ひたひ)” の例文
「先刻から見て居ると、ひたひつばきを附けたり、足の親指を曲げたり、色々細工をして居るやうだが、行儀をよくするのも樂ぢやないね」
四方しはう山の中に立ちたる高さ三百尺の一孤邱いつこきう、段々畠の上にちとの橄欖の樹あり、土小屋つちごや五六其ひたひに巣くふ。馬上ながらに邱上きうじやうを一巡す。
ヂュリ そのやうなことをそちしたこそくさりをれ! はぢかしゃる身分みぶんかいの、彼方あのかたひたひにははぢなどははづかしがってすわらぬ。
そは我かしこにて、魂を神に知らすものなる信仰に入り、後ピエートロこれが爲にかくわがひたひ周圍まはりをめぐりたればなり 一〇—一二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その後、稻子さんがぽつぽつ書き出された詩や小説を讀む毎に、僕はいつもその稻子さんの秀でたひたひを思ひ出すやうになりました。
二人の友 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
此は、ひたひざまに切りつけられた——。免せ/\と言ふところぢやが——、あれはの、生れだちから違ふものな。藤原の氏姫ぢやからの。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
はなまるい、ひたひひろい、くちおほきい、……かほを、しかいやいろえたので、暗夜やみました。……坊主ばうず狐火きつねびだ、とつたんです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれはどつかりすわつた、よこになつたがまた起直おきなほる。さうしてそでひたひながれる冷汗ひやあせいたが顏中かほぢゆう燒魚やきざかな腥膻なまぐさにほひがしてた。かれまたあるす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
うちければひたひよりながれけるに四郎右衞門今は堪忍かんにん成難なりがたしと思へども其身病勞やみつかれて居るゆゑ何共なにとも詮方せんかたなく無念を堪へ寥々すご/\とこそ歸りけれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
猫のひたひほどの入江に、はしけが這入つてから、やつと、船の動揺はをさまつた。白い砂のが、雨で洗はれたやうにしめつてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
しかしいつのにかひととほくよりるやうにつた。ちが女房等にようばうらひたひママれてねむつて痛々敷いた/\しいおもふのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
左様さうですな」と矢っ張りらない答をした。ちゝはじつと代助を見てゐたが、段々だん/\しわの多いひたひくもらした。あには仕方なしに
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その形が氣に入つて、私の指はそれに目鼻を附けようとどん/\進んだ。濃い眞直な眉はそのひたひの下に描かれなくてはならない。
「ふン!」お鳥はひたひにゆるい皺を澤山寄せて、鏡を引ツたくつて、脇へ投げつける。「あたいだつて、さう惡い顏ぢやない。」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
一日ぼくしたがへて往來わうらいあるいて居るとたちまむかふから二人の男、ひたひからあせみづの如くながし、空中くうちゆうあがあがりしてはしりながら
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ハアー……おや燈火あかりを消したかえ。竹「なにふんだね、しつかりおしよ、おまへなにか夢でも見たのかえ、ひたひへ汗をかいてゝさ。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ばんだ象牙ざうげひたひ薔薇ばらの花、自分で自分を愛してゐる黄ばんだ象牙ざうげひたひ薔薇ばらの花、處女をとめよる祕密ひみつをお話し、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
シェードにおほはれた光線が恰度ちやうどそのひたひのところまで這ひ上り、そこの黄色を吸ひとつて石のやうに白く光らせてゐる。道助はそれを見てゐた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
同時に非常な疲労つかれを感じた。制帽せいぼうかぶつたひたひのみならず汗ははかまをはいた帯のまはりまでしみ出してゐた。しかしもう一瞬間しゆんかんとても休む気にはならない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
或時は前へ立つた儘、両手を左右に挙げて見たり、又或時は後へ来て、まるで眼かくしでもするやうに、そつと妙子のひたひの上へ手をかざしたりするのです。
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いまうへにはにくくし剛慾がうよくもの事情じじやうあくまでりぬきながららずがほ烟草たばこふか/\あやまりあればこそたゝみひたひほりうづめて歎願たんぐわん吹出ふきいだすけむりして
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
肉は薄い方だ、と謂ツてとがツた顏といふでは無い。輪郭りんくわくを取つたら三かくに近い方で、わりひたひひろく、加之拔上ぬけあがツて、小鼻まわりに些と目に付く位に雀斑そばかすがある。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あゝ横笛、花の如き姿いまいづこにある、菩提樹ぼだいじゆかげ明星みやうじやうひたひらすほとり耆闍窟ぎしやくつうち香烟かうえんひぢめぐるの前、昔の夢をあだと見て、猶ほ我ありしことを思へるや否。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
二人の意識いしきの中にはたつた三しかない古びた貸家かしやである自分のいへが、ほんとにねこひたひほどのにはが、やつとのおもひで古道具屋だうぐやからつて※たただ一きやくのトイスが、いや
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
『おゝ、乃公おれ如何いかにも櫻木大佐閣下さくらぎたいさかくか部下ぶかなる武村新八郎たけむらしんぱちらうだ。』とひながら、ひたひたゝいて
たけ五尺五六寸の、面長おもながな、色の白い男で、四十五歳にしては老人らしい所が無い。濃い、細いまゆつてゐるが、はりの強い、鋭い目は眉程には弔つてゐない。広いひたひ青筋あをすぢがある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
又は人の父を喰殺くひころしてその父にばけて年をたるに、一日その子山に入りてくはるに、おほかみきたりて人の如く立其裾そのすそくはへたるゆゑをのにて狼のひたひきり、狼にげりしゆゑ家にかへりしに
横井は椅子に腰かけたまゝでその姿勢を執つて、眼をつぶると、半分とも經たないうちに彼の上半身が奇怪な形に動き出し、ひたひにはどろ/\汗が流れ出す。横井はそれを「精神統一」と呼んだ。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
(かの邪宗、その寺の門前に梟首さらされた怪僧のひたひのやうに)
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
やまかがし草に入りゆくに足とどむひたひあせきつつ吾は
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
下冷したひえてひたひににじむ薄ら汗おもほえばしじに君も生きにき
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
但馬守たじまのかみは、れいひたひすぢをピク/\とうごかしつゝつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
うたたねのひたひにかづく春の袖牡丹とこがねの蝶と
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
春の風広きひたひにやはらかき髪なびかせし人をしぞ思ふ
かろきねたみ (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そがひたひとおぼしきあたりの骨にもわれは手觸れつ。
かたぶきて夫人に倣ふひたひをば嫩江に置く細き月かな
又そのひたひおほふべき精巧華美の甲造り、 610
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
ああ、かの広きひたひと、鉄槌てつつゐのごときかひな
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
若鬼輩わかおにども、ひこ/\とひたひつのうごめかし
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そのもののひたひの上にかざされぬ。
蝶を夢む (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
若葉に露の置くごとひたひに汗して
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
むづがゆきひたひを赤めをさな
机の上にぴたつとひたひをつけた。
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
酒と舌ひたひの皺の伸びる刹那
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
つめたきひたひにかむらせよ
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
あかがねのひたひ日にゆれ
小曲二十篇 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
凍りはてたるひたひには
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
露ふりそゝぐひたひまゆ
花枕 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
ひたひに垂れし下髮おはなり
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
野幇間のだいこを家業のやうにして居る巴屋ともゑや七平は、血のやうな赤酒を注がせて、少し光澤つやのよくなつたひたひを、ピタピタと叩くのです。