宿しゆく)” の例文
一体いつたい東海道とうかいだう掛川かけがは宿しゆくからおなじ汽車きしやんだとおぼえてる、腰掛こしかけすみかうべれて、死灰しくわいごとひかへたから別段べつだんにもまらなかつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つけ走るとき鳴り響きて人をけさするやうにして有り四挺の車にやつの金輪リン/\カチヤ/\硝子屋びいどろやが夕立に急ぐやうなり鹽灘の宿しゆく
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
いまにも自分じぶんんでゐる宿しゆくが、四方しはうやまからながれてあめなかかつて仕舞しまひさうで、心配しんぱいでならなかつたとはなしをした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
山の茶屋から壜詰を取つてゐては高くつくからと言ひながら爺さんは毎日一里半餘りの坂路を上下して麓の宿しゆくの酒屋から買つて來る事にした。
山寺 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
手前たちも覚えてゐるだらうが、去年の秋の嵐の晩に、この宿しゆくの庄屋へ忍びこみの、有り金を残らずさらつたのは、誰でも無えこのおれだ。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「三十日。晴。朝飯より人車三乗に而出立。亀の甲より歩行。又弓削ゆげより人車。福渡ふくわたりより駕一挺。夕七時前あひ宿しゆく久保に而藤原沢次郎へ著。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
昔この宿しゆくに遊女がゐてその墓の一とむれがいまも殘つてゐるさうだが、といつて、その墓のありどころを尋ねてくる學者らしい外人などもゐた。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
(三嶋郡とする説もあり)家持やかもちの哥に「ゆきかへるかりのつばさをやすむてふこれや名におふうら長浜ながはま」▲名立なだち 同郡西浜にしはまにあり、今は宿しゆくの名によぶ。
やがて、日本橋人形町の芝居小屋が淺草猿若町に移轉すると、吉原、觀音樣地内、芝居茶屋、舟宿、柳橋、兩國の盛り場と石濱、山の宿しゆく側は流れて來て
大川ばた (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
本山とす出羽國ではのくに羽黒山派はぐろさんは天台宗てんだいしうにて東叡山とうえいざん品親王ぽんしんわうを以て本山と仰ぎ奉る故に山伏とは諸山しよざん修行しゆぎやう修學しゆがくの名にて難行苦行なんぎやうくぎやうをして野に伏し山に宿しゆく戒行かいぎやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
足利尊氏は途中近江あふみかゞみ宿しゆくにて、密勅を蒙るや、之を秘して、何気なく京都を通り、丹波に入つて、足利氏の所領たる篠村八幡宮祠前に於て、勤皇の旗を挙げ
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
六十六部に身を扮装やつして直江志津の一刀を錫杖に仕込み、田川より遠賀をんが川沿ひに道を綾取あやどり、福丸といふ処より四里ばかり、三坂峠を越えて青柳の宿しゆくに出でむとす。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やがてナブルスに着き、羅甸らてん派の精舎しやうじや宿しゆくす。総じてパレンスタインの僧舎は、紹介状だに持参せば、旅客を泊むる仕組にて、此処にも幾個の客床かくしやうを設けあり、食堂もそなはる。
まぎれもない、夕刻藤澤の宿しゆくの入口で、しやくを起して苦しんでゐた女——、水をくんで來るうちに、行方不明になつた女——、平次の頸にかけた、財布さいふひもを切つて拔いた女——。
さてこれから船見ふなみ峠、大雲取おほくもとりを越えて小口こぐち宿しゆくまで行かうとするのであるが、僕に行けるかどうかといふ懸念があるくらゐであつた。那智権現ごんげんに参拝し、今度の行程について祈願をした。
遍路 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
用人は急いで品川の宿しゆくまで出掛けて往つて、茶人の一行を待ち受ける事にした。
軒並は旅籠の名のみゆゆしくてこの追分の宿しゆくも荒れたり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
智山 冬の日のくれぬうちに大津おほつ宿しゆくまで。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
からすき宿しゆく、みつぼしや、三角星さんかくせい天蝎宮てんかつきう
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
星影ほしかげ夜天やてん宿しゆくにかがやけども
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
篠原しのはら宿しゆくに着かせ給ふ
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天上てんじやう二十八宿しゆく連錢れんぜん
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
あと宿しゆくあたりになにもよほしがあつて、其處そこばれた、なにがしまちえりぬきとでもふのが、ひとさきか、それともつぎえきかへるのであらう。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし、牡丹屋は、——といふより、この古い宿しゆく全體がいよいよいけなくなるばかりだつた。——そこへ鐵道が出來た。が、村は素通りをされる。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
(三嶋郡とする説もあり)家持やかもちの哥に「ゆきかへるかりのつばさをやすむてふこれや名におふうら長浜ながはま」▲名立なだち 同郡西浜にしはまにあり、今は宿しゆくの名によぶ。
して足早に行過しも可笑をか御嶽みたけ宿しゆくにて晝食ちうじきす此に可兒寺かにでらまた鬼の首塚などありと聞けど足痛ければ素通りときめて車を走らす是より山の頂の大岩道を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
安井やすゐわらひながら、比較ひかくのため、自分じぶんつてゐるある友達ともだち故郷こきやう物語ものがたりをして宗助そうすけかした。それは淨瑠璃じやうるりあひ土山つちやまあめるとある有名いうめい宿しゆくことであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
東海道五十三次のうち丸子の宿しゆくはとろゝの名物と云ふことをば古い本でも見、現在でも作つてゐることを人から聞いてゐた。そのとゝろ汁が私は大の好物である。
府中の宿しゆくをはづれると、堅気らしい若え男が、後からおれに追ひついて、口まめに話しかけやがる。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
畜生ちくしやうひとしと云己等如き恩もなさけも知らぬいぬおとりし者はわすれしやも知れず某しはもと相摸さがみの國御殿場ごてんば村の百姓條七がなれのはてなり抑其方は勘當かんだううけし身にて一宿しゆくとまる家さへなきを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
狐につまゝれたやうな心持で、藤澤の宿しゆくに入ると、旅籠だけは思ひ切りはずんで、長尾屋長右衞門の表座敷を望んで通して貰ひましたが、足を洗つて、部屋に通ると、懷中へ手を入れた平次は
冬の宿しゆく屋内やぬち暗きに人居りて木蓼またたびむかひそと木蓼またたび
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
からすき宿しゆく、みつぼしや、三角星さんかくせい天蝎宮てんかつきゆう
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
小助こすけ前途ゆくて見渡みわたして、これから突張つツぱつてして、瓜井戸うりゐど宿しゆくはひつたが、十二時こゝのつしたとつては、旅籠屋はたごやおこしてもめてはくれない。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
どうしても予定の通り国境を越え、信州野辺山が原の中に在る板橋の宿しゆくまで行かうといふ。
木枯紀行 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
そのうち、村の南にある谷間に夏場だけの假停車場ができ、使ひ古しの乘合馬車が一臺きりで、松林の中を伐りひらいた道をとほり、そこと宿しゆくとの間を往復するやうになつた。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
下る身はならはしの者なるかな角摩川かくまがはといふを渡りて望月もちづき宿しゆくるよき家並やなみにていづれも金持らしこゝは望月の駒と歌にも詠まるゝ牧の有し所にて宿しゆくの名も今は本牧ほんまきと記しあり。
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
冬の雪はやはらかなるゆゑ人の蹈固ふみかためたるあとをゆくはやすけれど、往来ゆきゝ旅人たびゝと宿しゆくの夜大雪降ばふみかためたる一すぢの雪道雪にうづまみちをうしなふゆゑ、郊原のはらにいたりては方位はうがくをわかちがたし。
山の宿しゆくの家へ行つて見るまでもあるまいと、黒船町で別れて、ブラリ/\と引返すと、後ろからやつて來た人間が、れ違ひ樣、あつしの襟髮に手を掛けて、阿身陀樣に背負はれたと思つたら
こひしに内よりは大音にて何者なにものなるや内へ這入はいるべしといふ吉兵衞大いによろこび内へ入りて申やう私し儀は肥後國ひごのくに熊本の者なるが今日の大雪おほゆきみち踏迷ふみまよ難澁なんじふいたす者なり何卒なにとぞなさけにて一宿しゆくぱん御惠おんめぐみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それはこの宿しゆくの本陣に当る、中村と云ふ旧家の庭だつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
去年こぞ今年ことし国の禍事まがごとしきりなり夜天の宿しゆくぬさ奉る
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あひ宿しゆくで、世事せじよういさゝかもなかつたのでありますが、可懷なつかしさあまり、途中とちう武生たけふ立寄たちよりました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
止むなく彼の言ふ所に従つて、心残りの長沢の宿しゆくを見捨てた。また、先々の打ち合せもあるので予定を狂はす事は不都合ではあつたのだ。路はこれからとろ/\登りとなつた。
木枯紀行 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
我が隣駅りんえきせきといふ宿しゆくにつゞきて関山せきやまといふ村あり、此村より魚野うをの川をわたるべきはしあり。流れきふなればわづか出水でみづにも橋をながすゆゑ、かりつくりたる橋なれど川ひろければはしもみじかからず。
夜天やてん宿しゆくさゝへつゝ
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
近江あふみくに山越やまごしに、づるまでには、なか河内かはち芽峠めたうげが、もつとちかきはまへに、春日野峠かすがのたうげひかへたれば、いたゞきくもまゆおほうて、みちのほど五あまり、武生たけふ宿しゆくいたころ
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
宿しゆくはづれの小川の橋際に今は唯だ一軒だけで作つてゐるといふとろゝ汁屋にとろゝを註文しておいて其處から右折、四五町して吐月峯に着いた。先づ小さな門を掩うてゐる深々しいたかむらが眼についた。
白須賀は昔の宿しゆく
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
なまじ所帶持しよたいもちだなぞとおもふからよくます。かの彌次郎やじらうめる……いかい——めしもまだはず、ぬまずを打過うちすぎてひもじきはら宿しゆくにつきけりと、もう——つつけ沼津ぬまづだ。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)