愈々いよ/\)” の例文
勝平の態度には、愈々いよ/\乱酔のきざしが見えてゐた。彼の眸は、怪しい輝きを帯び、狂人か何かのやうに瑠璃子をジロ/\と見詰めてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「さあ、愈々いよ/\出世の手蔓てづるが出来かかつたぞ。明日あすは一つあの殿様のお顔を、舶来はくらい石鹸しやぼんのやうにつるつるに剃り上げて呉れるんだな。」
だまれ! をひくせ伯父樣をぢさまめかけねらふ。愈々いよ/\もつ不埒ふらちやつだ。なめくぢをせんじてまして、追放おつぱなさうとおもうたが、いてはゆるさぬわ。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
相觸あひふれらる此度は玄關迄伊豆守殿初め御役人殘らず見送りなればいとゞ威光ゐくわう彌増いやましたり是にて愈々いよ/\謀計ぼうけい成就じやうじゆせりと一同安堵あんどの思ひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
やがて紳士はその墓と館の址とを残して永久に立去つた昔の城主の遠孫であることを村長に話した。村長は愈々いよ/\辞を低うした。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
こたへられたがあいちやんには愈々いよ/\合點がてんがゆかず、福鼠ふくねずみ饒舌しやべるがまゝにまかせて、少時しばらくあひだあへくちれやうともしませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
山田「然ういう訳にはいかんよ、大夫から確と頼まれてるんだから、愈々いよ/\買うと云って金子を渡せば、ナカゴは見られるのだ」
工場へ入つて愈々いよ/\働くことになるまでには随分めんだうな手数をはされるのだ。二月や三月は居喰ひで過さねばなるまい。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
彼れの言条いいじょう愈々いよ/\いでて愈々明白なり、流石さすがの目科も絶望し、今まで熱心に握み居たる此事件も殆ど見限りて捨んかと思い初めし様子なりしが
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
さいさい自分じぶん研究けんきうして熟考じゆくかうしてうへ愈々いよ/\わからねば其時そのときはじめて理由りいう説明せつめいしてかすくらゐにしてくのであります。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
彼は由井と川原との会話を聞き乍ら、只管ひたすら自分が跳躍すべき機を待つてゐる。劇は高潮に達した。して愈々いよ/\彼の活躍すべきキツカケとなつた。
(新字旧仮名) / 久米正雄(著)
容易ならぬことの一語に、危殆きたいの念愈々いよ/\高まれる大和は、躊躇ちうちよする梅子の様子に、必定ひつぢやう何等の秘密あらんと覚りつ、篠田を一瞥いちべつして起たんとす
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
仙台にゐてこれを行つた首脳は渡辺金兵衛で、寛文三年頃から目附の地位にゐて権勢をろうしはじめ、四年に小姓頭こしやうがしらになつてから、愈々いよ/\専横を極めた。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
愈々いよ/\何日いつ決定きまつた?」と女の顏をぢつと見ながら訊ねた。女は十九か二十の年頃、色青ざめても力なげなる樣は病人ではないかと僕の疑つた位。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
幾ら考へたツてもう血迷ちまよツてゐるのだから、たしかな事が考へられる筈が無い。自分は愈々いよ/\解らない道へ踏込むで了ツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
さてはと愈々いよ/\心して欄間らんまの五百羅漢像をかへり見るに、これ亦一つとして仏像に非ず。十二使徒の姿に紛れも無し。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
愈々いよ/\その日、荷作りしてゐると、十七になる弟さんが、外に帽子をかぶつて廻つてゐる。前橋の公会堂まで講演を聴きに出るから、送つて行かうと云ふ。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
こんな考にふけりながら私は多時しばし立ち尽した。野薔薇の小さな白い花の幾つかが星の光に愈々いよ/\鮮やかに浮いて出た。
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
面白おもしろげなる顔色がんしよく千番せんばんに一番さがすにも兼合かねあひもうすやらの始末しまつなりしにそろ度々たび/″\実験じつけんなれば理窟りくつまうさず、今もしかなるべくと存候ぞんじそろ愈々いよ/\益々ます/\しかなるべくと存候ぞんじそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
愈々いよ/\かうなつてみねば多少の心配もあつたので、ことに第四男の文夫の事にいては、これでこそどうやらあの子の出世の道もそろ/\開かれたと云ふものだ。
(新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
さりながら論語ろんごきて梅暦むめごよみ六韜三略りくとうさんりやくとする当世たうせい若檀那わかだんな気質かたぎれとは反対うらはらにて愈々いよ/\たのもしからず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
もし愈々いよ/\死なむとならば独り行きてもからずやと言へば、ひとりにては寂しき路を通ひがたしと言ふ。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
這麼事こんなことおそれるのは精神病せいしんびやう相違さうゐなきこと、と、かれみづかおもふてこゝいたらぬのでもいが、さてまたかんがへればかんがふるほどまよつて、心中しんちゆう愈々いよ/\苦悶くもんと、恐怖きようふとにあつしられる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
昔から釘附くぎつけに為てあると計り思つて居た内陣と本堂との区劃しきりの戸を開けると云ふ事は、すくなからず小供の好奇かうきの心を躍らせたが、愈々いよ/\左から三枚目の戸に手を掛ける瞬間しゆんかん
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
『こいつは愈々いよ/\面白おもしろくなつてた。』と武村兵曹たけむらへいそう突如いきなり少年せうねん抱上いだきあげた。
其時分幕府の基礎が大分だいぶ怪しくなつて來たので、木城氏や小栗氏の考へでは、遠からぬうちに江戸と京都と干戈相見あいまみゆる時が來るであらう、愈々いよ/\うなつたら仙臺せんだい會津あいづ庄内しようないと東北の同盟を結んで
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
愈々いよ/\しづまつしやつたゞ、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ。』
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ガラツ八には愈々いよ/\以つて解りません。
さるほどに、やままたやまのぼればみねます/\かさなり、いたゞき愈々いよ/\そびえて、見渡みわたせば、見渡みわたせば、此處こゝばかりもとを、ゆきふうずる光景ありさまかな。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しきり世間を騒がせた結婚沙汰がめられて、愈々いよ/\名妓八千代が菅家すがけ輿入こしいれのその当日、花婿の楯彦たてひこ氏は恥かしさうに一寸鏡を見ると
愈々いよ/\証文が極って、此の三月の宵節句と節句の二日の内に突出して、五ちょうを廻らなければならんので心配致して居りまする。
さして送らせける其後種々しゆ/″\樣々さま/″\吟味有けるに先の申たてと相違も無きこと故これより大惡の本人ほんにんたる重四郎の段右衞門と愈々いよ/\突合つきあはせ吟味とこそはきはまりけれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
僕は毎朝買つて見て居るんです——九州炭山の坑夫間に愈々いよ/\同盟が出来上がらんとして、会社の方で鎮圧策に狼狽らうばいしてると云ふ通信がつてたのです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
きぬはなして、おきぬ愈々いよ/\小田原をだはらよめにゆくことにまつた一でうかされたときぼく心持こゝろもちぼく運命うんめいさだまつたやうで、今更いまさらなんともへぬ不快ふくわいでならなかつた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
上さんの胸は愈々いよ/\をどつた。何より先に、車をさがした。そしてそこから一里位しかない村へと志した。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
日本語ばかりを使つて居た世界から愈々いよ/\別れるのであると思ふと横浜を離れる時よりも淋しかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
盗坊どろぼうならば知らぬ事、老人を殺した奴が何一品盗まずに立去たと云う所を見れば盗坊で有りません愈々いよ/\藻西に限ります藻西の外に其様な事をする者の有う筈が有ません
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
其中に愈々いよ/\初日は来た。して丁数ちやうすうは進んで彼が虎となつて現はるべき三幕目となつた。彼は笑い顔一つせずに虎の縫ぐるみを着て、知らせの木と共に球江邸の露台バルコニーうへに横たはつた。
(新字旧仮名) / 久米正雄(著)
お忘れになつてゐるとすれば、僕は愈々いよ/\感謝しなければならぬ必要があるのです。お忘れになりましたですか。来る道で僕があんなに自動車に乗ることを厭がつたのを。はゝゝゝゝゝ。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
もとより星光ほしあかりだからくはわからぬが、うしろの方へ振向いて見ても、矢張やつぱり黒い山影が見える。自分は愈々いよ/\弱ツてしまツた、先へ進むでいのか、あとへ引返していのか、それすらわからなくなツて了ツた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
酔「くどい、見れば立派なお侍、御直参ごじきさんいずれの御藩中ごはんちゅうかは知らないが尾羽おは打枯うちからした浪人とあなどり失礼至極、愈々いよ/\勘弁がならなければどうする」
愈々いよ/\あけすけに申し上げますから御免下さい。貴方はそれをお聞きになると、屹度顫へ上つておしまひになります。……
つひくだんかめりて、もこ/\と天上てんじやうす。令史れいしあへうごかず、のぼること漂々へう/\として愈々いよ/\たかく、やがて、高山かうざんいたゞきいつ蔚然うつぜんたるはやしあひだいたる。こゝに翠帳すゐちやうあり。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
待内に愈々いよ/\雨は小止こやみなくはや耳先へひゞくのは市ヶ谷八まん丑時やつかね時刻じこくはよしと長庵はむつくと起て弟の十兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日露両国の間、風雲うたた急を告ぐるに連れて、梅子の頭上には結婚の回答をうながすの声、愈々いよ/\切迫し来れり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
宿の子のまめ/\しきが先に立ちて、明くれば九月二十六日朝の九時、愈々いよ/\空知川の岸へと出発した。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
お其外の事柄をく調て愈々いよ/\お前に相違ないと見込が附けば其時初めて罪に落す
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ところが、熊襲は、天皇が、大和へお帰りになると、また忽ち、蠢動し始め、横暴愈々いよ/\つのつたので、二十七年八月、天皇は、御子日本武尊をお遣はしになつて、これを征伐させ給うた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
世間の罪悪が此頃では愈々いよ/\深くかれの体にまつはり着いて来た。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
愈々いよ/\初めの決心通り背水の陣だね。』
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)