“散(ちら)” の例文
なるほど、そう思えば、舞台の前に、木の葉がばらばらと散(ちら)ばった中へ交(まじ)って、投銭(なげせん)が飛んでいたらしく見えたそうでございます。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毎(いつ)も宿り客の内幕を遠慮も無く話し散(ちら)すに引代(ひきかえ)て、余計な事をお問(とい)なさるなと厳しく余を遣込(やりこ)めたれば余が不審は是よりして却(かえっ)て、益々募(つの)り
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
今豊橋辺にあつちこつち崋山の手紙が散(ちら)ばつて、虎の子のやうに大事がられてゐるが、あれはみんなこの素麺箱から転がり出したものなのだ。
以て來ぬか氣のきかぬ奴等(やつら)だナニ其所にある夫なら早く草鞋(わらんぢ)を解(とき)何ぜ洗足(せんそく)をせぬのだと清兵衞は嬉(うれ)し紛(まぎ)れに女共を叱(しか)り散(ちら)して彼の是のと世話(せわ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わが目のこれに堪(た)ふるをえしはたゞ些(すこし)の間なりしも、そがあたかも火よりいづる熱鐡の如く火花をあたりに散(ちら)すを見ざる程ならざりき 五八—六〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
とお睨(にら)み廻しになるあなたの顔が目に見えて身慄(みぶる)ひをすると云ふのです。または自身達の散(ちら)して置いた塵(ちり)でなくても
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そう云いながら、九郎助は立ち上って散(ちら)ばっている紙片を取り蒐めると、めちゃめちゃに引き断(ちぎ)って投げ捨てた。九郎助の顔は、凄(すご)いほどに蒼(あお)かった。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
店には仕事が散(ちら)かり放題に散かっていた。熨斗餅(のしもち)が隅(すみ)の方におかれたり、牛蒡締(ごぼうじめ)や輪飾が束(つか)ねられてあったりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
襷(たすき)をかけ、広げた扇を地上に置き、右の手を眼の前にひらけて紙屑か何かの小さくしたのを散(ちら)かして居る。「春は三月落花の風情」とでもいふ処であらう。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その小屋の周囲に大きな赤黒く汚れた桶が三ツ四ツ散(ちら)ばって青田の中にある。この辺は一面に青田になっている。私は一見して石油井(いど)だということが分った。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
招き猫なぞが飾って有るので、何も褒めようが有りませんから、二枚折(おり)の屏風の張交(はりまぜ)を褒めようと思って見ると、團十郎(だんじゅうろう)の摺物(すりもの)や会の散(ちら)しが張付けて有る中に
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
身なりは変って居りますが、三ヶ月前此処(ここ)へ来た時と同じコバルト色のスーツケースをさげて、寿美子は小杉卓二の、あの散(ちら)ばった書斎へ暇乞(いとまご)いに行ったのです。
右の掛(かゝ)りに鼠色のペンキで塗つた五(いつ)坪位(ぐらゐ)の平家(ひらや)がある。硝子(がらす)窓が広く開(あ)けられて入口に石膏の白い粉が散(ちら)ばつて居るので、一見(けん)製作室(アトリエ)である事を自分達は知つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
ホテルの室(へや)の中には、いろ/\なものが散(ちら)ばつて、かなりに明るい電気が卓(テーブル)の上に、椅子の上に、またその向うにある白いベツトの上に一杯にその光線を漲(みなぎ)らしてゐる。
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋、田山録弥(著)
片手に水竿(みずざお)を控え、彼方此方に佇(たたず)んで当惑する船夫の姿は、河面に蓋(ふた)をした広い一面板に撒(ま)き散(ちら)した箱庭の人形のように見えた。船夫たちは口々に何やら判らない言葉で怒鳴った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いにしへ二七〇行幸(いでまし)の宮ありし所は、二七一石(いは)はしる滝つせのむせび流るるに、ちひさき鰷(あゆ)どもの水に逆(さか)ふなど、目もあやにおもしろし。二七二檜破子(ひわりご)打ち散(ちら)して喰(く)ひつつあそぶ。
それに車内に濛々(もうもう)と立籠(たちこ)めた煙草の煙、それらの中で杜絶(とぎ)れ杜絶れにしか聞えなかったが、行儀の悪い乗客達が食べるだけ食べて、散(ちら)かすだけ散かして、居睡りを始める頃になると
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
僕の室の欄間(らんま)には五、六十の面を掛けて、僕のその頃の着物は、袂(たもと)の端に面の散(ちら)し模様が染めてあって、附紐(つけひも)は面継(めんつぎ)の模様であったのを覚えています位、僕が面好きであったと共に
其瀑は一丈も落ちると突出せる岩に撞き当って、あたりに白沫を散(ちら)しながら飛舞するさまが壮快であった。此瀑は二つとも左岸が急ではあるが岩壁ではないので、難なく越えられた。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
此盃手に入れば幸(さいはひ)ありとて人の濤(なみ)をなして取んとす。神酒(みき)は神に供(くう)ずる状(かたち)して人に散(ちら)し、盃は人の中へ擲(なぐ)る、これを得(え)たる人は宮を造(つく)りて祭(まつ)る、其家かならずおもはざるの幸福あり。
余は鳥居清信が『四場居百人一首』において輪廓を描ける線の筆力と、模様風なる人物の姿勢と、また狂歌を散(ちら)し書きにしたる文字と絵画との配合につきて殊に美妙なる快感を禁ずる能(あた)はず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
所々(ところどころ)に美(うつく)しい色彩(いろどり)の貝殻(かいがら)や香(にお)いの強(つよ)い海藻(かいそう)やらが散(ちら)ばっているのです。
別に何も入っていないが、その辺(あたり)には真黒(まっくろ)な煤(すす)が、堆(うずたか)く積(つも)っていて、それに、木の片(きれ)や、藁屑(わらくず)等(など)が、乱雑に散(ちら)かっているので実に目も当てられぬところなのだ、それから玄関を入ると、突当(つきあた)りが台所
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
画家はとり散(ちら)した絵具だらけの穢(きたな)い室(へや)でウイスキーを飲んでいた。
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
猛獸二頭襲ひ來て、騷がし散(ちら)し逐ふ如く、 325
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
性慾の如くまつ青な太陽が金色(こんじき)の髪を散(ちら)して
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
相手(あいて)構(かま)わず吹(ふ)き散(ちら)す半病人(はんびょうにん)もある有様(ありさま)。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
風に追はれて散(ちら)された
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
前に青竹の埒(らち)を結廻(ゆいまわ)して、その筵の上に、大形の古革鞄ただ一個(ひとつ)……眗(みまわ)しても視(なが)めても、雨上(あまあが)りの湿気(しけ)た地(つち)へ、藁(わら)の散(ちら)ばった他(ほか)に何にも無い。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼等は渡り鳥のやうにぱつと散(ちら)ばつて社会の各方面に飛び込むだが、卒業証書が何よりもよく物を言ふ社会では、彼らの骨折(ほねをり)は一通りで無かつた。
取寄(とりよせ)忠八に渡し此品にて候と云にぞ忠八手に取て一目見に黒地(くろぢ)に金にて丸に三ツ引の紋(もん)散(ちら)し紛ふ方なき主人喜内が常に腰に提られし印籠なれば思ず涙(なんだ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
我また見しにかの鷲はじめのごとく舞下りて車の匣(はこ)の内に入り己が羽をかしこに散(ちら)して飛去りぬ 一二四—一二六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
鶴さんは仕立物などを散(ちら)かしたその部屋へいきなり入っていこうとしたが、おゆうは今日は更(あらた)まったお客さまだから失礼だといって、座敷の床の前の方へ
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自分も巴里(パリイ)で時時(とき/″\)其(その)床屋へ行く。其れは髪の毛が一本でも散(ちら)ばつて居ないのを礼(らい)とする此処(ここ)では自分で手際よく髪を持ち扱ひ難(にく)いからである。髪結(かみゆひ)は多く男である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
家の前に一本の柳の木があって、子供の汚物(よごれもの)を洗ったのが、その柳の木から壁板に繋がれた縄に掛けてあった。家は藁屋(わらや)で、店には割りかけた赤味の板が散(ちら)ばっていた。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
麹屋の亭主は大勢の人を頼んで恐々(こわ/″\)ながら交遊庵に参ったのは丁度夜(よ)の暁方(あけがた)、参って見ると戸が半ば明いて居ります、何事か分りません、小座敷には酒(さけ)肴(さかな)が散(ちら)かって居り
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此盃手に入れば幸(さいはひ)ありとて人の濤(なみ)をなして取んとす。神酒(みき)は神に供(くう)ずる状(かたち)して人に散(ちら)し、盃は人の中へ擲(なぐ)る、これを得(え)たる人は宮を造(つく)りて祭(まつ)る、其家かならずおもはざるの幸福あり。
又随分チョン髷も有りますが此髪の癖を御覧なさい揺れて居る癖を、代言人や壮士の様な散(ちら)し髪(げ)では無論、此癖は附かず、チョン髷でも同じ事、唯だ此癖の附くのは支那人に限ります
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「おい! みんな!」と、周囲に散(ちら)かっている乾児達を呼んだ。烈しい叱(しか)り付けるような声だった。喧嘩(けんか)の時などにも、叱咜(しった)する忠次の声だけは、狂奔している乾児達の耳にもよく徹した。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
父なる人は折しも鋸(のこぎり)や、鎌や、唐瓜(たうなす)や、糸屑などの無茶苦茶に散(ちら)ばつて居る縁側に後向に坐つて、頻りに野菜の種を選分(えりわ)けて居るが、自分を見るや、兼ねて子息(むすこ)から噂(うはさ)に聞いて居つた身の
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
興義これより病愈(い)えて、杳(はるか)の後八三天年(よはひ)をもて死(まか)りける。其の終焉(をはり)に臨みて、画(ゑが)く所の鯉魚数枚(すまい)をとりて湖(うみ)に散(ちら)せば、画ける魚八四紙繭(しけん)をはなれて水に遊戯(いうげ)す。ここをもて興義が絵世に伝はらず。
其儘(まま)巨大な唐箕(とうみ)か何かで吹き散(ちら)しているようだ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そのほとんど狼の食い散(ちら)した白骨のごとき仮橋の上に、陰気な暗い提灯の一つ灯(び)に、ぼやりぼやりと小按摩が蠢(うご)めいた。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが、その当時の秘蔵品は、今では散々(ちり/″\)ばらばらに散(ちら)ばつて、容易に持主を捜し当てる事が出来なかつた。
物語りしに後藤先生は其若者(そのわかもの)不便(ふびん)なれば助けて遣(つか)はさんと云れて熊谷(くまがや)土手(どて)へ追駈(おつかけ)行(ゆき)駕籠屋(かごや)の惡漢(わるもの)共を叩(たゝ)き散(ちら)し此衆(このしう)夫婦(ふうふ)を御助けなされ八五郎が家へ連て來り疵所(きずしよ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
根太(ねだ)も畳(たヽみ)も大方(おほかた)朽(く)ち落ちて、其上(そのうへ)に鼠(ねずみ)の毛を挘(むし)り散(ちら)した様(やう)な埃(ほこり)と、麹(かうじ)の様な黴(かび)とが積つて居る。落ち残つた根太(ねだ)の横木(よこぎ)を一つ跨(また)いだ時、無気味(ぶきみ)な菌(きのこ)の様(やう)なものを踏んだ。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
赤い山躑躅(やまつつじ)などの咲いた、その崖(がけ)の下には、迅(はや)い水の瀬が、ごろごろ転がっている石や岩に砕けて、水沫(しぶき)を散(ちら)しながら流れていた。危い丸木橋が両側の巌鼻(いわはな)に架渡(かけわた)されてあった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
其の前は常磐橋(ときわばし)御門から道三橋(どうさんばし)の近辺を柳町(やなぎまち)といって、又鎌倉河岸に十四五軒あって、麹町(こうじまち)にもあり、方々に散(ちら)ばって居たのを、今の吉原へ一纒(ひとまと)めにしたので、吉原というのは
暴風(ばうふう)四方の雪を吹散(ちら)して白日を覆(おほ)ひ、咫尺(しせき)を弁(べん)ぜず。
言(い)ひつくすべくもあらず、秋草(あきぐさ)の種々(くさ/″\)數(かぞ)ふべくもあらじかし。北八(きたはち)が此作(このさく)の如(ごと)きは、園内(ゑんない)に散(ちら)ばつたる石碑(せきひ)短册(たんじやく)の句(く)と一般(いつぱん)、難澁(なんじふ)千萬(せんばん)に存(ぞん)ずるなり。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)