様子ようす)” の例文
旧字:樣子
はたけえ、牧場ぼくじょうえてはしってくうち、あたりは暴風雨あらしになってて、子家鴨こあひるちからでは、しのいでけそうもない様子ようすになりました。
しかしわたくしは三かわらしいものをわたったおぼえはない……閻魔様えんまさまらしいものにった様子ようすもない……なになにやらさっぱりちない。
「あの若者わかもの毎日まいにちつっしたきり、ものべずにいる様子ようすだが、あのままいてかつえにになれでもしたら、おてらけがれになる。」
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いや、わたしとて、太夫たゆうもとのようになってもらいたいのは山々やまやまだが、いままでの太夫たゆう様子ようすでは、どうもむずかしかろうとおもわれる。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ときにその兄が「どうもあの方の様子ようすを見ると非常に色が白い。蒙古もうこ人の色の白さとは少し変って居る。西洋人ではあるまいか知らん」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
おとうさんが、まるでどろぼうみたいに、人目をしのんで金庫を開き、ほうせきばこを取り出してながめている様子ようすが、どうもへんです。
ふしぎな人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
嫁も起きでて泣きながらいさめたれど、つゆしたがう色もなく、やがて母がのがれ出でんとする様子ようすあるを見て、前後の戸口をことごとくとざしたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
シューラはいてみたり、またわらしたりした。うちかえっても、また泣いたりわらったりした。ママに様子ようすはなして、うったえた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
なんだか知れないけれどもぼくはおばあさまの様子ようすがこっけいにも見え、おそろしくも見えて、思わずその方にけよった。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それから一週間しゅうかんたって、クリストフがそのことをすっかりわすれてしまった頃、祖父そふはもったいぶった様子ようすで、彼に見せるものがあるといった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
他の点においてしたしく談話をする様子ようすは、わが国においてはなかなか見えないことで、このことはひとり政治にのみ関してしかるわけではない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それに様子ようす全体に何だかちょこちょこした、椅子に腰かけるにもそこらを歩くにも小腰を落したような、変に柔かい、遊人風あそびにんふうなところがあった。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
先ほどの粗末そまつな下人の装束しょうぞくで、何やらおさがたい血気が身内にみなぎっている様子ようすである。舞台の右方に立ち、遠くから小野おのむらじをきっと凝視みつめる。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
と、或朝あるあさはや非常ひじょう興奮こうふんした様子ようすで、真赤まっかかおをし、かみ茫々ぼうぼうとして宿やどかえってた。そうしてなに独語ひとりごとしながら、室内しつないすみからすみへといそいであるく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
つねってもたしか活返いきかえったのじゃが、それにしても富山の薬売はどうしたろう、あの様子ようすではとうに血になって泥沼に。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花は花下かかに緑色の下位子房かいしぼうがあり、はば広いがく三片がれて、花を美しく派手はでやかに見せており、狭い花弁かべん三片が直立し、アヤメの花と同じ様子ようすをしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
しかし戸口まできてみると、なかなか、これからがたいへんだということを感じさせられた。正九郎はなんだかいつものそこと様子ようすがちがうような気がした。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
形勢けいせいきゅうなるは、幕末の時にしてらに急なるその内乱ないらん危急ききゅうの場合に際し、外国人の挙動きょどうは如何というに、はなは平気へいきにして干渉かんしょうなどの様子ようすなきのみならず
彼は、別に疑う様子ようすもなくち上がった。ふだんのように、頭へ手をやってほんとかどうか調べてもみない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
その百姓は深い所にはいって、頭の上に六しゃくも土のある様子ようすはまるで墓のあなの底にでもいるようでした。
様子ようすぶってるだけじゃ無いか。先輩が一体どうしたというのだ。誰も君を、後輩だなんて思ってやしない。君が、ひとりで勝手に卑屈になっているだけじゃないか。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
なんとなく袖子そでこにむかってすねているような無邪気むじゃきさは、一層いっそうその子供こどもらしい様子ようすあいらしくせた。こんないじらしさは、あの生命せいめいのない人形にんぎょうにはなかったものだ。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
春木少年は岩かげにしゃがんで、この場の様子ようすをうかがった。ヘリコプターは、垂直すいちょくに下ってきた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この仏蘭西フランス人の笑う様子ようすはちょうど人のいお伽噺とぎばなしの中の大男か何かの笑うようである。少女は今度はけげんそうに宣教師の顔へ目を挙げた。これは少女ばかりではない。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ちょうどみやこの町はずれに、大きな古寺ふるでらがありましたので、甚兵衛はそっと中にはいりこんで様子ようすうかがってみますと、たたみもなにもないようなれはてた本堂ほんどうのなかに、四、五人の男がすわって
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そして古いランプをだいじそうにだきしめて、ほかのことは何にも気がつかない様子ようすでありました。このどれいが、新しいランプをみんな持って行ったって、きっと気がつかなかったでしょう。
下層社会の女などがよくあの人は様子ようすいということをいうが、様子が宜い位で女に惚れられるのは、男子の不面目ふめんぼくだと思います。様子が宜いというのは、人をらさないということになる。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふなばたにドシンとっつかった様子ようすですから、ソレッとばかり皆が手を添えて、船の上に引き上げました折柄、又一しきり吹き出した風に忽ち空の黒雲が裂けて、ましたような白い月の光りが
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
沈んで行きつつあるような夫の様子ようすで、妻はそう感じたのであった。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
母親は鉄瓶てつびんの下に火をあらけながら、心にかかるその様子ようすをきく。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
おかしらのおにもおさかずきひだりの手にって、おもしろそうにわらいながらいています。その様子ようすすこしも人間にんげんちがったところはありません。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
じいやのほうでは一そうったもので、ただもううれしくてたまらぬとった面持おももちで、だまって私達わたくしたち様子ようすまもっているのでした。
彼等かれらはそのことをあからさまに見せつけたが、彼は気づかない様子ようすで、彼等に深い敬意けいいをしめしていた。そのため、二人の気持きもちはいくらかやわらいだ。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
何時間なんじかんかじっとすわって様子ようすていましたが、それからあたりを丁寧ていねいにもう一ぺん見廻みまわしたのちやっとあがって、今度こんど非常ひじょうはやさでしました。
しずかにかたをかけたが、いつもと様子ようすちがったおせんは、はははらうようにして、そのままたたみざわりもあらく、おのが居間いまんでった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
一口ひとくちにいういわゆる「様子ようすがいい」人、すなわち木偶でく同然の者のために身を誤るのはすなわちこれである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
なにをそんなによろこぶのかわたくしにはわけわかりません。』と、院長いんちょうはイワン、デミトリチの様子ようすがまるで芝居しばいのようだとおもいながら、またそのふうひどってうた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
はたして外国人に干渉かんしょうの意あらんにはこの機会きかいこそいっすべからざるはずなるに、しかるに当時外人の挙動きょどうを見れば、別にことなりたる様子ようすもなく、長州騒動そうどう沙汰さたのごとき
みんなてんでに、スケッチブックやカメラなどをたずさえているが、かれらの真の目的が、写生や撮影にあるのではなく、館内の様子ようす偵察ていさつにあることはいうまでもない。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はつ子供こどもは、袖子そでこまえで、こんな言葉ことばをかわしていた。子供こどもからびかけられるたびに、おはつは「まあ、可愛かわいい」という様子ようすをして、おなじことを何度なんど何度なんどかえした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
としとったおかあさんはとなりにわとり今日きょうはじめてたまごをうんだが、それはおかしいくらいちいさかったこと、背戸せどひいらぎはちをかけるつもりか、昨日きのう今日きょう様子ようすたが
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
蛇は、二度目の賛成の声を聞くと、急に体をむちのやうにぴんとさせた。それから、そろそろ芦の中へひこみながら、黒い眼をかがやかせて、注意深く池の中の様子ようすうかがつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もちろん衣服もがぬ、着たまままるくなって俯向形うつむきなりに腰からすっぽりと入って、かた夜具やぐそでけると手をいてかしこまった、その様子ようすは我々と反対で、顔に枕をするのである。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ルピック夫人は、いかめしくそして落ち着きはらった様子ようすで、寝室の靴拭くつぬぐいの上へ現われる——
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
けれどもおとうさんとぼくと妹はポチのそばをはなれないで、じっとその様子ようすを見ていた。おかあさんが女中に牛乳ぎゅうにゅうたおかゆを持って来させた。ポチは喜んでそれを食べてしまった。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お父さんとお母さんとが、心配しんぱいそうにマサちゃんの様子ようすをながめました。
風ばか (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
雪子の色の白いとりすました顔や、繁子のあどけなくにこにこと笑って迎えるさまや、晩酌に酔って機嫌よく話しかける父親の様子ようすなどがまだ訪問せぬうちからはっきりと目に見えるような気がする。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そうして内から様子ようすうかがってて、大納言様を待伏せするんだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
そして、こわごわ様子ようすを見ていました。
するとそのばん夜中よなかぎになって、しっかりしめておいたはずのおもてのがひとりでにすうっとあいて、だれかがはいって様子ようすです。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)