たらひ)” の例文
「すると、お狩場かりばの四郎が忍び込んで、兼松の着物を着てお美代を殺し、その着物を井戸端のたらひに漬けて行つたことになるが——」
おゝい、おゝい、母屋おもやつどへる人數にんずには、たらひたゞ一枚いちまいおほいなる睡蓮れんげしろはなに、うつくしきひとみありて、すら/\とながりきとか。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
馬方うまかたひますと、うま片足かたあしづゝたらひなかれます。うま行水ぎやうずゐわらでもつて、びつしよりあせになつた身體からだながしてやるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
きふにたらひが速くなつたやうに思はれました。もう土堤はすぐそこでした。そら、もう、葦の一本が盥にさはりました。
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
たらひの中でそのシャツのボタンが一つ取れたのを、物置のこちら側の出張つた台石の上に置いといたので、蝋燭を点して、台所口を開けて探しに行つた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
姻戚みよりといつてもおしなめにはたなくてはらぬといふものはないので勘次かんじはおつぎとともむしろまくつて、其處そこたらひゑておしな死體したいきよめてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
例の顏容フイジオノミイの女がたらひで湯を使つてゐるのであるが、その線は寫實的であつたから不快ではなかつたが、ロダンやマネの素描の知的な冷たさに代へて、柔かく
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
隣室からは、床に就いて三月にもなる老女としよりの、幽かな呻声が聞える。主婦あるじのお利代は、たらひを門口に持出して、先刻さきほどからバチヤ/\と洗濯の音をさしてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
作者が考へて見るのに泥坊が糞をして其上にたらひを伏せて置くといふのは、厭勝まじなひには相違ないが、さういふ厭勝が出来たのには、も少し深い原因があるらしい。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
藤八は是々途中から御客を連て來たと云うちに十六七の娘甲斐々々かひ/″\しくたらひに湯を取てもち來り御洗ひ成れましと顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたしはその癇高いを聞きながら、埃にまみれた草鞋の紐を解いた。其処へをんなが浅いたらひに、洗足の水を汲んで来た。水は冷たく澄んだ底に、粗い砂を沈めてゐた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二三日したおひる、果樹園から帰つた父は裸になつてたらひの水を使ひ乍ら戸口に来たきたない乞食こじきを見て
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
大きなたらひを、お台所に持ち出して、子供達は手足をきれいに洗ふことになつて居りましたのに、トロちやんだけは、嫌やだ、嫌やだと言つて、どうしても手足を洗はせません。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
月はもちろん明月で、たらひのやうに大きく、ひどく近距離に感じられるのである。私は明月に対し、月が近いとは感じても、月が自分の方へ近づいて来ると感じ〔た〕ことはない。
閑人詩話 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
まく合間あひまに縫子が代助の方をいて時々とき/″\妙な事をいた。何故なぜあの人はたらひで酒を飲むんだとか、何故なぜ坊さんが急に大将になれるんだとか、大抵説明の出来ない質問のみであつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たゞ此かげに遊びて風雨にやぶやすきをあいす「はせを野分のわきしてたらひに雨をきく夜哉」此芭蕉庵の旧蹟きうせきふか清澄町きよすみちやう万年橋の南づめむかひたる今或侯あるこう庭中ていちゆうに在り、古池のあと今に存せりとぞ。
行水や柿の花ちる井のはたのたらひにしろき児をほめられぬ
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「池がなかつたら、たらひでも足りるぢやないか。」
たらひの中でぴしやりとはねる音がする。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
たらひは数知れず光に動く。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さう思つて見ると、成程物置の裏の井戸端に、大きいたらひに漬けたまゝ、泥の附いた、薄汚い布子ぬのこのあるのを、平次はしやがみ込んで見て居ります。
ちひさなのは、河骨かうほね點々ぽつ/\黄色きいろいたはななかを、小兒こどもいたづらねこせてたらひいでる。おほきなのはみぎはあしんだふねが、さをさしてなみけるのがある。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わしのところは貧乏でのう、たらひだのをけだのいふものがないので、大方のことはこの摺鉢で間に合はせますぢや。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
明し申たし必ず御世話は御無用と云にぞ老女は然ばとてたらひに水を汲て友次郎に足をすゝがせ圍爐裏に柴を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
つぎつちみづいてほどよくねられた。勘次かんじはおつぎにどろたらひはこばせていて不器用ぶきようもとでつた。卯平うへいなほしののこした箇所かしよこしらへてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それから毛が汚れてきたなくなつたと言つて、嫌がるやつを無理にたらひに入れて、石鹸シャボンをつけてごし/\洗つて遣ると、鼻をクンクン言はせながら鳴き騒いだことを覚えて居る。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『其処にたらひがあります。水もあります。』と言つた。その時、広い控所を横ぎつて職員室に来る福富の足音が聞えた。子供等は怪訝けげんな顔をして、甲田とその男とを見てゐた。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
たゞ此かげに遊びて風雨にやぶやすきをあいす「はせを野分のわきしてたらひに雨をきく夜哉」此芭蕉庵の旧蹟きうせきふか清澄町きよすみちやう万年橋の南づめむかひたる今或侯あるこう庭中ていちゆうに在り、古池のあと今に存せりとぞ。
御米およねはあるうらにゐる下女げぢよけるよう出來できたので、井戸流ゐどながしそばいたたらひ傍迄そばまでつてはなしをしたついでに、ながしむかふわたらうとして、あをこけへてゐるれたいたうへ尻持しりもちいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
僕の父の友人の一人ひとり夜網よあみを打ちに出てゐたところ、何かともあがつたのを見ると、甲羅かふらだけでもたらひほどあるすつぽんだつたなどと話してゐた。僕は勿論かういふ話をことごとく事実とは思つてゐない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おくみは脱がせた着物を湯殿のたらひの中へ入れた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
庭のたらひに子供らの飼ふ緋目高ひめだか
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
身體中にブラ下げて、さはれば、あぶらで手がべつとりと濡れさうですもの。氣味が惡くて、私なんかは、同じたらひでも顏を洗はないやうにしてをります
みづやがてさとくるわ白粉おしろいよどむといへども、のあたり、寺々てら/″\まつおとにせゝらぎて、殘菊ざんぎくしづくいさぎよし。十七ばかりのものあらをんなおびほそこしよわく、たらひかゝへてつ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あしたは克巳が町に帰るといふ日のひるさがりには、三人でたらひをかついで裏山のきぬ池にいきました。
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
馬方うまかたうまめまして、うま脊中せなかにあるくらをはづしてやつたりうまかほでゝやつたりしました。それから馬方うまかたおほきなたらひつてまして、うま行水ぎやうずゐをつかはせました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
かくて傳吉は小娘に誘引いざなはある家に入て見ればはしらまがりてたふのきかたぶき屋根おちていかにも貧家ひんかの有樣なれば傳吉は跡先あとさき見回し今更立ち出んも如何と見合ける中に小娘はたらひ温湯ぬるゆ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たらひけがれた微温湯ぬるまゆうへからつちそゝがれた。さうしてれたにはくつたむしろまたかれた。あさから雨戸あまどはなたれてあるけばぎし/\とうへむしろ草箒くさばうきかれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
阿呆はいつまでも太陽はたらひよりも小さいと思つてゐる。
闇中問答 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たらひのなかに湯浴ゆあみする
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
丁度その時、入口のあたりから、どつと一條の瀧——と見たのは、手桶と、たらひと、龍吐水りうどすゐと、一緒に動員した救ひの水。
山影やまかげながらさつ野分のわきして、芙蓉ふようむせなみ繁吹しぶきに、ちひさりんにじつ——あら、綺麗きれいだこと——それどころかい、馬鹿ばかへ——をとこむねたらひ引添ひきそひておよぐにこそ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大きなたらひが庭を流れ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
新三郎が目で指圖すると、ガラツ八と平次は、早速たらひを持出しました。生温なまぬるい湯が一杯、源吉の手を借りて、丁寧に死骸の傷口を洗ひ始めたのです。
「前の日お六どんが洗つて、井戸端のたらひの中に絞つたまゝはふり込んであつた、肌着類でした。お六どんは、ヒドく怖がつて、直ぐ洗ひ直しましたが」
二度目に袢纒はんてんと着換へたのも變だが、その仕事着と、翌る朝お光の死骸を抱き上げて血の着いた袢纒とを、一緒にたらひに入れて置いたのも變ぢやないか。
平次殿の仰しやる通り、風呂場にはしたゝかに血のついた、袷が一枚、たらひにつけてありました。これは御厚志にむくゆるために、密かに申し上げる。萬事御内分に——
わざ/\外から廻つて自分の雪駄を縁の下に突つ込んだり、血の附いた袷を、ろくに洗はずにたらひへ投り込んだり、そんな馬鹿なことをする人間が何處にあるものか
「ところが、やつて見て驚きましたよ。大釜に一杯湯を沸して、流しにたらひを置いて、病人を床から牛蒡拔ごばうぬきにつれ出して見ましたが、臭いの臭くないのつて——」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
斯うなると平次は、丁寧に挨拶をして引揚げる外にがありません。もう一度井戸端に廻ると、弟子の鐵童はたらひの前にキチンと坐つて一生懸命洗濯をして居りました。