)” の例文
しかしその麦畑の隅の、土手の築いてある側へ来ると、金三は急に良平の方へ笑い顔を振り向けながら、足もとのうねして見せた。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
宝石商ほうせきしょうは、それから幾日いくにちたびをしました。やまえ、かわわたり、あるときはふねり、そして、みなみくにして、たびをつづけました。
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)
村「此の羽織はいけないのですがあのお金どんに、此の笄は詰らないのですがお前さんに上げるから私の形見と思ってして下さい」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
顔の色いと青ざめて、一四〇たゆきまなこすざましく、我をしたる手の青くほそりたる恐ろしさに、一四一あなやと叫んでたふれ死す。
とでも言うらしく、河蒸汽に乗っていた仏蘭西人が岸本に船着場をして教えた。船着場から岸本の尋ねる家までは僅しかなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
黒板こくばんにつるした大きな黒い星座せいざの図の、上から下へ白くけぶった銀河帯ぎんがたいのようなところをしながら、みんなにいをかけました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
班長はうなずいて、これから出発する望月大尉以下六名をさしまねいて、宇宙図をしながら、更にこまごました注意をあたえた。
宇宙戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
堀端ほりばたを西へ、東町奉行所をして進むうちに、跡部からの三度目の使者に行き合つた。本多と残して置いた同心とは途中で追ひ附いた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いま弦月丸げんげつまるしておな鍼路しんろをば故意わざ此方こなたむかつ猛進まうしんしてるのである、一ぷん、二ふん、三ぷんのち一大いちだい衝突しようとつまぬかれぬ運命うんめい
さけんで、大音だいおん呵々から/\わらふとひとしく、そらしたゆびさきへ、法衣ころもすそあがつた、黒雲くろくもそでいて、虚空こくういなづまいてぶ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ちょっとした石瓦いしかわらのような仏様の破片かけでもあると必ず右へしてまわって行く。それは決して悪い事ではない。これには因縁いんねんがあります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
手作りの箱などをして樂しんだといふことは、この時代の空氣を知つて居る者には、何んの不自然さもなくけ容れられることでした。
「半殺しにして仕舞うのだ。この村の娘には、ほかの村の奴の指一本させないのが、昔からの仕来しきたりだ。お前さんも知っているだろう」
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「その腰掛を持つて來なさい。」ブロクルハースト氏は、ちやうど級長が立ち上つたばかりの高い腰掛をして云つた。それははこばれた。
されたところを読んでみると「モンテカルロの大勝」という標題タイトルの下に、ウィンナムという英国の婦人が一夜のうちに二十万フラン勝ちあげ
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
たゞこゝにことわりをようすることは噴火ふんかといふ言葉ことば使つかかたである。文字もんじからいへばくとなるけれども、これはえるすのではない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ブラウンはある日客間で、彼にピアノをし示した。彼はぞっとしてピアノから顔をそむけた。あらゆる音が忌まわしかった。
などという歌があるが、これは睡眠中の心理的動作をすもので、今日の学者といえどもてがたい面白い詞章ししょうであると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
二人でそこにある茶屋に休んだ時、兄さんはまた足の下に見える森だの谷だのをして、「あれらもことごとく僕の所有だ」と云いました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな塩梅あんばいに児供の時分から少し変っていたので、二葉亭を可愛がっていた祖母おばあさんは「この子は金鍔きんつばすかこもるかだ、」
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
さればピッカルダはかく語りて絶對の意志をし、我は他の意志を指す、ふたりのいふところ倶にまことなり。 一一二—一一四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
變りし世は隨意まゝならで、せる都には得も行き給はず、心にもあらぬ落髮をげてだに、相見んとこがれ給ふ妻子の恩愛は如何に深かるべきぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
けれども二人がそこの広場にきた時、まっくらな大きな建物の正面の燈火あかりのついた四つの長い窓を、町人は彼にし示した。
自分のはいって来たのを見て、いきなり一人ひとりの水兵が水雷長万歳と叫ぶと、そこらにいた者一斉に立って自分を取り巻き、かの大杯をしつけた。
遺言 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
厭々いやいやであったが、持物といっては金属性の球だけをポケットにして、饒舌おしゃべりなAや気難きむずかし屋なBと共々打ち連れて、先ず都をして旅にのぼった。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
かん中の余技よぎとしてたのしむ僕達ぼくたち棋戰きせんでさへ負けてはたのしからず、あく手をしたりみの不足でみをいつしたりした時など
そしてこのネツコグサは、ネコグサの意で、オキナグサをしている。花に白毛が多いので、それで猫草といったものだ。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
英国の俚諺りげんに、三月は獅子のように来り、子羊のごとく去るというは、初め厳しく冷ゆるが、末には温かになるをす。
王子はまたゆめからさめたような気持きもちで、老人ろうじんかおながめました。それから、うしろの方の一番高い山のいただきしました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
政吉 何をいやがる高山の御用聞きは、とうの昔に横に切れて、木曾の中津川なかつがわして飛んで行った。おなかさんお前も見て知ってるじゃあねえか。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
そうして町なかにある仁丹の看板をみつけては一人でそれをして「お父うちゃん」と言ってばかりいるので、母たちも随分手古摺てこずったらしい。……
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
契沖は、「我が背子」を「御供ノ人ヲサシ給ヘリ」といったが、やはりそうでなく御一人をおし申したのであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
與吉よきちはそれがほしくなればちひさなすゝけた籰棚わくだなした。其處そこにはかれこの砂糖さたうちひさなふくろせてあるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
アイヌがしてコロボックルの遺跡ゐせきなりとするものは何れも竪穴にして、其廣そのひろさは疊二枚敷より五十枚敷位まいじきぐらゐに至り
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
この怪人は四肢ししに指がなかったともあるが、天をしたというからは甚だ信じがたい事であった。それからまた三十年余り、寛永十九年の春であった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
われ。ララにはあらずや。この答はわが姫の目を閉ぢたるを見し時、心に浮びし人をして言へるのみなりしに、せずしてあたりしなり。姫。さなり。
ついで路地の出入口をし、その分れて那辺に至り又那辺に合するかを説明すること、たなごころすが如くであった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
施無畏とは、無畏むいを施すということで、元来、仏さまのことを一般に施無畏と申しますが、ここでは観音さまをすのです。とは恐れるという字です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
江戸ではその分業が一々際立きわだって、店の仕事が多忙いそがしいとまでは行かないが、中古から(徳川氏初期からをす)京都の方では非常に盛大なものであった。
眼下の松輪崎の前面をば戦闘艦だか巡洋艦だか大きなのが揃つて四隻、どす黒い煙を吐いて湾内をしてゐる。
岬の端 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
「俺ならどうした。女だって活物いきものだ、なぜその日に困らねえようにしておいてやらねえ。食わせりゃこっちが飼主よ、指でもしやがると承知しねえぞ!」
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「怎麼に黄金丸、彼処かしこを見ずや。松の幹に攀らんとして、しきりにあせる一匹の猿あり。もし彼の黒衣にてはあらぬか」ト、し示せば黄金丸は眺めやりて
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
何卒どうぞ閣下かくかこれをおください。』と、ニキタは前院長ぜんゐんちやうまへつて丁寧ていねいふた。『あれ閣下かくかのお寐臺ねだいで。』と、かれさらあたらしくおかれた寐臺ねだいはうして。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ヨーギ、其処そっから、どらんこ(煙草を入れる佩嚢どうらん)持って来う。——ほして、にしも少し休め。うむ、ヨーギ。」と一本の小さな栗の木をしながら言った。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
健吉は、後ろの床脇とこわきの小壁を、眼でした。水引のかかったままの竹刀と、免許状の包みとが置いてあった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかして何んとその針は十貫目をしてピタリととまったのだ、私はこれはあまりだと思って、二、三度強く足踏みをして見たが、何の反応もなかった、とうとう
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
折柄おりから上潮あげしおに、漫々まんまんたるあきみずをたたえた隅田川すみだがわは、のゆくかぎり、とお筑波山つくばやまふもとまでつづくかとおもわれるまでに澄渡すみわたって、綾瀬あやせから千じゅしてさかのぼ真帆方帆まほかたほ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
赤児あかご』は重瞳ぢゆうどうの三男をしたのである。奥方は何と云ふ罪障つみの深い自分だらうと考へ出した。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
湯にしてやや冷を帯ぶるものを見、これをして水なりといい、水にして少しく熱を含むものを見、これを指して湯なりという、ここにおいて庸俗の徒ははなはだ惑う。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
僕の胸は宿題をなまけたのに先生に名をされた時のように、思わずどきんと震えはじめました。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)