部屋へや)” の例文
マリーちゃんのお部屋へやの机の上は、いろんな贈り物で、ピカピカかがやいていました。たとえば、この上もなくかわいらしいお台所。
和尚おしょうさんのお部屋へやがあんまりしずかなので、小僧こぞうさんたちは、どうしたのかとおもって、そっと障子しょうじから中をのぞいてみました。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しるべの燈火ともしびかげゆれて、廊下らうかやみおそろしきをれし我家わがやなにともおもはず、侍女こしもと下婢はしたゆめ最中たゞなかおくさま書生しよせい部屋へやへとおはしぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
も/\若氣わかげ思込おもひこんだやうな顏色かほいろをしてつた。川柳せんりう口吟くちずさんで、かむりづけをたのし結構けつこう部屋へやがしらの女房にようばうしからぬ。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日々の多くの講義に聞き疲れて女房たちも皆部屋へやへ上がっていて、お居間に侍している者の少ない夕方に、薫の大将は衣服を改めて
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それはたしか部屋へや全体はもちろん、椅子いすやテエブルも白い上に細い金のふちをとったセセッション風の部屋だったように覚えています。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
部屋へやが暗いので、ちょっと気がつかなかったが顔を合せると、みんな学校の生徒である。先方で挨拶あいさつをしたから、おれも挨拶をした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私も激しい疲れの出るのを覚えて、部屋へやの畳の上にごろごろしながら寝てばかりいるような自分を留守居するもののそばに見つけた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところが、その多分たぶん朝鮮ちようせん支那しなふうつたはつたのでありませうが、よこからはひるながいし部屋へやつかなかつくられることになりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
いながらにして百里の先をも見とおす果心居士かしんこじの遠知のじゅつ、となりの部屋へやに寝ている竹童ちくどうのはらを読むぐらいなことはなんでもない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外はあかるい、よいお天気てんきでした。まず部屋へやの中で見つけたパンをたべて、それから、ガチョウと牝牛めうしに朝のたべものをやりました。
ひだりれたところに応接室おうせつしつ喫煙室きつえんしつかといふやうな部屋へやまどすこしあいてゐて人影ひとかげしてゐたが、そこをぎると玄関げんかんがあつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ちょっと一つの部屋へやから隣の部屋へ行く時にも必ず間の唐紙からかみにぶつかり、縁側を歩く時にも勇ましい足音を立てないでは歩かない人と
子猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
へやのすみに腰かけて、手携てさげとパラソルとをひざに引きつけながら、たった一人その部屋へやの中にいるもののように鷹揚おうように構えていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「お姫様ひいさまのお部屋へやへご機嫌伺きげんうかがいにあがりまして、お話をうけたまわっておりますと、照彦てるひこ様がぜひ相撲すもうをとるとおっしゃって……」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あるいは図書館が近所にあるのを利用して、そこへ勉強に行った。でリュシル・アルノーは、がらんとした部屋へやの中に一人でいた。
マリユスは建て物の他の部屋へやの者がだれも気づかないうちに二階に運ばれ、ジルノルマン氏の次のへやの古い安楽椅子あんらくいすに寝かされた。
わたしたちの部屋へやまどから見ていると、かれは雪の中を行ったり来たりしていた。わたしはどんな番組をかれが作るか、心配であった。
重四郎はこれさひはひと娘の部屋へやのぞき見れば折節をりふしお浪はたゞひと裁縫ぬひものをなし居たるにぞやがくだんのふみを取出しお浪のそでそついれ何喰なにくはかほ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ガラスの向こうは部屋へやになっていて、部屋の中には、天井てんじょうまでとどきそうな木が立っている。ははあ、クリスマス・ツリーだな。
いま私のいる部屋へやには、一まるい時計がかかっています。この時計の表面は、ただ長い針と短い針とが、動いているだけです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
おしゃべりに夢中むちゅうになっていた村人たちは、その男がいつのまにか、その部屋へやから玄関げんかんにでてきていたのに、いっこうに気づかなかった。
諸方の部屋へやへ行って銀張りの博奕ばくちなどをして遊人あそびにんの仲間入りをするというような始末になって、家道は段々と衰えて行ったのでありました。
ふしぎなことに、この男は、部屋へやの中でも手袋をはめていました。灰色の長い手袋で、手首のおくのほうまでかくれています。
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「じゃア、一しょにおいで!」といって、継母ままはは部屋へやへはいって、はこふた持上もちあげげながら、「さア自分じぶん一個ひとつりなさい。」
三日たってから、甚兵衛はそっと人形部屋べやのぞいてみました。すると部屋へや真中まんなかに、大きなひょっとこの人形が立っています。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
百合と薔薇ばらとを取りかへて部屋へやくらさをわすれてゐると、次ぎにはおいらんさうが白と桃色もゝいろくものやうに、庭の全面ぜんめんみだれた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
田の字づくりの四部屋へやばかりの家で、北の一部は板の間の台所。台所の次は納戸で、ここには千穂子達の荷物が置いてあった。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
兎に角会堂を見せてもろうた。天井てんじょうの低い鮓詰すしづめにしても百人がせい/″\位の見すぼらしい会堂で、裏に小さな部屋へやがあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今この手紙を書く時も、うちのあの六畳の部屋へや芭蕉ばしょうの陰の机に頬杖ほおづえつきてこの手紙を読む人の面影がすぐそこに見え候(中略)
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
諭吉ゆきちのひとみは、きゅうにいきいきとかがやき、かたなをいつものところにおくと、たんすのある部屋へやにかけこむようにしてはいっていきました。
その上に白絹の布がおおうてある。すべて品よき装飾。ふすまの模様もしっとりとした花や鳥など。回り縁にて隣の宿直とのい部屋へやに通ず。庭には秋草。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
怪談を話す時には、いつもランプのしんを暗くし、幽暗ゆうあんな怪談気分にした部屋へやの中で、夫人の前に端坐たんざして耳をすました。
ブルを合わせて四十八人、そのほかに、フランクという倶楽部長くらぶちょうがいた。このフランクが、ぼくの部屋へやへきて、ほんとうにこまってる顔をしながら
小指一本の大試合 (新字新仮名) / 山中峯太郎(著)
実際どの部屋へや湿しめっぽくて寒いので、わたしは二階の火のある所へ行きたくなったのである。私たちは警戒のために座敷のドアにじょうをおろして出た。
𢌞廊のあなたに、蘭燈らんとう尚ほかすかなるは部屋へやならん、主はふかきにまだ寢もやらで、獨り黒塗の小机に打ちもたれ、かうべを俯して物思はしげなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
富豪ものもちいへでは蟲干むしぼしで、おほきな邸宅やしきはどの部屋へやも一ぱい、それがにはまであふれだしてみどり木木きゞあひだには色樣々いろさま/″\高價かうかなきもの がにほひかがやいてゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
私の部屋へやに三人、友だちが集まっています、その一人は同室に机を並べている木村という無口な九州の青年ひと、他の二人は同じこの家に下宿している青年ひと
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それから、すべるようにみがきこんだ、長いろうかをいくまがりかして、かぞえきれないほどの、部屋へやべやの前をすぎて、やがて大広間おおひろまへ案内されました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
銀蠅ぎんばえの飛びまわる四じょう部屋へやは風も通らず、ジーンと音がするように蒸し暑かった。種吉が氷いちごを提箱さげばこに入れて持ち帰り、皆は黙々もくもくとそれをすすった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
今朝けさ平素ふだんよりもはげしくにほひわたる線香せんかうけむりかぜになびいて部屋へやなかまでながんでくるやうにもおもはれた。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
その式には白粉おしろいを神像の顔に塗ることあり。大同の家には必ずたたみ一帖いちじょうしつあり。この部屋へやにてよるる者はいつも不思議にう。まくらかえすなどは常のことなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ばらりといたお七のおびには、夜毎よごときこめた伽羅きゃらかおりがかなしくこもって、しずかに部屋へやなかながれそめた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ドゥチコフは、シューラ・ドリーニンが外套室がいとうしつで、人の外套がいとうのポケットをさぐっているのを、自分の目で見たともうてた。シューラは生徒監せいとかん部屋へやばれた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
胸痛きまでの悲しさ我事わがことのように鼻詰らせながら亭主に礼いておのが部屋へやもどれば、たちまち気がつくは床の間に二タ箱買ったる花漬はなづけきぬ脱ぎかえてころりと横になり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
顔を洗うのもそこそこにして、部屋へやにもどり、朝昼兼帯けんたいの飯を喰いながら、妻から来た手紙を読んで見た。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
朝飯になるというにおとよはまだ部屋へやを出ない。お千代が一人で働いて、家じゅうにぜんをたべさせた。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
キチンと四角に坐ったまま少しもひざをくずさないで、少し反身そりみ煙草たばこかしながらニヤリニヤリして、余り口数くちかずかずにジロジロ部屋へや周囲まわりを見廻していた。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
よるいろにそのみどりくろずみ、可愛かあいらしい珊瑚珠さんごじゆのやうなあかねむたげではあるけれど、荒涼くわうりやうたるふゆけるゆゐ一のいろどりが、自然しぜんからこの部屋へやうつされて
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
その頼母は、ずっと以前まえから、壁一重へだてた隣りの部屋へやに、お浦を待ちながら、粛然と坐り、「一刀斎先生剣法書」を、膝の上へ載せ、行燈の光で、読んでいた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)