四邊あたり)” の例文
新字:四辺
見られ下谷山崎町家持五兵衞せがれ五郎藏其方とし何歳なんさいになるやまたさいはあるかと尋ねらるゝに五郎藏はひよくりと天窓あたまあげじろ/\四邊あたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
するとある日、藏座敷くらざしきで私が何かしてゐるとき、お糸さんが、妙に言出しにくさうにして、四邊あたりをはばかりながら傍に寄つて來た。
日本橋あたり (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
平次と叔母さんの問答の間に、小さい娘のお信乃がチヨロチヨロと家の中へ入つて行くと、四邊あたり構はず、ワツと泣き聲をあげるのです。
改札口かいさつぐちつめたると、四邊あたりやまかげに、澄渡すみわたつたみづうみつゝんで、つき照返てりかへさるゝためか、うるしごとつややかに、くろく、玲瓏れいろうとして透通すきとほる。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
女王樣ぢよわうさまこと大小だいせうかゝはらず、すべての困難こんなん解决かいけつする唯一ゆゐいつ方法はうはふ御存ごぞんじでした。『れのあたまねよ!』と四邊あたりずにまをされました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
景氣の可い樣な事を書いてやつて安心さしたのに、と思つて四邊あたりを見た。竹山は筆の軸で輕く机を敲き乍ら、書きさしの原稿を睨んで居る。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
四邊あたり見𢌞みまはせば不圖ふと眼にとまる經机きやうづくゑの上にある薄色の折紙、取り上げ見れば維盛卿の筆と覺しく、水莖みづぐきの跡あざやかに走り書せる二首の和歌
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
萌黄の帷子かたびら。水色の透綾すきや。境内は雜然としてかんてらの燈火あかり四邊あたり一面の光景ありさまを花やかに、闇の地に浮模樣を染め出した。
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
この景色は四邊あたりのいと暗くして、大空なるまことの星の白かねの色をなして、高く隔たりたる處に散布せるによりて、いよ/\その美觀を添へ
それが靜かに四邊あたりを濡らして降り出して來た雨を見ると、漸く手足もそれ/″\の場所に歸つた樣に身がしまつて來る。
幸子さちこ。」つて俺が入る時に呼んだらば、すぐ驚いたやうに泣きやんで、四邊あたりをぐるぐる見てゐるのさ。そしてまた火のつくやうに泣き出したんだ。
(旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
たとひ四邊あたり火災かさいおそれがないようにかんがへられた場合ばあひおいても、遠方えんぽう火元ひもとから延燒えんしようしてることがあるからである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
そのうちに、私は半ば身を起して、大欠おほあくびしたり兩手を延ばしたりして、眠から覺めたやうに四邊あたりを見𢌞しました。
私は彼の犬がそこで寢てゐるのを、朝になつてよく見たものだ。さう思ひ付くといくらか氣がしづまつて横になつた。四邊あたりがしんとすると神經も落着く。
わたくしは、一たび、二たび、おこたまうしましたが、四邊あたりしんやみで、何處どこともわからず、其儘そのまゝながいおわかれになりました。
こほ手先てさき提燈ちやうちんあたゝめてホツと一息ひといきちからなく四邊あたり見廻みまはまた一息ひといき此處こゝくるまおろしてより三度目さんどめときかね
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
四邊あたりは程よく森々と繁つた黒木の際涯はてしない林續きで、其の下草には雪にひしがれたノブキやメタカラカウや、鉢植にして置いた樣な灌木がちよんぼりと配置され
黒岩山を探る (旧字旧仮名) / 沼井鉄太郎(著)
もう四邊あたりは眞暗であった。三日月が空にかかっていた。しかし、その鈍い光りは、時々小枝の隙間をとおして照らされている對象に、異樣な外見ながめを與えるだけであった。
「お勝ちやん、かしこおまんな。……お勝ちやんのお父つあんは、……」と、猪之介は沈默のテレ隱しに言ひかけて、またハツと四邊あたり氣色けはひに考へ付いた風で、口を噤んだ。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「ほんとにお久振ひさしぶりですねえ、お變りも御在ませんの、お一人ですか。」とそつと四邊あたりを眺めた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
四邊あたりは寂寞として靜かだ。耳を澄ますと僅に木魚の音が聞える。三藏は暫く默つて其木魚の音を聽いてゐたが、寒さが足のさき迄浸み渡るやうに覺えた。寂光院は尼寺の筈だ。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
漸く四邊あたりの暗さが薄らいで來た。木の間を傳つて、何處からか、曉角が哀しげに響き始めた。
山月記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
われはこの高原の上なる風情ある古驛の入口の石に腰を休めて、久しくなるまで四邊あたりの風景に見入りつゝ、さま/″\なる空想にふけりたるを今猶記憶す。いかに美しき空なりしよ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
或人あるひと義母おつかさん脊後うしろからその脊中せなかをトンとたゝいて『義母おつかさん!』とさけんだら『オヽ』とおどろいて四邊あたりをきよろ/\見廻みまはしてはじめて自分じぶん汽車きしやなかること、旅行りよかうしつゝあることにくだらう。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
(おかめは眼をふきながら四邊あたりをみまはし、これも小屋に眼をつける。)
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
四邊あたり空氣くうき融解とろくるばかりに、なつかしうかなでゝくだされ。
つうじけるに名主も駈來かけきた四邊あたり近所きんじよの者も追々おひ/\あつまり改め見れば何樣いかさま酒に醉倒ゑひたふ轉込まろびこみ死したるに相違さうゐなきていなりと評議一決し翌日よくじつ此趣このおもむきを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それむかぎしいたとおもふと、四邊あたりまた濛々もう/\そらいろすこ赤味あかみびて、ことくろずんだ水面すゐめんに、五六にん氣勢けはひがする、さゝやくのがきこえた。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
葡萄酒の瓶がその後に倒れ、漬物の皿、破茶碗などが四邊あたり散亂ちらばつてゐる。『其麽に痛えがす? お由殿どん、寢だらがべす。』
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
話が面白かつたので、銚子は一向にあきませんが、四邊あたりはすつかり暗くなつて、お靜は諦めたやうに、コトコトと夕餉ゆふげの支度をしてをります。
そして四邊あたりを見𢌞すと何處もみな鬱蒼たる杉の林で、その夕闇のなかからこの筒拔けた樣な寂しい聲は次から次と相次いで聞えて來てゐるのである。
比叡山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
四邊あたり其香そのにほひで大變たいへんでした。公爵夫人こうしやくふじんでさへも、ッちやんとほとんどかはる/″\くさめをして、せるくるしさにたがひ頻切しツきりなしにいたりわめいたりしてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
舟歌畢りしとき、主婦は我に對ひて、君は歌ひ給はずやと問ひぬ。われ、さらば即興の詩一つ試みばやと答へぬ。四邊あたりにはかれは即興詩人なりと耳語さゝやく聲す。
午後のあるとき、私は頭を擧げて、そして四邊あたりを見𢌞し、傾きかけた西陽にしびの影を壁の上に曳いてゐるのを見て、私はいた。「どうしたらいゝのだらう?」
まだ執念深しゆうねんぶか鐵車てつしや四邊あたり徘徊はいくわいしてるのは、二十とうばかり雄獅子をじゝと、三頭さんとう巨大きよだいなる猛狒ゴリラとのみであつた。
中宮の御所をはや過ぎて、垣越かきごし松影まつかげ月を漏らさで墨の如く暗きほとりに至りて、不圖ふと首を擧げて暫し四邊あたりを眺めしが、俄に心付きし如く早足に元來もときし道に戻りける。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
おとしなさるな、とびもならず、にはかに心付こヽろづき四邊あたりれば、はなかぜれをわらふか、人目ひとめはなけれど何處どこまでもおそろしく、庭掃除にはそうぢそこそこにたヾひとはじとはか
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
よく四邊あたりを見ると、食物を包んで來たらしい竹の皮などもあつて、疊に薄く積つた塵埃ほこりの上の足跡や膝の跡から見て、三四人の者が車座で賭博とばくでもしてゐたらしかつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その眼は物珍らしく四邊あたりの店頭に走つてゐたのである。短い着物の裾からそれは丁度白木の棒のやうに長く一脚の足が出て、それにはまた高い一つの足駄がついてゐるのであつた。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
南の空に高く、左から順にほゞ同じ位の間隔をおいて竝んでゐるのは、土星ザトウルン木星ユウピテル火星マルスとであらう。殊に木星の白い輝きの明るさは、燦々と、まことに四邊あたりを拂ふばかりである。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
其の蔭に置いた廚子づしや偶像や、又は高くかゝげた奉納の繪額や、夥しい欄間の彫刻や、見𢌞す四邊あたり一帶の剥げて、褪めて、古びた色彩の薄暗さが、云ふに云はれず柔かに人の心を沈靜させる。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
(三人はうろたへながら四邊あたりを見まはし、助十は駕籠に眼をつける。)
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そして月を仰ぎ又四邊あたりを見廻はしながら
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
取出してのみ暫時しばし其處に休み居ける中段々夜も更行ふけゆき四邊あたりしんとしける此時手拭てぬぐひに深くおもてをつゝみし男二人伊勢屋のかどたゝずみ内の樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
理學士りがくし言掛いひかけて、わたしかほて、して四邊あたりた。うしたみせ端近はしぢかは、おくより、二階にかいより、かへつて椅子いすしづかであつた——
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
又書いて又消した。同じ事を三度續けると、何かしら鈍い壓迫が頭腦に起つて來て、四邊あたりが明るいのに自分だけ陰氣な所に居る樣な氣がする。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
また四邊あたりの山にぴつたりと燃え入つてゐる林のそれを眺め、二人とも言葉を交さぬ數十分の時間を其處で送つた。
みなかみ紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
われは此詞を聞きて、向ひの壁を仰ぎ看しに、一面の大畫幅あり。わくを飾れる黄金の光の、燦然さんぜんとして四邊あたりを射るさま、室内貧窶ひんくの摸樣と、全く相反せり。
宿の下足番が足場のいゝやうに置いてくれた木の踏臺ふみだいを下りた時、私は、氣づかはしく四邊あたりを見まはした。
ないから』とあいちやんは獨語ひとりごとつて、『みんなもうそんなことをしないでおれ!』とさけびました。するとまたみんだまつてしまつたので四邊あたりしんとしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)