かず)” の例文
旧字:
おじいさんはそれを聞くと安心して娘に向って、おまえのほしいと思う羊のかずを、一と息で言ってごらんと言いました。娘はすぐに
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ひとり次郎ばかりではない。あの女のまなざし一つで、身を滅ぼした男の数は、この炎天にひるがえるつばくらかずよりも、たくさんある。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
門人が名主なぬしをしていて、枳園を江戸の大先生として吹聴ふいちょうし、ここに開業のはこびに至ったのである。幾ばくもなくして病家のかずえた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
上物のよろいだけでも三、四十りょう、ほか具足やら腹巻やら、かずと来たら、ちょっと、めまいがしそうな程のおあつらえだ。ただ弱ったのは日限さ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丑満うしみつ過ぐる夜の夢。見よや因果のめぐり来る。火車にごうを積むかずるしめて眼の前の。地獄もまことなり。げに恐ろしの姿や」
涙香・ポー・それから (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さかずきかずがだんだんかさなるうちに、おかしららしいおには、だれよりもよけいにって、さもおもしろそうにわらいくずれていました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
慶応義塾けいおうぎじゅくだけが、西洋せいようのあたらしい学間がくもんをおしえていたわけです。そこで、生徒せいとかずも、二百にん、三百にんをかぞえるようになりました。
もう一つには、かずある弟子たちのうちでこの大切の使いを自分に頼まれたということが、彼に取っては一生の面目のようにも思われた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたくしのおァさまは、それはそれはやさしい、いおァさまでございます……。兄妹きょうだいは、あんまり沢山たくさんかずわかりませぬ……。』
Hさんはけいこまかい西洋紙へ、万年筆まんねんふでで一面に何か書いて来た。ページかずから云っても、二時間や三時間でできる仕事ではなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫人 でも、可児は、十二といふかずを、それや、有りがたがるんですのよ。二でも三でも四でも割り切れるなんて申しましてね。
可児君の面会日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
石畳いしだたみ穿下ほりおろした合目あわせめには、このあたりに産する何とかいうかに甲良こうらが黄色で、足の赤い、小さなのがかずかぎりなくむらがって動いて居る。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
にんはかんじょうすると、いちばんちいさいいさむちゃんのが、一つおおかっただけで、三にんのゼリビンズのかずはまったくおんなじだったのです。
お母さんはえらいな (新字新仮名) / 小川未明(著)
かずは千というほど多くても、もうたばがずっと小さく、したがってまたこれを千把焚せんばたき、もしくは千ばえ焚きというところが多いのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
つまり、この黒ネズミたちは、むかしはたいへんかずも多くて力もあったネズミ族だったのですが、いまではほろびかかっているのでした。
形容のつかない色々繁雑なことや、手に負えないめんどうなことが、今日からかず限りとなくひき起こって来るような気がする。
朧気おぼろげなる一個の写真ぞ安置せらる、れ此の伯母が、いま合衾がふきんの式を拳ぐるに及ばずしてかずに入りたる人の影なり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
花田はひら刑事から叩きあげて、今は捜査一課に重要な地位を占め、実際の事件を手がけたかずでは、部内第一と云われていた。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一つずつかぞえたら、つめかずは、百ちかくもあるであろう。春重はるしげは、もう一糠袋ぬかぶくろにぎりしめて、薄気味悪うすきみわるくにやりとわらった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そして一人ひとりずつ石段いしだんをあがってつくのだが、一人ひとりのつくかずは三つにきめられた。お菓子かし配給はいきゅうのときのことをおもいして、ぼくはおかしかった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
大砲や機関銃やらが、いくつあるのかちょっと見たくらいでは、かずがわからないというたいへんな攻撃力をもっていた。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
更に進みて仙童に言はせたる予言のうちに、「今このやつの子をのこせり。八はすなはち八房の八をかたどり。又法華経のまきかずなり。」
だめだ、また失敗しっぱいだ。どうもうまくいかんぞ。三十万かな、いや、四十万かな、なにしろたいしたかずだ。おれはだまされたのかな? こんなことを
此故このゆゑなまぐさにほひせて白粉おしろいかをりはな太平たいへい御代みよにては小説家せうせつか即ち文学者ぶんがくしやかず次第々々しだい/\増加ぞうかし、たひはなさともあれど、にしん北海ほつかい浜辺はまべ
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
今は亡きかずの美妙斎を始め、紅葉、緑雨、二葉亭などの逸事を書いた内田魯庵氏は、友人ともだちの台所の小遣帳から晩飯のさいまで知りぬいてゐるのが自慢で
「ばか、よけいなことをするない、かずはちゃんときまってるんだぞ。」と、けわしい目をしてにらみつけます。
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
一芸一能ある者をばひそかに屋敷へ召し寄せて、既にそのかず百人にも余りいずれも皆な花村家に心服しているということではあるし、いざ合戦という場合には
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何かの切っかけで、地道よりもよこしまの方を手っ取り早いように思い込む。それがかずかさなると、世の中を太く短くという暗示になって、悪い方へ転向してしまう。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ず此の銀座通りだけでも、門並かどなみの商店に奉公して居る丁稚でっちかずは、幾百人幾千人あるか分らない。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人目ひとめ附易つきやす天井裏てんじやうゝらかゝげたる熊手くまでによりて、一ねん若干そくばく福利ふくりまねべしとせばたふせ/\のかずあるのろひの今日こんにちおいて、そはあまりに公明こうめいしつしたるものにあらずや
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
お前さんの好きな作者の書いた小説ばかり読ませられている。お前さんの好きなおかずばかりべさせられている。お前さんの好きな飲みものばかり飲ませられている。
そのかずいづれもおびただしきがなかに余の一見して長く忘るる能はざるものは、内地にて目撃したる原板画よりも、むしろ外国蒐集家の所蔵品の写真版にせられたるものなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いやうでない、まアつかはすから裸体はだかになれ、これ稽古けいこじや、なんでも事は度々たび/\かずかけんければいかぬからの。登「しか御前ごぜんのお目通めどほりで裸体はだかになるは恐入おそれいりますことで。 ...
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そうして、法師の左右さゆうには、かずしれぬあお鬼火おにびがめらめらと、もえていたのでありました。寺男は、こんなに多いさかんな鬼火を、生まれてはじめて見るのでありました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
こんなものをよこされては溜まらんね。オットどっこい、また来た。今度はかずだ。乾固ほしかたまって塩の辛いやつろくに塩出しもしないでこしらえるから消化こなそうと思っても消化れない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
現身うつせみかずなきなり山河やまかはさやけきつつみちたづねな 〔巻二十・四四六八〕 大伴家持
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
宋の龐元英ほうげんえいの『談藪』に、いん州の五峯に至りし人、〈馬上遥かに山中の草木蠕々ぜんぜんとし動くを見る、疑いて地震と為す、馭者ぎょしゃいう、満山皆猴なり、かず千万を以て計る、行人独り過ぐれば
かくのごときめぐみが人生の中にかず限りなくあることを常に記憶にそんしておきたい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
よくある農家の片隅などの僅かな墓の群れではなく、近くの寺の離れた墓地ででもあるらしいかずであつた。墓は南を向いて遠く姨捨山を眺めて居るが、それは大抵小さく古いものであつた。
野の墓 (新字旧仮名) / 岩本素白(著)
その片陰に家かず二十には足らぬ小村あり、浜風のしょうに当たりて野を控ゆ。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ずこんな塩梅式あんばいしきだから、吾々われわれ一行の失策物笑ものわらいはかず限りもない。シガーとシュガーを間違えて烟草タバコを買いにやって砂糖をもって来るもあり、医者は人参にんじんおもっかって来て生姜しょうがであったこともある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
花道はなみちのうへにかざしたつくりざくらあひだから、なみだぐむだカンテラがかずしれずかヾやいてゐた。はやしがすむのをきっかけに、あのからひヾいてくるかとおもはれるやうなわびしい釣鐘つりがねがきこえる。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
何となれば、こちらの世界では交通は物のかずでなく、離れていても、立派に相互の胸奥きょうおうつたえることができるからである。強いてこの法則を破ることは、いたずらに不幸の種子であり、進歩の敵である。
かくて彼は差し当り独立のはかりごとをなさん者と友人にもはかりて英語教師となり、自宅にて教鞭きょうべんりしに、肩書きのある甲斐かいには、生徒のかずようようにえまさり、生計の営みに事を欠かぬに至りけるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
狂言かずも進んで、いよいよ二番目の「四谷怪談」に入った。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
霜は満ち軍馬のたむろしづもらず糠星のかずのただにきらめく
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
世の中のかずには入らぬ言の葉も独ごつこそ楽しかりけれ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
「時」の老骨ろうこつ、きしきしと、かずおとぎしりや
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
に、まるゝこと年々ねん/\そのかずらず
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さればみなとかずおおかれど
横浜市歌 (新字新仮名) / 森林太郎(著)