“一個:ひとつ” の例文
“一個:ひとつ”を含む作品の著者(上位)作品数
泉鏡花35
夢野久作8
国枝史郎6
国木田独歩6
三遊亭円朝5
“一個:ひとつ”を含む作品のジャンル比率
芸術・美術 > 演劇 > 大衆演芸9.7%
文学 > 中国文学 > 小説 物語2.8%
文学 > 日本文学 > 小説 物語2.2%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
一個ひとつから二個ふたつ、三個という順序に、矢つぎ早に打つのが得意でそれが敵をして一番恐怖こわがらせるのであった。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
もとより貫一が力のあたふべきにあらず、鴫沢隆三の身一個ひとつ引承ひきうけて万端の世話せしにるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
帰りがけに真鍮の指環いびがねをば一個ひとつ花魁から貰いましたが、その嬉しさというものは生れて初めてで御座いました。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
甚三郎もお角も呆気あっけに取られてそれを見ると、現われたのは狐でも狸でもなく、一個ひとつの人間の子供であります。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「お気の毒さま、これ丈け下さいな、」とお富は白銅一個ひとつを娘に渡すと、娘は麺包を古新聞に包んで戸の間から出した。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
一個ひとつの抽匣から取り出したのは、一束ひとつかねずつ捻紙こよりからげた二束ふたつふみである。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
そこでね、わたくしかんがへるには、いま一個ひとつ堅固けんご紀念塔きねんたふこしらへて
おおいなる桟敷の真中まんなか四辺あたりみまわして、ちいさき体一個ひとつまず突立つったてり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『そこで一個ひとつ妙案めうあんかんがしたのです。』とひながら、かうべめぐらし
二十人あまりの人影が、墨のように橋の上へかたまった時、一個ひとつの大きな黒い箱が船の中から持ち上げられた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
風呂敷に包んだ玉菜一個ひとつを、お定は大事相に胸に抱いて、仍且やはり郷里くにの事を思ひながら主家に帰つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やがて一個ひとつ、花白く葉の青き蓮華燈籠れんげどうろう、漂々として波にただよえるがごとくあらわる。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乾漢こぶんらしいのが、大聲おほごゑで『一個ひとつ百兩ひやくれうにでもれるのなら、つてもい』とふ。
「ああ、ほしければ上げますよ。丁度ちょうど二輪咲いてるから、お前さんとあたしとで一個ひとつずつ分けようじゃアないか。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小さき池は、舞台の真下になりたれば、あたかもしとて、興行はじむる時、大瓶おおがめ一個ひとつ俯向うつむけてうずめたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大崎村の方から工事を進めて来た土方の一隊は長峰のもと隧道トンネルに平行して、さらに一個ひとつの隧道を穿うがとうとしている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
郊外に隠棲している友人が或年の夏小包郵便に托して大きな西瓜を一個ひとつおくってくれたことがあった。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
敵より投げたる一個ひとつの石は宣戦の布告である。人間と𤢖とはここ戦闘たたかいを開かねばならぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「だけど、うんと大きくして、油町へもってったって、こいつあ一個ひとつでも、とてもあまるって、あの人数でもうならせるほど大きくするんだ。」
船で河から市川へ出るつもりだから、十七日の朝、小雨の降るのに、一切の持物をカバン一個ひとつにつめ込み民子とお増に送られて矢切の渡へ降りた。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
かんぬしが脂下やにさがったという体裁、しゃくの形の能代塗のしろぬりの箱を一個ひとつてのひらに据えて、ト上目づかいに差出した。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこには一個ひとつ棺桶かんおけが置いてあったが、その上に紙をって太い文字が書いてあった。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それから船橋ブリッジの前にブラ下げて在った浮袋ブイ一個ひとつ引っ抱えて上甲板へ馳け降りた。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一個ひとつは頼母が持っておる。お前を苦しめた松浦頼母が。もう一つは主税が持っておる、お前が愛している山岸主税が。……が、最後の一つはのう」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
にしろラクダルのえら證據しようこは『怠惰屋なまけや』といふ一個ひとつ屋號やがうつくつてしまつたのでも了解わか
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
——小一按摩のちびな形が、現に、夜泣松の枝の下へ、仮装の一個ひとつとしてあらわれている——
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうして子独楽の中の一個ひとつだけが、廻すとその面へ文字を現わすことをも彼女はよく解っていた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つぶやきながら、さすがに恐れて静まつた。が、暫時しばらくして一個ひとついやな声で、
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と叫んで、飛上ると、蜜柑みかん空箱からばこを見事に一個ひとつ、がた、がたんと引転覆ひっくりかえして、松小僧は帳場口へどんと退さがって、
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天窓あたままるちひさかたち一個ひとつつてしやがむでたが
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彫像てうざう一個ひとついて歩行あるくに持重もちおもりがしてるものか! ……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
奥様は葱とキヤベーヂを一個ひとつ買つて来いといふのであつたが、キヤベーヂとは何の事か解らぬ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
……片手に、あの、蒔絵まきえもののつつみを提げて、片手にちいさな盆を一個ひとつ
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時早し彼時遅し、たちまちに一個ひとつの切石が風を剪って飛んで来て、今や鉄砲を空に向けんとする井神の真向にはたあたったから堪らない
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こうして十六の年に簿記の夜学校を出ると、私は店の電話機の横に机を一個ひとつ貰って、各地から来る場況ばきょう出米でまいをきく役目を云いつかった。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『はツ、』とふと一個ひとつちやう石高道いしだかみち石磈いしころ一本竹いつぽんだけ踏掛ふみかけた真中まんなかのが
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一個ひとつの手ごろの四角い石と、十個の小さい円石とで、一人の乞食が変なことをしていた。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
皆、甜瓜まくわを二つに割って、印籠づくりの立上り霊妙に、そのと、ふたとが、すっと風を吸って、ぴたりと合って、むくりと一個ひとつ、瓜が据る。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこには一個ひとつの棺桶が置いてあったが、その上に紙を貼って太い文字を書いてあった。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この身動みじろぎに、七輪の慈姑くわいが転げて、コンと向うへ飛んだ。一個ひとつは、こげ目が紫立って、蛙の人魂ひとだまのように暗い土間に尾さえく。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぜにつたら一もんもなく、ちひさいかばんたゞ一個ひとつ
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ぜにったら一もんもなく、ちいさいかばんただ一個ひとつ
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一個ひとつ乳母ばあやさんに、お前さんから、夫人おくさんに云わんのだよ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
晃 この土地、この里——この琴弾谷が、一個ひとつの魔法つかいだと云うんだよ。——
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……おう、宰八か。おじい、在所へ帰るだら、これさ一個ひとつ産神様うぶすなさまへ届けてくんな。ちょうどはい、その荷車はさいわいだ、と言わっしゃる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この仮面めん一個ひとつが中心となって、芸術本位の親父おやじや、虚栄心に富んだ近代式の娘などが作り出される事になったので……狂言の種を明せばそれだけです。
其故それゆゑあいちやんは其菓子そのくわし一個ひとつみました、ところがぐにちゞしたのをよろこぶまいことか
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「そうだろう。添役で百両いっそくなら、本役の当家は、やっぱり、五百という見当だ。そこを、扇箱一個ひとつなんて、間抜けめ! 吉良のやつ、今ごろかんかんだぞ。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
皆様みなさんお早う御座います」と挨拶するや、昨日きのうまで戸外そとに並べてあった炭俵が一個ひとつ見えないので「オヤ炭は何処どっかへ片附けたのですか」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
沢は薄汚うすよごれた、ただそれ一個ひとつの荷物の、小さな提革鞄さげかばんじっながら、あおなりで、さし俯向うつむいたのである。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あはれ、殊勝な法師や、捨身しゃしん水行すいぎょうしゅすると思へば、あし折伏おれふ枯草かれくさの中にかご一個ひとつ差置さしおいた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
葉末はずえを飛ぶかとあやまたるゝが、一個ひとつも姿は見えなかつたが、やがて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
甚「ナニ些とも驚くこたアねえやア、二十五座の衣裳でめん這入へえってるんだ、そりゃア大変に価値ねうちのある物で、一個ひとつでもって二百両ぐれえのがあるよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
無慙むざんや、行燈の前に、仰向あおむけに、一個ひとつつむりを、一個ひとつ白脛しらはぎを取って、宙に釣ると、わがねの緩んだ扱帯しごきが抜けて
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
指先ゆびさす方を見ると十町ばかり向うの山の麓に一個ひとつの洞穴がある。
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
渡し船にはここらによく見る機回はたまわりの車が二台、自転車が一個ひとつ蝙蝠傘こうもりがさが二個、商人らしい四十ぐらいの男はまぶしそうに夕日に手をかざしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
磯は少時しばら此店ここの前を迂路々々うろうろしていたが急に店の軒下に積である炭俵の一個ひとつをひょいと肩に乗て直ぐ横の田甫道たんぼみちそれて了った。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と言ってひるがえって向うへ廻って、一個ひとつの煙草入を照らして見せ、
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妹娘いもうとむすめもその声に驚き、二人肩と肩とを並べて見ていると、今しも打ち寄せる波にもまれて、足許にコロコロと転んできたのは、一個ひとつの真黒なビールの空瓶だ。
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
あすこに並べてあっただけは、一個ひとつも残らず焼失したことのおしさを
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
串戯じやうだんツちやいけぬとおもひながら『一個ひとつ千兩せんれうでもふよ』とわらふてこたへると、親分おやぶんがそれを打消うちけして。
「だっておい四たび素帰すがえりをしたぜ、串戯じょうだんじゃあない。ほんとうに中洲なかずからお運び遊ばすんじゃあ、間に橋一個ひとつ、お大抵ではございませんよ。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分はけ寄って拾いあげて見るとなかに百円束が一個ひとつ
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それからその仏壇の奥の赤い金襴きんらん帷帳とばりを引き開いてみると、茶褐色に古ぼけた人間の頭蓋骨が一個ひとつ出て来たので皆……ワア……と云って後退あとしざりした。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「じゃア、一しょにおいで!」といって、継母ままはは部屋へやへはいって、はこふた持上もちあげげながら、「さア自分じぶん一個ひとつりなさい。」
米と塩とは貯えたり。かけひの水はいと清ければ、たとい木の実一個ひとつ獲ずもあれ、摩耶も予も餓うることなかるべく、甘きものも酢きものもかれはたえて欲しからずという。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
原を横ぎる時、自分は一個ひとつ手提革包てさげかばんを拾った。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
枕は袖の下に一個ひとつ見えたが、絹の四布蒲団よのぶとん真中まんなかへ敷いた上に、掛けるものの用意はなく、また寝るつもりもなかったらしい——貴婦人の膝に突伏つっぷして
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼等はちひさからぬ一個ひとつ旅鞄たびかばんを携へたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
向うから歩いて来るのは僅かに一個ひとつだけの人影であります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うございますか、その一対の小さなお膳を、お夏さんが自分の前に置いて、もう一個ひとつの方を向うへならべて、差向いというなりで居なすったが、前には誰も見えなかったんです。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのときうみなか音楽おんがくひびいて、一個ひとつおおきなかめが波間なみまて、うみなか子供こどもむかえにきました。
海の少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
銅貨どうくわ一個ひとつ、ひよい、とそらげて
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
レモンの様な味で一個ひとつの実に三四合はひつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
微妙な単純な斑紋を持った、一個ひとつの蝶の模様である。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もん左側ひだりがはに、井戸ゐど一個ひとつ
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
閑話休題それはとにかく母子ふたり其處等そこらあるくと、いまつた、のお帳場ちやうばが、はしむかうの横町よこちやう一個ひとつあつた。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かくも犬と云う一個ひとつの捕え所を見出したれば之をもとにして此後の相談を固めんものと余等二人は近辺の料理屋に入たるが二人とも朝からの奔走に随分腹もきし事なれば肉刺
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
丁度ちやうど一個ひとつ一片ひとかけづゝ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
新しい石英質の砂の平地に、ザックとばかり打ち込んで別の穴を掘り初めたが、そのうちに大きな魚の脊椎骨を一個ひとつ掘り出すと、又急に元気付いて、前に倍した勢いで鍬をふるい続けるのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と姥は見返る。捧げた心か、葦簀よしずに挟んで、常夏とこなつの花のあるがもとに、日影涼しい手桶が一個ひとつ、輪の上に、——大方その時以来であろう——注連しめを張ったが、まだ新しい。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大概の物はみんな鞄へ納れて此の旅亭やどやへ預けて置きましたから何も有りません、岡村由兵衞の枕元へ参って見ると煙草入が一個ひとつ有りました、これをも盗んでわが腰へ差そうとする途端に
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その一個ひとつを取って、ハタと叩きつけると、床に粉々になるのを見向きもしないで、躍上るように勢込んで寝台ねだいに上って、むずと高胡坐たかあぐらを組んだと思うと、廊下の方をきっと見て、
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一體いつたいみづふものは、一雫ひとしづくなかにも河童かつぱ一個ひとつむとくにりますくらゐ、氣心きごころれないものです。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一日あるひ、その母親の手から、むすめが、お前さんに、と云って、縮緬ちりめん寄切よせぎれこしらえた、迷子札まいごふだにつける腰巾着こしぎんちゃく一個ひとつくれたんです。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこには必ず一個ひとつの言いわけあるものなり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
陽のあたっている窓の枠を、黄金色きんいろの額縁とすれば、窓の内部の闇は、黒一色に塗りつぶされた背景であり、そういう額の面に、男の首級くび一個ひとつが、生白く描かれているといってよかった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一個ひとつぎって食う事も出来ぬが、大層なって熟しているけれども、真桑瓜を黙って持って行くはよろしくないというが、一寸此処こゝで食うぐらいの事は何も野暴のあらしでもないからよかろう
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いやか、爺婆じじばばるから。……そうだろう。あんな奴は、今におれがたたき殺してやろう、と恐ろしく意気込んで、飛上って、高いえだの桃の実をひんもぎって一個ひとつくれたんだ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
季和は別に懐に一個ひとつの餅を持っていた。
蕎麦餅 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
——一個ひとつてのひらにのせました。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
路は小さな峰の上へ往った。路の上へ出ると元振はちょっと馬を控えた。黒い山の背がやはり前方むこうの空を支えていた。暗い谷間たにあいの方へ眼をやった時、蛍火のような一個ひとつの微な微な光を見つけた。
殺神記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
またかれは一個ひとつの『悲惨』である。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「イヤ待て、腕環は一個ひとつで、娘は三人、誰に贈るのか分らぬ、何か書付でも入って居るだろう」と、猶およく箱の中を調べて見ると、果して玉村侯爵自筆の短い書面が出た、伯爵は手に取って夫れを読み下せば——
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
其の頃の百両と申す金は当節の千両にも向う大金で、如何に念入でも一個ひとつの仏壇の細工料が百両とは余り法外でございますから、助七はびっくりして、なんにも云わず、暫く長二の顔を見詰めて居りました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しっ、」と押えながら、島野紳士のセル地の洋服のひじを取って、——奥を明け広げた夏座敷の灯が漏れて、軒端のきばには何の虫か一個ひとつうなりを立ててはたと打着ぶつかってはまた羽音を響かす
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頭蓋骨らしいものが一個ひとつ出た。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
前に青竹のらち結廻ゆいまわして、その筵の上に、大形の古革鞄ただ一個ひとつ……みまわしてもながめても、雨上あまあがりの湿気しけつちへ、わらちらばったほかに何にも無い。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小さな銀貨を一個ひとつにぎらせると、両手で、頭の上へ押頂いて、(沢山に難有ありがと、難有、難有、)と懐中ふところあご突込つッこんで礼をするのが、何となく、ものの可哀あわれが身に染みた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
根津仏町勘解由店かげゆだな刑部おさかべ屋敷の露地口で、京助という手代から、一個ひとつの品物を奪い取って以来、碩寿翁は蠱物まじものにでもかれたかのように、心が絶えず動揺し、心が恐怖に襲われた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)