懇意こんい)” の例文
おきに出ると、船は少し揺れてきましたが、太郎は元気でした。松本さんが船長と懇意こんいなので、船の中をあちこち見せてもらいました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
この僧も、眼があいていた頃は、一火流の砲術などを習って、さかんに殺生せっしょうをやったというような話から、いつか懇意こんいになっていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「家中の者に一わたり逢って来ましたよ、小僧の良松と、お嬢さんのお琴さんは、すっかり懇意こんいになって、何でも話してくれましたよ」
自分は十だいから花前と懇意こんいであって、花前にはひとかたならず世話せわにもなったが、自分も花前のためにはそうとう以上いじょうにつくした。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「道庵さんは始終しょっちゅう懇意こんいに致しておりますけれど、あの娘さんがどうしたことやら、文面が何のことやら、のみこめませんものですから」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
致すか汝は存じの外未練みれんやつぢや汝が懇意こんいにせしと云願山が其方并に靱負ゆきへの事まで殘らず白状はくじやうに及びたるぞ其方と靱負ゆきへ兩人にて勘解由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
音楽家の達雄たつお懇意こんいになった以後、次第にある不安を感じ出すのです。達雄は妙子を愛している、——そう女主人公は直覚するのですね。
或恋愛小説 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれどもむかしから懇意こんいな者は断らず泊めて、老人としより夫婦が内端うちわに世話をしてくれる、よろしくばそれへ、そのかわりといいかけて、折を下に置いて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洋子は東京の名ある女流音楽家の内弟子うちでしで、玉村一家とは妙子を通じて懇意こんいの間柄、二郎とは父玉村氏も黙認している程の恋仲であった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今朝懇意こんいの車屋がデカの死骸しがいを連れて来た。死骸は冷たくなって、少し眼をあいて居たが、一点の血痕けっこんもなく、唯鼻先はなさきに土がついて居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
茶店ちやみせ老人夫婦らうじんふうふとは懇意こんいつて『旦那だんなまた石拾いしひろひですか。始終しじうえては、りますまい』とわらはれるくらゐにまでなつた。
わたしのもらった茶碗はそのおてつの形見である。O君の阿父おとっさんは近所に住んでいて、昔からおてつの家とは懇意こんいにしていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから町人ちょうにんいえよりの帰途かえり郵便局ゆうびんきょくそばで、かね懇意こんい一人ひとり警部けいぶ出遇であったが警部けいぶかれ握手あくしゅして数歩すうほばかりともあるいた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
『あいつは他國人たこくじん交際かうさいしてゐる。』『あのをとこ他縣人たけんじん懇意こんいにしてる。』そしてそれがいつも批難ひなん意味いみふくんでゐた。
武内たけのうちつたのは、新著百種しんちよひやくしゆ挿絵さしゑたのみに行つたのがゑんで、ひど懇意こんいつてしまつたが、其始そのはじめより人物にれたので
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ソレはその時塾に居た小野友次郎おのともじろうが警視庁に懇意こんいの人があって、極内々その事を聞出して、私と同時に後藤象次郎ごとうしょうじろうも共に放逐ほうちくたしかに云うから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
なべ料理は、気のおけぬごく懇意こんいな間柄の人を招いて、和気あいあい、家族的に賑々にぎにぎしくつきあうような場合にふさわしい家庭料理といえよう。
鍋料理の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
懇意こんい准尉じゅんいさんで、陸軍病院りくぐんびょういんはいっていなさるのを、これからみまいにいくのだ。達吉たつきちも、いっしょにこないか。」
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
夫婦ふうふがこんなふうさみしくむつまじくらしてた二年目ねんめすゑに、宗助そうすけはもとの同級生どうきふせいで、學生時代がくせいじだいには大變たいへん懇意こんいであつた杉原すぎはらをとこ偶然ぐうぜん出逢であつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それはわすれもせぬ去年きよねんあきことで、わたくし米國ベイこくから歐羅巴エウロツパわた航海中かうかいちうで、ふと一人ひとり英國イギリス老水夫らうすゐふ懇意こんいになつた。
懇意こんいなそここゝでおしな落葉おちば一燻ひとくいてもらつてはかざしてやつあたゝまつた。蒟蒻こんにやく仕入しいれてときはそんなこんなでひまをとつて何時いつになくおそかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
寺の老僧ろうそうとも懇意こんいになり、ついにある時、自分がその住持になりたいと言い出し、夫人と次のような問答をした。
ごく懇意こんいでありまたごく近くである同じ谷中の夫の同僚どうりょうの中村の家をい、その細君に立話しをして、中村に吾家うちへ遊びに来てもらうことをうたのである。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
テンバは熱心に「いやそんな事はない。ありゃ天和堂テンホータンの主人と懇意こんいな人でやはりシナの人なんだ」と天和堂の主人から聞いた事を喋々ちょうちょう述べ立てて居りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
が、そんな時にも十銭の買物に五十銭や一円の紙幣を出されて困ることが多かった。でもそうした時も、隣のお爺さんと懇意こんいになっているので都合がよかった。
「私、ゆたかの成績について橋本先生のところへうかがいましたが、あなたのようなお方とご懇意こんいに願ってさえいれば、自然いい方へむきましょうとおっしゃいました」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それから二人ふたり種々いろ/\談話はなしをしてうち懇意こんいになり、ボズさんが遠慮ゑんりよなくところによるとぼく發見みつけ場所ばしよはボズさんのあじろのひとつで、足場あしばはボズさんがつくつたこと
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「このお婆さんは、うちで懇意こんいにしてゐる方だ。君達のことをよく頼んどいて上げたから、安心して、何もかも任せるがいゝ。お婆さん、ぢや、お願ひするよ。」
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
彼女はなれた手つきでかたわらの卓の上の受話器をとり、懇意こんいらしい相手との話に、移っていった。
雑居家族 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
すると横浜よこはま懇意こんいな人が親切に横浜よこはま出稼でかせぎにるがい、うやつてゐては何時いつまでも貧乏してゐる事ではらん、はまはまた贔屓強ひいきづよところだからとつてくれましたので
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
おれ達をかまってくれるはずがねえ——前かた懇意こんいにしてくれた、江戸のごろつき仲間にも、飛脚ひきゃくを立てたり、手紙をやったりして見たのだが、ろくに返事も来なかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
悪右衛門あくうえもんおどろいてかえると、それはおな河内国かわちのくに藤井寺ふじいでらというおてら和尚おしょうさんでした。そのおてら石川いしかわいえ代々だいだい菩提所ぼだいしょで、和尚おしょうさんとは平生へいぜいから大そう懇意こんい間柄あいだがらでした。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
近頃ちかごろ春信はるのぶで一そう評判ひょうばんった笠森かさもりおせんを仕組しくんで、一ばんてさせようと、松江しょうこう春信はるのぶ懇意こんいなのをさいわい、ぜんいそげと、早速さっそくきのうここへたずねさせての、きょうであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
昨夜の男が官邸にはいったに違いないと思って、家へ帰ると主人にくわしく報告した。すると、主人は検非違使の長官とは割合懇意こんいであったので、すぐ出向いてその事を長官に話した。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
はいなんにでもつてりつきます。荷物にもつをつけてとほうまにもりつけば、旅人たびびと着物きものにもりつきます。はいたれとでも懇意こんいになりますが、そのかはりたれにでもうるさがられます。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
中にもこのへやの入口の戸に最も深く心を留めたり、戸の錠前は無傷にして少しも外より無理に推開きたる如きあとければこれだけにて曲者くせものにもかくにも老人と懇意こんいの人なりしことはたしかなり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
やがて八月の中ごろになって郁治は東京に行った。石川もこのごろは病気で鎌倉に行っている。熊谷の友だちで残っているものは、学校にいるころもそう懇意こんいにしていなかった人々ばかりだ。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
土岐さんも丁度厄年やくどし位だったじゃありませんか。いくら懇意こんいにしていても、つい目の前で楽しんでいる所を見せられちゃ、一寸妙ないたずら気も起りまさあね。それに腕のいい人でしたからね——
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし匿名とくめいにしてさしいれするのでは、ふだんにさほど懇意こんいにしている人でないかもしれぬ、自分では想像もできぬが、母にきいたら思いあたることもあるだろう、こう思ってかれはそこをでた
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
親身しんみになっていろいろとやさしくわれますので、わたくしほうでもすっかり安心あんしんして、勿体もったいないとはおもいつつも、いつしか懇意こんい叔父おじさまとでも対座たいざしているような、打解うちとけた気分きぶんになってしまいました。
眞珠太夫と懇意こんいになり、親方の竹松に渡りをつけて、夫婦にでもなるんぢやないかといふ評判の立つたとき、恐ろしいことですね。
「そうでしょう。中村君とはずっと懇意こんいにしていますからね。ところで手塚さん、その問題の夜光の時計は、どこに置いてあるのですか。」
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
また近藤勇という人も、八王子の天然理心流の家元へ養子になった有名な荒武者であって、これも竜之助が近ごろ懇意こんいにしているようです。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ほかじゃねえが、お前が懇意こんいなのは何よりしあわせ。旅川周馬のやつをだまして、お千絵様をこの屋敷から誘い出してくれねえか」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爺さんは懇意こんいな家へ行って、お金をたくさんもらってきました。肉や鳥や酒を、うんと買い込んできました。酒はことに強いのを選びました。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
れから町人ちやうにんいへよりの歸途かへり郵便局いうびんきよくそばで、かね懇意こんい一人ひとり警部けいぶ出遇であつたが警部けいぶかれ握手あくしゆして數歩計すうほばかともあるいた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
清水と云う男は以前江戸にて英書の不審を松木にきいて居たこともある至極しごく懇意こんいな間柄で、その清水が英の軍艦に居るから松木の驚くも無理はない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
させても役に立ける此感應院は兼てよりお三婆さんばゝとは懇意こんいにしけるが或時寶澤をよびて申けるは其方そち行衣ぎやうえ其外ともあかつきし物をもちお三婆の方へ參り洗濯せんたく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
然し翁の足つきは両三年前よりは余程弱って見えた。四五丁走って、懇意こんいの車屋を頼み、翁のあとを追いかけさせた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これは細君のいがおかしいのだ。変人でとおった人間に懇意こんいな人があるかでもあるまい。主人はしかたがなく
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)