枕元まくらもと)” の例文
枕元まくらもとには薬瓶くすりびん、薬袋、吸呑すいのみ、その他。病床の手前にはきり火鉢ひばちが二つ。両方の火鉢にそれぞれ鉄瓶がかけられ、湯気が立っている。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と云いながら布団を頭からかぶっていたが、だんだん暴れ方が激しくなるので、しまいに首をむっくりもたげて枕元まくらもとの電燈の鎖を引いた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「もう何時なんじ」とひながら、枕元まくらもと宗助そうすけ見上みあげた。よひとはちがつてほゝから退いて、洋燈らんぷらされたところが、ことに蒼白あをじろうつつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分の体の上には生れて一度も見たことのないほどの美しい絹の蒲団ふとんがかけてありました。枕元まくらもとには、銀のわんにお薬が入っておりました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
吉之丞は、自分がいまどこにいるのかよくわからなかったが、さらしに包んだ枕元まくらもとの葉茶壺を見ると、それで、いっぺんに記憶がよみがえった。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もぬけのからなりアナヤとばかりかへして枕元まくらもと行燈あんどん有明ありあけのかげふつとえて乳母うばなみだこゑあわたゞしくぢやうさまがぢやうさまが。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
先生はぼくの枕元まくらもとにすわってぼくの顔を見つめたままほかのことはなんにもいわない、ぼくの父とふたりで話したこともないのだ
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それからまたはこころがしたやうな、へだての障子しやうじさへちひさないへをんなをとこみちびくとて、如何どうしても父母ちゝはゝ枕元まくらもとぎねばらぬとき
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
庸三は少しうとうとしかけたところだったが、目をあげて見ると、彼女は青いペイパアにくるんでひもで結わえたはこ枕元まくらもとへ持ち込んで来て
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ねだい枕元まくらもとの台の上に乱れ箱に入れて洋服やシャツが入れてあるのが見えた。彼はすらりと羽蒲団を横にけだして下におりた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かの女は、枕元まくらもとのスタンドの灯を消し、自分のほおに並べて枕の上に置いてあった規矩男の手紙を更に夜闇よやみのなかに投げ出した。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いつの間にか病人のところへれてしまって、枕元まくらもとへ呼び寄せての度重なる意見もかねがね効目ききめなしとあきらめていた父親も、今度ばかりは、打つ
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
その下は押入れになっている。煖炉があるのに、枕元まくらもと真鍮しんちゅうの火鉢を置いて、湯沸かしが掛けてある。そのそば九谷くたに焼の煎茶せんちゃ道具が置いてある。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わたくしはすぐ耳元みみもとちかづいて、『わたくしでございます……』ともうしましたが、人間同志にんげんどうしで、枕元まくらもとびかわすのとはちがい、なにやらそこに一重ひとえへだてがあるようで
類さんは熱があるらしく、その枕元まくらもとで兄の何かと慰めておいでの声が聞えます。こんな時には皆困ったことでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
枕元まくらもとにすわつて、心配してゐたニナール姫はやつと安心しましたが、それでも、目には涙をためて、言ひました。
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
おめえの方から、俺の枕元まくらもとへやって来て、勝手に喋舌しゃべりちらしたんだから、此先このさきとも、何う事が成り行こうと、俺の罪じゃねえぜ。それだけは断っておくよ
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見た顔ではあるが重吉は誰だとも思い出せない。女はずかずかと枕元まくらもとまで歩み寄り、立ったままで、いきなり
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わしはうまくらにしてたのぢやから、つまり枕元まくらもと戸外おもてぢやな。しばらくすると、右手めて紫陽花あぢさいいてはなしたあたりで、とりばたきするおと
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ランプを枕元まくらもとにつけておいて、つい寝込ねこんでしまうと危いから」とも忠告した。その母親も寝てしまって、父親のいびきに交って、かすかな呼吸いきがスウスウ聞こえる。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
北森課長と明智とは、二人の枕元まくらもとに腰かけて、からだにさわらぬ程度に、要点だけを質問して行った。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
健ちゃんは空箱あきばこの小さいのへ蛙を入れて、寝床へはいったより江の枕元まくらもとへ持って行ってやりました。
(新字新仮名) / 林芙美子(著)
人の知らないうちに出立しようとおもママをさますと、帽子は枕元まくらもとにちゃんとおいてあります。
都の眼 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
僕は印刷術というものから次第に遠ざかって行く自分を感じ、それが著作家として健全な姿であることを改めて思い知った。原稿は厳重に包装して、寝るときは枕元まくらもとへ置く。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
で、お客は少し不気味ぶきみに思いながら、行灯の灯をともしたままで、またとこの中にもぐり込みました。と、しばらくするとまたさっきと同じ声がするのです。それもすぐ枕元まくらもと
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
病室にはいると、お浜はお祖母さんには挨拶もしないで、いきなり病人の枕元まくらもとに坐った。やはり次郎の肩に手をかけたままだったので、次郎も一緒に坐らなければならなかった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
病人の枕元まくらもとたくの上にけてある蝋燭ろうそくの火がほとんど少しも動かない。すっかり暮てしまって、向うの奥に見える青み掛かった鼠色ねずみいろの山の上に月が出たころ、風が少し吹いて来た。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
加へけれどもしるしなきゆゑ茂兵衞の枕元まくらもとへ金屋利兵衞をはじめ家内のこらず呼集よびあつわれ此度の病氣全快びやうきぜんくわい覺束おぼつかなし因て江戸の得意とくいを利兵衞殿へあづけ申なりせがれ吉三郎成人迄せいじんまで何卒我が得意先とくいさき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
時おり、深い底から表面へ意識の波に連れもどされる時に、だれかが枕元まくらもとを高めてくれたのを、足に夜具をかけてもらったのを、背中にたいへん熱いものがあるのを、彼は感じた。
夜なかに蝋燭ろうそくをつけて用を足しにいって、それを枕元まくらもとに立てたまま寝ちゃったらしいの、それが引幕に移ったからたまらないわ、ぼうっといっぺんに天床てんじょうへ燃えあがっちゃうでしょう
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
妻君が薬の包みを渡すと、博士は枕元まくらもとのコップに水をなみなみといで
空気男 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
障子の隙間から覗くと、つばめが眼を覺した樣子で、その枕元まくらもとに寢もやらずに介抱して居る美しい母親のお高は、娘に水などを呑ませて居るのが、靜か乍ら、何んとも言へない哀れな風情でした。
ハッと思って眼がさめると家政婦さんが枕元まくらもとに坐っていて、おくさん、あなたの頭が半分になりましたというんじゃないの、私、どきっとして慌てて頭へ手をあててみると頭はちゃんとあるのよ
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
うしてその枕元まくらもとはうに、びて𣏓木くちきごとくなる直刀ちよくとうが二ほんいてある。
お母さんは、枕元まくらもとの行燈の火を太くした。部屋の中が明るくなつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
おい昨夜ゆうべ枕元まくらもとおほきなおとがしたのはぱりゆめぢやなかつたんだ。泥棒どろぼうだよ。泥棒どろぼう坂井さかゐさんのがけうへからうちにはりたおとだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お父上の御臨終の直前に、お母さまが、お父上の枕元まくらもとに細い黒いひもが落ちているのを見て、何気なく拾おうとなさったら、それが蛇だった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あなた方は一遍ゆっくりお休みなさいと啓坊けいぼんが云うのに任せて、二人は隣室に寝、病室には啓坊が、病人の枕元まくらもとでごろ寝していたらしかった
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もちは四かく庖丁はうちやうれるとぐに勘次かんじ自分じぶん枕元まくらもとをけしまつて無斷むだんにはおつぎにさへすことを許容ゆるさないのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼女は、そっと忍び足に枕元まくらもとに寄り添って、枕元の小さい卓子テーブルの上に置いてある、父の手文庫の中にその呪われた紙片を、そっと音を立てずに入れた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
道子みちこきやくよりもはやてゐるものをぬぎながら、枕元まくらもとまど硝子障子がらすしやうじをあけ、「こゝのうちすゞしいでせう。」
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
寝間ねまにどてらをしていた抽斎は、ね起きて枕元まくらもとの両刀をった。そして表座敷へ出ようとした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こらせしはゝ水初穂取みづはつほとりにながもとちしおふく狼狽敷あはたゞしく枕元まくらもとにあつまればお千代ちよぢたるらき。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母の声が枕元まくらもとに聞こえた、同時にやさしい母の目がはっきりと見えた、母の顔はあおざめていた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
彼女がどこで寝たかも彼にはわかりようもなかったし、何か商売の邪魔でもしているような気もして、彼はタキシイを言ってもらうのだったが、時には電気行燈あんどん枕元まくらもとにおいて
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おもつたばかりで、そのばんつかれてた。がつぎは、もうれいによつてられない。きざみと、まきたばこを枕元まくらもと左右さいうに、二嬌にけうごとはべらせつゝも、このけむりは、反魂香はんごんかうにも、ゆめにもならない。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一郎は看護婦を遠ざけて探偵の枕元まくらもとに腰かけ、きのうの出来事を詳しく報告した。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして一人留守番るすばんのときの用心に、いつものように入口にかぎをかけ、電燈でんとうを消して、蚊帳かやの中に這入はいり、万一しのむものがあるときのおどしに使う薄荷はっか入りの水ピストルを枕元まくらもとへ置いた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
存命ながらへ孝行のよめに苦勞をさせんよりはいつそぬるぞましならん今宵の留守を幸ひに首をくゝつて死なんものと四邊あたりさぐり廻りけるに不※ふと細帶ほそおびの手にさはれば是幸ひと手繰寄たぐりよせ枕元まくらもとなる柱の根へ夜着よぎ布團ふとん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何んのお話をなさるのでもなく、ただ枕元まくらもとに坐っていられるだけでも、兄にはそれが何よりも心丈夫らしく、尋ねた時に賀古氏が来ていられると聞くと私までが、よかった、と思ったことでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)