かき)” の例文
先哲せんてついはく……君子くんしはあやふきにちかよらず、いや頬杖ほゝづゑむにかぎる。……かきはな、さみだれの、ふるのきにおとづれて……か。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
バラの花は低いかきの上にたれ下がって、すがすがしい、よいにおいを放っていました。ボダイジュの花も、いま、まっさかりでした。
猛獣におそわれては大へんだというので、洞穴の入口には、森から切って来た木でかきのようなものを造って、戸のかわりにしました。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
へびの話をしようかしら。その四、五日前の午後に、近所の子供たちが、お庭のかき竹藪たけやぶから、蛇の卵を十ばかり見つけて来たのである。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
町はずれの町長のうちでは、まだ門火かどびを燃していませんでした。その水松樹いちいかきかこまれた、くらにわさきにみんな這入はいって行きました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そして、このドイツ人と自分との間に遠慮のかきをいつまでも築いていて、その後ろに隠れようとしたけれど、そうはゆかなかった。
築けども築けども湧き水がかきの台を浮かした。県下の半鹹はんかん半淡はんたんの入江の洲岸に鼎造はうっかり場所を選定してしまったのであった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さいはひそのは十一時頃じごろからからりとれて、かきすゞめ小春日和こはるびよりになつた。宗助そうすけかへつたとき御米およねいつもよりえ/″\しい顏色かほいろをして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おもふに、ひとちれ演場しばゐ蕭然さみしくなるいとふゆゑなるべし。いづくにかいづる所あらんとたづねしに、此寺の四方かきをめぐらして出べきのひまなし。
ふと一等墓地の中に松桜を交え植えたる一画ひとしきり塋域はかしょの前にいたり、うなずきて立ち止まり、かきの小門のかんぬきうごかせば、手に従って開きつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
美しい色をした撫子なでしこばかりを、唐撫子からなでしこ大和やまと撫子もことに優秀なのを選んで、低く作ったかきに添えて植えてあるのが夕映ゆうばえに光って見えた。
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「兄弟などは親戚中でも、特に血の濃いものでござるが『兄弟かきにせめげども、外そのあなどりを防ぐ』と云って、真実仲よくしていますがな」
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたし所有あらゆるしらべました、堤防どてました、それからかきも』として、はとあいちやんにはかまはず、『けどへびは!だれでもきらひだ!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ぎたる紅葉もみぢにはさびしけれど、かき山茶花さゞんかをりしりかほにほひて、まつみどりのこまやかに、ひすゝまぬひとなきなりける。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
土佐とさ御流罪ごるざいの時などは、七条から鳥羽とばまでお輿こしの通るお道筋には、老若男女ろうにゃくなんにょかきをつくって皆泣いてお見送りいたしたほどでございました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
もう一つわすれてはいけないのは、オッテンビューの長いかきです。これは島をよこぎって、オッテンビューとほかの土地とのさかいになっています。
これは熱海あたみの海岸などによくある竹のかきいめぐらして、湯槽ゆぶねの中から垣ごしに三原山みはらやま噴煙ふんえんが見えようというようなオープンなものではなく
阿Qは早くも桑の樹にかじりつき土塀を跨いだ。人も大根も皆かきの外へころげ出した。狗は取残されて桑の樹に向って吠えた。尼は念仏をまおした。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
たちまちドキドキする陣刀は、伊那丸と龍太郎りゅうたろうのまわりにかきをつくって、身うごきすれば、五体ははちだぞ——といわんばかりなけんまくである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其は他の下級将校官舎の如く、板塀いたべいに囲われた見すぼらしい板葺いたぶきの家で、かきの内には柳が一本長々とえだれて居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かき一と重向うの、荒れて化物屋敷じみて来かかっていた洋館に、人が住むようになったことはえらい違いであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それらが密接なつながりでかきをつくり、師の芸を盗むどころか、師の芸は伝えられないものとしてあがめている。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
女の子は糸巻いとまきをだらけにするために、じぶんの指をつきさして、手をイバラのかきのなかにつっこみました。
私も偶然に助かったのだが、私が遭難したところかき一重隔てて隣家の二階にいた青年は即死しているのであった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
浜に上って当てもなしにみちをあるいて行くと、或る家の庭のすすきかきに、なくした釣縄が洗ってしてある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その車の入り口のいちばん端にいた浴衣がけの若者が、知らん顔をしてはいたが、片腕でしっかり壁板を突っぱって酔漢がころげ落ちないようにかきを作っていた。
軽井沢 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのかきも、惣七の朴訥ぼくとつな迫力のまえには、一たまりもなかった。そこには、ふたりの感情のほか、何もなかった。泣き叫ぶのと同時に、お高は、腰を上げていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
八つの時伯父に抱きあげられて黒山のような人のかきの頭越しにその刑場を見た時、十幾本かの十字架を遠巻きにいぶし立てているそのまきの火がその十字架に燃えうつり
騒ぎを聞いた近所の人が往来へかきを築いて、闇の中には物々しいささやきが微風のように動きます。
手振てぶりまでまじえての土平どへいうたは、つきひかりえるにつれて、いよいよ益々ますます面白おもしろく、子供こどもばかりか、ぐるりと周囲しゅういかきつくった大方おおかたは、とおりがかりの、大人おとな見物けんぶつで一ぱいであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いくすぢものくもが、どん/\とのぼつてゐる。そのあらはれてゐるくもめぐつてつくつた、幾重いくへかきのようなくもわたしつまなかれるために、幾重いくへものかきつくつてゐる、その幾重いくへものかきよ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
ただそこらのかき一面に咲ける卯の花は闇にも白く見ゆるにぞ、その中に少しばかり卯の花の絶えたる処こそ門ならめと推量したるなり。夜景綺麗きれいなれば素人の劇賞する句なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
黒雲空に流れてかしの実よりも大きなる雨ばらりばらりと降り出せば、得たりとますます暴るる夜叉、かきを引き捨てへいを蹴倒し、門をもこわし屋根をもめくり軒端のきばかわらを踏み砕き
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こちらにわなをかけ、あちらにかきを結び、もって他をおとしいれんとする、手配り広き悪口もある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
プールは今、ま昼のギラギラする光を浴びて、色さまざまの花籠はなかごのやうでしたが、黒いふんどしの子供たちは、だまつて人のかきをくぐり抜けると、おうちの方へ帰りはじめました。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
が——きに其處そこひと屋敷内やしきうちにでもなつて、かきからのぞこと出來できなくなるだらう。
美しい美しい山車だしが出ます。これを見物に沢山な人がみちの両側にかきをつくつてをります。
拾うた冠 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
付よと申わたされしに付役人は八方にまなこくばり諸所をたづねしに一かうれざりしが原田平左衞門と云市中しちう廻の同心どうしん或夜亥刻よつどきすぎ根津ねづの方よりかへかけいけはた來懸きかゝりしに誰やらん堀をこえかき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
五五ぬば玉の夜中よなかかたにやどる月は、五六鏡の山の峯にみて、五七八十やそみなと八十隈やそくまもなくておもしろ。五八沖津嶋山、五九竹生嶋ちくぶしま、波に六〇うつろふ六一あけかきこそおどろかるれ。
廃寺はこぼたれ、かきは破られ、墳墓は移され、残ったいしずえや欠けたつちくれが人をしてさながら古戦場を過ぐるの思いをいだかしめた時は、やがて国学者諸先輩の真意も見失われて行った時であった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
五、六寸先に、茶っぽい黄色に塗られた横木で固められてる黒い板戸のかきがあった。薄い長片をなしてるそれらの板戸はきっかり合わさっていて、格子の幅だけを全部おおい隠していた。
霧の深い間から木槿もくげの赤く白く見えるかきの間の道を、てくてくと出かけて行く。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
二重の上手につづける一間の家体は細工場さいくばにて、三方に古りたる蒲簾がますだれをおろせり。庭さきには秋草の花咲きたるかきに沿うて荒むしろを敷き、姉娘桂、二十歳。妹娘楓、十八歳。相対して紙砧かみぎぬた
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ちょうどの花の真っ白に咲いているかきの間に、小さい枝折戸しおりどのあるのをあけてはいって、権右衛門は芝生の上に突居ついいた。光尚が見て、「手を負ったな、一段骨折りであった」と声をかけた。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ゆい子は毎晩、夜具のまわりに砂のかきを作った。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かき越しの一中節いつちゆうぶしや冬の雨
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
あるじなき家ながらかきつくろへり
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
少し離れてかきしに
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
なつかきほの卯花うのはな鴇毛つきげ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
白菊かき
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)