あさひ)” の例文
「木曾のごときは、くに亡ぶ家なるを、あさひ将軍以来の名門とて、父信玄がむすめまでとつがせて、一族並に待遇して来たものではないか」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しきりに起こる排外の沙汰さた。しかも今度のあさひ茶屋での件は諸外国との親睦しんぼくを約した大坂西本願寺会見の日から見て、実に二日目の出来事だ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
峰の白雪……私が云うと、ひな唄のようでも、荘厳おごそかあさひでしょう。月の御堂のかつらの棟。そのお話の、真中まんなかへ立って、こうした私はきまりが悪い……
栗の花盛りの梢に日の当っているところなどは、むしろ明るい、あざやかな感じがする。「合歓ねむ未ださめず栗の花あさひに映ず」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
この辺はあさひ町の遊廓が近いので、三味さみや太鼓の音もするが、よほど鈍く微かになって聞えるから、うるさくはない。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今の時間で丁度八時頃、神宮の南、上知我麻祠かみちがまのやしろの前で、はるか南方に当って一条の煙が、折柄のあさひの光に、濃い紫色に輝きながら立ち上るのが見られた。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あさひ座といふ名前が『』の字に関係があるから焼けたのだといふ噂も聞きました。二十年も前の事です。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
そのななめに傾いた煙突の半面が、あさひのオリーブ色をクッキリと輝かしながら、今にも頭の上に倒れかかって来るような錯覚の眩暈めまいを感じつつ、頭を強く左右に振った。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今日こんにち上野博物館の構内に残っている松は寛永寺かんえいじあさひまつまたは稚児ちごまつとも称せられたものとやら。首尾の松は既に跡なけれど根岸にはなお御行の松のすこやかなるあり。
当時あさひの昇るような勢いの『ヘルキュレス』、勝目のところはよく行って四分六しぶろく、せいぜい七分三分の兼ね合いというところ、何分なにぶんにも望みのすくない話でごぜますが
入梅つゆになッてからは毎日まいにち雨降あめふりそれやつ昨日きのふあがツて、庭柘榴ざくろの花に今朝けさめづらしくあさひ紅々あか/\したとおもツたもつか午後ごゝになると、また灰色はいいろくもそら一面いちめんひろがり
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それらすべての上に影と日向ひなたとをはっきり描いてあさひが横ざしにさしはじめていた。からすの声と鶏の声とが遠くの方から引きしまった空気を渡ってガラス越しに聞こえてきた。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
バッジいわく、古エジプト人の『死者の書』に六、七の狗頭猴あさひに向い手を挙げて呼ぶていを画いたは暁の精を表わし、日が地平より上りおわればこの猴になると附記した。
雨後の庭木に露の玉があさひに光って、さわやかな宙空に、しんしんと伸びる草の香が流れていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして、一時間の後にはあさひの紋の浮き上った四角い大きな箱棺が安次の小屋へ運ばれていた。
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
石橋いしばしわたしとがかはる/″\める事にして、べつ会計掛くわいけいがゝりを置き、留守居るすゐを置き、市内しない卸売おろしうりあるく者をやとそのいきほひあさひのぼるがごとしでした、ほかるゐが無かつたのか雑誌もく売れました
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
大海原おほうなばらひがしきわみから、うら/\とのぼつてあさひひかりも、今日けふ格別かくべつうるはしいやうだ。
しずしずとさしのぼるあさひは、霊峰富士の頂に、金色こんじきの光を放っているではないか。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
またかしこくもとうとくも仰ぎ望まれたのは、大陸でもそうだったかも知れぬが、海のとなかの島国にあっては、ことに早朝の一刻、あさひとよさかのぼりといわれた日出の前と後とであった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その目は遠く連山のかたを見やりて恋うるがごとく、憤るがごとく、肩にるる黒髪こくはつ風にゆらぎのぼあさひに全身かがやけば、蒼空あおぞらをかざして立てる彼が姿はさながら自由の化身とも見えにき。
(新字新仮名) / 国木田独歩(著)
我はあさひの光窓を照して、美しき花祭の我をさますまで、穩なる夢を結びぬ。
垂氷たるひとなりて一二寸づゝ枝毎えだごとにひしとさがりたるが、青柳あをやぎの糸に白玉をつらぬきたる如く、これにあさひのかゞやきたるはえもいはれざる好景かうけいなりしゆゑ、堤の茶店ちやみせにしばしやすらひてながめつゝ
姉は自分から好きこのんで、貧しいこの植木職人と一緒になったのであった。畠には春になってから町へ持出さるべき梅や、松などがどっさり植つけられてあった。あさひが一面にきらきらと射していた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あさひは東天に未だ昇らず、部屋の中は深い暗闇であつた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
あさひの登るが如しと言うのじゃ。」
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
五 あさひ将軍義仲よしなか
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
出るや否や下に/\の制止せいし聲々こゑ/″\とゞこほりなく渡邊橋の旅館りよくわんにこそ歸りける今はたれはゞかる者はなく幕は玄關げんくわんひらめき表札は雲にもとゞくべく恰もあさひのぼるが如きいきほひなれば町役人まちやくにんどもは晝夜相詰あひつめいと嚴重げんぢう欵待あしらひなりさて御城代には御墨附おすみつきうつし并びに御短刀おたんたう寸法すんぱふこしらへ迄委敷くはしくしたゝ委細ゐさい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
白い霧の海に、あさひが映じている。梓川の渓谷に沿うて、道は狭くなってくる。騎馬の士は馬を降りて馬を曳いた。けわしさに馬も耐えないのである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名にし負う神通二百八間の橋を、真中まんなか頃から吹断ふきたって、隣国の方へ山道をかけて深々と包んだ朝靄あさもやは、高く揚ってあさひを遮り、低く垂れて水を隠した。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その日の昼過ぎには、通禧は五代、中井らの人たちと共にさかいあさひ茶屋に出張していた。済んだあとで何事もわからない。土佐の藩士らは知らん顔をして見ている。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
薄いもやの中に、応挙風おうきょふう朱盆しゅぼんのようなあさひがのぼり、いかにもお正月らしいのどかな朝ぼらけ。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
まばらになった群衆の背後うしろから、今出たばかりのあさひがキラキラとし込んで来た。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あさひかゞや大日本帝國だいにつぽんていこく軍艦旗ぐんかんき翩飜へんぽん南風なんぷうひるがへつてつた。
実際、瞳が痛いほどの、キラキラとした金色のあさひです。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……あら嬉しや!三千日さんぜんにちの夜あけ方、和蘭陀オランダ黒船くろふねに、あさひを載せた鸚鵡おうむの緋の色。めでたく筑前ちくぜんへ帰つたんです——
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこの書院窓には、あさひあかしていた。鏡をおくと鏡にもキラキラする。しかし彼はまぶしさなどは意にもかけず、顔をしかめて、頬やあごを剃りはじめた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
来て見るとこれは不思議——春秋の花が一時に咲き揃って、露に濡れあさひに輝やいていますから、濃紅姫は呆れてしまって、恍惚うっとりと見とれていますと、王様はニコニコお笑いになりながら——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
……あらうれしや!三千日さんぜんにちあけがた和蘭陀オランダ黒船くろふねに、あさひせた鸚鵡あうむいろ。めでたく筑前ちくぜんかへつたんです——
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、翌早朝に陣門をひらいて、甲鎧こうがい燦爛さんらんと、自身先に立ってあさひの下を打って出た。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旗差物はたさしものあさひに輝やかしつつ南下して行くのを発見した。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
うまのやうに乘上のりあがつたくるまうへまへに、角柱かくばしら大門おほもんに、銅板どうばんがくつて、若葉町わかばちやうあさひくるわてかゝげた、寂然しんとした、あかるい場所しまたからである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不幸にも、それは、まだあさひのような勢いにあった平氏の者に、事を挙げるまえにぎつけられる所となって、この山荘に出入りしていた者のほとんど全部が、極罪に処せられたり、遠流おんるになった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あさひの光りが 照らさぬうちに
雪の塔 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
紅梅の咲く頃なれば、かくまでの雪のさまも、あさひとともに霜より果敢はかなく消えるのであろうけれど、丑満うしみつ頃おいはみやこのしかも如月きさらぎの末にあるべき現象とも覚えぬまでなり。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
血る潔く清き身に、唐衣からごろもを着け、袴を穿くと、しらしらと早やあさひの影が、霧を破って色を映す。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男に取替えられた玩弄おもちゃは、古い手に摘まれた新しい花は、はじめは何にも知らなかったんです。清い、美しい、朝露に、あさひに向って咲いたのだと人なみに思っていました。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あさひさす一人ひとり老爺ぢゞい腰骨こしぼねんで、ものをさがふうして歩行あるいたが、少時しばらくして引返ひきかへした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
爾時そのときふねからりくわたしたいた眞直まつすぐになる。これをわたつて、今朝けさほとん滿潮まんてうだつたから、與吉よきちやなぎなかぱつあさひがさす、黄金こがねのやうな光線くわうせんに、そのつみのないかほらされて仕事しごとた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
爾時そのときは船から陸へ渡した板が真直まっすぐになる。これを渡って、今朝はほとんどど満潮だったから、与吉は柳の中で𤏋ぱっあさひがさす、黄金こがねのような光線に、その罪のない顔を照らされて仕事に出た。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いなずまとなって壁にひらめき、分れよ、退けよ、とおっしゃる声は、とどろに棟に鳴渡り、涙は降って雨となる、なさけの露は樹にそそぎ、石に灌ぎ、草さえ受けて、暁のあさひの影には瑠璃るり紺青こんじょう
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)