のぞみ)” の例文
其の時院のけしきかはらせ給ひ、汝聞け、帝位は人のきはみなり。人道にんだうかみより乱すときは、天のめいに応じ、たみのぞみしたがうて是をつ。
修行しようと云うのぞみに、寄食しようと云う望が附帯しているとすると、F君の私を目ざして来た動機がだいぶ不純になってしまう。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
印刷いんさつ出板しゅっぱんの手続きより一切いっさい費用ひようの事まで引受ひきうけられ、日ならずして予がのぞみのごとくなる冊子さっし数百部を調製ちょうせいせしめて予におくられたり。
「そんなけちじゃアありませんや。おのぞみなら、どれ、附けて上げましょう。」と婦人おんなは切の端に銀流をまぶして、滝太郎の手をそっと取った。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
してると、端艇たんていは、何時いつにか印度洋インドやう名高なだか大潮流だいてうりう引込ひきこまれたのであらう。わたくしなんとなくのぞみのあるやうかんじてたよ。
カピ長 おゝ、モンタギューどの、御手おんてをばあたへさせられい。これをこそ愛女むすめへの御結納ごゆひなうともおもひまする、ほかのぞみとてはござらぬわい。
さうして、もしこの冒險ばうけん成功せいこうすれば、いま不安ふあん不定ふてい弱々よわ/\しい自分じぶんすくこと出來できはしまいかと、果敢はかないのぞみいだいたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
のぞみも出てきました。けれどもそれはしばらくの間でした、自分が一人ぼっちで見知らぬ国へゆくと思うと急に心が苦しくなってきました。
しかるにおうとのぞみは、ついえずたちまちにしてすべてかんがえ圧去あっしさって、こんどはおも存分ぞんぶん熱切ねっせつに、夢中むちゅう有様ありさまで、ことばほとばしる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すぐれたところをあげれば、才もあり智もあり、物にたくみあり、悟道のえにしもある。ただ惜むところはのぞみが大きすぎて破れるかたちが見える。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この夜お登和嬢は一縷いちるのぞみを抱いてねぬ。小山ぬしの尽力その甲斐かいあらば大原ぬしは押付婚礼おしつけこんれいのがれてたちまち海外へおもむき給わん。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼がなおもしやというのぞみなき望にひかされて死体をしらべていると、その時初めて遥かなる川上の方から人声がきこえて来た。
その御子息さまとにのぞみを絶えさせることはわたくしには出来かねます、ちからをしてもろともに生きてゆかねばならないのでございます。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
だが私はこんなにも多くののぞみを抱かせられた漆場はない。名のあるどんな所よりも心をくものが多い。草々の理由について書きたいと思う。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
仲働のお宮は働くより外にのぞみも興味もない女。外に下女が二人、年寄の門番夫婦にも逢ひましたが、何の變哲もありません。
我れ神をおそるる事に依頼たのみ、我れ神の道を守る事にのぞみを置く、わが敬虔わが徳行これわが依頼む処わが望のかかる所なりと。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
洋先生が彼に革命を許さないとすると、外に仕様がない。これから決して白鉢巻、白兜の人が彼を迎えに来るというのぞみを起すことが出来ない。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
のぞみ立身を心懸こゝろがけ心底しんていには候はず左樣の存じよりあらば何とて今日御役宅へ御密談おみつだんに參り可申や配下はいかの身として御重役ごぢうやく不首尾ふしゆび
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そののち僕は君とまじわっている間、君の毒気どくきてられて死んでいた心を振い起して高いのぞみいだいたのだが、そのお蔭で無慙な刺客しかくの手にかかって
これでは到底のぞみがないと思ってひまをやったわけだがしかしこれはあの女ばかりに限った話ではない。今の若い女は良家の女も芸者も皆同じ気風だ。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さばかりの名匠の、辞世はなかりしやと世にいうものもあるべし。あわれ一句を残したまわば、諸門人ののぞみ足りぬべし。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
わしはこちらでまだ三浦みうら殿様とのさまに一もおにかかりませぬが、今日きょうひいさまのお手引てびきで、早速さっそく日頃ひごろのぞみかなえさせていただわけにはまいりますまいか。
汝なかりせば、今の故國のさまをみて、たれかのぞみを絶たざらむ。しかも、大なる國民にあらずして、かゝる言葉をもたむこと、夢にも思ひえせざるなり。
露西亜の言葉 (旧字旧仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
が、この男はまだ芸術家になりきらぬ中、香具師やし一流ののぞみまかせて、安直に素張すばらしい大仏を造ったことがある。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お前はもう仙人になりたいというのぞみも持っていまい。大金持になることは、元より愛想がつきたはずだ。ではお前はこれから後、何になったらいと思うな
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
俺達おれたちにや、とてもそんな諦めのよいことは、出来ませんだ。もつとも俺達は、清へ渡らうの、病人をあつめようだのといふ、大きなのぞみは持たねェけんど。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
こう言出したと云ッて、何にも貴嬢あなたに義理を欠かしてわたくしのぞみを遂げようと云うのじゃア無いが、唯貴嬢の口からたッた一言、『断念あきらめろ』と云ッていただきたい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あれ、ルウヴルの屋根の上、のぞみの色のそらのおく、ちろりちろりとひとつぼし。おお、それ、マノンの歌にも聞いた。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それに前にいった様に温雅な——むしろ陰気と言う方のたちだったから、あえて立派なとこへ嫁に行きたいと云う様なのぞみもない、幸いことは何よりも好きの道だから
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
薩州出身で未来の海軍大臣とまでのぞみしよくされて居る松島だから、梅子別段不足もあるまいぢや無いか——モー九時過ぎた、是りや梅子飛んだ勉強の邪魔した
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その金銭が有つたら何とでも恨が霽されやうか、とそれをたのしみに義理も人情も捨てて掛つて、今では名誉も色恋も無く、金銭より外には何ののぞみも持たんのです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかし、勇敢なフロスト少将が第一番に戦死したものだから、さすがのライオン戦車隊も、一時、臆病風おくびょうかぜにかかって、とうとう攻撃ののぞみがなくなってしまった。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
母親似の一郎とは違って、角張った父親に似た甲子ではあるが、自分の才能を見込んでくれるものならもらいたいと云うのぞみを、心の奥底に秘めていた時代もあった。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
露西亜は世人の尤も危ぶむ国なり、而して今や此真摯しんしなる大偉人をてり、ふべし、前途のぞみ多しと。
トルストイ伯 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ところで肉と肉とが接觸したら、其の渇望かつばうみたされて、お前に向ツて更にのぞみを持つやうになツた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
大「十分事を仕遂しおおせました時には、どうか拙者にこれ/\ののぞみがございますが、おかなえ下さいますか」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
したがって降れば降るほど通過し得るのぞみは少なくなる訳で、実際上から望見した所では、東谷の雪渓まで下りて迂廻しなければ、到底通過不可能であろうとさえ思われる。
八ヶ峰の断裂 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
物を喰うにさえ美味をたのしむというのぞみを以てするか、しからざれば喰わねば餓死するおそれあるからである。
デモクラシーの要素 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
都会の中央へもどりたい一心からゆめのような薫少年との初恋はつこい軽蔑けいべつし、五十男の世才力量にのぞみをかけて来た転機の小初は、翡翠型の飛込みの模範もはんを示す無意識の中にも
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
名をゼロニモ・ルジエラと云いて、西班牙スペインの産なるが、今や此世にのぞみを絶ちて自らくびれなんとす。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ひたすら良人をつとに逢ひたいと云ふのぞみはり詰めた心が自分を巴里パリイもたらした。さうして自分は妻としての愛情を満足させたと同時に母として悲哀をいよいよ痛切に感じる身と成つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
然れども既に隈公の知をこうむり、また諸君の許す所となる余は、唯我が強勉と熱心とを以て、力をこの校につくし、その及ばん限りは隈公の知にむくい、諸君ののぞみこたうべし(拍手)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
歩行き得ずとも立つ事を得ばうれしからん、と思ひしだに余りに小さきのぞみかなと人にも言ひて笑ひしが一昨年の夏よりは、立つ事は望まず坐るばかりは病の神も許されたきものぞ
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
三人は、何かしら一つののぞみが出来たような感じがして、にわかに元気になるのでした。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
じつ今日けふねがひがあつてお邪魔じやまました。これは手前てまへ愚息せがれ御座ございます、是非ぜひ貴樣あなたのお弟子でしになりたいと本人ほんにんのぞみですからつれまゐりましたが、ひと試驗しけんをしてくださいませんか。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
漸々だんだん自分の行末いくすえまでが気にかかり、こうして東京に出て来たものの、何日いつ我がのぞみ成就じょうじゅして国へ芽出度めでたく帰れるかなどと、つまらなく悲観に陥って、月をあおぎながら、片門前かたもんぜんとおりを通って
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
が、さて、その一書によつてふか寫眞熱しやしんねつをあふられたわたしは、何よりも寫眞機しやしんきがほしくてたまらない。母はもとよりわたしのぞみみなら先づ大がいいてもらへた父母にもさかんにせがんで見たが
故郷ふるさとを離れる事が出来ないので、七年という実に面白い気楽な生涯をそこで送り、ごくおだやかに往生をとげる時に、僕をよんで、これからは兼てのぞみの通り、船乗りになってもよいといいました。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
コロンボと過ぎて新嘉坡しんがぽうるに船の着く前に、恋しい子供達の音信たよりが来て居るかも知れぬと云ふのぞみに心を引かれたのと一緒で自身のために此処こゝ迄来て居る身内のあるのを予期して居たからである。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
美奈子は、兄の方の美しい凜々しい姿を、心の裡で、ぢつと噛みしめるやうに、想ひ出してゐるとほの/″\と夜の明けるやうに、心の裡に新しいのぞみや、新しい世界が開けて行くやうに思つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)