ぼう)” の例文
背広の服で、足拵あしごしらえして、ぼう真深まぶかに、風呂敷包ふろしきづつみを小さく西行背負さいぎょうじょいというのにしている。彼は名を光行みつゆきとて、医科大学の学生である。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぼくは別れて、後ろの席から、あなたの、お下げがみと、内田さんの赤いベレエぼうが、時々、動くのを見ていたことだけおぼえています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
玄徳には一種の容態をつくる好みがあるらしい。よく珍しい物でぼうを結い、珠をかざる癖があるので、それをとがめたらしいのである。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このモンクスがしまのジャケツを着て鳥打ちぼうを横にかぶった姿すがたというものは、通る人がそっと道をよけるほどこわい様子だった。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
同じこげ茶色のソフトぼうの下に、帽子の色とあまりちがわない、日にやけた赤銅色しゃくどういろの、でも美しい顔が、にこにこ笑っていました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
前足をむねの上で十文字に組んで、まず主人に向かってていねいにおじきをすると、かぶっている巡査じゅんさのかぶとぼうが地べたについた。
それから彼女の横からその画布をのぞみながら、一人のベレぼうをかぶった若い男が、何やら彼女に話しかけているのを認めた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
『きっと返却かえします、きっと。』などとちかいながら、またぼうるなりった。が、大約おおよそ時間じかんってからかえってた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
荒田老は、和服の上にマントをひっかけ、毛皮製のスキーぼうみたようなものをかぶっていたが、帽子には手もかけず
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
また少女の姿は、初めてひし人を動かすにあまりあらむ。前庇まえびさし広く飾なきぼうぶりて、年は十七、八ばかりと見ゆるかんばせ、ヱヌスの古彫像をあざむけり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この頃は大浦を見つけるが早いか、響尾蛇がらがらへびねらわれたうさぎのように、こちらからぼうさえとっていたのである。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
曲馬団きょくばだんの行列は、鍛冶屋かじやの横手の火の見の下までやって来ました。と、まっ先の一寸法師いっすんぼうしが、くるりとうしろへ向きなおり、赤いトルコぼう片手かたてに取ってし上げ
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
武村兵曹たけむらへいそうわたくしとは、ぼうだつして下方したながめたが、かぜみなみからきたへと、輕氣球けいきゝゆうは、三千すうしやく大空たいくうを、次第しだい/\に大陸たいりくほうへと、やがて、れし朝日島あさひじま
そうなると、街路樹がいろじゅの葉が枯葉かれはとなって女や男の冬着のぼうや服の肩へ落ち重なるのも間のない事だ。
巴里の秋 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのつたみせといふのが、新はし博品館はくひんくわんとなりの今はぼうになつてゐる雜貨店ざつくわてんで、狹い銀座通ぎんざとほりにはまだ鐡道てつどう車が通ひ、新はししなかんでん車になつたばかりのころだつた。
たまには誰がげるとはなしに、ふと心に有難味ありがたみを覚えて、ほとんど相手知らずにぼうだっし、ひざまずいて、有難さに、涙にむせぶこともある。誰しも必ずこの経験があるだろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
落ち着いてゐられなくなつて金太郎はぼう子をひつつかみ、そゝくさと別の車へうつつた。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
呼び戻されてけげんの顔は、玄関に立ちし主人を見るより驚きにかわりて、ぼうを脱ぎつつ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
フロツクコオトを着て山高ぼうかぶつた姿は固陋ころうな在所の人を驚かした。再び法衣を着たことは着たが、ながの留守中放題はうだいに荒れた我寺わがてらさまは気にも掛けず格別修繕しようともせぬ。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
びっくりしてりむいてみますと、赤いトルコぼうをかぶり、ねずみいろのへんなだぶだぶの着ものを着て、くつをはいた無暗むやみにせいの高いのするどいかきが、ぷんぷんおこって立っていました。
かしわばやしの夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
(モデル娘忙がわし気にぼうを脱ぎ、上着を脱ぎかかる。)どうするのだ。
冬は釜底かまぞこぼう阿弥陀あみだにかぶり、焦茶こげちゃ毛糸の襟巻、中には樺色のあらい毛糸の手袋をして、雨天には簑笠姿みのかさすがたで、車の心棒に油を入れた竹筒たけづつをぶらさげ、空の肥桶の上に、馬鈴薯じゃがいも甘薯さつまいもの二籠三籠
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
行きずりに道で逢う人々の身形みなりが大事である。かぶぼうまとう着物、背負う籠、腰の持ち物、それらよりきた手本はない。同じように事情が許すなら、民家の茶の間、その台所を見るにくはない。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
白いそりぼうって、さけびました。「口ながくん、ばんざい!」
とんがりぼう緋房ひぶさ伊達だてぢやない。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
高廉こうれんあかくちをあいて笑った。黒紗こくしゃぼう黒絹くろぎぬ長袍ながぎ、チラとすそに見えるはかまだけが白いのみで、歯もまた黒く鉄漿かねで染めているのであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
糸のような一条路ひとすじみち背後うしろへ声を運ぶのに、力を要した所為せいもあり、薬王品やくおうほんを胸にいだき、杖を持った手にぼうを脱ぐと、清きひたいぬぐうのであった。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ハワイに入る前夜、園遊会が盛大せいだいに開かれ、会長のK博士夫妻もインデアンの羽根飾はねかざぼうかぶって出場するなごやかさでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ところが、その日のお昼すぎになって、ひとりのうすよごれた背広に鳥打とりうぼうの青年が、羽柴家の玄関にあらわれて、みょうなことをいいだしました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こころ不覚そぞろ動顛どうてんして、いきなり、へや飛出とびだしたが、ぼうかぶらず、フロックコートもずに、恐怖おそれられたまま、大通おおどおり文字もんじはしるのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
やがて一人がそのフェルトぼうをとって、ていねいに寝台ねだいの上にくと、もう一人はいすを持ち出して来た。
なつかしき海岸かいがん景色けしきゆめのやうにおろしたとき海岸かいがんのこれる水兵等すいへいら吾等われらみとめたとぼしく、屏風岩べうぶいわうへから、大佐たいさいへから、に/\ぼうり、手巾ハンカチーフ振廻ふりまわしつゝ
いちばん先に、赤いトルコぼうをかむった一寸法師いっすんぼうしがよちよち歩いて来ます。その後から、目のところだけ切りいた大きなふくろをかむった大象おおぞうが、太いあしをゆったりゆったり運んで来ます。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
立ちたる人の腰帯シェルベ、坐りたる人のぼうひもなどを、風ひらひらと吹靡ふきなびかしたり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
やりをかざれるとたんぼう
月夜のでんしんばしら (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
スタンドで、あなたの水色のベレエぼうが、眼の前にあった。それだけを憶えています。競技はろくに憶えていません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
丁度ちょうどそのときにわはいってたのは、いましもまちあさって猶太人ジウのモイセイカ、ぼうかぶらず、跣足はだしあさ上靴うわぐつ突掛つッかけたまま、にはほどこしちいさいふくろげて。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
はしけくさりきて本船と別るる時、乗客は再び観音丸かんのんまると船長との万歳をとなえぬ。甲板デッキに立てる船長はぼうだっして、満面に微笑えみたたえつつ答礼せり。はしけ漕出こぎいだしたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さあ、ぼく、それは気がつきませんでした。ああ、そうそう、ふたりとも鳥打とりうぼうをひどくあみだにかぶっていて、耳のうしろなんかちっとも見えませんでした。」
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
白いむく犬は巡査じゅんさのかぶる古いかぶとぼうをかぶって、皮のひもをあごの下にゆわえつけていた。
武村兵曹たけむらへいそう彼等かれら仲間なかまでも羽振はぶりよきをとこなに一言ひとこと二言ふたこといふと、いさましき水兵すいへい一團いちだんは、ひとしくぼうたかとばして、萬歳ばんざいさけんだ、彼等かれらその敬愛けいあいする櫻木大佐さくらぎたいさ知己ちきたる吾等われら
そのあくる朝早く、まだひがしがやっとしらみかけたころ、新吉しんきちは、しもふりの夏服にくつをはき、むぎわらぼうをかむり、ふろしきづつみ一つを持って、一年間あまり住みなれたテント小屋ごやをぬけ出しました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
少女はつと立ちて「この部屋の暑さよ。はや学校の門もささるる頃なるべきに、雨も晴れたり。おん身とならば、おそろしきこともなし。共にスタルンベルヒへき玉はずや。」とそばなるぼう取りていただきつ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かれは高野山こうやさんせきを置くものだといった、年配四十五六、柔和にゅうわななんらのも見えぬ、なつかしい、おとなしやかな風采とりなりで、羅紗らしゃ角袖かくそで外套がいとうを着て、白のふらんねるの襟巻えりまきをしめ、土耳古形トルコがたぼうかぶ
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)