途中とちゅう)” の例文
「蝗君。大旅行家。ではさよなら。用心をしたまえ——途中とちゅうでいたずらっ子につかまってその美しいあしをもがれないように。失敬。」
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
ぼくは学校から帰る途中とちゅうたびたびカムパネルラのうちに寄った。カムパネルラのうちにはアルコールラムプで走る汽車があったんだ。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
二人ふたりは、そこでかなしいわかれをしました。びっこのむすめは、ひとり山道やまみちあるいてかえります途中とちゅうみちばたのいしうえこしをかけてやすみました。
日がさとちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
たび途中とちゅうで、煙草畑たばこばたけに葉をつんでいる少女にった。少女はついこのあいだ、おどしだにからさとへ帰ってきた胡蝶陣こちょうじんのなかのひとり。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
来る途中とちゅう小間物屋で買って来た歯磨はみがき楊子ようじ手拭てぬぐいをズックの革鞄かばんに入れてくれた。そんな物は入らないと云ってもなかなか承知しない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれどその途中とちゅうで、うちの子は授業料じゅぎょうりょう免除めんじょしてもらってるのだったっけ、と思い出した。さわぎをちあげるわけにかなかった。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
そののち新院しんいんはおとらわれになって、讃岐さぬきくにながされ、頼長よりながげて途中とちゅうだれがたともしれないられてにました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
私はいつかこんなところをひょっくり昔の女友達にでも出会いはしないかと一人で気をんでいたが、ときどき、そんな散歩の途中とちゅう
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
浪打際なみうちぎわあるいたようにかんじたのはホンの一瞬間しゅんかん私達わたくしたちはいつしか電光でんこうのように途中とちゅうばして、れいのおみや社頭しゃとうっていました。
「ここだよお! おれが大通りで見つけたものを見てくれ」そう言いながら、途中とちゅうで見つけてきた、死んだカラスを見せました。
おばさんは、夜更けを待って、裏口から質屋へ行く途中とちゅうででもあったのであろう。おばさんの帯の間から質屋の通いがおちた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ひとしきり笑いさざめいたあげく、ともかく学校へ向かった。途中とちゅうで出あう人たちは、いちいち見舞みまいのことばをおくった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
牛丸少年の方は、途中とちゅうで手間どっていた。というのは、東道では、途中で丸木橋まるきばしが落ちていて、そのため彼は大まわりしなくてはならなかった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
片道一里もあるところをたった二合ずつ買いによこされて、そして気むずかしい日にあ、こんなに量りが悪いはずはねえ、大方おおかた途中とちゅうで飲んだろう
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
朝倉夫人は、話の途中とちゅうで、みんなの昼飯の用意をするために、本館の炊事場のほうに行ったが、行きがけに次郎に言った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
いまも、えきからのかえり道で、いつもとおなじようにホールは途中とちゅうで、さんざん世間話せけんばなしあぶらを売ってきたところである。
いま小初はだまって「一」の動作を初めたが、すぐ思い返して途中とちゅうからの「二」と号令をかけ跳び込みの姿勢を取った。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
照彦てるひこ様はまもなく台所で見つかって、お母様のお部屋へやへ引かれてゆく途中とちゅう小間使こまづかいの手のこうに歯あとの残るほどかみついて、また一つつみがふえた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
王はおんみずか太刀たちふるって防がれたけれども、ついにぞくのためにたおれ給い、賊は王の御首みしるしと神璽とをうばってげる途中とちゅう、雪にはばまれて伯母おばみねとうげに行き暮れ
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたしは一遍いっぺんに酔いがさめた。とはいえ、家へもど途中とちゅうで、わたしはやはり、ニワトコのかげの例のベンチのそばへ行って、ジナイーダの寝室しんしつの小窓を見上げた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ニールスは、讃美歌さんびかの本をさがしだして、ひくい声で二つ三つ読みはじめました。ところが、読んでいるさいちゅうに、とつぜん、途中とちゅうでやめてしまいました。
いくつもの大牧場を通って——途中とちゅうでだいぶ自動車をめた露骨ろこつなランデェブウにもお目にかかりました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
……マーキューシオーの親戚しんせきのパリス殿どのぢゃ! うまって途中とちゅう家來けらいめがなんとかうた
今時分いまじぶん、おせんがいないはずはないから、ひょっとすると八五ろうやつ途中とちゅうだれかにって、道草みちくさってるのかもれぬの。堺屋さかいやでもどっちでも、はやればいいのに。——
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
袖子そでこは、その心配しんぱいから、子供こども大人おとなの二つの世界せかい途中とちゅう道端みちばたいきづきふるえていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
甚兵衛じんべえは馬を雪にあてないように、途中とちゅう立場茶屋たてばちゃやに二三時間休みますと、幸いにも雪が止みましたので、これならば泊まってゆくにも及ばないと思って、急いで家に帰りかけました。
天下一の馬 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
警部けいぶはなしたのは、金魚屋きんぎょや笹山大作ささやまだいさく申立もうしたてについてである。途中とちゅうまで平松刑事ひらまつけいじはだまつていた。そして、ランチュウが老人ろうじんうちとどけられたのは、お節句せっくあさだとわかつたとたんに
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
それからもしそのお雑巾次手ついでにずッぷりおしぼんなすって下さるとたすかります、途中とちゅうで大変な目にいましたので体を打棄うっちゃりりたいほど気味が悪うございますので、一ツ背中をこうと存じますが
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巨男おおおとこは、みやこへのぼろうと思いました。途中とちゅうでどうかして、白鳥になみだを流させようとしました。頭をたたいたり、おしりをつねったりしたのです。けれど白鳥は、けっして一てきさえなみだを出しませんでした。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ぼくは学校から帰る途中とちゅうたびたびカムパネルラのうちにった。カムパネルラのうちにはアルコールランプで走る汽車があったんだ。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのうち、車掌しゃしょうが、切符きっぷりにきて、一人ひとりおとこまえで、なにかあらあらしくいっていたが、そのおとこを、途中とちゅうからおろしてしまった。
かたい大きな手 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひとりの男の子はまだッけえうちに、伊勢いせまいりにいった途中とちゅうでかどわかされ、たったひとりのこっていたむすめは……その娘は……
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その途中とちゅう、山の上にさしかかりますと、いままでからりとがってあかるかった青空あおぞらが、ふとくもって、そこらがうすぼんやりしてきました。
白い鳥 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
岬へ赴任ふにんときまったとき、はたと当惑とうわくしたのはそれだった。途中とちゅうまであったバスさえも、戦争中になくなったまま、いまだに開通していない。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
そんなこといまして、途中とちゅうわたくしとすれちがときなどは、土地とちおとこおんなみななみだぐんで、いつまでもいつまでもわたくし後姿うしろすがた見送みおくるのでございました。
たまりかねてその子家鴨こあひる自分じぶん棲家すみかをとびしてしまいました。その途中とちゅうさくえるときかきうちにいた小鳥ことりがびっくりしてったものですから
途中とちゅう帽子ぼうしを失いたれどあがなうべき余裕よゆうなければ、洋服には「うつり」あしけれど手拭てぬぐいにて頬冠ほおかぶりしけるに、犬のゆることはなはだしければ自ら無冠むかん太夫たゆうと洒落ぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして、みんなは、途中とちゅうで一休みするために、きまってエーランド島へ立ちよるのだそうです。だから、エーランド島へいく道は、すぐにわかるという話でした。
「せっかく、たすけて頂いたようなものの、行先の覚束おぼつかなさ、途中とちゅう難儀なんぎ、もう一足も踏み出す勇気はございません。いっそこの川へ身を投げて死にとうございます」
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
途中とちゅう、サンキスト・オレンジのたわわに実る陽光まばゆい南カルホルニアの平野を疾駆しっく、処々に働いている日本人農夫の襤褸ぼろながらも、平和に、尊い姿を拝見はいけんしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
現に君らは、今朝の板木の音の調子が途中とちゅうから変わったことで、それがわかっただろうと思う。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
このいきおいで、あと一時間ばかり走らなければならないが、途中とちゅう、ベルギー兵かフランス兵にとがめられたとすると、人造人間にのった私たちは、化物かスパイ扱いにされて
人造人間の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
控所へくれば、すぐ、うらなり君が眼に付く、途中とちゅうをあるいていても、うらなり先生の様子が心にうかぶ。温泉へ行くと、うらなり君が時々あおい顔をして湯壺ゆつぼのなかにふくれている。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
番頭ばんとう幸兵衛こうべえは、帳付ちょうづけふでして、あわてて暖簾口のれんぐちかおしたが、ひと徳太郎とくたろう姿すがたるとてっきり、途中とちゅう喧嘩けんかでもしてたものと、おもんでしまったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
みんな心配しんぱいしました。マサちゃんが気狂きちがいになったのだと思いました。そしてむりに、うちれかえりました。途中とちゅうでも、マサちゃんは風にむかって、「ばか、ばかー」とどなっていました。
風ばか (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
お母様の前をひきさがってお部屋へやへもどる途中とちゅう照彦てるひこ様は内藤君をかたで押してきた。内藤君は知らん顔をしていた。この上喧嘩けんかを買いたくない。その中に照彦様は正三君の肩に手をかけて
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
やっと一人ひとりだけ通れるか通れない位の、せまい、小さな坂道を上って行こうとした途中とちゅうで、私はその坂の上の方から数人の少女たちが笑いさざめきながらけ下りるようにして来るのに出遇であった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
津村は何日に大阪を立って、奈良ならは若草山のふもと武蔵野むさしのと云うのに宿を取っている、———と、そう云う約束やくそくだったから、こちらは東京を夜汽車で立ち、途中とちゅう京都に一泊して二日目の朝奈良に着いた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
きたうみほうにすんでいたかもめは、ふとしておもいたってみなみほうへとんできました。途中とちゅうでにぎやかなまちしたほうにあるのをました。
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
教会へ行く途中とちゅう、あっちの小路からも、こっちの広場からも、三人四人ずついろいろな礼装をした人たちに、私たちは会いました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)