くゝ)” の例文
はんねえでもくすりきいついてたのよ」勘次かんじはおつぎのいふのをむかへていた。かれの三尺帶じやくおびにはときもぎつとくゝつたかたまりがあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
何もさるの歳だからとて、視ざる聴かざる言はざるをたつとぶわけでは無いが、なうくゝればとが無しといふのはいにしへからの通り文句である。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
と云われ心細いから惣吉は帰って観音堂へ駈上かけあがって見ると情ないかな母親は、咽喉のど二巻ふたまき程丸ぐけでくゝられて、虚空を掴んで死んで居る。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
家へ廻つて来る若い男が、これから市場へ買ひ出しに行くのだと見えて、店先へ下ろした荷車の下へ這入つて、心棒へ何かをくゝりつけてゐた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
如何いかにせんと此時また忽然と鶴的鞍にひて歩みきたる見れば馬のくつを十足ほどの竹杖にくゝし付けて肩にしたり我馬士わがまご問ふて曰く鶴さん大層くつ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
立ち話をする奴か、往來の人へ合圖をする者があつたら、構はねえから邪魔をするんだ。時と場合ぢや引つくゝつても宜い
衣類をくるくると円めて、帯でひつくゝるなり、ぽんと手前にはふり出して、いきなりざぶざぶと河の中に入つて行つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
わしは女などと云ふものは、酒や煙草などと同じに、我々男子の事業の疲れを慰めるために存在して居る者に過ぎないとまで高をくゝつてゐたのです。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
彌次郎やじらう時代じだいにはゆめにも室氣枕くうきまくらことなどはおもふまい、と其處等そこいらみまはすと、また一人々々ひとり/\が、風船ふうせんあたまくゝつて、ふはり/\といてかたちもある。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とりわけやすい俸給で脚をくゝられてゐる下級吏員が苦しい。何故といつて、お役人といふ者は、腹が減つてもひもじう無い顔をしなければならないから。
こゝに彼、かの翁の心に從ひ、わが腰をくゝれるに、奇なる哉謙遜の草、彼えらびてこれを採るや 一三三—一三五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
なに二ヶ月や三ヶ月は、書物か衣類を売り払つてもうかなるとはらなかたかくゝつて落ちいてゐた。ことの落着次第ゆつくり職業をさがすと云ふ分別もあつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そんな處に我れはくゝられて、面白くもない仕事に追はれて、逢ひたい人には逢はれず、見たい土地はふみ難く、兀々こつ/\として月日を送らねばならぬかと思に
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こつちを溜池へぶち込む前に、そつちが山王のくゝり猿、御子供衆のお土産にならねえやうに覚悟をしなせえ。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
つかんで十兵衞が其の儘息はたえにけり長庵刀の血をぬぐひてさやに納め懷中くわいちう胴卷どうまきを取だし四十二兩はふくかみおとゝの身には死神しにがみおのれがどうにしつかりくゝり雨もやまぬにからかさ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
少女をとめは若き男の許嫁いひなづけよめなりしならん。顏ばせつやゝかに、目なざし涼しかりき。男をば木にくゝりたり。女は猶處子なりき。われはサヱルリ侯に扮することを得たり。
「何と云つてもまだあの青二才で」とたかくゝつて見てゐるらしく思はれた諸侯達を、就職のとつぱじめから度胆を抜いてくれようと思つてゐた若将軍の切支丹に対する処置の酷烈さと
「昔は五百石の御朱印ごしゆいんで」なぞと言つても、「乃公われの家の糊米のりまいだ」と京子の父は高をくゝつて道臣を見下げた。腹がめかけだといふので、長女には生れてゐても、京子は弟や妹ほど父に重んぜられなかつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ひく粟幹あはがら屋根やねからそのくゝりつけたかやしのにはえたみゝやつきゝとれるやうなさら/\とかすかになにかをちつけるやうなひゞきまない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
平次の指摘したのは飴色になつた篠竹しのだけに上下二ヶ所、明かに紐か何にかで、額にくゝつた跡が、印されてあるのでした。
書生が玄関へ出て、教へられた通りにさう言ふと坊さんはせなくゝりつけた編笠の紐でも解くやうな真似をして、その儘出て往つた。書生は鼻を鳴らして感じた。
一人ひとりつまなるべしつゐするほどの年輩ねんぱいにてこれは實法じつぱふちひさき丸髷まるまげをぞひける、みたるひとるよりやがて奧深おくふかとこかせて、くゝまくらつむりおちつかせけるが
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あめは本当につて来た。雨滴あまだれが樋にあつまつて、流れるおとがざあときこえた。代助は椅子から立ちがつた。まへにある百合のたばを取りげて、根元ねもとくゝつた濡藁ぬれわらむしつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
拿破里ナポリの夫人は心もとながりて、頻りに車窓を覗き、賊の來りて、行李をくゝり付けたるさくらんを恐るゝさまなり。われ等はわづかに前面に火光あるを認めて、互に相慶したり。
どか/\下りる奴らは忽ちに御用/\と造作もなく縛られましたが、多勢おおぜいですから一人ずつは縛られない、五六人ぐらいずつ首っ玉をくゝして、まるで酒屋の御用が空徳利あきどくりを縛るようで
間もなく根だけをくゝると、半ば髪を前にかぶつたまゝ、油手を拭いて封を切つた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
ことあたらしく今更に道十郎が後家に告口つげぐちなし此長庵がいのちちゞめさせたるは忝けないともうれしいともれい言盡いひつくされぬ故今はくゝられた身の自由じいうならねばいづ黄泉あのよからおのれも直に取殺し共に冥土めいどつれゆき禮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
くゝられてふくらんだ袖口からは気持のいゝ白い腕が露はれてゐた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
勘次かんじにはからぬすむやうにては卯平うへいがおつたへ威勢ゐせいをつけてるやうにおもつた。かれいてつてさらわらくゝつた蕎麥そばたばをどさりととほくへはふつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
吐かせるなり、次第によつては、くゝつて來やがれ。着物へ血でも附いて居たら、辯解いひわけさせるんぢやねえぞ
実をいふと、氏はその日川の容子ようすを見に出掛けたので、魚籠びくの用意だけはしてゐなかつた。で、兵児へこ帯を縦にいてうをあぎとくゝつて、その儘水におよがせておいた。
それは隨分ずいぶん不便利ふべんりにて不潔ふけつにて、東京とうけうよりかへりたる夏分なつぶんなどはまんのなりがたきこともあり、そんなところれはくゝられて、面白おもしろくもない仕事しごとはれて、ひたいひとにははれず
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あるなつ日盛ひざかりに、二人ふたりして、なが竿さをのさきへ菓子袋くわしぶくろくゝけて、おほきなかきしたせみりくらをしてゐるのを、宗助そうすけて、兼坊けんばうそんなにあたまらしけると霍亂くわくらんになるよ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
山羊は二頭づゝの列をなして洞より出で、山の上に登りゆけり。殿しんがりには一人の童子あり。尖りたる帽を紐もて結び、褐色かちいろの短き外套を纏ひ、足には汚れたるくつしたはきて、わらぢくゝり付けたり。
木綿の薄ッぺらな五布布団いつのぶとんが二つに折って敷いて有ります上に、勘藏は横になり、枕に坐布団をぐる/\巻いて、胴中どうなかから独楽こまの紐で縛って、くゝり枕の代りにして、寝衣ねまき単物ひとえものにぼろあわせを重ね
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
でも天網恢々てんまうくわい/\でも、何處かにくゝりがあつたのでせう、その晩、鍵屋の息子半次郎が、手代の伊與之助に刺し殺され、伊與之助は神妙に其場から自訴しました。
「お目に懸つたのは外でもありません。なにか一つ書いて戴きたくつて。」坊主は真田紐さなだひもくゝつた荷物のなかから、画箋紙のまるめたのを取り出して無雑作に前に置いた。
いま先方さきがたかど野をんでくゝまくらせて、午寐ひるねむさぼつた時は、あまりに溌溂たる宇宙の刺激に堪えなくなつたあたまを、出来できるならば、あをいろいた、ふかみづなかしづめたい位に思つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と残りの大金を懐中ふところくゝし附けまして
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「大變り、お篠の傳で、三尺で絞められてゐるんだ。今度は眞田紐ぢやねえが、水の中でふやけて居るから、瓢箪へうたんのやうにくゝれて居やがる。見られた圖ぢやあねエ」
どんなむつかしい事をひかけられるだらうと、胸をどきどきさせてゐた青年は、やつと安心したやうに綺麗にくしの目の立つた頭を二三度下げた。そして叮嚀に小包のくゝひもを切つて、紙包みをほどいた。
「いやわらか綿を卷いたんだ、多分、着物や褞袍どてらを何枚か卷いて——尖端さきの方だけで宜い、帶か紐でくゝつたことだらう、うけ合ひ首の骨は叩き折れるが、傷はつかない」
寺田氏は革の財布の口をしつかり紐でくゝつて自動車に乗込んだ。
「さうですか、——四の五の言へば、下手人の疑ひで引つくゝられるぞ、とでも脅かして見ませうか」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
前ぶれ通り、存分に野暮つたい四十五六の武家、羽織の紐を觀世縒くわんぜよりくゝつて、山の入つたはかま、折目高の羽織が、少し羊羹色やうかんいろになつてゐやうといふ、典型的な御用人です。
えツ、言はないかツ、人の命は大事だ。山師坊主に氣取られて、俺はひまを潰して居られないぞ。三つ股の兄哥、この道人を引つくゝつてくれ。寺社のお係りへ渡して、いわし
四ツ谷の與吉はすつかり興奮して、事と次第では、法印無道軒を引つくゝりさうにするのです。
岩鯛いはだひの眼をくと言ふ手練だ、——血染の紐が見付かつて、吉三郎の仕業だらうと大方の見當は付いたが、庖丁をくゝり付けた竹が見付かる迄、縛るわけには行かなかつたよ
犢鼻褌ふんどしの三つもくゝらうと思ひましたがね。相手が有難さうにして居るから、罰でも當つちや惡からうと、叔母さんが拵へてくれた肌守りの中に封じ込んで來ましたよ、この通り」
次の間付きの八疊、それは申分のないぜいを盡した寢間でした。絹行燈を部屋の隅に、青磁せいじ香爐かうろが、名香の餘薫よくんを殘して、ギヤーマンの水呑が、くゝり枕の側の盆に載せてあります。