あが)” の例文
とうさんもたこあげたり、たこはなしいたりして、面白おもしろあそびました。自分じぶんつくつたたこがそんなによくあがつたのをるのもたのしみでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「彼こそ、この際、断じて死刑に処されなければいかん」とは、彼の大を知る反対側の他宗において、勃然ぼつぜんあがっている気勢であった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このようなことを言っているところへ、初やが狐饅頭きつねまんじゅうを買って帰ってくる。小提灯ぢょうちんを消すと、蝋燭ろうそくから白い煙がふわふわとあがる。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
これは南画なんぐわだ。蕭々せうせうなびいた竹の上に、消えさうなお前があがつてゐる。黒ずんだいんの字を読んだら、大明方外之人たいみんはうぐわいのひととしてあつた。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
何処いずくよりか来りけん、たちまち一団の燐火おにび眼前めのまえに現れて、高くあがり低く照らし、娑々ふわふわと宙を飛び行くさま、われを招くに等しければ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
なに、本さへ出来上つたら、請合うけあつて百五十回位は舞台にのぼせて見せるさ。一回のあがだかがざつと五千フランとして、百五十回で七十五万法。
網に掛かってあがったのは、余の双眼鏡で見た所では大きな不恰好な風呂敷包みの様な物である、勿論多少は泥にまみれて居るが
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
洋服姿の市郎は胴をくくられたままで、さながら縁日で売る亀の子のように、宙に吊られつつあがって来たのである。人々も驚いて声を揚げた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「滅茶々々に縛つた死骸が、關口の大瀧の下であがつたんだ。行つて見て下さいな。親分が行くまで、指をさゝせないやうにしてあるんだから」
此の仕掛花火しかけはなびは唯が製造したか知らぬが、蓋し興世玄明のやからだらう。理屈はもあれ景気の好い面白い花火があがれば群衆は喝采かつさいするものである。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
高くあがった場合、折角の絵も分らないから、それよりも月浪とか童子格子とか、字なら龍とか嵐などがいいようである。
凧の話 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
はねあがってくるのをまた打つという、いくらかの早い遊戯になって、それを上手につづけてつくおもしろさがまた一段と加わってきたのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
精々せいぜい米琉よねりゅうの羽織に鉄欄てつわくの眼鏡の風采頗るあがらぬ私の如きはどうしてもお伴の書生ぐらいにしか見えなかったであろう。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
球の高くあがるは外観美なれども攫まれやすし。走者は身軽にいでたち、敵の手の下をくぐりてベースに達すること必要なり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
一方平家は、室山、水島の合戦で源氏を破り士気大いにあがるとともに、各地の軍勢が傘下に集って、その勢力はいちじるしくのびてきたのであった。
勿論もちろん旋風つむじかぜつねとて一定いつてい方向ほうかうはなく、西にしに、ひがしに、みなみに、きたに、輕氣球けいきゝゆうあだか鵞毛がもうのごとく、天空てんくうあがり、さがり、マルダイヴ群島ぐんたううへなゝめ
その黒い中に敵の弾丸は容赦なく落ちかかって、すべてが消え失せたと思うくらいい煙が立ちあがる。いかる野分は横さまに煙りを千切ちぎってはるかの空にさらって行く。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしは此詩句を取つて、しばらみだりしもの如くに解する。霞亭の学術は前年癸亥にほゞ成つた。歳晩の舟遊は、その新に卒業してあがきようがうなる時に於てせられた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
幕はあがった。揚幕あげまくの霞をづる、玉にあやなす姿とともに、天人が見はるかす、松にかかった舞台の羽衣のにしきには、脈打つ血が通って、おお空の富士の雪に照栄てりはえた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どの町を歩いても、軒ごとに門松や輪飾りが綺麗に出来あがって、新しい春がもう来たようであった。羽子板を突いているわかい娘たちの顔にも待ち遠しい色があった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その時来た勅使(安倍沙美麿さみまろ)が、「朝なさなあがる雲雀になりてしか都に行きてはや帰り来む」(巻二十・四四三三)という歌を作ったのでそれに和したものである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
訊き終ると喬介は、広告気球バルーンのロープに着いてあがって行く切り抜きの広告文字サインを見詰めた。
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
あがらなくても骨が折れるけれど、斯う好く揚られると持っているのに却って骨が折れる。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
空っ風が強くて、黄色な砂塵すなぼこりあがっていた。雪が来る前には乾くものだ。道は乾き切って割れている処さえあった。小高い丘の船問屋の高い竿のさきに赤い旗が翻々ひらひらひらめいている。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
常に飄然ひようぜんとして、絶えて貴族的容儀を修めざれど、おのづからなる七万石の品格は、面白おもてしろ眉秀まゆひいでて、鼻高く、眼爽まなこさはやかに、かたちきよらあがれるは、こうとして玉樹ぎよくじゆの風前に臨めるともふべくや
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
是丈これだけあがったって手習丈の物はなくても宜いから無闇に手間賃を出してお遣んなさいよ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
薔薇ばら色に一ぷくいている中流の水靄みずもやの中を、鐘ヶ淵へ石炭を運ぶ汽艇附の曳舟が鼓動の音を立てて行く。かもめの群が、むやみに上流へ押しあげられては、飛びあがって汐上げの下流へ移る。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのとき黄金の光りは此方こちら——丘の裾の長く伸びた耕地にまで輝き渡って来た。畑地の方の薄い靄を含んだ水のような空には、もう雲雀ひばりが高くあがって、今日一日の歓喜を前奏しつつあった。
(新字新仮名) / 犬田卯(著)
強い風が吹いて濛々とほこりあがる、その中に雲雀の声がする、というのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
国重は師の名を犯せしが名声あがらざりしかば幾何いくばくもなくして業を廃せしといふ。その作もとより初代豊国に比する事あたはざれど今日に至りてこれを見れば同門の国貞国政くにまさらと並びて更に軒輊けんちなし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
即ち日華にっか事変が最高潮に達していた頃の話である。英領南アフリカ喜望峰の近くに、東倫敦イースト・ロンドンという小さい漁港がある。その西方数マイルの海底から、トロール網にかかって、不思議な魚があがって来た。
北風の吹く冬の空に、たこが一つあがっている。その同じ冬の空に、昨日もまた凧が揚っていた。蕭条しょうじょうとした冬の季節。凍った鈍い日ざしの中を、悲しく叫んで吹きまく風。硝子ガラスのように冷たい青空。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
お光は店をあがって、脱いだ両刳りょうぐりの駒下駄こまげたと傘とを、次の茶の間を通り抜けた縁側のすみの下駄箱へしまうと、着ていた秩父銘撰ちちぶめいせん半纏はんてんを袖畳みにして、今一間茶の間と並んだ座敷の箪笥たんすの上へ置いて
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
なんにんときとしては何萬人なんまんにんかずへられ、お賽錢さいせんだけでもなんゑんといふあがだかで、それにれていままではさびしかつた田舍道ゐなかみちに、のきならべる茶店ちやみせやら賣店ばいてんやら、これも新築しんちく三百餘軒よけんたつしたとは
帰朝後はチョットした出張以外には福岡を離れる模様もなく、毎日毎日大学に腰弁をきめ込んでいるうちに、間もなく助教授から教授に進む。引続いて色々な難事件を解決する。名声はいよいよあがる。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
羽ばたくやうに舞ひあがる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
一瞬、副将の吉田忠左衛門が、あっと、何かに驚いたのは、その長屋の一軒から、ぼうッと、火の手があがりかけたからである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前に月樵の名誉があがらないといふた事について或人はわざわざ手紙をよこして、月樵の名誉の高き事をいふてあつた。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
間もなく萬之助の死骸は、兩國橋の下からあがりました。お銀のうらみを晴した純情の一寸法師は、自分から身を投げて死んだことは言ふまでもありません。
たこひました。とうさんが大急おほいそぎでいとしますと、たこ左右さいうくびつたり、ながかみをヒラ/\させたりしながら、さも心持こゝろもちよささうにあがつてきました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
露伴氏は片手で水にひたした兵児帯を引張りあげた。大きな鱸が幾尾いくひきかぴち/\跳ねながらあがつて来た。
五位は、風采のはなはだあがらない男であつた。第一背が低い。それから赤鼻で、眼尻が下つてゐる。口髭は勿論薄い。頬が、こけてゐるから、あごが、人並はづれて、細く見える。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たゞる、海蛇丸かいだまる船首せんしゆよりは、閃々せん/\ながるゝ流星りうせいごと爆發信號ばくはつしんがうあがつた、この信號しんがう他船たせん注意ちうゐ喚起くわんきする夜間信號やかんしんがう大膽不敵だいたんふてきなる海賊船かいぞくせんは、いま何故なにゆゑその信號しんがうげて
不安ふあん段々だん/\あがつてた。それ打消うちけさうとするそばから、「あの始終しゞうひと顔色かほいろんでゐるやうなそこには、何等なんらかの秘密ひみつひそんでゐるにちがひない。」と私語さゝやくものがある。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
弘法様こうぼうさまで花火のあがったよいは、縁近く寝床をらして、横になったまま、初秋はつあきそら夜半近やはんぢかくまで見守っていた。そうして忘るべからざる二十四日の来るのを無意識に待っていた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
古渡は風采ふうさいあがらず、挙止迂拙うせつであったので、これとまじわるものはほとんど保一人いちにんのみであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かねて同所に此店の職人が住で居まして、先日得意先から注文された飾物を其職人にあつらえて置きましたところ、一昨日が其出来あがりの期限ですのに、に入るまで届けて来ませんから
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
旦那さまのお死骸が何処を探しても知れねえというのは不思議で、其の癖出なくってもい百姓の清助の死骸ばかりあがったから、私は何うも何んだか水を見ると心持が悪くなりますよ
はたを織るにも畠を打つにも、舟を漕ぐにも馬を曳くにも、働く時にはいつも歌う。朝から晩まで歌っている。行くところに歌のあがらぬことがあれば、そこには若い女がいないのである。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
嫉妬の火炎ほむらき上がりて、おのれ十兵衛恩知らずめ、良人うちの心の広いのをよいことにしてつけ上り、うまうま名を揚げ身を立つるか、よし名のあがり身の立たばさしずめ礼にも来べきはずを
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)