またゝ)” の例文
行燈あんどん丁子ちやうじが溜つて、ジ、ジとまたゝきますが、三人の大の男は瞬きも忘れて、互ひの顏を、二本の徳利を、うつろな眼で見廻すのです。
まだまつたてないけむり便宜よすがに、あからめもしないでぢつときをんな二人ふたりそろつて、みはつて、よつツのをぱつちりとまたゝきした。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
教場で背後から何ほど鉛筆で頸筋くびすぢを突つつかれようと、靴先でかゝとられようと、眉毛一本動かさずまたゝき一つしなかつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
一寸二寸とまたゝうちに茎が伸びたと思ふと、最後に小さい花がぱつと開く。ゐざりを立たせた基督だつて、これ以上の不思議は出来まいと思はれる程だ。
私は直ちに準備にいそがしかつた。二週間はまたゝく間にたつてしまつた。私は、たいして大きな衣裳箪笥は持たなかつた。けれども、それで十分に合つた。
にちいた疾風しつぷうはたちからおとしたら、西にしそら土手どてのやうなくもはしちかすわつて漸次だん/\沒却ぼつきやくしつゝまたゝいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ねずみいぶかしげにあいちやんのはうて、そのちひさい片方かたはうまたゝくやうにえましたが、なんともひませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
またゝきもせず眼を据ゑてこつちを見てゐるのだが、男の顏は恐ろしく平べつたくゆがんで見えた。何とはなしに冷たい氷のやうなものが太田の脊筋を走つた。
(旧字旧仮名) / 島木健作(著)
そして深い闇の底に愼ましくまたゝいて居る星屑を數へては、我等に屬して新しくこの惱ましの世に生れ來るであらう小さな者のために、占ひ祈るのであつた。
雪をんな (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
貴方あなたうらやましいのね」とまたゝきながら云つた。代助はそれを否定する勇気に乏しかつた。しばらくしてから又
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ところどころで、巡査は剣を鳴してやつて来て、そのむれに解散を命じた。一時は群集はあちこちに散つて行つても、またゝく間にまたあとからぞろ/\と続いた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
『此ひとは兄に未練を有つてる!』といふ考へが、またゝく後に靜子の感情を制した。厭はしき怖れが、胸に湧いた。然しそれも清子に對する同情を全くは消さなかつた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
私は頻りにこすつたりまたゝきしたりするのだつたが、徒らに涙のみぽろ/\と溢れ出るばかりだつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
と言ひながら、彼女の顔に見惚みとれるやうな視線を据ゑながら、パチパチと大きなまたゝきをした。
髪の毛と花びら (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
古より東国には未だかつて無い大動揺が火の如くに起つて、またゝく間に無位無官の相馬小次郎が下総常陸上野下野を席捲せきけんしたのだから、感じ易い人の心が激動して、発狂状態になり
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
美しき者こなたに來れり、そのころもは白く、顏はさながらまたゝく朝の星のごとし 八八—九〇
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
吾心頭には稻妻の如く昔のおそろしかりしさま浮びたり。またゝくひまに街の兩側に避けたる人の黒山の如くなる間を、兩脇より血を流し、たてがみそよぎ、口よりあわ出でたる馬は馳せ來たり。
精神の恐ろしいことには、伊之助はまたゝに左の足が痛んで来るという怪談の処はあとに致して、此処でお話が二つに分れて、稻垣小左衞門は百日経っても國綱の一刀の行方が知れず
彼は明かに大根の厚さを計量してゐるらしかつた。そして一二度刀をふり下す拍子を取つて、さつきと同じく「やつ!」と叫ぶと、またゝく間に大根は二つに切断されて床上に散らばつた。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
見かへる鼻先きに眞蒼まつさをになつて痙攣的に震ふ兄の顏があつた。またゝきもせずに大きく彼れを見詰めてる兄の眼は、全く空虚な感じを彼れに與へた。彼れにはそれがうつろな二つの孔のやうに見えた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
しまつたりと退きて畜生ちくしやうめとはまことみつけのことばなり、ものなればおもからぬかさしらゆき往來ゆきかひおほくはあらぬ片側町かたかはまちうすぐらきに悄然しよんぼりとせし提燈ちやうちんかげかぜにまたゝくも心細こゝろぼそげなる一輛いちりやうくるまあり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
身体にへばりついたシャツをはぎとると、背部に最もひどい傷があつた、それはまがふところのない刃物による刺傷だつた。新しい血がはぎとられたシャツの下から、またゝく間にふき出し、したゝり落ちた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
秋の入り日のまたゝく間に落ちて、山影水光見るが中に變つて行く。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
押へられたるまゝ、梅子はまたゝきもせでにらみ詰めたり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「武士はそんな卑怯なことをするものぢやねえ——と言ひたいが、實は娘が傍にひつ附いて、またゝきする間も離れなかつたんで、へツ、へツ」
おゝ、面魂つらだましひ頼母たのもしい。満更まんざらうそとはおもはん。成程なるほど此方こなたつくつたざうは、またゝかう、歩行あるかう、いやなものにはねもせう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「さう承はつてみれば何とかしてお譲りしたいんだが。」と星島氏は馬のやうにばち/\またゝきをした。
またゝく間に一万の富豪しんだい! だから、村では根本の家をあまり好くは言はぬので、その賽銭箱の切取つた処には今でも根本三之助窃盗と小さく書いてあつて、金を二百円出すから
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
やはらかなはるひかりなさけふくんだまたゝきしながらかれせま小屋こやをこまやかにかやしの隙間すきまからのぞいて卯平うへいすそにもつた。卯平うへいしばらつぶつたまゝたがたぱつちりといた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
自分は力の限り二三度またゝいて見て、そしてまた力の限り目をみはつた。然しダメである。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「ナスの苗、キウリの苗、ヒメユリの苗」といふ聲に變つたかと思ふとまたゝく間に、「ドジヨウはよござい、ドジヨウ」に變り、やがて初夏の新緑をこめた輝かしい爽かな空氣の波が漂うて來て
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
お町はようや安堵あんどして、其の夜は神仏しんぶつがん掛けて、「八百万やおよろずの神々よ、何卒なにとぞ夫文治郎にうてかたきを討つまで、此の命をまっとうせしめ給わるように」とまたゝきもせずの明くるまで祈って居りました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
御大典とそれにつゞく奉祝日はまたゝくまに過ぎ去つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
ひとしくまたゝくに似たるを見たり
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
左には、またゝく赤い灯、右上からは、青白い月、女の顏も肌も、二色に照らし分けられて、その美しさは言ひやうもありません。
飛衞ひゑいいにしへるものなり。おなとき紀昌きしやうといふもの、飛衞ひゑいうてしやまなばんとす。をしへいはく、なんぢまづまたゝきせざることをまなんでしかのち可言射しやをいふべし
術三則 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
女郎買をるばかりではない、悪い山の猟師と墾意につて、賭博ばくちを打つ、喧嘩を為る、茶屋女を買ふ、またゝく間にその残つて居る田地をもこと/″\く人手に渡して、なほ其上に宅地と家屋敷を抵当に
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そして広い玄関のに消え残つた燭台がねむさうにぱちぱちまたゝきをしてゐた。
またゝきもせず修一は懐中から名刺を一枚抜いて出した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
その反動でユラリとなつた小舟の中には、ふなべりにかけた提灯が一つ、淋しくまたゝいて、空つぽになつた船の中を照して居ります。
ひとむかうの廣室ひろまかうと、あへぎ/\六疊敷ろくでふじきたてつてくのだが、またゝうちおよ五百里ごひやくり歩行あるいたやうにかんじて、疲勞ひらうしてへられぬ。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ほんのまたゝく間の油斷であつた。大里氏は前の方にばかり氣を取られ、拙者はまた編笠を持つて前へ廻つたので、殿の後ろは自然からつぽになつた」
きますると、われらに、くだんかげもののはなしいてからは、またゝさへ、ひとみいて、われかげ目前めさきはなれぬ。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
初夏の陽は高臺の屋敷町の木立こだちに落ちて、美しい夕映が次第に消えると、大空には凉しい星が一つ二つまたゝき始めます。
いたいけなる幼兒をさなごに、やさしきあねひけるは、せんおくふかく、雪洞ぼんぼりかげかすかなれば、ひなまたゝたまふとよ。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鍋のかけら、銅の藥罐、鍋鐵、眞鍮の煙管、何でも同じこと、お望みなら山吹色の小判でも、貴方がたの鼻の先で、見事またゝきする間に銀にしてお目にかける。
またゝに、かり炭燒すみやきほふられたが、民子たみこ微傷かすりきずけないで、まつたたまやすらかにゆきはだへなはからけた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
疊針を突つ立てられる迄、開けつ放しになつちや居ねえ、またゝきをするとか、顏を反けるとか、何とかするよ
それでもつねさんはまたゝきした。からりとひさしらしたのは、樋竹とひだけすべる、おちたまりのあられらしい。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
相手の氣勢さへくじけば、八五郎の馬鹿力は最も有效いうかうに働きます。二人の青持と力をあはせて、またゝくうちに生捕つた曲者が、二人、三人、五人、——折から關所の方にあがるときの聲。