いきどほ)” の例文
後世こうせい地上ちじやうきたるべき善美ぜんびなる生活せいくわつのこと、自分じぶんをして一ぷんごとにも壓制者あつせいしや殘忍ざんにん愚鈍ぐどんいきどほらしむるところの、まど鐵格子てつがうしのことなどである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして、靜子が次の間へ立つた時、『どうだ、仲々いだらう?』と低い聲で言つたのが襖越しに聞こえた。靜子は心にいきどほつてゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
お喜多の父親に對する怨みともいきどほりとも、親しさとも憎さともつかぬ不思議な心持に惱んで居る文次郎は何んと言つて宜いか迷つた樣子です。
ばつする時は以てたるべし一夫いきどほりをふくめば三年雨降ずと云先哲せんてつの語あり百姓は國の寶人の命は千萬金にも換難かへがたし然るを正直しやうぢき篤實とくじつなる九助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
荘田の、思ひ出すだけでも、いきどほろしい面影も、だん/\思ひ出す回数が、少くなつた。鷲鼻の男の顔などは、もう何時の間にか、忘れてしまつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
水島はきつと友達甲斐がないことをいきどほり、狼のやうな血走つた眼となり、長い間の交友関係も粉砕され、牙を鳴らして襲ひかゝつて来るであらう。
塩を撒く (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
さるにても、按摩あんまふえ杜鵑ほとゝぎすに、かしもすべきこしを、むすめいろちようとした。わたしみづかいきどほつてさけあふつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それから良平が陸軍大學の豫備試驗に及第しながら都合上後𢌞はしにされたをいきどほつて、硝子窓を打破つたと云ふ、最後に住むだ官舍の前を通つた。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
かくいさぎよきものの、いかなれば愚昧ぐまい六四貪酷どんこうの人にのみつどふべきやうなし。今夜こよひ此のいきどほりを吐きて年来としごろのこころやりをなし侍る事のうれしさよといふ。
旅から帰つて来てこの出来ごとを耳にした丁蘭は、腹の底からいきどほつた。彼はその足ですぐに隣家に躍り込んでそこに居合せた主人あるじをさし殺してしまつた。
されば傘張の翁は火のやうにいきどほつて、即刻伴天連のもとへ委細を訴へに参つた。かうなる上は「ろおれんぞ」も、かつふつ云ひ訳の致しやうがござない。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
左樣さうであらう、校内かうないいちひとだとおまへつねめたではないか、其人そのひとであるからけつしておまへうらんでぬ、其樣そんことはあるはずがない、いきどほりは世間せけんたいしてなので
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あゝ、世の無情をいきどほる先輩の心地こゝろもちと、世に随へと教へる父の心地と——その二人の相違は奈何どんなであらう。斯う考へて、丑松は自分の行く道路みちに迷つたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
晴着はれぎ場所ばしよへはかない。これはかれさげすみ、かれはこれをいきどほる。こんなことが、一たいあつてよいものか
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
平生へいぜいちんば充分じゆうぶんあしこと出來できないのをいきどほつて、間際まぎはに、今日けふこそおれごとくにしてせるとひながら、わるはうあし無理むりつぺしよつて、結跏けつかしたため
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この何者かの非常に横柄な口調は、其奴そいつが闇で覆面して居るからだと思ふと、彼は非常にいきどほろしかつた。彼はいきなり其処にあつた杖をとると、傘もささずに道の方へ飛び出した。
保雄はかへつて其の連中の独立し得るに至つた事を喜んで別段いきどほる色も見せ無かつた。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
安芸はこれをいきどほつて、十一年に死を決して江戸に上つて訴へることになつた。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
佐保子さほこが私を敵視するやうになり、この間まで僕婢ぼくひのやうであつた兄弟達が物とも思はなくなつたのに、いきどほつてます/\横道へねじれて行つたのも、その時には是非もないことだつたのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
今日の午後ひるすぎ私の出て行つたあとに、かの待合の主婦が訪ねて來て、一時の不屆をいきどほつて、妾宅から追出しはしたものゝ、辛抱する氣さへあれば元通りに圍つてやらうと云ふ先方の意志を傳へ
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
りや何時いつでもさうだ、ぐづ/\してやがつて」勘次かんじなほいきどほつていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いや、重たい、くびの骨が折れて了ひさうだ。ところでればかりじやない、其處ら中に眼に見えぬはりがあつて、始終俺をつついて、いらつかせたり、いきどほらせたり、悶々させたり、ふさがせたりする。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
虞舜ぐしゆん孳孳じじとして善を爲し、大の日に孜孜せんことを思ひ、成湯せいたうまことに日に新にせる、文王のいとまあきいとまあらざる、しう公のして以てたんつ、孔子のいきどほりを發して食を忘るゝ如きは、皆是なり。
その人間の心で、虎としての己の殘虐な行のあとを見、己の運命をふりかへる時が、最も情なく、恐しく、いきどほろしい。しかし、その、人間にかへる數時間も、日を經るに從つて次第に短くなつて行く。
山月記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
もとより彼を信ずればこそこの百年の生命をもまかしたるなれ、くまで事を分けられて、ほしもは偽りならん、一時いちじのがれの間に合せならんなど、疑ふべきせふにはあらず、他日両親のいきどほりを受くるとも
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
何事の侮辱をいきどほる價値も自分にはありさうでなかつた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
事はてむいきどほらくもうつつなり父母よ見よこは正眼まさめなり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
留めて汝返さねばすべての神はいきどほる、 135
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
義雄はいきどほらないではゐられなかつた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
しかすがになほいきどほ
そして、静子が次の間へ立つた時、『どうだ、仲々いだらう?』と低い声で言つたのが襖越しに聞こえた。静子は心にいきどほつてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
水島はきつと友達甲斐がないことをいきどほり、狼のやうな血走つた眼となり、長い間の交友関係も粉砕され、牙を鳴らして襲ひかゝつて来るであらう。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
わがまゝのやうだけれど、銀杏返いてふがへし圓髷まるまげ不可いけない。「だらしはないぜ、馬鹿ばかにしてる。」が、いきどほつたのではけつしてない。一寸ちよつとたびでも婦人をんなである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
内儀のお延はフト舌をすべらせて、あわてて口をつぐみました。聰明さがツイ、女の本能のいきどほりに破れたといふ樣子です。
さうであらう、校内一流いちの人だとお前も常にめたではないか、その人であるから決してお前を恨んで死ぬ、そんな事はあるはずがない、いきどほりは世間に対してなので
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ユダは誰よりも彼自身を憎んだ。十字架に懸つたクリストも勿論彼を苦しませたであらう。しかし彼を利用した祭司のをさたちの冷笑もやはり彼をいきどほらせたであらう。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼のいきどほりと恨みとが、胸の中で煮えくり返つた時だつた。その憤りと恨みとの嵐の中に、徐々に鎌首を擡げて来た一念があつた。それは、云ふまでもなく、復讐の一念だつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
なして居しと語る間も聲をあげなげかなしむ有樣に與惣次はまゆひそめて夫は傳吉が人を殺ししたるに非ず殺したやつは外に有るべししかし憑司が村長を傳吉にうばはれたりと思ひ違ひいきどほりを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大阪は全国の生産物の融通分配を行つてゐる土地なので、どの地方に凶歉きようけんがあつても、すぐに大影響をかうむる。市内の賤民が飢饉に苦むのに、官吏や富豪が奢侈をほしいまゝにしてゐる。平八郎はそれをいきどほつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
私はたれをも恨まぬ、私はたゞ私をいきどほる、私の心を嘆く………
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
ひとり驕傲の威の募るアガメムノーンいきどほ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
ぢいさんはさらひとりいきどほつた語勢ごせいもつていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
泣き、いきどほり、のゝしりぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
怨みといきどほりに燃える顏はゆがんで、キリキリと結んだ唇からは、絲を引いて血が流れます。
それよりして以來いらい——癇癪かんしやくでなく、いきどほりでなく、先生せんせいがいゝ機嫌きげんで、しかも警句けいくくもごとく、弟子でしをならべて罵倒ばたうして、いきほひあたるべからざるときふと、つゝきつて、くばせして
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
女は渠の意に隨はなかつた! 然し乍ら渠は、此侮辱を左程にいきどほつては居なんだ。醫者の小野山! 彼奴が惡い、失敬だ、人を馬鹿にしてる。何故アノ時顏を出しやがつたか。馬鹿な。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
手紙を読んだ刹那の陶酔から、醒めるに従つて、夫人に対するいきどほろしい心持が、また信一郎の心に甦つて来た。かうした、人の心に喰ひ込んで行くやうな誘惑で、青木淳を深淵へ誘つたのだ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ありしは何時いつの七せき、なにとちかひて比翼ひよくとり片羽かたはをうらみ、無常むじようかぜ連理れんりゑだいきどほりつ、此處こヽ閑窓かんさうのうち机上きじやう香爐かうろえぬけふりのぬしはとへば、こたへはぽろり襦袢じゆばんそでつゆきて
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ユウゴオ咈吁ふつくとして答ふらく「天才なり」と。バロツシユその答にやいきどほりけん傍人ばうじんささやいて云ひけるは、「このユウゴオ氏も聞きしにまさる狂人なり」と。仏蘭西フランス台閣だいかくまた這般しやはんの俗漢なきにあらず。
父に對していきどほりドウリキオンに退きき。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)