木戸きど)” の例文
生身いきみでは渡られない。霊魂たましいだけなら乗れようものを。あの、樹立こだちに包まれた木戸きどの中には、その人が、と足を爪立つまだったりなんぞして。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、私はよく勝手を知っていたので、庭の目隠しの下から手を差し込んで木戸きどかぎを外し、便所の手洗鉢てあらいばちわきから家の中に這入はいった。
庭の木戸きどをおして細君さいくんが顔をだした。細君はとし三十五、六、色の浅黒あさぐろい、顔がまえのしっかりとした、気むつかしそうな人である。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
にわ木戸きど通用口つうようぐちのドアも、みんなしめるのをわすれていたんだ。そのうえ、庭の木戸はあけっぱなしになっていたんだが……」
垣だとばかり思っていたものは垣のように出来た木戸きどだったのであろう。そのまた木戸から出て来たのを見れば、口髭くちひげたくわえた男である。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
のこったものは殿とののご寝所しんじょのほうをまもれ、もう木戸きど多門たもんかためにはじゅうぶん人数がそろったから、よも、やぶれをとるおそれはあるまい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男気おとこけのない奥庭おくにわに、次第しだいかずした女中達じょちゅうたちは、おれん姿すがた見失みうしなっては一大事だいじおもったのであろう。おいわかきもおしなべて、にわ木戸きどへとみだした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
日々ひび得意先を回る魚屋さかなや八百屋やおや豆腐屋とうふやの人々の中に裏門を通用する際、かく粗末そまつなる木戸きどをくぐらすは我々を侮辱ぶじょくするなりといきどおる民主主義の人もあるまい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そこいらにはもうだれひとないころで、木戸きどちかいお稻荷いなりさまのちひさなやしろから、おうち裏手うらてにあるふか竹籔たけやぶはうへかけて、なにもかも、ひつそりとしてました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ヘイ・レインの𢌞り木戸きどの上に、私は靜かな小さな姿が一つぽつんと立つてゐるのを見た。私はそれをまるで向う側にあつた刈り込んだ柳と同じに見過して了つた。
前後三年近く政治に関係したけれども、あまり政治にはその力が現れずにしまった。これに対して木戸きど孝允たかよし〕、大久保おおくぼ利通としみち〕は武人ではなく、純粋の政治家である。
「ふん、木戸きどさん、心配なしだよ。おれがそんなへまをやると思いますか。射撃にかけては——」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大使岩倉いわくら右大臣、副使木戸きど参議、大久保内務卿、伊藤工部大輔以下七十名。開拓使女子留学生たちもまじっている。駐日公使デ・ロング夫妻が、晴れの嚮導きょうどう役となって、同船している。
黒田清隆の方針 (新字新仮名) / 服部之総(著)
光子みつこさんはいさむちゃんとかたをならべて、木戸きどをあけて、きらきらと草木くさきにかがやいている往来おうらいほうへとていきました。あちらには、としちゃんやよしさんたちがあそんでいました。
はちの巣 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さうとしか思へませんよ。木戸きどは締つてゐるが、お組はもと、踊りの師匠を
道中だうちうつかひふるしの蟹目かにめのゆるんだ扇子あふぎでは峠下たふげした木戸きどしやがんで、秋田口あきたぐち観光客くわんくわうきやくを——らはい、と口上こうじやうひさうで、照覧せうらんあれはことをかしい。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
江口君又論ずらく、「創作壇の一の木戸きど、二の木戸、本丸も何時かは落城の憂目うきめを見ん」と。何ぞその悠悠たる。
八宝飯 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こういうときには、みょうにものにおどろきやすい、主人は耳をそばだてて、牛舎ぎゅうしゃあらあらしきののしりの声を聞きつけた。やがて細君さいくん木戸きどへ顔をだして、きてくれという。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
なんなしにとうさんはその蝶々てふ/\おとすつもりで、木戸きどうちはうからなが竹竿たけざをさがしてました。ほら、枳殼からたちといふやつは、あのとほりトゲのた、えだんだでせう。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
どこにどんな裏切うらぎり者が鳴りをしずめているかも知れず、そいつらが、ほかさく木戸きど出丸でまるをやぶって、いっせいにさわぎだすと、いよいよ手におえなくなってしまいます
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男は身をかがめて、落ちてきたテーブルクロスにつつんだ大きな包みと、三さつのノートを、小わきにかかえこむとみると、うさぎのようなすばやさで木戸きどから大通おおどおりへ走りでた。
仙場や波立二たちと話をしていると、そこへ木戸きどという男がいそぎ足でとびだしてきた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
西郷以下の武断派を代表した人はまず亡くなり、次いで文治派の人も、即ち大久保おおくぼ木戸きどというが如き人々もすでに三十年前に亡くなり、これをたすけた人々もまた多数は亡くなっている。
にわ木戸きどは、しめておくのですよ。」と、ねえさんが注意ちゅういされたのです。
北の少女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、必死ひっしけたにわ木戸きどには、もはやおれん姿すがたられなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
……去年きよねんはるごろまでは、樹蔭こかげみちで、戸田街道とだかいだう表通おもてどほりへ土地とちひとたちも勝手かつて通行つうかうしたのだけれども、いまは橋際はしぎは木戸きど出來できて、くわん構内こうないつた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
木戸きどを押すと、非番とみえて、糸瓜棚へちまだなの下で手造りの竹笠にうるしを塗っていた乙若が
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうさんはおうち裏木戸うらきどそとをさん/″\あそまはりまして、木戸きどのところまでかへつてますと、たか枳殼からたちうへはうたまごでもみつけようとしてるやうなおほきなくろ蝶々てふ/\つけました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
との一ごんをのこして、また木戸きどから細君はでていった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
くろ呼吸いき吐掛はきかけてたんださうです……釣臺つりだい摺違すれちがつてはひりますとき、びたりと、木戸きどはしらにはつて、うへひと蒼黄色あをきいろい、むくんだてのひらでましたつて……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
木戸きど番小屋ばんごやの前に、七人の部下ぶかやりをつかんだまま悶々もんもんとのた打っている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四五本しごほんまがつたりたふれたりだが、竹垣たけがき根岸流ねぎしりうとりまはした、木戸きどうちには、うめ枝振えだぶりのいのもあるし、何處どこからつたか、はしうへやなぎ枯葉かれは風情ふぜいがある。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
米價べいかはそのころ高値たかねだつたが、あへ夜討ようちをける繪圖面ゑづめんではないのであるが、まちむかつてひのき木戸きどみぎ忍返しのびがへしのへいむかつて本磨ほんみがきの千本格子せんぼんがうし奧深おくふかしづまつて
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それを、四五軒しごけんつたむかがはに、はゞひろはしまへにして、木戸きど貸屋札かしやふだとして二階家にかいやがあつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もつとも、二ぎにまゐつたんですから、もんくゞりもしまつてて、うら𢌞まはつたもわかりましたが、のちけばうでせう……木戸きどは、病院びやうゐんで、にました死骸しがいばかりを、そつ内證ないしようします
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おもてからは、木戸きどひと丁字形ちやうじがた入組いりくんだほそ露地ろぢで、いへいへと、屋根やね屋根やね附着くツついてところだから、珊瑚さんごながれは、かべひさしにしがらんで、かるゝとえて、表欄干おもてらんかんからたのとくらべては
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
盲人めくらこそ、をんなおもひをけて、かげのやうに附絡つきまとうて、それこそ、をんないへまはりの瓦斯燈がすとうのあかりでれば、守宮やもりか、とおも形體ぎやうたいで、裏板塀うらいたべい木戸きど垣根かきねに、いつもあかく、つらあを
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わたしまちのさまをるために、この木戸きど通過とほりすぎたことがある。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その時木戸きどに立った多勢おおぜいの方を見向いて
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)