懸命けんめい)” の例文
どうしたのか、牛がにわかに北の方へ馳せ出しました。達二たつじはびっくりして、一生懸命けんめいいかけながら、兄の方に振り向いてさけびました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
されば始めは格別将来の目算もなくただ好きにまかせて一生懸命けんめいに技をみがいたのであろうが天稟てんぴんの才能に熱心が拍車はくしゃをかけたので
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かれは、しかし、懸命けんめいに自分を落ちつけて先を読んだ。今となっては、手紙を読みやめるのが卑怯ひきょうなような気がしたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
が、その群衆はかなりの密度を持っていて、容易には新来者をれないのである。啓吉は、懸命けんめいに努力して、群衆の中心へ這入はいる事が出来た。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ひめいつしよう懸命けんめいおもつてゐるかたがこんなにたくさんあるのだから、このうちからこゝろにかなつたひとえらんではどうだらう
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
それはかく、あのときわたくしはは断末魔だんまつま苦悶くもんさまるに見兼みかねて、一しょう懸命けんめいははからだでてやったのをおぼえています。
と、彼女は小娘の夢のようなことを真剣しんけんに考えた。そしてなお、できるだけ窓の下へ近づいて両の手で口をかこみ、忍びやかに、しかし懸命けんめいをこめて
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼等かれらのしをらしいものはそれでも午前ごぜん幾時間いくじかん懸命けんめいはたらいてちゝなるものゝ小言こごとかぬまでにうまやそばくさんでは、午後ごご幾時間いくじかん勝手かつてつひやさうとする。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それで、將來しようらいわれ/\がいつしょう懸命けんめい調しらべてつたら、きっと面白おもしろいことが發見はつけんされることゝしんじます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
奧田が組下くみした山田やまだ軍平ぐんぺいと云者喜八がかたちを見てあやし曲者くせものまてと聲を掛ながら既にとらへんと喜八の袖をおさへしにぞ喜八は一しやう懸命けんめいと彼の出刄庖丁にて軍平が捕へたる片袖かたそで
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして、とうとう、そらがって、にわうえひとまわりしたかとみると、あちらのたかがけて、懸命けんめいに、きずついたはね空気くうききざみながらんでいきました。
自由 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところが父は、いきなりわたしのそばから馬首を転じると、クリミア浅瀬あさせからわきへそれて、河岸かしづたいにまっしぐらに飛ばし始めた。わたしは懸命けんめいにあとを追った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
清兵衛は一しょう懸命けんめいになって、朝月を養ったので、その翌年よくねんには見ちがえるような駿馬しゅんめになった。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
うしなはれゆく感覚かんかく懸命けんめいたゝかひながら、いたるまで、まもとほしたたうをとぎれ/\にんだ
それが汽車きしやとほるのをあふながら、一せいげるがはやいか、いたいけなのどたからせて、なんとも意味いみわからない喊聲かんせいを一しやう懸命けんめいほとばしらせた。するとその瞬間しゆんかんである。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
また、男女間の妬情とじょうに氏はほとん白痴はくちかと思われるくらいです。が氏とて決してそれを全然感じないのではないそうですが、それにいて懸命けんめいになる先に氏は対者あいてに許容を持ち得るとのことです。
ぼくは懸命けんめいになればなるほど拙劣せつれつなのを知りながら「実はあなたが昨夜、熊本さんについて見たことを、あなたの胸だけにしまっておいてもらいたいのです」と言いかければ、彼は不愉快ふゆかいそうにかん高く
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ながうとはまをしませぬまをしあげたきこと一通ひととほりとことばきれ/″\になみだみなぎりて引止ひきとむるかひなほそけれど懸命けんめいこゝろ蜘蛛くも千筋ちすぢ百筋もゝすぢちからなきちからはらひかねて五尺ごしやくなよ/\となれどわざ荒々あら/\しく退けてお人違ひとちがひならん其樣そのやうおほうけたまはるわたくしにはあらずいけはたよりおともせし車夫しやふみゝにはなんのことやら理由わけすこしもわかりませぬ車代しやだいたま
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
達二たつじは、一生懸命けんめい、うちへ走りました。うつくしい緑色みどりいろの野原や、小さなながれを、一心に走りました。野原は何だかもくもくして、ゴムのようでした。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かくも、修行しゅぎょう次第しだいでわがわしてもらえることがわかりましたので、それからのわたくしは、不束ふつつかおよかぎりは、一しょう懸命けんめい修行しゅぎょうはげみました。
発揮はっきしてどこまでも一生懸命けんめい根気よく遣り直し遣り直して語っているとやがて「出来た」と蚊帳の中から団平の声
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「このひと役さえ首尾しゅびよくやってのければ、元の船手組へ帰参ができるだろう」と懸命けんめいなところだ。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飛違とびちがへ未だ生若なまわかき腕ながら一しやう懸命けんめい切捲きりまくれば流石に武士のはたらきには敵し難くや駕籠舁ども是はかなはじと逃出にげいだすを何國迄いづくまでもと追行おひゆくうちかね相※あひづやなしたりけん地藏堂のとびら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのなかわたしがはひつてくと、陳列棚ちんれつだなかげほう一人ひとり少年しようねんがゐて、手帳てちようしていつしょう懸命けんめいたものについて筆記ひつきしてゐました。わたしはこの少年しようねん熱心ねつしんさに感心かんしんしたので
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
わたしはやぶけながら、たからすぎもとうづめてあると、もつともらしいうそをつきました。をとこはわたしにさうはれると、もうすぎいてえるはうへ、一しやう懸命けんめいすすんできます。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
……わたしは泣くまいと懸命けんめいになった。……あの軽騎兵がねたましかったのである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ひとりでに息があらくなり、両手があせばんで来るのを覚えた。かれは、しかし、懸命けんめいに自分を制した。自分を制するために、おりおり、うしろから田沼先生と朝倉先生の顔をのぞいた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
薫は黙って抜き手を切るばかり、貝原は懸命けんめいな抜き手の間から怒鳴り立てた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
勘次かんじ矢立やたてごと硬直かうちよく身體からだ伸長しんちやう屈曲くつきよくさせて一/\とはこんだ。かれ周圍しうゐ無數むすう樹木じゆもくいてさゝやくのをみゝれなかつた。加之それのみでなくかれ自分じぶん耳朶みゝたぶらるさへこゝろづかぬほど懸命けんめい唐鍬たうぐはつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わたくしは一しょう懸命けんめいるべくなみだせぬようにつとめましたが、それはははほうでも同様どうようで、そっとなみだいては笑顔えがおでかれこれと談話はなしをつづけるのでした。
わたしは一しやう懸命けんめいに、これだけのことひました。それでもをつといまはしさうに、わたしをつめてゐるばかりなのです。わたしはけさうなむねおさへながら、をつと太刀たちさがしました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼等の懸命けんめいなねがいのあらましを聞いて、半兵衛はこうなぐさめた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれ懸命けんめい勞働らうどうきうばいしていちじるしくひとつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)