氣色けしき)” の例文
新字:気色
思ふにこの事必ずわが導者の意をえたりしなるべし、かれ氣色けしきいとうるはしくたえず耳をわがのべしまことの言に傾けき 一二一—一二三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「どうでも好くはありません、先生は私達に思想上の問題は無用だとおつしやるんですか。」と、武井は氣色けしきばんで、鋭く迫つた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
『おろかものの愚老ぐらうろく智慧ちゑはせませんが、どういふでござりませうか。』と、玄竹げんちくはまた但馬守たじまのかみ氣色けしきうかゞつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
途中とちゆう事故じこがあつて、ちやく時間じかんめづらしく三十分程ぷんほどおくれたのを、宗助そうすけ過失くわしつでゞもあるかのやうに、待草臥まちくたびれた氣色けしきであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いかに冷泉れいぜい折重をりかさねし薄樣うすやうは薄くとも、こめし哀れは此秋よりも深しと覺ゆるに、彼の君の氣色けしきは如何なりしぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
車外しやぐわい猛獸まうじうは、る/\うち氣色けしきかわつてた。すきうかゞつたる水兵すいへいは、サツと出口でぐちとびらひらくと、途端とたん稻妻いなづまは、猛然まうぜんをどらして、彼方かなたきし跳上をどりあがる。
が、小娘こむすめわたくし頓著とんぢやくする氣色けしきえず、まどからそとくびをのばして、やみかぜ銀杏返いてふがへしのびんそよがせながら、ぢつと汽車きしやすす方向はうかうやつてゐる。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ゆきはいよ/\つもるともむべき氣色けしきすこしもえず往來ゆきゝ到底とてもなきことかと落膽らくたんみゝうれしや足音あしおとかたじけなしとかへりみれば角燈かくとうひかゆきえい巡囘じゆんくわい査公さこうあやしげに
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
得ず依て町奉行所へ御同道どうだう申さんため我々兩人まゐつて候なりと聞て伊賀亮はわざ氣色けしきへ夫は甚だ心得ざる口上なり各々には如何樣いかやう身分みぶんにて恐れ多も天一坊樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
顏は卑しげなるものから、美しき髮長く肩に掛かり、そのなざしには、常にいと憂はしげなる色見えて、をり/\は又手負ひたる獸などの如きおそろしき氣色けしき現るゝことあり。
幼君えうくんきつとならせたまひて、「けつしてづることあひならず一生いつしやう其中そのなかにてくらすべし」とおもてたゞしてのたまふ氣色けしきたはむれともおもはれねば、何某なにがしあまりのことにことばでず、かほいろさへあをざめたり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
忠之は城内焚火たきびで、使のこの答を聞いてゐたが、思ひ定めたらしい氣色けしきで、かく栗山が邸へ押しけて往くから、一同用意せいと云ひ棄てゝ奥に入つた。諸侍は家々へ武具を取りに遣る。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
平次の以て外の氣色けしきに、ガラツ八はすつかり面喰らつて了ひました。
氣色けしきだち神輿みこし練りるゆふぐれは茅蜩かなかなのこゑも墓地にとほれり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
げなば定めて村人の驚き羨まんにと思ふ氣色けしきなりまたやがて我に近づき先ほど見上げましたが珍しい蝙蝠傘かうもりがさはぢきがなしでよく左樣に開閉ひろげすぼめが出來ますさぞ高い品でござりませうと是も亦片手に握りて見たき顏の色に我はヱヘンとして斯樣かやうな物は東京に住む者が流行はやりに逐はれて馬鹿の看板に致すなり地方の人は鰐皮の革提かばんの代りに布袋を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
彼かれらを見、氣色けしきはれやかに答ふらく。彼等の歩履あゆみおそければいざ我等かしこに行かん、好兒よきこよ、望みをかたうせよ。 六四—六六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
二人ふたりはそれでだまつた。たゞじつそと樣子やうすうかゞつてゐた。けれども世間せけんしんしづかであつた。いつまでみゝそばだてゝゐても、ふたゝものちて氣色けしきはなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
愚老ぐらうにおはなしとは、どういふでござりますか。』と、玄竹げんちくさかづきかたはらいて、但馬守たじまのかみ氣色けしきうかゞつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
かろんずる氣色けしきありて甚だ心底しんていおうぜぬ者なりと申されける是は只今にも登城に及びもし直願ぢきねがひ取次等とりつぎらを申出るとも取次させまじとわざかくは其意をさとらせし言葉なるべし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此御中このおんなかなにとておき、相添あひそひて十ねんあまり、ゆめにも左樣さやう氣色けしきはなくて、清水堂きよみづだうのお木偶でくさま幾度いくたびむなしきねがひになりけん、旦那だんなさまさびしきあまりにもらせばやとおつしやるなれども
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その間かれはしきりに俯して、地上のものを搜しもとむる如し。かれは又火を新なる蝋燭に點じて再びあたりをたづねたり。その氣色けしきただならず覺えければ、われも立ちあがりて泣き出しつ。
いやおつてのことにせむ、そのまゝに差置さしおけ、」とていそがせたまふ氣色けしきし。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
先のこゝろよげなる氣色けしきに引きかへて、かうべを垂れて物思ものおもひのていなりしが、やゝありて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
下人は、老婆の答が存外、平凡へいぼんなのに失望した。さうして失望しつばうすると同時に、又前の憎惡が、冷な侮蔑ぶべつと一しよに、心の中へはいつて來た。すると、その氣色けしきが、先方へも通じたのであらう。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
イヤなくても、ひと弱點じやくてんじやうずることはや猛狒ゴリラは、たちま彼方かなたがけから此方こなた鐵車てつしや屋根やね飛移とびうつつて、鐵檻てつおりあひだから猿臂えんびのばして、吾等われらつかさんず氣色けしき吾等われら一生懸命いつせうけんめい小銃せうじう發射はつしやしたり
氣色けしきには匂のみなる夕霧の竹の端山にありてしづけさ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
平次も少し氣色けしきばみます。
わがこゝにしるすごとく、ベアトリーチェかく我に、かくていとなつかしき氣色けしきにて、宇宙の最も生氣に富める處にむかへり 八五—八七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
上部うはべからると、夫婦ふうふともさうもの屈托くつたくする氣色けしきはなかつた。それは彼等かれら小六ころくことくわんしてつた態度たいどついてもほゞ想像さうざうがつく。流石さすが女丈をんなだけ御米およねは一二
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さして來りければ道筋みちすぢ見物けんぶつやまをなしておびただしく既に御城代屋敷へ到り乘物のりもの玄關げんくわん横付よこづけにせん氣色けしき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
姫はげに思ひも掛けぬ事かなと、我兩手をりて我面を見るに、媼さへその氣色けしきの常ならぬをいぶかりて、椅子をいざらせ、我等が方をうちまもりぬ。姫は珍らしき再會の顛末もとすゑを媼に説ききかせつ。われ。
氣色けしきのみ、母鳥おやどり
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そは我等壞れし橋にいたれる時、導者はわがさきに山の麓に見たりし如きうるはしき氣色けしきにてわがかたにむかひたればなり 一九—二一
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それから二三日して、かの患者のへやにこそ/\出入ではいりする人の氣色けしきがしたが、いづれもおのれの活動する立居たちゐを病人に遠慮する樣に、ひそやかに振舞つてゐたと思つたら
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さわぐ氣色けしきもなくこれに答へて、我等己を愛する者を罪せば、我等の禍ひを求むる者に何をなすべきやといふごとくなりき 一〇三—一〇五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かくいひて橋をわたりてかなたにすゝめり、げにそのさわがぬ氣色けしきをみすべきは彼が第六の岸にいたれる時なりき 六四—六六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
凛々りゝしく、氣色けしきなほもおごそかに、あたかも語りつゝいとあつことばをばしばしひかふる人の如く、彼續いていひけるは 七〇—七二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)