぶくろいたので、御米およねんで番茶ばんちや一口ひとくちんだまゝ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何故なぜでもしない、れが無理むりやりにつて引上ひきあげてもれは此處こゝうしてるのがいゝのだ、傘屋かさや油引あぶらひきが一番いちばんいのだ、うで盲目縞めくらじま筒袖つゝそで三尺さんじやく脊負しよつてたのだらうから
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
亭主ていしゆ法然天窓はふねんあたま木綿もめん筒袖つゝそでなか両手りやうてさきすくまして、火鉢ひばちまへでもさぬ、ぬうとした親仁おやぢ女房にようばうはう愛嬌あいけうのある、一寸ちよいと世辞せじばあさん、くだん人参にんじん干瓢かんぺうはなし旅僧たびそう打出うちだすと
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
身内みうちいたからん筒袖つゝそで處々ところ/″\ひきさかれて背中せなかこしすなまぶれ、めるにもめかねていきほひのすさまじさにたゞおど/\とまれし、ふでやの女房にようぼうはしりてきおこし、背中せなかをなですなはらひ、堪忍かんにんをし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ればさて美男子びなんしいろこそはくろみたれ眉目びもくやさしく口元くちもと柔和にゆうわとしやうや二十はたちいち繼々つぎ/\筒袖つゝそで着物ぎもの糸織いとおりぞろへにあらためておび金鎖きんぐさりきらびやかの姿なりさせてたし流行りうかう花形俳優はながたやくしやなんとしておよびもないこと大家たいけ若旦那わかだんなそれ至當したうやくなるべし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)