いき)” の例文
「アア/\おっかさんがいきていらっしゃればいにねえ」というのを徳蔵おじが側から「だまってねるだアよ」といいましたッけが
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
彼はいきながら怨靈をんりやうとなれり。その美しき面は毒を吐けり。その表情の力の大いなる、今まで共に嘆きし萬客をしてたちまち又共に怒らしむ。
おおかた死んだ美少女と、いきた美少年のラブシーンを夢に見るか何かして、気が変になったのだろう……何かと考えるかも知れない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夜は暑くるしきとこの中に、西部利亜シベリアの汽車の食堂にありし二十はたちばかりのボオイの露人、六代目菊五郎にいきうつしなりと思へりしに
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
名物お鯉の後日譚ごにちがたりは、なますになっても生作いきづくりのピチピチとしたいきの好いものでなければならないと、わたしはひそかに願っていた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
紋三はこの数日、長い間の倦怠けんたいをのがれて、可なり緊張した気持を味うことが出来た。彼はやっとこの世にいきがいを見出した様に思った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ながめやればはるか向ふに燈火ともしびの光のちら/\と見えしに吉兵衞やうやくいきたる心地こゝちし是ぞまがひなき人家ならんと又も彼火かのひひかり目當めあてゆき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
若草は鬢髪びんはつを逆立て、片膝を立て、怨めしそうに堀切の方を延上のびあがって見詰めた時の凄いこと、実にいきながらの幽霊でございます。
奉納のいき人形や細工物もいろいろありましたが、その中でも漆喰しっくい細工の牛や兎の作り物が評判になって、女子供は争って見物に行きました。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さばれいきとし生ける者、何かは命を惜まざる。あしたに生れゆうべに死すてふ、蜉蝣ふゆといふ虫だにも、追へばのがれんとするにあらずや。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
その柱の一本につかまって青白いいきものが水を掻いている。薫だ。薫は小初よりずっと体は大きい。あごほおすずしくげ、整った美しい顔立ちである。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
我に告げよ、汝誰なりしや、汝等何ぞ背を上にむくるや、汝わが汝の爲に世に何物をか求むるを願ふや、我はいきながら彼處かしこよりいづ。 九四—九六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そうすると、あたしの事がいつかお神さんに知れて、死ぬのいきるのという騒ぎが起ってみると、元々養子の事だから……
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
生洲いけすの魚じゃありませんが、同じ江戸のお奉行へ差立てるにしても、いきのいいやつを送るのと死んだからを送るのじゃ、値打において大変なちがいです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この他、舌に記憶されているものでは、同じ広島で食った「鯛のいき作り」と出雲名物の「鯉の糸作り」だ。鯛は生きのいい大鯛を一匹ごと食膳に運んでくる。
茶粥の記 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
而して私の凡ての感覺が新らしい甘藍の葉のやうにいきいきとい香ひを放つてゐる「刹那」の狂ほしい氣分のなかに更に力ある人生の意義を見出すことである。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
私のと目で死ぬのいきるのと言うさわぎをして居ります——が、その私でさえ、猿若町の舞台の上から、毎日、毎日粧を凝らして江戸中の女を見尽して居る私でさえ
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「おしよ! 亭主のあるものをそんな事して、もし私が何して御覧、それこそ私もお前も怖しい……二人が二人、いきちゃいられないような罪人とがにんになるじゃないか。」
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
明けても暮れても八百八町を足に任せてうろつくところから自然と彦兵衛がっている東西南北町名いき番付といったような知識と、屑と一緒に挾んでくるはしたの聞込みとが
塩鯛の歯ぐきも寒し魚のたな。此句、翁曰、心づかひせずと句になるものを、自讃に足らずとなり。又かまくらをいきて出でけん初松魚はつがつをと云ふこそ心の骨折ほねをり人の知らぬ所なり。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もとより、その生活の内部を知っているものではないし、面白くもなんともないかもしれないが、信実にいきていた一面で、決して作ったものではないというだけはいえる——
「あなたのいきていらっしゃる最後の一秒まで、わたくしはお側を離れません。あなたの唇かられる溜息ためいきや、あなたのまつげからこぼれる涙を、わたくしの唇で受けて上げます。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
しろ手拭てぬぐひまげうしろすこあらはれた瞽女被ごぜかぶりにして瞽女ごぜえたので座敷ざしきにはかいきたやうにつた。瞽女ごぜひとつにかたまつてるべくランプのあかるいひかりけようとしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それよりは心を静め思いを転じて、いきながら死せる気になり、万感まんかんを排除する事につとめしかば宿屋よりも獄中の夢安く、翌朝目覚めざめしは他の監房にて既に食事のみし頃なりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
あるに甲斐かいなく世をれば貧には運も七分しちぶこおりて三分さんぶの未練を命にいきるか、ああばかりに夢現ゆめうつつわかたず珠運はたんずる時、雨戸に雪の音さら/\として、火はきえざる炬燵こたつに足の先つめたかりき。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
上を見れば雪の屏風びやうぶたてたるがごとく今にも雪頽なだれやせんと(なだれのおそろしき事下にしるす)いきたる心地はなく、くらさはくらし、せめては明方あかるきかたにいでんと雪にうまりたる狭谷間せまきたにあひをつたひ
多分いきている時いた物より死んでから幽霊になって描いた物の方が多いのだろう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しにいきも同じ心と結びてし友やたがはむ我も依りなむ」(巻十六・三七九七)、「紫草むらさきを草とく伏す鹿の野はことにして心は同じ」(巻十二・三〇九九)等が参考になるだろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
地獄極楽の血なまぐさいいき人形と江州音頭ごうしゅうおんどの女手踊りと海女あまの飛び込み、曲馬団、頭が人間で胴体が牛だという怪物、猿芝居二輪加さるしばいにわか、女浄るり、女相撲ずもう、手品師、ろくろ首の種あかし
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
程なく夜明けぬるに一六五いき出でて、急ぎ彦六が方の壁をたたきてよべの事をかたる。彦六もはじめて陰陽師が詞を一六六なりとして、おのれも其の夜はねずして三更のころを待ちくれける。
「面白え、その水祝いというのをいきのいいところで一つ振舞ってもらいてえ」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
初めはいきた亀ノ子となど売りしが、いつか張子の亀を製し、首、手足を動かす物を棒につけ売りし由。総じて人出ひとで群集ぐんしゅうする所には皆玩具類を売る見世みせありて、何か思付おもいつきし物をうりしにや。
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
そういうアタシだってもう三千度の上は登っていますが、まだこの通り生きながらえて、おしゃべりをしているんですから、こんな立派ないき証拠ってございませんヨ。……ねえ、お嬢さアん。
しかればわれもひといきかぎり、天皇命の大御政に服従まつろい、天皇命の大御意おおみこころを己がこころとし、万事を皇朝廷すべらみかどまかせ奉り、さて寿尽きて身死みまからば、大物主の神慮に服従まつろい、その神の御意を己が意とし
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その高い通路の上を今、こけつまろびつ、小山の陰になって、見えつ隠れつ、全身いき不動のように紅蓮ぐれんの焔を上げた三人の男女が、追いつわれつ狂気のようになって、走り狂っているのであった。
生不動 (新字新仮名) / 橘外男(著)
令史れいし堂前だうぜんまくなか潛伏せんぷくしてつ。二更にかういたりて、つまれいごとでむとして、フトこしもとうていはく、なにつてのあたりにいきたるひとあるや。これをくににては人臭ひとくさいぞとことなり。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かんがへると益々ます/\しづんで、いき心地こゝちもしなかつた。
このいきづくりにされたからだは
青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
死の背景いきてる者が浮てゐる
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
いきのこの世のせはしさよ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
といって、いきているうちから伝説化されて、いまは白玉楼中はくぎょくろうちゅうに、清浄におさまられた死者を、今更批判するなど、そんな非議はしたくない。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私の肉体は、(それは不思議にも私の恋人のそれと、そっくりいきうつしなのだが)何とまあすばらしい美しさであったろう。
火星の運河 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
山「なに海の釣は餌が違うよ、えびで鯛を釣るという事があるが其の通り海の餌はいきた魚よ、此の小鰺こあじを切って餌にするのだ」
たましひとばし更にいきたる心地もなくたがひかほを見合せ思ひ/\に神佛しんぶついの溜息ためいきつくばかりなり風は益々つよく船を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
復一の何ものにもとらわれない心は、夢うつつに考え始めた——希臘ギリシアの神話に出て来る半神半人のいきものなぞというものは、あれは思想だけではない、本当に在るものだ。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「まア! ……」とお君は仰山ぎょうさんに、「このひとの顔とあなた様と、いきうつしでございますよ」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
百計尽きて、仕様がないと観念して、性をめ、情をめ、いきながら木偶でくの様な生気のない人間になって了えば、親達は始めて満足して、漸く善良な傾向が見えて来たと曰う。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
芸州浪人の茨右近いばらうこんという男、これが、その、よろず喧嘩買い入れの喧嘩師で、叩くとかあんと音のしそうな、江戸前のいきのいい姐御あねごがひとり、お約束の立て膝に朱羅宇しゅらう長煙管ながぎせる
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
愕然びつくりしてむねさけるやう也しがにげるに道なく、とても命のきはなりしぬいきるも神仏にまかすべしと覚悟かくごをきはめ、いかに熊どのわしたきゞとりに来り谷へおちたるもの也、かへるには道がなくいきをるにはくひ物がなし
親子はえて、しばしがうち一四七しに入りけるが、一四八しののめの明けゆく空に、ふる露のひややかなるにいき出でしかど、いまだ明けきらぬ恐ろしさに、一四九大師の御名みなをせはしくとなへつつ