一個ひとつ)” の例文
ちょうど真蔵が窓から見下みおろした時は土竈炭どがまずみたもとに入れ佐倉炭さくらを前掛に包んで左の手でおさえ、更に一個ひとつ取ろうとするところであったが
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
巾着の紐が指に引懸って横になるとパラ/\/\と中から金子かね散乱ちらばったから慌てゝお筆が之を隠し手拭を一筋ひとつに一朱銀を一個ひとつ出して
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この身動みじろぎに、七輪の慈姑くわいが転げて、コンと向うへ飛んだ。一個ひとつは、こげ目が紫立って、蛙の人魂ひとだまのように暗い土間に尾さえく。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくし元來ぐわんらい膝栗毛的ひざくりげてき旅行りよかうであるから、なに面倒めんだうはない、手提革包てさげかばん一個ひとつ船室キヤビンなか投込なげこんだまゝ春枝夫人等はるえふじんら船室キヤビンおとづれた。
風呂敷に包んだ玉菜一個ひとつを、お定は大事相に胸に抱いて、仍且やはり郷里くにの事を思ひながら主家に帰つた。勝手口から入ると、奥様が見えぬ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
例えば八百屋の如きも、赤茄子トマトを五つあつらえれば必ず二つ位は品の悪いのを混ぜて来る。今年の四五月頃は赤茄子一個ひとつが四十銭ほどもした。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こうして十六の年に簿記の夜学校を出ると、私は店の電話機の横に机を一個ひとつ貰って、各地から来る場況ばきょう出米でまいをきく役目を云いつかった。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたしためにそれをつてるのです』と帽子屋ばうしや説明せつめいのやうにしました、『自分じぶんもの一個ひとつちません。わたし帽子屋ばうしやですもの』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「じゃア、一しょにおいで!」といって、継母ままはは部屋へやへはいって、はこふた持上もちあげげながら、「さア自分じぶん一個ひとつりなさい。」
「だけど、うんと大きくして、油町へもってったって、こいつあ一個ひとつでも、とてもあまるって、あの人数でもうならせるほど大きくするんだ。」
そこには一個ひとつ棺桶かんおけが置いてあったが、その上に紙をって太い文字が書いてあった。それは「故奉化符州判女麗卿之棺こほうかふしゅうはんじょれいけいのひつぎ
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
レモンの様な味で一個ひとつの実に三四合はひつて居る。彼等は左の手を不潔な場合の手と定め、食事用の右の手を尊重して居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
つひに彼はこのくるしみを両親に訴へしにやあらん、一日あるひ母と娘とはにはかに身支度して、忙々いそがはしく車に乗りて出でぬ。彼等はちひさからぬ一個ひとつ旅鞄たびかばんを携へたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これも片田舎で出来る事ですが玉子一個ひとつの白身ばかりへ少しの砂糖を混ぜて、極く大きな湯呑ゆのみかあるいはコップの中へ入れて、茶筅ちゃせんかササラか五
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
一個ひとつは頼母が持っておる。お前を苦しめた松浦頼母が。もう一つは主税が持っておる、お前が愛している山岸主税が。……が、最後の一つはのう」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
渡し船にはここらによく見る機回はたまわりの車が二台、自転車が一個ひとつ蝙蝠傘こうもりがさが二個、商人らしい四十ぐらいの男はまぶしそうに夕日に手をかざしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ようも無きただ一個ひとつの空瓶の口なれば是がまでの手掛りにろうとは思わねど少しの手掛りをも見落さじとの熱心より之も念の為にとて拾い上げしなれ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
甚三郎もお角も呆気あっけに取られてそれを見ると、現われたのは狐でも狸でもなく、一個ひとつの人間の子供であります。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そうだろう。添役で百両いっそくなら、本役の当家は、やっぱり、五百という見当だ。そこを、扇箱一個ひとつなんて、間抜けめ! 吉良のやつ、今ごろかんかんだぞ。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一個ひとつから二個ふたつ、三個という順序に、矢つぎ早に打つのが得意でそれが敵をして一番恐怖こわがらせるのであった。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「ああ、ほしければ上げますよ。丁度ちょうど二輪咲いてるから、お前さんとあたしとで一個ひとつずつ分けようじゃアないか。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのときうみなか音楽おんがくひびいて、一個ひとつおおきなかめが波間なみまて、うみなか子供こどもむかえにきました。
海の少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
串戯じやうだんツちやいけぬとおもひながら『一個ひとつ千兩せんれうでもふよ』とわらふてこたへると、親分おやぶんがそれを打消うちけして。
大崎村の方から工事を進めて来た土方の一隊は長峰のもと隧道トンネルに平行して、さらに一個ひとつの隧道を穿うがとうとしている。ちょうどその隧道が半分ほど穿たれたころのことであった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「小式部さん、これを上げよう」と、初緑は金盥の一個ひとつを小式部がかたへ押しやり、一個ひとつに水を満々なみなみたたえて、「さア善さん、おつかいなさい。もうお湯がちっともないから、水ですよ」
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
其人そのひとだ三十さいらぬわかをとこで、頬骨ほゝぼねひろい、ちひさい、ブルネト、其祖先そのそせん外國人ぐわいこくじんつたかのやうにもえる、かれまちときは、ぜにつたら一もんもなく、ちひさいかばんたゞ一個ひとつ
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
奪取うばひとりたれば江戸は面倒めんだうなるべししかず此より上方に取てかへし中國より九州へわたらんにはとつひに四國に立越たちこえしが伊豫國なるふぢはらと云ふ山中に來り爰に一個ひとつ隱家かくれがを得て赤川大膳あかがはだいぜんと姓名をへんじ山賊を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
みんなは笑った。ハイカラは立って乃公おれの方へ歩いて来た。乃公は帽子が露見したのかと思って心配したら、左様そうではなかった。にこにこ笑いながら蟇口を出して、乃公に五十銭銀貨を一個ひとつくれた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
船で河から市川へ出るつもりだから、十七日の朝、小雨の降るのに、一切の持物をカバン一個ひとつにつめ込み民子とお増に送られて矢切の渡へ降りた。村の者の荷船に便乗する訣でもう船は来て居る。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
皆様みなさんお早う御座います」と挨拶するや、昨日きのうまで戸外そとに並べてあった炭俵が一個ひとつ見えないので「オヤ炭は何処どっかへ片附けたのですか」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
時に、そんなのが一個ひとつではない。左舷の処にも立っている。これも同じように、舷へ一方から欄干らしいものを嵌めた、かたり、と響く。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汁をる椀も惣菜の皿小鉢も大ぶりのが一個ひとつしか載せられてゐないのを見て、味噌汁は交る/″\一ツの椀から吸ふのではないかと思つた。
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
そこで小僧はエムプレス・チャイナの給仕服ユニフォームのまま生命辛々いのちからがら手提籠バスケット一個ひとつを抱えて税関の石垣の上でワイワイ泣いているのを
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
黒い山の背がやはり前方むこうの空を支えていた。暗い谷間たにあいの方へ眼をやった時、蛍火のような一個ひとつの微な微な光を見つけた。
殺神記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
甚「ナニ些とも驚くこたアねえやア、二十五座の衣裳でめん這入へえってるんだ、そりゃア大変に価値ねうちのある物で、一個ひとつでもって二百両ぐれえのがあるよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
をかくだつてみゝすますと、ひゞきんでも、しま西南せいなんあたつて一個ひとつ巨大おほきみさきがある、そのみさきえての彼方かなたらしい。
其故それゆゑあいちやんは其菓子そのくわし一個ひとつみました、ところがぐにちゞしたのをよろこぶまいことか、戸口とぐちからられるくらゐちひさくなるやいなうちからして
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
楼前の緑はやうやく暗く、遠近をちこちの水音えて、はや夕暮ゆふくるる山風の身にめば、先づ湯浴ゆあみなどせばやと、何気無く座敷に入りたる彼のまなこを、又一個ひとつ驚かす物こそあれ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その中央なかほどに、紙帳しちょうが釣ってあり、燈火ともしびが、紙帳の中に引き込まれてあるかして、紙帳は、内側から橙黄色だいだいいろに明るんで見え、一個ひとつの人影が、そのおもてに、朦朧もうろうと映っていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
奥様は葱とキヤベーヂを一個ひとつ買つて来いといふのであつたが、キヤベーヂとは何の事か解らぬ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ここは比較的に大きい岩が突出とっしゅつしていて、こけに包まれたる岩のおもて卓子テーブルのように扁平たいらであった。巡査は松明を片手に這い寄ると、穴の奥から不意に一個ひとつの石が飛んで来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この祖母おばあさん、江戸へ来て嫁入って、すぐ大火事にあって、救米のおむすびをもらった時、そばにいた者がお腹がすきすぎて、とうてい一個ひとつ握飯おむすびでは辛棒がなりかねるとなげくと
き心の起らぬものとては一個ひとつも無し、藻西太郎の妻倉子は此上も無き衣服なり蕩楽とか聞きたりかゝる町に貧く暮してはさぞかし欲き者のみ多かる可くすれば夫等それらの慾にいざなわれ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
乾漢こぶんらしいのが、大聲おほごゑで『一個ひとつ百兩ひやくれうにでもれるのなら、つてもい』とふ。
一個ひとつの抽匣から取り出したのは、一束ひとつかねずつ捻紙こよりからげた二束ふたつふみである。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
そのひとはまだ三十さいらぬわかおとこで、頬骨ほおぼねひろい、ちいさい、ブルネト、その祖先そせん外国人がいこくじんであったかのようにもえる、かれまちときは、ぜにったら一もんもなく、ちいさいかばんただ一個ひとつ
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
乃公おれは大きなパンを一個ひとつくれた。此にも唐辛が仕込んである。うまそうに喰べているから、もう一つやろうと思って、傍へ寄ると、象は恩を知らないから困る。突然いきなり乃公を鼻で捲いて投り出した。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
向うから歩いて来るのは僅かに一個ひとつだけの人影であります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
出し治助どん去月の幾日頃いくかごろだの治助中市と思ひました桃林寺たうりんじ門前の佐印さじるしか三間町の虎公とらこういづれ此兩人の中だと思はれますといへば十兵衞成程々々なるほど/\かうつと十日は治助どんは燒物やきもの獅子しし香爐かうろ新渡しんとさらが五枚松竹梅三幅對ふくつゐ掛物かけもの火入ひいれ一個ひとつ八寸菊蒔繪きくまきゑ重箱ぢうばこ無銘むめいこしらへ付脇差二尺五寸瓢箪へうたんすかしのつば目貫めぬきりようの丸は頭つのふち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
磯は少時しばら此店ここの前を迂路々々うろうろしていたが急に店の軒下に積である炭俵の一個ひとつをひょいと肩に乗て直ぐ横の田甫道たんぼみちそれて了った。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)