おち)” の例文
踊りがうまいわけでも何でもありませんが、ひどく巧妙に要領を掴んで、さんざん潮吹に踊らせた上、毎度おちをさらって行くのです。
可笑をかしき可憐あはれなる事可怖おそろしき事種々しゆ/″\さま/″\ふでつくしがたし。やう/\東雲しのゝめころいたりて、水もおちたりとて諸人しよにん安堵あんどのおもひをなしぬ。
懐の雪踏がすべっておちると、間の悪い時には悪いもので、の喧嘩でも吹掛ふっかけて、此の勘定を持たせようと思っている悪浪人わるろうにんの一人が
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
という噂が、だんだん確からしさを帯びて来て、住民達の憂欝ゆううつと、焦燥と、自棄の中に街全体をおちつきのない騒然たるものにしていた。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
窓外の地上におちっていたガラスの破片にさえ一つの指紋もなかった。この一事いちじもってしても、賊が並大抵の奴でないことが分るのだ。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
取り出し是は一昨日お前樣の歸りしあとおちてありししなゆゑ何心なくひろひしが不斗ふと此場の役に立つ傳吉殿讀給よみたまへと差出すを傳吉取上とりあげ讀下よみくだすに
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おちつけずや母樣はゝさまにはねがはんとてはなたまはず夫樣おくさままたくれ/″\のおほせにそのまゝの御奉公ごほうこう都會みやこなれぬとてなにごとも不束ふつゝかなるを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その中を祖父がおちぶれて乞食していた時の気持になったり、親父おやじが泳ぎ渡った大川の光景を、同じ思いをして泳ぎ渡ったりする。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こんな時むやみと歩かうものなら、溜桶ためおけの中へでもはまり込むのがおちです。口々にお題目など唱へながら小屋の中で時をすごしてゐました。
狐に化された話 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
此大きな無遠慮な吾儘坊わがままぼっちゃんのお客様の為に、主婦は懐炉かいろを入れてやった。大分だいぶおちついたと云う。おそくなって風呂がいた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
げ、ばうり、ステツキはしなどして、わあわつとこゑげたが、うちに、一人ひとりくさおちをんな片腕かたうでたものがある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
存命していても二葉亭はやはりとつおいつ千思万考しつつ出遅れて、可惜あったら多年一剣を磨した千載せんざいの好機を逸してしまうがおちであるかも解らん。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
いずれはどこかの汐路の果で船を壊され、魚の餌食になってしまうのがおち。助からぬと思えばこそ、こうも泣く。これが泣かずにいられようか
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「雨だね、おちついて好いだろう、ゆっくりやって、今晩は久しぶりに、いっしょに寝よう、すぐ近くに寝る処があるからね」
雨夜続志 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
御小刀おこがたなの跡におう梅桜、花弁はなびら一片ひとひらかかせじと大事にして、昼は御恩賜おんめぐみかしらしかざせば我為わがための玉の冠、かりそめの立居たちいにもつけおちるをいと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
うしろたけはやしはべつたりと俛首うなだれた。ふゆのやうにさら/\といさぎよおちやうはしないで、うるほひをつたゆきたけこずゑをぎつとつかんではなすまいとしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
最初は二枚おちだつたが、飛車落までに指し込んだ。それから東京へ来た。大正八年頃から、湯島天神下の会所へ通つた。
将棋 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ほかの連中は、悪いおちだと思ったらしい。中には、「へん、いやにおひゃらかしやがる。」なんて云った人もある。船着だから、人気にんきが荒いんだ。
片恋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
こんないくじのないもの幾分いくぶんこころおちつきがたようにおもわれるのは、たしかにあのうみ修行場しゅぎょうばで一生涯しょうがいのおさらいをしたおかげであるとぞんじます。
その音の卑しく、其響の険なるは、幾多世上の趣味家を泣かすに足る者あるべし。紳士の風儀久しくおちて、之を救済するの道未だ開けず。かなしいかな。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
冬にも春にも日頃いつでも聞く街の声は一時に近く遠く聞え出したが、する程もなく、再び耳元近くブリキの樋に屋根から伝はつておち雨滴あまだれの響が起る。
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
倒れた下は梯子段ゆえドシン/\と頭からせなから腰のあたりを強く叩きながら頭が先になって転げおちる、落た下に丁度丸い物があったから其上へヅシンと頭を突く
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ところがその夜、岸嶽きしだけの鶏が宵鳴きをしたので、松浦の使者は早く出発し、隣りの領の白野しらのなたおちという所に来て、始めて伊万里の使者に行き逢いました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
陳列所ちんれつじよ雨垂あまだおち積重つみかさねてある打製石斧だせいせきふは、かぞへてはぬが、謙遜けんそんして六七千るとはう。精密せいみつ計算けいさんしたら、あるひは一まんちかいかもれぬ。
青木氏が東京に居られなくなつて浴衣ゆかた一枚で九州おちをした事がある、その折門司もじか何処かで自分が子供の時の先生が土地ところの小学校長をしてゐるのを思ひ出した。
おちつけ、落つけ——とか、こんなときアセってはならぬぞ——とか、そんな文句を「日記」のいたるところに書き散らし、心の底でも必死に叫んでいるのであるが
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
女同志は御互にしつくりとは結びつかない話を喋り合つて居たが、結局は三田の身の上におちて行つた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
何でも穴の向うは、がっくりおちか、それでなくても、よほど勾配こうばいの急な坂に違ないと見当けんとうをつけた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すこし広き所に入りてみれば壁おちかかり障子はやぶれ畳はきれ雨もるばかりなれども、机に千文ちふみ八百やおふみうづたかくのせて人丸ひとまろ御像みぞうなどもあやしき厨子ずしに入りてあり
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
なんじらの穀物こくもつかるときには汝等なんじらその田野たはた隅々すみずみまでをことごとかるべからずまたなんじ穀物こくもつ遺穂おちぼひろうべからずまたなんじ菓樹園くだものばたけくだもの取尽とりつくすべからずまたなんじ菓樹園くだものばたけおちたるくだもの
聖家族 (新字新仮名) / 小山清(著)
赤土の道では油断をすると足をすくわれて一、二回滑りおち巌石がんせきの道ではつまづいて生爪を剥がす者などもある。その上、あぶの押寄せる事はなはだしく、手や首筋を刺されて閉口閉口。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
持て居ると歸るまでにまた何ぞやつて一文なしにして又親父にどやされるがおちだからみんな馬の沓を買てしまつたホラよと是を親父の前へ出せば睨まれる事はないワと此答へを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
さて仕組に掛かつて、天一坊はお三婆殺しと横田川巡礼殺しとを出し、地雷也は妙高山と地獄谷とを出し、それにお軽勘平の道行を出して、此道行におちを附けることにした。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
踊りながら、猿股のひもを引くと、猿股は波を辷る漁船かなにかのやうに、冷たい触感でおち、まつたくの素裸となつた。腹部のあたりに、白々とした寒い風がまとはりついた。
泥鰌 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
屋根よりおちて骨を挫きし時医師に行かずして祈祷にたよるは愚なり、不信仰なり、神は熱病をいやさんがために「キナイン」剤を我らに与え賜えり、人これあるを知てこれを用いざるは罪なり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
であるから學校がくかう歸途かへりみちには大勢おほぜいそのくづおちかべいのぼつてワイ/\とさわぐ、つやら、はやすやら、はなはだしきは蜜柑みかんかはげつけなどして揄揶からかうのである。けれどもなん效果きゝめもない。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
その男はさっと眼のくらむような強い電灯の光を二人の少女にあびせかけて、長い間彼女たちの蒼白い顔を眺めていたが、実に悠々とおちつき払って、帽子をかぶり、紙切かみきれと二本の藁くずとを拾い
なんでえ西洋曲馬チャリネの道化みてえに、あんな身なりをしておちを取りやがら。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
わざと綿貫誘い出しておちしようか思てる、その時は何処い逃げるいうこと前に私にせとくさかい、新聞に出されたりしてえらいことになった時分に、もうええ頃や思たらつかまえに来てほし
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
多量の万年雪にことごとく其岩屑を運び去られた柱や壁や屋根は、偃松はいまつ其他の高山植物が青苔の蒸したように生えて、四近に溢るるくろい色は、この大伽藍に何ともいえぬおちついた重みのある感じを与える。
越中劒岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
全く水におちて死んだので、その日死体があがったと言います。
人魂火 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
永遠に——種おちて花咲き実地上の人間の社会にあるを。
未婚婦人 (新字新仮名) / 今野大力(著)
おちつきかへつた太陽がまんまるく、ひらべつたく
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おちる葉は地へも溝へも屋根へでも
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
そのまゝにころびおちたる舛落ますおとし 来
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
『悪魔の言うことなんぞ聴いちゃ駄目でさ。碌なことにはなりませんぜ。罠に陥るがおちでさ。今はお金が欲しいと仰しゃる。だがもう少しして御覧なせえ、今度は何か別の物が欲しくなりまさ。そうなったらりがねえ。仕合せになりたいんなら』
追放されて (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
曙の神矢かんやおちちて
しやうりの歌 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
気丈な母ですから、懐剣を抜いてあふおちる血をぬぐって、ホッ/\とつく息も絶え/″\になり、面色めんしょく土気色に変じ、息を絶つばかり
合せしからは浮々うか/\江戸におち付ては居るまじ翌日あすくらきより起出おきいでて其の方は品川の方より段々だん/\に尋ぬべし我は千ぢゆ板橋いたばしなど出口々々を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)