はち)” の例文
まもなくうちから持って来た花瓶にそれをさして、へやのすみの洗面台にのせた。同じ日においのNが西洋種のらんはちを持って来てくれた。
病室の花 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
閭は小女を呼んで、汲みたての水をはちに入れて来いと命じた。水が来た。僧はそれを受け取って、胸に捧げて、じっと閭を見つめた。
寒山拾得 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
といいながら、はちをつかんでげますと、したから人間にんげん姿すがたあらわれたので、びっくりして、はなしてげていってしまいました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
雨に濡れた俊助しゅんすけが『はち』の二階へ来て見ると、野村のむらはもう珈琲茶碗コオヒイじゃわんを前に置いて、窓の外の往来へ退屈そうな視線を落していた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
最初のっけから四番目まで、湧くような歓呼のうちに勝負が定まって、さていよいよおはちが廻って来ると、源は栗毛くりげまたがって馬場へ出ました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
足利あしかが時代に作られた「はちの木」という最も通俗な能の舞は、貧困な武士がある寒夜に炉にまきがないので、旅僧を歓待するために
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
多分たぶん被害者ひがいしゃは、くるしみもがき、金魚鉢きんぎょばちのところまでいよつてきて、くちをゆすぐか、または、はちなかみずもうとしたのだろう。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
「おばあさん、こんなに、常夏とこなつがよくなった。」と、おじいさんは、いいながら、みずをやって、常夏とこなつはちみせさきにかざっておきました。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
女はやがて牛肉をはちに並べて持って来た。そしてそのあとから今一人若い二十二、三の女中がおかんのついた銚子を持ってはいって来た。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
謡曲のうちでも比較的芝居がかりに出来ているはち安宅あたか等ですら、処々しょしょ三四行乃至ないし十四行ずつ要領の得悪えにくい文句が挿まっていて
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大和やまとくにのある山寺やまでら賓頭廬樣びんずるさままへいてあるいしはち眞黒まつくろすゝけたのを、もったいらしくにしきふくろれてひめのもとにさししました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
すぐまへの、はちものの草花屋くさばなや綿屋わたやつゞいて下駄屋げたやまへから、小兒こども四五人しごにんばら/\とつて取卷とりまいたときそでおとすやうに涼傘ひがさをはづして
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やがて、みんながおしろのなかにはいりますと、広間ひろまはちがおいてあって、そのなかに仕立したてあがった婚礼用こんれいようのシャツがはいっていました。
朱雀院のは塗り物でない浅香の懸盤かけばんの上で、はちへ御飯を盛る仏家の式のものであった。こうした昔に変わる光景に列席者は涙をこぼした。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
そして、都の中の一番にぎやかな広場にむしろをひろげ、無患子の実の汁を銀のはちの中にしぼつて、竹の管でシャボン玉を吹き上げました。
シャボン玉 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
床の間には春蘭しゅんらんはちが置かれて、幅物は偽物にせもの文晃ぶんちょうの山水だ。春の日がへやの中までさし込むので、実に暖かい、気持ちが好い。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼の使つた氷嚢ひようなうはカラ/\になつて壁にかゝつてゐる。窓際の小机の上には、数疋すうひきの金魚がガラスのはちにしな/\泳いでゐる。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
つづみを打つ、はちをたたく、猥歌わいかをうたう。あげくに今、しりもちでもついたような、家鳴やなりと、男女の笑い声が、一しょに沸いた。
右の方に周囲まわり尺余しゃくよ朱泥しゅでいまがいのはちがあって、鉢のなかには棕梠竹しゅろちくが二三本なびくべき風も受けずに、ひそやかに控えている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
広い門のうちから、垣根に囲われた山がかりの庭には、松や梅の古木の植わった大きなはちが、幾個いくつとなく置駢おきならべられてあった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこで良寛さんも、どこまでも、今日は自分を一人ぼつちにしてやらうと決心して、はちの子を一つ持つて外に出たのであつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
熱心にいろいろと僕をきつける。ほんものの僕と、この影の僕とがはちあわせをするようなことはないと、博士は保証する。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
窓縁には一はちの朝顔が絲にからんで伸びていて、ぶらさがってる梯子はしごの上にその細やかなつるを広げていた。一条の光線がそれに当たっていた。
出帆後四日目か五日目の事なりけん食事当番のおはちは我らに廻りぬ。「今度は君の番です」と兵卒は気の毒さうに言ひぬ。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
豚はまるでつぶれそうになり、それでもようよう畜舎の外まで出たら、そこに大きな木のはちに湯が入ったのが置いてあった。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その少年は船宿「千本」のちょうの同級生で、背丈が小さく、からだせているが、頭だけが大きく、しかもはちがひらいていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
コツコツとくつの音をさせながら、一人の男がはいってきて、一ばん隅っこのシュロのはち植えのかげのボックスへ、人眼をさけるように腰をおろした。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たゞさらるいあま見當みあたりませんが、はちつぼ土瓶どびん急須きゆうすのたぐひから香爐型こうろがたのものなどがあつて、それに複雜ふくざつかたち取手とつてや、みゝなどがついてをり
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
はち。陶器。白絵刷毛目、模様鉄絵。朝鮮忠清南道鶏龍山窯。李朝初期。直径五寸一分、高さ二寸六分。内山省三氏蔵。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
水ははちにたまったように平原の窪地くぼちにここかしこたまっていた。ある所では輜重車しちょうしゃは車軸まで泥水につかった。馬の腹帯は泥水をしたたらしていた。
また子供がいましてねえ、頭のはちの開いた、七つか八つの男の子なんですが、これも爺さんを馬鹿にしているらしい。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
なかには主人あるじ宗匠そうしやう万年青おもとはちならべた縁先えんさき小机こづくゑしきり天地人てんちじんの順序をつける俳諧はいかいせんいそがしいところであつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
朗読劇でございますから、幕も、背景も要りません。そうでしょう? でも、何も無いというのも淋しいので、ここへ、蘇鉄そてつはちを一つ置いてみました。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
むこうの左隅には小さな机があって、その上に秋海棠しゅうかいどうのような微紅うすあかい草花の咲いたはちを乗せてあるのが見えた。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
禅寺ぜんでらでは食事のとき、施餓鬼せがきのため飯を一はしずつはちからわきへ取除とりのけておく。これを生飯さばと言うが、臨川寺ではこの生飯を川へ捨てる習慣になっていました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ええ、ええ、ご安心なすって。そのつもりで、こちらのおはちにうんと入れておきましたから。ほほほ。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
煩わせば姉さんにしかられまするは初手しょての口青皇せいこう令をつかさどれば厭でも開くはちの梅殺生禁断の制礼がかえって漁者の惑いを募らせ曳く網のたび重なれば阿漕浦あこぎがうらに真珠を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
驚喜の余り身を支へ得ざる遊佐の片手はしやもはちの中にすつぱと落入り、乗出す膝頭ひざがしら銚子ちようし薙倒なぎたふして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
というのは、そこには甘いミルクを容れたはちがあり、ミルクのなかには白パンの小さな一切れが浮かんでいた。彼はよろこびのあまりほとんど笑い出すところだった。
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
おつぎは卯平うへいため火鉢ひばちおきけてやつたり、おはちそばそなへたりするのでいくらか時間じかんおくれる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
福子が午後の四時過ぎに、今津の実家へ行って来ると云って出かけてしまうと、それまで奥の縁側でらんはちをいじくっていた庄造は、待ち構えていたように立ち上って
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼邊の壁に罅隙かげきありて、一の大なる物を安んず。手もて摸すれば銅のはちなり。その内には金銀貨を盛りて溢れんと欲す。われは此異境の異の愈〻益〻甚しきを覺えたり。
「鉢卷を取るんだ、大丈夫、出來のよくねえおはちでも、それ位のことで割れる氣遣けえは無え」
二人は今しがた冬のをはりらしく熱いほどの麦飯を頬張ほゝばつたばかりであつた。——いま野田は立上つて和作のために茶を入れてくれた。茶道具は桜草のはちの陰にかくれた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
縁邊えんがはにはまめふるぼけた細籠ざるいれほしてある、其横そのよこあやしげな盆栽ぼんさいが二はちならべてありました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
中部以西の盆の精霊棚しょうりょうだなには、この白い米の水のかわりに、はちに水を入れたものを具え、ミソハギの枝をもって供物の上にふり掛け、または墓参の往復にもこれを路上に注ぐが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
途中なにごともなくアフガニスタンへ着いて、密書入りの革袋は、ただちにドイツ領事館内の金庫へ保管される。領事館で初めて顔の合った三人、スパイのはちあわせで、驚いた。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
肱近ひじちかのテーブルには青地交趾せいじこうちはちに植えたる武者立むしゃだち細竹さいちくを置けり。頭上には高く両陛下の御影ぎょえいを掲げつ。下りてかなたの一面には「成仁じんをなす」の額あり。落款は南洲なんしゅうなり。架上に書あり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
くひ勘定をするをりから表の方より雲助ども五六人どや/\と這入はひり來りもう仕舞れしかモシ面倒めんだうながら一ぱい飮ませて下せいと云つゝはちにありし鹽漬しほづけ唐辛子たうがらしさかなに何れも五郎八茶碗ぢやわんにて冷酒ひやざけ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして、だんろのそばのたなの上にのっているなべやコーヒーわかしや、戸口にある水桶みずおけや、はんぶんいている戸棚の中に見えるさじやナイフやフォークやはちやおさらまで眺めわたしました。