かた)” の例文
「でも、あなたはあまりお美しいから。僕は今日はいつぱし慈善家になりおほせたいから、わざと地味なかたのを選んで買ひました。」
次の神樣はタカミムスビの神、次の神樣はカムムスビの神、このかたは皆お獨で御出現になつて、やがて形をお隱しなさいました。
あなたのような、つよかたがおきなさるのは、よくよくのことでございましょう。わたしどもだったら、どうなってしまったかしれない。
負傷した線路と月 (新字新仮名) / 小川未明(著)
日が小豆島のむこうに落ちたと思うと、あらぬかたの空の獅子雲が真赤まっかに日にやけているのを見る。天地が何となく沈んで落着おちついて来る。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
こういうあらわかたがあるのか、と感心した事があったので、「僕の小説などは決して「見さくる高峰のやうな」ものではありませんが
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
南蛮女なんばんをんな、ほんたうに高慢な人です事。——ようございますよ。これからはわたしがあの女の代りにこのかたの世話をして上げますから。
長崎小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ぼくおもふに、いつたい僕等ぼくら日本人にほんじん麻雀マージヤンあそかた神經質しんけいしつぎる。あるひ末梢的まつせうてきぎる。勿論もちろんあらそひ、とらへ、相手あひてねら勝負事しようぶごとだ。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
じつおどろきました、んなお丈夫ぢやうぶさまなおかたうして御死去おなくなりになつたかとつて、宿やどものよろしうまうしました、さぞ力落ちからおとしで……。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
これしかしながら汽車きしやがやがて飛行機ひかうきつて、愛宕山あたごやまから大阪おほさかそらかけ前表ぜんぺうであらう。いや、割床わりどこかた、……澤山たんとおしげりなさい。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この時彼我等のかたに對ひてその心をとめ、目をたゞもゝのあたりに動かし、いひけるは。いざ登りゆけ、汝は雄々をゝし。 一一二—一一四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
親父の臨終において、チャンチキチンなど考えているべきはずではないではないかと私は私の囃子かたへ、ちょっと注意をしてやった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
ほんとうにあなたがいらっしゃるのでおじさんはお仕合わせですわ。あなたは辛抱なさるかた。おじさんはわがままでお通しになるかた
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
『あんな名僧めいそう知識ちしきうたわれたかたがまだこんな薄暗うすぐら境涯ところるのかしら……。』時々ときどき意外いがいかんずるような場合ばあいもあるのでございます。
ものゝかんかた非常ひじやう鋭敏えいびんで、はなみゝはだなどにれるものをするどることの出來できめづらしい文學者ぶんがくしやであつたことをせてゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
わたくしおもうには、これだけのぜにつかうのなら、かたをさええれば、ここに二つの模範的もはんてき病院びょういん維持いじすることが出来できるとおもいます。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「他に有力な御縁談が始まったのらしいんですって。奥さんは念を使うかたですから、当らず触らずに然う仰有ったんでしょうけれど」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
少年せうねんゆびさかたながめると如何いかにも大變たいへん! 先刻せんこく吾等われら通※つうくわして黄乳樹わうにうじゆはやしあひだより、一頭いつとう猛獸まうじういきほいするどあらはれてたのである。
わたくしは真剣な方が、欲しいのよ。男らしく真剣に振舞ふ方が欲しいのよ。凡ての動作を手先丈でなく心の底から、行ふかたが欲しいのよ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「あなたの御話でだいぶ田口さんが解って来たようですが、私はあのかたの前へ出ると、何だか気が落ちつかなくって変に苦しいです」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よわい人生の六分ろくぶに達し、今にして過ぎかたかえりみれば、行いし事として罪悪ならぬはなく、謀慮おもんばかりし事として誤謬ごびゅうならぬはなきぞかし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
姉妹を初め、三四人の乗客が皆もうプラツトフオームに出てゐて、はるか南のかたの森の上に煙の見えるのを、今か今かと待つてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ところで、たけなかからは、そだかたがよかつたとえて、ずん/\おほきくなつて、三月みつきばかりたつうちに一人前いちにんまへひとになりました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
ころしも一月のはじめかた、春とはいへど名のみにて、昨日きのうからの大雪に、野も山も岩も木も、つめた綿わたに包まれて、寒風そぞろに堪えがたきに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
六部のかたが來てびつくりした樣子で介抱して居るところへ、女形をやまの方や、いろ/\の方が驅け付け、それからお役人樣方が見えました。
脊山のかた大判司清澄だいはんじきよずみ——チョボの太夫の力強い声によび出されて、仮花道かりはなみちにあらわれたのは織物の𧘕𧘔かみしもをきた立派な老人である。
島原の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私が幾人も残してく子供を育てヽ下さるであらうと依頼心をあのかたおこすやうになつたのもおつやさんの言葉がいんになつて居るのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
はいけんいたしますと、この上おひきとめ申しても、むだのようにおもわれます。ではいたしかたございません、行っていらっしゃいまし
浦島太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
彼家あそこじゃ奥様おくさんも好いかただし御隠居様も小まめにちょこまかなさるが人柄ひとは極く好い方だし、お清さんは出戻りだけに何処どこ執拗ひねくれてるが
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「おじゃッた。このかたもおなじような打扮ではおじゃッたが、具足のおどしがちと濃かッたゆえ、二の大将ほど目立ちなさらなかッた」
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
静岡県藤村在落合村の一流名士で自由党員として令名のある清水綱義かたの裏門が内からこっそり開けられて二人の人物が現われた。
警察のかたでも、民間の方でも構いません。娘を安全に取戻して下さればいいのです。わたしは一秒でも早く娘の無事な顔が見たいのです
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
本州ほんしゆう木曾きそ甲州こうしゆう信州等しんしゆうなど高山こうざんのぼつたかたはよくごぞんじでせうが、日光につこう白根山しらねさん男體山なんたいざんやまた富士山ふじさんなどでは偃松はひまつません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
荷物のかたづけもそこそこにして、僕の革鞄かばんは二人に託し井筒屋の主人と住職とにステーションまで送られて、その夜東京へ帰って来た。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
その晩はお松は、こしかたや行く末のことを考えて、いまさら、人の心の頼みないことを、しみじみと思いわびて眠れませんでした。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
大伴旅人の歌に、「此処にありて筑紫つくし何処いづく白雲の棚引く山のかたにしあるらし」(巻四・五七四)というのがあって、形態が似ている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
二人ふたりはすでにかわける砂を踏みて、今日のなぎ地曳じびきすと立ち騒ぐ漁師りょうし、貝拾う子らをあとにし、新月なりの浜を次第に人少なきかたに歩みつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
花もなかばは散り過ぎて、二六五鶯の声もやや流るめれど、なほよきかた二六六しるべし侍らんとて、夕食ゆふげいと清くして食はせける。
不意に自己を失ったような引ッくりかえかたをした白衣の体には、どこから飛んで来るのやら、得態えたいの知れぬ矢が突き刺さッていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうも孔子様みたいなかたにこんなことをするのは、それこそ風教上よくないね。もう一度建てようったって建たないんだからね。
台湾の民芸について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
徐々おもむろ黄昏たそがれの光の消え行く頃には其の山も其の岩も皆遠く西のかた水平線の下に沈んで了ひ、食事を終つて再び甲板の欄干に身をせた時
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
おかみさんは黒人くろとの出の人だとかで、短気な、気に入りにくかたであつた。それへ大勢のお子たちがあつたりして、勤め辛かつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
自分が今催促されて参入する気忙きぜわしさに、思慮分別のいとまも無く、よしよし、さらば此の石帯を貸さんほどにく疾く主人あるじかたにもて行け
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あるじの勧むるそばより、妻はお俊を促して、お俊は紳士を案内あないして、客間の床柱の前なる火鉢ひばち在るかたれぬ。妻は其処そこまで介添かいぞへに附きたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
泉さんは、きらいといえば、しんから底から厭いなかただったのだ。鏡花愛読者が鏡花会をつくって作者に声援していたころだった。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あの人が、どんな身分のかたか、それを考えたら、わかる事だ。出来ない相談だよ。断々乎だんだんことして僕は反対だ。いま、はっきり言って置く。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼が自分などよりはずっとずっと経験もあり智慮もあるかただと自分が思っているということを、彼に伝えたいという可憐な願いをこめて
信如は田町の姉のもとへ、長吉は我家のかたへと行別れるに思ひの止まる紅入の友仙は可憐いぢらしき姿を空しく格子門の外にと止めぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その書物のえらかたはでたらめか、さもなければ表題ひょうだいのおもしろいものをつかみ出して来るにすぎなかったが、やはり書物は書物であった。
過ぎて新街道大釜戸おほかまどといふより御嶽みたけへ出づ元は大井より大久手おほくて細久手ほそくてを經て御嶽みたけいでしなれど高からねど山阪多きゆゑ釜戸かまどかた
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
ここらで鴎外に対する在来の見方は綺麗きれいかたをつけて、これを変改するよりほかはない。それには唯一の方法しかあまされていない。