へん)” の例文
旧字:
自分は今日になっても大川の流のどのへんが最も浅くどの辺が最も深く、そして上汐あげしお下汐ひきしおの潮流がどの辺において最も急激であるかを
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
このへんは鬼怒川水力電気の工事があるので、至る処、鬼のような工夫に逢う。大きな鶴嘴つるはしを手にして大道の上に五人十人休んでいる。
おじいさんのうちまちはしになっていまして、そのへんはたけや、にわひろうございまして、なんとなく田舎いなかへいったようなおもむきがありました。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしこの茶店に腰を掛けているものが、どうして、どこへ行って、どんな手続で坑夫になるんだかそのへんはさっぱり分らなかった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのへんの砂が血のりでドロドロになっていたが、なお掻きのけると、短刀は丁度心臓の部分に、根元までグサリと突きささっていた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「少しこのへんを片附けて、お茶を入れて、馬関の羊羹ようかんのあったのを切って来い。おい。富田君の処の徳利は片附けてはいけない。」
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
丁坊は餓死がしするか、さもなければこのへんの名物である白熊に頭からぱくりとやられて、向うのおなかをふとらせるか、どっちかであろう。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……すけどの、この儀もしかと尊氏どのへお伝えあるがよろしかろう。決して使者のおへんが至らぬゆえの破談でないことの証明あかしにもなる
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このへんの名は何というか知らんけれどもコンギュ州の中であろうと思います。で私はその辺を名づけて「千池ちいけヶ原」と言いました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
が、何のために船へ乗ったか、不思議にもそれは覚えていない。つれがあるのか、一人なのか、そのへんも同じように曖昧あいまいである。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
場所ところ山下やました雁鍋がんなべの少し先に、まが横丁よこちやうがありまする。へん明治めいぢ初年はじめまでのこつてつた、大仏餅だいぶつもち餅屋もちやがありました。
そしてなお、上から押し付けたり、そのへんに脱ぎ捨てられている衣類を、なんでも、手当たり次第に掩い掛けてやるのであった。
山茶花 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
家へ六七丁のへんまで辿たどり着くと、白いものが立って居る。それはつまであった。家をあけ、犬を連れて、迎に出て居るのであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私が以前大阪へんにおりました時分はよく会費十銭位で二色のサンドウィッチに西洋菓子の一つ位拵えてお友達同士の茶話会を開きました。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あそこにアイスフォオゲルのいえがある。どこかあのへんで、北極探険者アンドレエの骨がさらされている。あそこで地極ちきょくが人をおどしている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
あそこらへんいったいに、ずっともう一杯に生えてまして、あの山のんは、毎年春に山焼きしますのんで特別おいしいのんです。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたくし最初さいしょ修行場しゅぎょうば——岩屋いわやなかでの物語ものがたりずこのへんでくぎりをつけまして、これからだい二のやま修行場しゅぎょうばほううつることにいたしましょう。
このへん一帯をおおうているてしもない雑木林の間の空地に出てから間もない処に在る小川の暗渠あんきょの上で、ほとんど干上ひあがりかかった鉄気水かなけみずの流れが
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その赤樫と云ふ奴は貸金の督促を利用しては女をもてあそぶのが道楽で、此奴こいつの為にけがされた者は随分意外のへんにも在るさうな。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いや、ところいた、……なんにせい、うへ各々おの/\らずに人頼ひとだのみぢや。たのむには、成程なるほどへんであらうかな。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
円々まるまると肥えた顔に細い目がいてゐるので、いつも膃肭臍おつとせいのやうだとばかし思つてゐたが、今見ると何とかいつた芝へんの女医者によくてゐる。
このへんから、裾野式の高原を展開して、桔梗ききょうがさき、萩がさき、女郎花おみなえしがひょろひょろと露けく、キスゲが洞燈ぼんぼりのような、明かる味をさしている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
しこうして露国またそのきょじょうぜんとす。その危機きき実に一髪いっぱつわざるべからず。し幕府にして戦端せんたんを開かば、その底止ていしするところいずれへんに在るべき。
「そうですね。まあこのへん、五ちょうのうちには清水しみずのわいているところはないでしょうが、いったいどうなさったのです。」
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
たいてい自分ののぞ種子たねさえけばひとりでにどんどんできます。米だってパシフィックへんのようにからもないし十ばいも大きくてにおいもいいのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ラランはいつものやうに、カラカラとわらつた。五千メートル。いつもならこのへんるまでにつかれてちてしまうはづなのに、今度こんど莫迦ばか調子てうしがいい。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
それともいやなら、馬車を雇ってプラアテルあたりへでも行っておいでなさい。あのへんはこのごろ面白い時節ですから。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
追っかけてきたやつらは、うすくなって、ついに消えてしまった足あとをさがして、そのへんをうろうろしていたよ
「うむ、そりやさうだとも。大井だの目ぐろだの。ぼくすきだな。あすこらへんのちよつとたかみに、バンガロオふううちでもてられたら、どんなにいいから?」
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
三人ずつわかれて一番繁昌なにぎやかな処で双方から出逢うような仕組しくみにするから、賑やかな処とえばず遊廓の近所、新町しんまち九軒くけんへん常極じょうきまりにやって居たが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その西の山際に海地獄とて池あり。熱湯なり。広さ二段ばかり。上の池より湧きいず。上の池広さ方六間許けんばかり。そのへん岩の色赤し。岩の間よりわきず。見る者恐る。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
三時過ぎ、うちに帰りけるが、後に聞く所によれば、此日、市ヶ谷見付へん濠渠ほりも、おびただしき釣客ちょうかくなりしとぞ。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
するとそのへんんでゐた太郎たらうぢやない、次郎じらうといふ子供こどもが、その鸚鵡あうむぬすんでポツケツトへれました。
流石さすがかすかに覚えが有るから、確かへんだなと見当を附けて置いて、さて昨夜ゆうべの雨でぬかる墓場道を、蹴揚けあげの泥をいとい厭い、度々たびたび下駄を取られそうになりながら
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それは気持きもちが悪かった。何かよこぱらへんしわくちゃになったと思うと——やがてそのうちにシャツがやぶれて、もみくたになったという感覚かんかくが、もっとはっきりして来た。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
はあ、病人びょうにん、しかしなんにん狂人きょうじん自由じゆうにそこらへんあるいているではないですか、それは貴方々あなたがた無学むがくなるにって、狂人きょうじんと、健康けんこうなるものとの区別くべつ出来できんのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
右手は千駄が谷へんで貸地と云ふ札などのよく立てられてあるところのやうな広いたゞの土のでこぼこである。正面の崖の上はこもつた木立こだちになつて居る。曙村さんは優しいかた
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
毛氈もうせんきらびやかにして、脇小路小路は矢来にて仕切り、桜田へんの大名方より神馬をひかれ、あるいは長柄の供奉ぐぶ、御町与力同心のお供あり、神輿三社、獅子二かしら。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私はクリスタル・パレス(ロンドンの南部にある遊覧所)のへんまでも歩いていって、そこで一時間ばかり腰かけておりました。そして一時頃にノーブリーに帰って来ました。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
老翁じいや、このへんかい。」と、市郎は立止たちどまってみかえると、七兵衛は水涕みずばなすすりながら進み出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「結構な身分さ、たとい芸者だろうと淫売だろうと。……こちとらの阿女あまらみてえにへっちゃぶれた顔していたんじゃ、乞食の嬶にももれえ手ねえや」と村人は唇へんを引き歪めて噂した。
一老人 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
「弱ったな。F君。これはやっていますか。」と、そこで左手を一寸と口のへん
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
薩摩さつま知覧ちらんで稲扱きをカナクダ、土佐とさの中村へんでこれをカナバシと謂ったというのも、或いはこういう種類の改良品ではなかったろうか。何にしてもそう古くからの名称ではなさそうである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ひじからは総がぶらぶら垂れている。胸のへんには紐がひらひらしている。
わたしは四へんみまはした。かうした長い連続を積上げて行く一日一日のいかに平凡に、いかにをだやかであるかを思つた。日影は暑くなり出した。山には朝の薄いもやなびいて、複雑した影をひだごとにつくつた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
その故か田辺へんで蜈蚣にまれて格別痛まぬ人蝮蛇咬むを感ずる事はげしく、蝮蛇咬むをさまで感ぜぬ人蜈蚣に咬まるれば非常に苦しむと伝う、この辺から言ったものか、『荘子』に螂蛆むかで帯を甘んず
「どこと云うこともない、このへんを歩いていたところだ、君は」
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蓮華草このへんにもとさがし来て犀川岸さいかわぎし下田しただりつ
歌集『涌井』を読む (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「ちょっと見てみな、そのへんに村は見えないかい?」
どのへんを走つてゐるのか さつぱりわからない