きそ)” の例文
怪盜風太郎が江戸を荒し始めてからザツト三月、江中の岡つ引が、腕によりを掛けてきそひましたが、何としても捉まへることが出來ません。
そこでみんなはきそって朝早くから出かけては井戸の水をかけた。あるものは学校がひけてから、夕方に今一度来て水をやるものもあった。
やがての、仁和寺にんなじ行幸みゆきには、心ゆくばかり、きそうて、春の口惜しさをそそぎ、かたがたとともに、かいを叫びたいと存ずる。
都會とくわいの土地は殊更ことさら繁昌はんじやうきそふ大江戸の中にも目貫めぬきは本町通り土一升に金一升といふにたがはぬ商家の櫛比しつぴ土庫ぬりこめたかく建連ね何れもおろか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
然し、和尚の顔色も、病者の悪化にきそい立って、日に日に光沢こうたくを失い、そのたくましげな全身に、なんとなく衰えの気が漂った。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その時に、公家や民家から奪い取って来た美しい女たちを、山賊がきそってもてあそびました。そうして、この滝壺で汚物を洗わせたということです。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かのいはほの頭上にそびゆるあたりに到れば、谿たに急に激折して、水これが為に鼓怒こどし、咆哮ほうこうし、噴薄激盪げきとうして、奔馬ほんばの乱れきそふが如し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
むかし、いくたりの青年が、この人にきそい負けてわたしのまわりから姿を消したことであろう。おもえば相当に、罪をにのうてるこの人である。
愛よ愛 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
涼しい水音をしのばせる売り声をきそう後からだらりと白く乾いた舌を垂らして犬がさも肉体を持て余したようについて行く。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
畑では麦が日に/\照って、周囲あたりくらい緑にきそう。春蝉はるぜみく。剖葦よしきりが鳴く。かわずが鳴く。青い風が吹く。夕方は月見草つきみそうが庭一ぱいに咲いてかおる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
瓦斯燈がすとうがほんのりともれて、あしらつた一本ひともと青柳あをやぎが、すそいて、姿すがたきそつてて、うただいしてあつたのをおぼえてる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
群衆はきそうてその側に集まる。紅提燈べにぢょうちんに灯がともる。空は灰色からだんだん暗黒になってゆく。それから都踊りを見た。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
フラア・トムマーゾの燃ゆるまこととそのふさはしきことばとは我を動かしてかく大いなる武士ものゝふきそめしめ 一四二—一四四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あたかもかっかと燃えている炉火の軽躁さとうつろいやすさとに自分の荘重さと寿命の永さとをきそわせるかのように
貴人の食膳しょくぜんにはインド料理、ペルシア料理、ローマ料理の類までも珍重せられる。士女はみなきそうて西方の(恐らく準ギリシア風の)衣服をつけた。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
紳士は、大抵フロックコートか、五つ紋の紋付であったが、婦人達は今日を晴と銘々きらびやかな盛装をきそっていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
是れは神の前に耻づべきことです、万国は互にきそうて滅亡に急ぎつゝあるです、私共は彼等を呼び留めますまい、むし退しりぞいて新しき王国のいしずゑを据ゑませう
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
一四三頼朝よりとも東風とうふうきそひおこり、一四四義仲よしなか北雪ほくせつをはらうて出づるに及び、平氏の一門ことごとく西の海にただよひ、つひに讃岐の海志戸一四五八嶋にいたりて
最早もはや煩縟くた/″\しくいふにおよばぬ、この不思議ふしぎなる海底戰鬪艇かいていせんとうていは、今日こんにち世界せかい萬國ばんこく海軍社會かいぐんしやくわいおいて、たがひその改良かいりよう進歩しんぽとをきそひつゝある海底潜行艇かいていせんかうてい一種いつしゆである。
それもただの一本ならですが、船のものがそうがかりで、ひらひらする光を投げきそう光景は想像しても凄艶せいえんです。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのいきおいは、さながら、あきになってひよどりのくる、あのたかおおきなかしのたかさをきそい、さらに大空おおぞらかぶしろくもらえようとしているのでした。
へちまの水 (新字新仮名) / 小川未明(著)
此の歌などは、万葉としては後期に属するのだが、聖武しょうむ盛世せいせいにあって、歌人等もきそつとめたために、人麿調の復活ともなり、かかる歌も作らるるに至った。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
当時決死けっしの士を糾合きゅうごうして北海の一隅いちぐうに苦戦を戦い、北風きそわずしてついに降参こうさんしたるは是非ぜひなき次第しだいなれども、脱走だっそうの諸士は最初より氏を首領しゅりょうとしてこれをたの
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
宮子は? 彼女の周囲では外人たちがきそって宮子の嗜好を研究し、伸縮自在な彼女の視線の流れを追い求め、彼女と踊る敵の度数を暗黙の中に数え合い、そうして
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
毎日新聞社は南風きそわずして城を明渡さなくてはならなくなっても安い月給を甘んじて悪銭苦闘を
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
かゝれ/\と刀柄つかをたゝけば、応と意気込む覚えの面々、人甲斐ひとがいも無き旅僧たびそう一人。何程の事やあらむとあなどりつゝ、雪影うつらふ氷のやいばを、抜きれ抜き連れきそひかゝる。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
つやつゝみのしらべ、三味さみ音色ねいろことかゝぬ塲處ばしよも、まつりは別物べつものとりいちけては一ねんにぎはひぞかし、三島みしまさま小野照をのてるさま、お隣社となりづからけまじのきそこゝろをかしく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今の勤めは戦場で武勇をきそいますよりも幾層倍の苦しみの上に、智慧ちえ分別ふんべつとがのうてはかないませぬけれども、それもこれも主君のおんため、天下のためと存じまして
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は、燃え擴がつてゆく廊下ときそひ、彼のはうに熱くなつて倒れてくる扉をくぐり拔け、彼を焦がさうとする階段をぎり、漸くにしてその狂ひに狂へる建物から逃れ出た。
水はなゝめに巨巖の上を幾段にも錯落離合してほとばしり下るので、白龍きそひ下るなどと古風の形容をして喜ぶ人もあるのだが、この瀧の佳い處はたゞ瀧の末のところに安坐して
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
光代光代、と呼び立てられて心ならずも光代は前に出づれば、あの今日はな、と善平はきそい立ちて、奥村様はじめ大事のお客であるから、お前にもしゃくに出てもらわねばならぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
駕籠かごはいま、秋元但馬守あきもとたじまのかみ練塀ねりべい沿って、はすはなけんきそった不忍池畔しのばずちはんへと差掛さしかかっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
したがってややその分量の多きをきそうの嫌いも無かったとは言えまいが、その間接の効果としては観察の意義、比較の価値、さらに進んでは物に適切なる名を附与する言語の力
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この間から、全国諸侯の使者が、くびすを接してこの林念寺前の柳生の上屋敷をおとずれ、異口同音に、日光御修営に参加させてくれとたのんでは、きそって高価な進物を置いてゆく。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ほつほつと咲きほころび(紅梅は咲いていなかった)つつましくえんきそい、まことに物静かな、仙境とはかくの如きかと、あなた、こなた、夢に夢みるような思いにてさまよい歩き
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
春の水の上に何艘かのボートが殆んど沈むかと思うようにへさきを水に突込んで、速力をきそって漕いでおる、その一つ一つのボートに在る旗が、いろいろ違った色をしているのであるが
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
だから紅鱗こうりんひとみきそい、瞳孔どうこうひとこれを見ずという悲しい詩があるくらいだわ、おじさま、そんなに尾っぽをいじくっちゃだめ、いたいわよ、尾っぽはね、根元のほうから先の方に向けて
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
春先のたけのこのようなこの勢は自分の生きたいと思う方へ捨吉の心をきそい立たせた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これもとより儂が希望目的にして、女権拡張し男女同等の地位に至れば、三千七百万の同胞姉妹皆きそいて国政に参し、決して国の危急を余所よそに見るなく、おのれのために設けたる弊制悪法を除去し
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
薺をたたくのは「唐土の鳥が日本の国へ渡らぬ先に」だから、どこでも早きをきそう中に、これは昼過になってたたいて見たといって澄している。あるいは昼頃になって起出す我党の士かも知れぬ。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
なし薄暮風収まる時きそって炊烟すいえん棚曳たなびかすさままさ江南沢国こうなんたくこくの趣をなす。
その上又珍らしいことは小町園こまちゑんの庭の池に菖蒲しやうぶはすと咲ききそつてゐる。
はや庭をめぐりてきそひおつる樹々のしづくの
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
と、声をからし、きそって呼びこみをする。
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
華奢くわしやにほひをきそひげに
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そのほか、鍛冶かじ石工いしく、左官、錺師かざりし経師きょうじなどにいたるまで、天下の工人の代表的な親方はみな腕のきそいどころと一門をすぐって来ていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵助の足どりが尋常である如く、七兵衛も決して、それとはやきをきそおうとはしない。ゆっくりゆっくりと兵助に追従して行くまでのことです。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
校友の控所にてられたる階上の一室には、盛装せる丸髷まるまげ束髪そくはつのいろ/\居並びて、立てこめられたる空気の、きぬの香にかをりて百花咲ききそふ春ともいふべかりける
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あゝ、したじめよ、おびよ、えてまたひかかげむなり。きみはだたしかゆき。ソロモンと榮華えいぐわきそへりとか、白百合しらゆりはなづべきかないなはぢらへるは夫人ふじんなり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かように化物共がわれもわれもとてらしんきそって、ついにはつばめの尾にかたどった畸形きけいまで出現したが、退いてその由来を案ずると、何も無理矢理に、出鱈目でたらめに、偶然に
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)