なげ)” の例文
あゝ孤獨こどく落魄らくばくこれが僕の運命うんめいだ。僕見たいなものが家庭を組織そしきしたら何うだらう。つまにはなげきをには悲しみをあたへるばかりだ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
をしまずなげきしが偖ては前夜の夢は此前兆ぜんてうにて有りけるか然し憑司殿か案内こそ心得ぬ豫て役人をこしらへての惡巧わるだくみか如何せんとひとり氣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ああ、わが妻の神よ、あの一人の子ゆえに、大事なおまえをなくするとは」とおっしゃって、それはそれはたいそうおなげきになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
応仁以来の道義のみだれと、朝廷と臣子の道すら怠られている国風のすたれをなげいていた折なので、謙信の一言はいたく前嗣の胸をうった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうしていて、なん容赦ようしゃもなく、このあわれな少女むすめを、砂漠さばく真中まんなかれてって、かなしみとなげきのそこしずめてしまいました。
悲しげな、真剣しんけんな、美しい顔で、そこには心からの献身けんしんと、なげきと、愛と、一種異様な絶望との、なんとも言いようのないかげがやどっていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ゑんぜにえず財布さいふるならば彼等かれらなげところいのである。かれたゞ主人しゆじんつてさへすればいとおもつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すずめは、二びっくりしました。そして、ながい三ねんあいだ自分じぶん苦労くろうがむだであったことを、ふかなげかなしみました。
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
君はこう云う「和歌うた」知ってるかい? 「なげきわび 身をば捨つとも かげに 浮名うきな流さむ ことをこそ思え……」
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
と云いつゝ短刀を右手のあばらへ引き廻せば、おいさは取付とりつなげきましたが、丈助は立派に咽喉のど掻切かききり、相果てました。
死刑執行官吏は自分自ら尊者に手をけて川の中へ投げ込むに忍びず潜然と涙を流して見送人と共になげきに沈んで居る様はいかにも悲惨の状態であったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あなたがこの島にご流罪るざいになられたと聞いてから奥方のおなげきははたの見る目も苦しいほどでございました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
私は自分の愛のいとちひさく、淺く、せまいのを、ぢ、おそれ、なげきます。私の今のくるしみは、私ん自分にのぞんでゐる愛のりなさを、かなしむ心に外ならないのです。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
しかし、おまへ何故なぜ其樣そんななげくのかね。』と言葉ことばやさしくひかけると、この一言いちごん老女らうぢよすこしくかほもた
われは唯みずからおのれを省みて心ならずも暗く淋しき日を送りつつしかもさわがなげかずいきどおらず悠々として天分に安んぜんとする支那の隠者の如きを崇拝すといふのみ。
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
と、羽衣はごろもをなくした少女おとめは、あしずりをしてなげいていました。さっきからその様子ようすかげでながめていた伊香刀美いかとみは、さすがにどくになって、のこのこはいして
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「夏彦様夏彦様! あなたは永久にこのお城へはお帰りなさらないのでござりますね。十四年の間、恋となげきに明かし暮らしたわたしの胸へ二度とお帰りなさらないのだ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
社会活動のうずからはねとばされ、もしくははねとばされんとしつつ、なにもかも思うようにできないで、失意しついなげいてる人などに、ひとりだって同情どうじょうするものはない。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
彼女かのじょ田舎いなかの程度の低い学校を出たばかりで、充分の高等教育を受けなかったので、常に自分の無学を悲しみ、良人に対して満足な奉仕ほうしができないことをなげびた。
運命によってしめつけられた自由の窮屈きゅうくつさをなげくことではなくて、そのわずかな自由を極度に生かしつつ、一刻も早く円周の一点にたどりつくことでなければならないのだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
仲善なかよしのぞうくまとは、をりふし、こんなかなしいはなしをしてはおたがひの不幸ふしあはせなげきました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
そいつはなげかわしいこった。せめて、母さんがお前にどんなことをしたか、話してごらん。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
巻十二(二八六四)に、「吾背子を今か今かと待ち居るに夜のけぬればなげきつるかも」。巻二十(四三一一)に、「秋風に今か今かとひも解きてうら待ち居るに月かたぶきぬ」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
都会と田舎の此争は、如何に解決せらるゝであろう乎。京王は終に勝つであろうか。村は負けるであろうか。資本の吾儘わがままが通るであろう乎。労力のなげきが聴かるゝであろう乎。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ぼくをちょいと見た者は、どこを押せばそんななげきのが出るのかとあやしむだろう。身体はぴかぴか黄金色おうごんいろに光って、たいへんうつくしい。小さい子供なら、ぼくをきんだと思うだろう。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
最近輸入された有名な映画だと云ふ「キイン」と「なげきのピエロ」の筋を聞いた。
拊掌談 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
百五十年を隔てた今日、モーツァルトのとむらいの貧しさをなげく人がどこにあろう。モーツァルトほど愛せられ、親しまれる音楽家は、たった一人もこの世界には生まれなかったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
生きていられるなればなぜにお文おつかわしくださらないのでございますか、わたくしのこの思い、この声、このなげき悲しみがとどいてゆかないのでしょうか、声よ、いのちよ、嘆きよ
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そうでなかった日にや、おれもハイネのようにこうつぶやきながらなげいてばかりいなきゃなるまい。——おまえの眼の菫はいつも綺麗にくけれど、ああ、おまえの心ばかりはれ果てた……
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
むしろそれらの画工は、かかるものを描かねばならぬ身をなげかわしく感じたであろう。ある折は好まないですら描いたであろう。彼らには誇るべき何ものも考えられなかったにちがいない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あんまりひとりなげくでない、あんまり泣けば心もしずみ、からだもとかくそこねるじゃ、たとえ足には紐があるとも、今ここへ来て、はじめてとまった処じゃと、いつも気軽でいねばならぬ、とな
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
急急如律令、もう寸刻の容赦もない。この判決をうけた三人は、今さらなげき悲しみながら、進まぬ足を追い立てられて、泣く泣くも地獄へ送られて行った。それを見送って、道人はすぐに山へ帰った。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
そのなげき、おぼろげながらわれぞ知る。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鷺脚さぎあしの『なげき』ぞ、ひとりあをびれし
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
なげくにいたるであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いつかなげきを忘れけり
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
なげたまいし碓氷うすい
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
そちたちは気が小さい、眼がせまい。そちたちのなげきは、小人のかなしみだ。そち達の説く利害は、信長一個を出ておらぬ。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あずまはや」(ああ、わが女よ)とおなげきになりました。それ以来そのあたりの国々をあずまとぶようになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それからは、えないで、もりなかさぐまわり、くさべて、ただくしたつまのことをかんがえて、いたり、なげいたりするばかりでした。
殺せし由すでに白状に及び最早もはや罪の次第もさだまりし上は力及ばずと聞しお專は狂氣の如く又與惣次も力をおとたがひになげかなしめ共今は詮方せんかたなく種々に心をいためたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
翌日あくるひ午後ひるすぎまたもや宮戸座みやとざ立見たちみ出掛でかけた。長吉ちやうきちは恋の二人が手を取つてなげく美しい舞台から、昨日きのふ始めて経験したふべからざる悲哀ひあいの美感にひたいと思つたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
植竹うゑたけもとさへとよでてなば何方いづしきてかいもなげかむ 〔巻十四・三四七四〕 東歌
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
毎日まいにち、それはそれは愉快ゆかいに、らしていらせられます。みなみほうは、こちらよりは、ずっとながいようにおもわれますが、それでも、国王こくおうは、みじかいといって、なげいていられたほどであります……。
珍しい酒もり (新字新仮名) / 小川未明(著)
さて太子たいし奈良ならきょうへおかえりになりましたが、そのあと片岡山かたおかやまのこじきは、とうとうんでしまいました。太子たいしはそれをおきになって、たいそうおなげきになり、あつくほうむっておやりになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
リストはそれと呼応して「英雄のなげき」を書き、「タッソー」を描き、一代の傑作「前奏曲レ・プレリュード」を作って、文学的標題を有する音楽の分野を確立し、音楽の表現力の上に、全く新なる希望を打ちたてて
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
たゆらになげき、白蝋はくらふひゆく涙。——
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ゑまひ』のはなも、『なげかひ』の
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
なげく娘を丈助は押留おしとゞめ。
「さいぜん、内裏は火宅じゃとのなげきだったが、武者には武者のごうがある。ここもまた火宅とあとで悔いねばよいが……」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)