みき)” の例文
帰りは、みきを並べたとちの木の、星を指す偉大なる円柱まるばしらに似たのを廻り廻つて、山際やまぎわに添つて、反対のかわを鍵屋の前に戻つたのである。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あらをはつたとき枯葉かれはおほいやうなのはみなかまでゝうしろはやしならみきなはわたして干菜ほしなけた。自分等じぶんら晝餐ひるさいにも一釜ひとかまでた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「ばかばかしい。はやんでせろ。いくらでもおまえがたのわりはまれてくるわ。」と、みきからだふるわしておこったのであります。
葉と幹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いったかとおもうと、じいさんのからだが、パッと木のみきにかくれ、そこから、青白く光るものが、スウッと浮きだしてきました。
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
潮が満ちたときは半分は隠れますが、潮がひいたときでも腰から下はやはり水の中にあって、小さなお魚がそのみきの間に遊んでおります。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
そして木のえだをすけて雪が落ちて日の中にはいって来たが、でもどうやら木のみきをよじて、いちばんしっかりしたえだに手がかかった。
それからばらっばらっと栗の実が栗の木のみきにぶっつかったりはね落ちたりする音がしばらくしました。わたくしどもは思わず顔を見合せました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ただそこに大きなならの木があって、断崖だんがいの空間にのぞんで屈曲くっきょくしていた。バリバリというと蛾次郎がじろうは、みきをはってその横枝よこえだへうつっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やしの木は、大そう背が高くて、まっすぐで、おまけにみきがすべすべしていました。私は、これでは、とてものぼれないだろうと思いました。
いているところを見透かしては、十尺ぐらいの空間を直滑降で飛ばし、みきのすぐ前で雪煙りをあげて急停止する。
このはもと根株ねかぶからなゝつのみきわかれてゐましたが、うち五本ごほん先年せんねん暴風ぼうふうれていま二本にほんみきだけとなつてしまひました。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
すると、びっくりするほどたくさんの生き物の姿が見えてきました。赤いくびをした黒いキツツキは、くちばしで木のみきをつつきはじめました。
それ多少たせうまつて、みきすときなぞは、みきからくびすと、土手どてうへあき暖味あたゝかみながめられるやう心持こゝろもちがする。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
またザボンのなえ葉柄ようへいみきから芽出めだつ葉にもまた三出葉が見られることがあって、つまり遠い遠い前世界の時の葉を出しているのであることは
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「それじゃあ、おまえはみきのところをかつぎな。おれは大枝おおえだを小枝ごとかつぐからな。なんてったって、こいつがいちばんほねのおれるしごとさ。」
ゴルドン、イルコック、バクスターの三人は走りよってサービスに力をそえ、縄のはしを大木のみきにしばりつけた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
こと日間ひるまは昨夜の花があか凋萎しおたれて、如何にも思切りわるくだらりとみきに付いたざまは、見られたものではない。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのみきの股に陣どって二晩でも三晩でも眠っているのが常だったというから、この頃アメリカなどで流行はやる滞樹上競争は、この魚心堂先生が元祖である。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ある薬を桜のみきに注射するんだそうです。けれど、その薬はたいへんとうといもので、たくさんはないから、いちばん立派な大きい桜の木を一本えらびました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
その中で一本のわかい松もみきをたわめて、寄るべないこのおかあさんの耳に木のこずえが何かささやきました。
あの樹のみきは背丈から下は皆んな傷だらけだ、それを隱すためにわらを卷いて居たらう、丹三郎は銀之助をお榮の敵と思ひ込み、敵を討たうと思つて居たが
花もも取る者はついにみきも根も取り尽し、その結果は社会の進歩も安寧あんねいあやうくするものであろうと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
たいした暴風ぼうふうでもなかったのに、年をへた老松ろうしょうは、枝をはったそのみきの一部を風にうばわれたものらしい。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
また海草のみきを刈り取つて來て燧臼ひうちうす燧杵ひうちきねを作つて、これをつて火をつくり出して唱言となえごとを申したことは
今庭のカタ木の古いみきのところを一匹はっている。さっきは石の大手洗鉢の水の中に奇麗きれいに浮いていた。
之をアイヌ間に存する口碑にちやうするに、コロボックルは土を堀り窪めて低所ていしよを作り、木のみきえだを以て屋根の骨とし、之を草木さうもくの葉にて覆ひて住居とせしものの如し。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
一萬三千人いちまんさんぜんにんくびねたりとばるゝ、にもおそるべき斬頭刄ギラチンかたち髣髴ほうふつたる、八個はつこ鋭利えいりなる自轉伐木鉞じてんばつもくふとの仕掛しかけにて、行道ゆくてふさがる巨木きよぼくみきよりたほ
その後姿の斜めにひとりの若者が片手に小型の本を持って、両膝をたてて腰を下ろし、二人の間には細ぼそと松葉を焚く煙がのぼって、松のみきにからんでは消えて居る。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
死体が僅かに身体をもたせかけた栗の木の、みきの中程に、今年初めてのつくつく法師が、地獄の使者のような不吉な韻律いんりつを響かせながら、静かに、執拗に鳴いていたのだ。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
えのきみきをたたいてきたえただけのことがあった。尾沢生は口先ばかりだ。ただ堀口生にけしかけられて気が強くなっているのだから、一騎打きうちでは元来正三君の敵でない。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さのみしげくもないかばのほそぼそとしたみきは思いがけずも白絹めく、やさしい光沢こうたくび、地上に散りいた、細かな落ち葉はにわかに日に映じてまばゆきまでに金色を放ち
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それからかぞえてももうずいぶんの星霜つきひつもったであろう。一たん神木しんぼくとなってからは、勿体もったいなくもこのとおみき周囲しゅうい注連縄しめなわりまわされ、誰一人たれひとりさえれようとせぬ。
神経のみきはここに絶たれてしまふ。第三期では福を世界過程の未来に求める。これは世界の発展進化を前提とする。ところが世界はどんなに進化しても、老病困厄は絶えない。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ある、いつものように竹藪たけやぶんでますと、一本いつぽんみようひかたけみきがありました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
滑稽こっけいなことはみなが庭園へ出て逍遥しょうようした時佐助は春琴を梅花の間に導いてそろりそろり歩かせながら「ほれ、ここにも梅がござります」と一々老木の前に立ち止まり手をってみき
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
黒焦に削れたるみきのみ短く残れる一列ひとつらの立木のかたはらに、つちくれうづたかく盛りたるは土蔵の名残なごりと踏み行けば、灰燼の熱気はいまだ冷めずして、ほのかおもてつ。貫一は前杖まへづゑいて悵然ちようぜんとしてたたずめり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
太い/\銀杏いてふみきもたれかゝつて、ホツと息をきつゝお光は言つた。さうして
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
しかし、ケヤキとはちがい、あんなふとみきはなく、細くてつやつやした幹がまっすぐに立っている。幹が細いかわりに、葉っぱはたいへん大きく、たたみを三四枚あわせたほどもある。
宇宙の迷子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やせほそつたみきに春はたうとうふうはりした生きもののかなしみをつけた。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
校庭のポプラのみき腕組うでぐみをしてよりかかっていたが、合図の鐘が鳴る五六分前になると、急に何か思い出したように、みんなのかたまっているところに来て、いきなり次郎の頭をゆさぶりながら
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
すると、その憎らしいみきの間から、向うに見下みおろ不忍しのばずいけ一面に浮いているはす眺望ながめが、その場の対照として何とも云えず物哀れに、すなわち、何とも云えずなつかしく、自分の眼に映じたのである。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ひともとの桜のみきにつながれし若駒わかごまのうるめるかな
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
葉の階層——つよみき。年輪の多いあらい幹。
暗い時間に (新字旧仮名) / 片山敏彦(著)
大木たいぼくみきに耳あて
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
思へばみき
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
夕日のみき
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
庭番のじいさんは、十メートルもある高い木の、ふといみきにしがみついて、まるでサルのように、のぼっていくではありませんか。
仮面の恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
背戸口せどぐちは、充満みちみち山霧やまぎりで、しゅうの雲をく如く、みきなかばを其の霧でおおはれた、三抱みかかえ四抱よかかえとちが、すく/\と並んで居た。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さくらみきから、校舎こうしゃまどわたしてあるつなには、無数むすうまるはたや、満洲国まんしゅうこくはたや、中華民国ちゅうかみんこくはたなどが、つるしてあった。
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)
それはやなぎのかれたようなみきの間に根をっていた。また砲台ほうだい傾斜地けいしゃちをわたしたちはよく片足かたあしで楽にすべって下りた——それもかきたい。