硝子戸がらすど)” の例文
主税は窓から立直る時、向うの隅に、婀娜あだな櫛巻の後姿を見た。ドンと硝子戸がらすどをおろしたトタンに、斜めに振返ったのはお蔦である。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かう思つて、わたしはすぐそばにある小さい珈琲店カフェー硝子戸がらすどをあけて這入はいつた。場合が場合であるから、どんなうちでもかまはない。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
るたけはやくはかへらうけれど、と硝子戸がらすどをかくれば、旦那だんなどのこゑをかけてくるまふてやらぬか、うであるいてはかれまいにとあまたるき言葉ことば
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
暖かな春の硝子戸がらすどからさしてねむいような日であった。彼はジンを飲みたくなったので傍にあったベルを鳴らした。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その夏目先生が楠緒さんをお思出しになったことが最近先生のおかきになった『硝子戸がらすどうち』の一節にありました。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
門野かどのは毎朝椽側の硝子戸がらすどを一二枚宛けないで、もととほりにほうつて置くくせがあつた。代助はせきつて、椽へて、みづにはけながら、門野かどのんだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
硝子戸がらすどの内を見かえれば、母は眼を閉じ、父は口を開き、姉と妻児さいじは愉快そうに笑って話して居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この村を通り過ぎると、次の村まではまた暫くの間人家じんかが無かつた。次の村の入口には、こはれた硝子戸がらすどを白紙でつくろつた床屋とこやがあつた。其の村は前の村よりも貧しさうであつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
部屋に錠をおろして置いて暗い階段を三つくだる。入口いりくちを出て台所の硝子戸がらすどをコツコツ遣つて見たがだマリイは起きて居ない。𤍠い珈琲キヤツフエ牛乳ちゝとをすゝつてく事は出来なかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
最後に入口の硝子戸がらすどの側には、薔薇の花を売る支那の婆さんが、私に不要を食わされた後、ぼんやり舞蹈を眺めている。私は何だか画入新聞の挿画でも見るような心もちになった。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
箱根の嶮路けんろにかかって、後部の大きな硝子戸がらすどに、機関車がぴったりとくっつき、そのまま轟々ごうごうと真っ黒い正面をとどろかして押し昇った時にもそれを見たこの子は、それこそひとりで大喜びであった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
硝子戸がらすどのついた戸棚には本や古い陶器の茶道具など並んでゐる。
その内に火の玉が、鍍金の前をいなびかりのようなはすッかけに土間を切って、ひょいと、硝子戸がらすどを出たでしょう。たかっていたのは、バラバラと散る。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男湯と女湯との間は硝子戸がらすど見透みすかすことができた。これを禁止されたのはやはり十八、九年の頃であろう。今も昔も変らないのは番台の拍子木の音。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此奴こいつ先刻さつきぼくが飲んだんだから」と云つて、洋盃コツプげたが、蹰躇ちうちよした。代助のすはつてゐる所から、みづてやうとすると、障子のそと硝子戸がらすどが一枚邪魔をしてゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
栗梅色くりうめいろった真新まあたらしい箱馬車式はこばしゃしきの立派なものだ。米国から一昨日着いたばかり、全速ぜんそく五十まいる、六千円出たそうだ。父、母、姉、妻、女は硝子戸がらすどの内に、余は運転手うんてんしゅと並んで運転手台に腰かけた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かくてただこゑもなし。あをひか硝子戸がらすど真白ましろなるかほふりむけて
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
う言つて小池は、力一杯に窓の硝子戸がらすどを押し上げた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
……くどいと不可いけない。道具だてはしないが、硝子戸がらすどを引きめぐらした、いいかげんハイカラな雑貨店が、細道にかかる取着とッつきの角にあった。私は靴だ。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
代助は机の上の書物を伏せると立ちがつた。縁側えんがは硝子戸がらすど細目ほそめけたあひだからあたゝかい陽気な風が吹き込んでた。さうして鉢植のアマランスの赤いはなびらをふら/\とうごかした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
海岸には人家がつらなってしまったので、眺望ながめが自由でない。かつは風が甚だしく寒いので、更に品川の町にり、海寄りの小料理屋へあがって、午餐ひるめしいながら硝子戸がらすど越しに海を見た。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たましひのうつらぬひとみただくるはしき硝子戸がらすどそとをうち凝視みつむ。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と精々喜多八きだはちの気分をただよわせて、突出つきだし店の硝子戸がらすどの中に飾った、五つばかり装ってある朱の盆へ、突如いきなり立って手を掛けると、娘が、まあ、と言った。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北側きたがはとこがあるので、申譯まをしわけためへんぢくけて、其前そのまへ朱泥しゆでいいろをしたせつ花活はないけかざつてある。欄間らんまにはがくなにもない。たゞ眞鍮しんちゆう折釘丈をれくぎだけが二ほんひかつてゐる。其他そのたには硝子戸がらすどつた書棚しよだなひとつある。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ああ、ああ、いましがたまでぞ、この硝子戸がらすどそとには
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
が、何処どこともなく、柳に暗い、湯屋の硝子戸がらすどの奥深く、ドブンドブンと、ふと湯のあおったようなひびきが聞える。……
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
硝子戸がらすどばむさびしさ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それだのにしばらく仕事をさしてもらおうというその初対面のとこで、宿しゅくの中ほどの硝子戸がらすどをあけると、突然いきなりわっしあ忙しい身体からだでござえして……とこうさ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木格子きごうしの中に硝子戸がらすどを入れた店の、仕事の道具は見透みえすいたが、弟子の前垂まえだれも見えず、主人あるじの平吉が半纏はんてんも見えぬ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
店の左手ゆんでに飾った硝子戸がらすどの本箱に附着くッつけて、正面から見えるよう、雑誌、新版、絵草紙、花骨牌はながるたなどを取交ぜてならべた壇の蔭に、ただ一人居たお夏は
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いきなり、手をのばすと、その新造しんぞの胸倉を打掴ぶッつかめえて、ぐいと引摺ひきずり込みながら硝子戸がらすどを片手でぴッしゃり。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一方八重の遅桜おそざくら三本みもとばかり咲満ちたる中に、よろず屋の店見ゆ。とざしたる硝子戸がらすどに、綿、紙、反もの類。生椎茸なましいたけあり。起癈散きはいさん、清暑水など、いろいろにしたたむ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お澄がしずかにそう言うと、からからとつりを手繰って、露台の硝子戸がらすどに、青い幕を深くおおうた。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
座敷へ入ると間も無くさ、びりびり硝子戸がらすどなんざ叩破りそうな勢、がらん、どん、どたどたとえらい騒ぎで、芸者交りに四五人の同勢が、鼻唄やら、高笑たかわらいわめくのが混多ごったになってね。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
書棚をのぞいて奥を見て、抽出ぬきだす論語の第一巻——やしきは、置場所のある所とさへ言へば、廊下の通口かよいぐちも二階の上下うえしたも、ぎつしりと東西の書もつのそろつた、硝子戸がらすど突当つきあたつて其から曲る
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
書棚しよだなのぞいておくて、抽出ぬきだ論語ろんご第一卷だいいつくわん——やしきは、置場所おきばしよのあるところとさへへば、廊下らうか通口かよひぐち二階にかい上下うへしたも、ぎつしりと東西とうざいしよもつのそろつた、硝子戸がらすど突當つきあたつてそれからまが
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鼠色の雲の中へ、すっきり浮出したように、薄化粧のえんな姿で、電車の中から、さっ硝子戸がらすどを抜けて、運転手台にあらわれた、若い女の扮装みなりと持物で、大略あらましその日の天気模様が察しられる。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半ば西洋づくりのかまえは、日本間が二室ふたまで、四角な縁が、名にしおうここの名所、三湖の雄なる柴山潟しばやまがたを見晴しの露台のあつらえゆえ、硝子戸がらすどと二重を隔ててはいるけれど、霜置く月の冷たさが
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……朝餉あさげますと、立處たちどころとこ取直とりなほして、勿體もつたいない小春こはるのお天氣てんきに、みづ二階にかいまでかゞやかす日當ひあたりのまぶしさに、硝子戸がらすど障子しやうじをしめて、長々なが/\掻卷かいまきした、これ安湯治客やすたうぢきやく得意とくいところ
鳥影 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
思い思いに捻向ねじむいて、硝子戸がらすどから覗く中に、片足膝の上へ投げて、丁子巴ちょうじどもえの羽織の袖を組合わせて、茶のその中折を額深ひたいぶかく、ふらふら坐眠いねむりをしていたらしい人物は、酒井俊蔵であった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
でも、来て、あの姿見の向うの流しの硝子戸がらすどからのぞきますと、映りましたのは私ばッかりで、奥様はお座敷にも廊下にも見えなさいませんから、この間と思って、飛込んだんでございますわ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アツといつて、むつくとき、外套ぐわいたうあたまから、硝子戸がらすどへひつたりとかほをつけた。——これだと、暗夜あんややまも、朦朧もうろうとして孤家ひとつやともしびいてえる。……ひとつおおぼあそばしても、年内ねんない御重寶ごちようはう
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あたかもその影を追うごとく、障子を開けて硝子戸がらすどごしうみのぞいた。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
障子の背後うしろは直ぐに縁、欄干てすりにずらりと硝子戸がらすどの外は、水煙渺みずけむりびょうとして、曇らぬ空に雲かと見る、長洲ながすの端に星一つ、水に近くらめいた、揖斐川の流れのすそは、うしおめた霧白く、月にもとまを伏せ
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
硝子戸がらすどの外からのぞいてた、わしが方を仰向あおむいての、仰向くとその拍子に、がッくり抜けた島田の根を、邪慳じゃけんひっつかんだ、顔色かおつきッたら、先刻さっき見た幽霊にそッくりだあ、きゃあッともいおうじゃあねえか
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
硝子戸がらすどを引きあけると、下は坂の、二階ではないが、斜めに土塀。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
硝子戸がらすどを立てて飛ぶ男を突飛ばして、ばたばたと破って通る。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
待合所まちあひじよ硝子戸がらすどはひるまで、わりいそがないで差支さしつかへぬ。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
硝子戸がらすどを開けて、湯あがりの顔を出す、とおかみさん。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ト前の硝子戸がらすどを外から開けて、その女が、何と!
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)