まわ)” の例文
もなく、おんなのマリちゃんが、いまちょうど、台所だいどころで、まえって、沸立にえたったなべをかきまわしているおかあさんのそばへました。
僕ハ僕ノ嫉妬カラソンナ風ニ気ガまわルノカト思ッテ、ソノ考エヲ努メテ打チ消シテイタノデアルガ、ヤハリソウデハナサソウデアル。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし其処そこまで出ることは出られたが、数年前まで其処にごとごとと音立てながらまわっていた古い水車はもう跡方あとかたもなくなっていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ミハイル、アウエリヤヌイチは一人ひとりして元気げんきよく、あさからばんまでまちあそあるき、旧友きゅうゆうたずまわり、宿やどには数度すうどかえらぬがあったくらい
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
夏は我儕われらも家なンか厄介物を捨てゝしもうて、野に寝、山に寝、日本国中世界中乞食してまわりたい気も起る。夏は乞食の天国である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼はホテルの十日間を、何の屈託くったくもなく、腕白小僧わんぱくこぞうの様にほがらかに暮した。ホテルのボートを借りて湖水をまわるのが日課だった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とある夕ぐれのことであった、情知らぬ獄吏に導かれて村中引きまわしにされた上、この岡の上でいたましい処刑しおきにおうたということ。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
係員が小箒で真中へ集めにかかると、山川は蝶の鱗粉のように軽々と舞いあがり、一人一人の鼻の孔へ、丁寧に形見分けをしてまわった。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
すると、百姓は名残なごり惜しそうに、箱をガタガタ両手でゆすぶってみたり、箱の裏側へなんということもなしにまわってみたりする。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
したがってそのまわりには、わが地球同様の遊星が、これまた何百万、何千万と無数にあって、自分で太陽のまわりをまわっているのだ。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かの女はこんな出来上った美丈夫が、むす子の友達だなんて信じて好いのかと思った。むす子を片手でつかんで振りまわしそうにも思えた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は何のために古典の地をうろつきまわっているのか。秋晴れの斑鳩いかるがの里を歩みながら、ふと私はかような疑念にとらえられるのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「私? 私はね、そうね——裏二階がいいわ——まわえんで、加茂川がすこし見えて——三条から加茂川が見えても好いんでしょう」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
停車場ステーションで車をやとってうちへ急ぐ途中も、何だか気がいらって、何事も落着いて考えられなかったが、片々きれぎれの思想が頭の中で狂いまわる中でも
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ちょっとした石瓦いしかわらのような仏様の破片かけでもあると必ず右へしてまわって行く。それは決して悪い事ではない。これには因縁いんねんがあります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「葉子さんおはよう!」光子はわざと意地悪く葉子の前へ突立つったってお辞儀をした。そして「葉子さん、今日はまわり道をしていらしたのね」
先生の顔 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
此邊このへんまではるのだ。迂路うろつきまわるのですでに三以上いじやうあるいたにかゝはらず、一かう疲勞ひらうせぬ。此時このときすで打石斧だせきふ十四五ほん二人ふたりひろつてた。
ボタン一つ押し、ハンドルをまわすだけですむことを、一日中エイエイ苦労して、汗の結晶だの勤労のよろこびなどと、馬鹿げた話である。
堕落論〔続堕落論〕 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
地球の形を重力分布から出すのはまわり遠いようであるが、そのうまい点は、重力というものが非常に精密に測り得るところにある。
地球の円い話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
女は、ぐずぐずと迷うようにあたりを眺めながら、こんどは小刻みに小さなを描いて、未練げに道の同じ場所をゆっくりとまわっていた。
待っている女 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
それから、おどれといえばおどるし、すわれといえばすわるし、人形はいうとおりにうごまわるのです。甚兵衛はあきかえってしまいました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そのあいだ、頭のうちには、まあ、どんな物があったろう。夢のような何とも知れぬ苦痛の感じが、車の輪のまわるように、頭のなかに動いていた。
酔のまわった頭に、ものを考えるのが億劫おっくうになって来ると、結局落着く先は、いつもの「イグノラムス・イグノラビムス」である。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
プラットフォオムには給仕がパンや珈琲コオフィイを持って駈けまわっている。旅客の中には、ここで下車するものもある。人の呼び交す声がかまびすしい。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
いよい今夕こんせき、侯の御出立ごしゅったつまり、私共はその原書をなでくりまわし誠に親に暇乞いとまごいをするようにわかれおしんでかえしたことがございました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あなたが災難にあっているのに、何にもしてやれない自分がはがゆく、ぐるぐるデッキをまわり歩きました。黒い海だった。走る波でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
この時鍋の中のオートミルをまわしてはいけません。そのままそうっと湯煎にすると柔くなりますからそこで塩を加えて味をつけます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と、そこでかれの半信半疑はんしんはんぎが、やおら、うでぐみとなって、まじりまじりと落着おちつかない目で、小文治こぶんじと龍太郎の顔色を読みまわして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あちこちまわり枠なぞを倒し、紙の張りある板何枚かをひっくり返して、その一枚を画架に載せ、箪笥を引開け、チョオクの入れある箱を
青幇の金儲けの中で碼頭まわりというのがある。一寸仕事もなく暇ばかりで遊ぶのにも困るという時分に、揚子江ようすこう流域の碼頭遊歴と出かける。
そんな大木のあるのはけだ深山しんざんであろう、幽谷ゆうこくでなければならぬ。ことにこれは飛騨山ひだやまからまわして来たのであることを聞いて居た。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
持ち前で眉根まゆねをしかめていた。漠然と横目を流した掴みどころのない表情で、かんの立った馬の背に乗ってぐるぐるまわっていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そして、飲みなれぬ酒は中田の頭をすっかりまわしてしまったらしく、くびをかしげる度に頭の中で脳髄が、コトコトと転がるように感じた
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
どうして一緒にやらないのさ、野伏と一緒だからやきをまわしているのねと、すては密林がそよともしない山凪やまなぎの中でいった。
それから、ガンたちはすこしまわり道をして、一月ひとつきばかりたった十一月の八日に、いよいよヴェンメンヘーイに近づきました。
私はいつもこの夜警がまわって来ると家のなかへはいってしまうことにしていた。夜中おそく物干しへ出ている姿などを私は見られたくなかった。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
彼らはいずれも(たかがへぼ新聞記者が)といったような、お客を充分みくびった顔をしてよそよそしい世辞笑いをしながらおしゃくをしてまわった。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
まわれ/\水車みづぐるま小音こおんうたす、美登利みどり衆人おほく細螺きしやごあつめて、さあう一はじめからと、これはかほをもあからめざりき。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くちでそういわれても、勝手かってらないやみなかでは、手探てさぐりも容易よういでなく、まつろうやぶたたみうえを、小気味悪こきみわるまわった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それからまわりがまっさおになって、ぐるぐるまわり、とうとう達二は、ふかい草の中にたおれてしまいました。牛の白いぶちおわりにちらっと見えました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
看護婦の杉野さんは泣く。梅やはどたばた走りまわる。たいへんな騒ぎだった。兄さんは、知らぬ振りして勉強していた。僕は、気が気でなかった。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ではあちらでもなくこちらでもなく、好きなほうへ進ませようとすると、ただぐるぐると同じ水面をまわるだけで、どっちへも進まないのであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
別格を以て重く用いても好いといって、懇望せられたので、諸家をまわ草臥くたびれた五百は、この家に仕えることにめた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そうすると蒸気がはげしい勢で球にはいって、それから出口から噴き出るのにつれて、球はぐるぐるまわり出すのです。
ジェームズ・ワット (新字新仮名) / 石原純(著)
ふね停泊とゞまつてふねその船々ふね/″\甲板かんぱん模樣もやうや、檣上しやうじやうひるがへ旗章はたじるしや、また彼方かなた波止塲はとばから此方こなたへかけて奇妙きめうふう商舘しやうくわん屋根やねなどをながまわしつゝ
世間の氏上家うじのかみけ主人あるじは、大方もう、石城など築きまわして、大門小門をつなぐとった要害と、装飾とに、興味を失いかけて居るのに、何とした自分だ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
長閑のどかに一服吸うて線香の煙るように緩々ゆるゆると煙りをいだし、思わず知らず太息ためいきいて、多分は良人うちの手に入るであろうが憎いのっそりめがむこうへまわ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
僕等はすすきの穂を出した中を「悠々荘」のうしろへまわって見た。そこにはもう赤錆あかさびのふいた亜鉛葺とたんぶき納屋なや一棟ひとむねあった。
悠々荘 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのわずか五丁もの道の間には、火葬場かそうばや大根畑や、墓やすぎの森を突切つっきらない事には、大変なまわり道になるので、私達は引越しの代を倹約けんやくするためにも
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
さて、さむさは日々ひびにひどくなってました。子家鴨こあひるみずこおってしまわないようにと、しょっちゅう、そのうえおよまわっていなければなりませんでした。