かわ)” の例文
太祖崩じて、抔土ほうど未だかわかず、ただちに其意を破り、諸王を削奪せんとするは、れ理において欠け情に於て薄きものにあらずして何ぞや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
りたてのかべ狹苦せまくるしい小屋こや内側うちがはしめつぽくかつくらくした。かべつち段々だん/\かわくのが待遠まちどほ卯平うへい毎日まいにちゆかうへむしろすわつてたいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一月ひとつきばかりの間、雨は一粒も降らず、ぎらぎらした日が照って、川の水はかれ、畑の土はまっ白にかわき、水田みずたまで乾いてひわれました。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あゝ、のよろこびのなみだも、よる片敷かたしいておびかぬ留守るすそでかわきもあへず、飛報ひはう鎭守府ちんじゆふ病院びやうゐんより、一家いつけたましひしにた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼は、自然に泣きおさまるまで、自分を泣かせて、やがて、嗚咽おえつが止まると、忘れたように、けろりと、太陽に顔をかわかしている。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて五月雨さみだれのころにでもなろうものなら絶え間なく降る雨はしとしと苔に沁みて一日や二日からりと晴れてもかわくことではなく
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
良平はひとりいらいらしながら、トロッコのまわりをまわって見た。トロッコには頑丈がんじょうな車台の板に、ねかえった泥がかわいていた。
トロッコ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのうちに、乞食こじきは、いってしまったようです。しばらくしてから、おくさまは、帽子ぼうしかわいたろうかとまど障子しょうじけられました。
奥さまと女乞食 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そんなことがあるかも知れない。それにしても、少し變だよ、——第一手拭が濡れ過ぎて居る——朝までかわかずに居た位だから」
二人ふたりはすでにかわける砂を踏みて、今日のなぎ地曳じびきすと立ち騒ぐ漁師りょうし、貝拾う子らをあとにし、新月なりの浜を次第に人少なきかたに歩みつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
奥筋の方から渦巻うずまき流れて来る木曾川の水は青緑の色に光って、かわいたりぬれたりしている無数の白い花崗石みかげいしの間におどっていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さしも遣る方無くかなしめりし貫一は、その悲をたちどころに抜くべきすべを今覚れり。看々みるみる涙のほほかわけるあたりに、あやしあがれる気有きありて青く耀かがやきぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この菌は狐のたいまつなどが、湿っぽい土地に一人ぽっちで立っているのと違って、少しかわいたところに、大勢の仲間と一緒に出ている。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
挨拶あいさつを交わして、そのままそこで立ち別れた。日はもうとっぷり暮れて、寒い寒いかわいた夕風が薄暗うすやみの中を音もなく吹いていた。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
小路こうぢ泥濘ぬかるみ雨上あめあがりとちがつて一日いちんち二日ふつかでは容易よういかわかなかつた。そとからくつよごしてかへつて宗助そうすけが、御米およねかほるたびに
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
タネリがゆびをくわいてはだしで小屋こやを出たときタネリのおっかさんは前の草はらでかわかしたさけかわぎ合せて上着うわぎをこさえていたのです。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かわききった土地の上の水のようなものだった。いかに彼は金を受け取っても、手には一文もなかった。そういう時、彼は身の衣をもはいだ。
余輩よはいはんとほつするところのものは』と憤激ふんげきしてドードてうひました、『吾々われ/\かわかせる唯一ゆゐいつ方法はうはふ候補コーカス競爭レース西洋せいやうおにごつこ)である』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
花中かちゅう多雄蕊たゆうずいと、細毛さいもうある二ないし五個の子房しぼうとがあり、子房は花後にかわいた果実となり、のちけて大きな種子があらわれる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
妻は夜更よふけに彼を外に誘った。一歩家の外に出ると、白いほこりをかむったトタン屋根の四五軒の平屋が、その屋根の上にかわききった星空があった。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
「早クイテヤラナイト風邪ヲ引ク、済マナイガ手伝ッテクレタマエ」ト云ッテ、二人デかわイタタオルヲ持ッテレタ体ヲ拭キ取ッテヤッタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
咽喉のどかわいて引付ひッつきそうで、思わずグビリと堅唾かたずを呑んだ……と、段々明るくなって、雪江さんの姿が瞭然はっきり明るみに浮出す。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お許しをかわくように望みながら、実際においてはいよいよ許されぬ、悪虐の殺人を行なって、彼は旅をしていたのであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かわけば素焼のように素朴な白色を現した。だが、その表面に一度爪が当ったときは、この湿疹しっしん性の白癬はくせんは、全図を拡げて猛然と活動を開始した。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
家のまわりには油をいた傘のまだかわかないのが幾本となくしつらねてある。清三は車をとどめて、役場のあるところをこの中爺にたずねた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
花瀬は次第にやつるるのみにて、今は肉落ち骨ひいで、鼻頭はなかしら全くかわきて、この世の犬とも思はれず、頼み少なき身となりけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ただ、心が祈り得ない時——(そういうこともあった)——心がかわききってしまったようなときは、そうはいかなかった。
なんどもまちかどをまがって、めくらめっぽうげていくうちに、足のうらのぬれていたのがかわいてきて、足あとがはっきりつかなくなってきた。
祗園會が了り秋もふけて線香をかわかす家、からし油をしぼる店、パラピン蝋燭を造る娘、提燈の繪を描く義太夫の師匠
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
四つめには「塩物ばかりではのどかわく、刺身さしみを」といいだす。乞食こじきのごとき者でさえも、その欲望を満たそうとすれば、どこまで行っても満足せぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
やがてかすかに病人のくちびるが動いたと思うと、かわいた目を見開いて、何か求むるもののようにひとみを動かすのであった。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
その前日から水がなくって困って居ったから非常に喉がかわいて実にえられない。宝丹などを口に入れてようやく渇きを止めて居るがどうしてもいかない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
旦暮あけくれ御折檻おせつかん遊ばし日夜おんなみだかわく間もなく誠に/\御愍然いぢらしく存じ上參らせ候それに付御先代せんだいよりの御用人しうと御相談さうだん申上去る十二月廿二日の夜御二方樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かわき切った天気へこの北風、大事にならねば好いがと、人々は心配をしている間もあらばこそ、火は真直に堀田原、森下の方向へ延びて焼き払って行く。
すると、敷布しきふれても、からだのぬくもりで、かわくのに手間はかからない。これまでの経験で、そうすりゃきっと、かあさんに見つからずにすむだろう。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
運平老はそう言って、いま描きあげたばかりの、まだ墨のかわかない絵を、以前のと並べて壁にとめた。その前に坐って、しばらく一心に見つめていたが
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そういう折に私はそれの落葉にまじった図抜けて大きな枯葉をうっかりと踏んづけたりしてそれの立てるかわいた音に非常にさびしい思いをしたものだった。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そこで私の買い集めた貧しい参考品を資料として勝手な方法を種々工夫して見たのでありますがなかなか思うさま絵具がのびなかったり、かわきにくかったり
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
六本木の停留場で降り、龍土町りゅうどちょうの近藤氏の家の方へ歩いて居る時には、譲吉の涙は忘れたように、かわいて居た。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そしてすっかり情態が一変していた。町には平凡な商家が並び、どこの田舎にも見かけるような、疲れた埃っぽい人たちが、白昼のかわいた街を歩いていた。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
私の大好きな場處は、小川のちやうど中程に白々とかわいて現はれてゐる、なめらかな大きな石の上で、其處へは水の中を跣足はだしわたつて行くより外はなかつた。
次へ廻ると、ゴム糊のかわかぬほどの速度で、その花びらを一つ置きに張ってゆく。すると台のない提灯ちょうちんのようなものが出来る。これが一役で、四五人でやる。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
墨をって、細筆を幾たびらしても、筆さきもすずりの岡も、かわいて、墨がピカピカ光ってしまうだけだった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
空は暗くくもって、囂々ごうごうと風がいていた。水の上には菱波ひしなみが立っていた。いつもは、もやの立ちこめているようなあししげみも、からりとかわいて風に吹きれていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
彼は自分自身が割合に落ち着いていることを感じた。胸はしかし割れるかと思われるほどに動悸どうきを打っていた。顔色はおそらく白っぽくかわいていたことであろう。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
縁から見ると、七分目にった甕の水がまだ揺々ゆらゆらして居る。其れは夕蔭に、かわかわいた鉢の草木にやるのである。稀には彼が出たあとで、妻児さいじが入ることもある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
うめはもと/\土地とちかわいた日當ひあたりのよいところにてきし、陰地かげちには、ふさはないですから、梅林うめばやしつくるには、なるべく南向みなみむきで土地とち傾斜けいしやしたところがよいのです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
○そも/\我郷わがさと雪中の洪水こうずゐ、大かたは初冬と仲春とにあり。このせきといふしゆくは左右人家じんかまへ一道ひとすぢづゝのながれあり、すゑ魚野川うをのかはへ落る、三伏さんふくひでりにもかわく事なき清流水せいりうすゐ也。
そして、とうとうしまいには、みんなをすっかりつつんでしまいました。でも、煙のようなにおいはしません。そして黒くも、かわいてもいず、白くて、しめっています。
もしもカステラが膨れないで中央がへこんで餅のように固くなったなら火が強過ぎて膨らまないのですし、ニチャニチャしてかわかないのは火が弱過ぎてよく焼けないのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)